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一期一会  作者: 雪奈
第5章 青嵐吹く夏
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3、準備の楽しさ


文化祭まで残り1週間となった。

この期間は放課後の部活動は休みとなり、文化祭の準備に当てることになっている。

月曜日はクラスの準備、火曜日は部活の準備、と曜日ごとに決まっている。部活動が全員加入制なのでバランスよく各々準備出来るようにするため、とのことだ。



今日はクラスの準備の日であるため、1年C組でも喫茶店の準備のため買い出し班、製作班などに分かれて活動していた。

女装に関してなんだかんだ言っていた悠も、文化祭自体は楽しみなのか、クラスメイトと談笑しながら看板作りをしている。

沙世は由美が作ってきた試作品のクッキーやマフィンを他何人かの女子達と一緒に食べ、メニューの最終決定をしている。


店内に飾る花飾りを作っていた美愛は、カメラを片手に教室内を歩き回る友代を見た。


「さっきからなにしてんの?」

「あーごめんごめん、作業もちゃんとするよ?ただ、この準備してる光景をカメラに収めておこうかなって。」

「別に注意してるわけやないけど。カメラ好きなんやっけ?」

「一応写真部だしね。まぁ昔から写真撮るのは好きだけど。」


そう言って彼女が構えた一眼レフのカメラは確かに使い込まれたようで傷があちこちについている。


「それに、この準備の写真とか、色々使えそうだな~って思って。」

「なんや悪い顔してるな。」

「ふふふ~」


ニヤリと友代は笑う。

まぁその話は後々………と言っていると、教室の前側の扉が開き、いくつかのダンボールを乗せた台車を押して香緒里と副委員長の町田が入って来た。


「お前ら!待たせたな!!衣装が届いたぜ!!」


ババーンと自分で効果音をつけた後、町田は満面の笑みで言った。

文化祭間近ということもあり、少々テンションが上がっている様子。

だが、テンションが上がっているのは町田だけではもちろんなく、おぉ!!!とクラス内にもどよめきが起きた。


香緒里達が運んできたのは、喫茶店で使う衣装、つまりメイド服とタキシードだ。

採寸は事前に済ませており、大まかにそれぞれS~Lの3つに分かれている。

よっしゃーきたきたーー!と友代はカメラを首から下げてウキウキとダンボールを開けていく。


「皆の衆!!後ろでコソコソと逃げようとしている悠を逃がすんじゃないぞ!!!」


教壇の前に立った町田が指でビシッと指し示した方向には、クラスメイトの後ろを四つん這いで隠れながら扉へ向かおうとしている悠の姿があった。

町田の言葉に何人かの男子が悠に近づき確保する。


「やめろ!はなせぇ!!」

「もう諦めろよなー。」

「そうだぞー往生際が悪いぞ。」


後ろから二人に羽交い締めにされ、周りも囲まれるが悠は尚も逃れようとジタバタする。

その悠に友代と沙世が近付く。


「もう観念しちゃいなよー?」

「そうそう、可愛くしてあげるからさー?」


友代はメイド服を持ち、沙世はまるで武器を持つかのようにアイライナーやメイク用のブラシを指の間にいくつも挟んでいる。

ジリジリ近付いくる二人に悠の顔はどんどん引き攣っていく。

さながらライオンに追い詰められた小動物のようだ。


「やめろぉ………やめろぉぉぉ!!!!!」






「ん?なんか今悠の声しなかったか?」

「大方メイド服を無理矢理着せられそうになってるってとこだろ。」


廊下から聞こえてきた悲鳴に近い声に真は顔を上げ、秀人は笑った。

二人もA組で文化祭の準備をしていた。クラスの運営には積極的に関わっていないので教室の隅で花飾りを作っていた。

A組は占い屋ということで、目玉の水晶占いの他に手相占い、タロット占い、簡単なものではおみくじがある。

秀人と真は当日は看板を持って宣伝に回る。

二人が店に立てばそれ目当てのお客がたくさん来るだろうという意見もあったが、逆に人が多く来すぎて捌けなくなるに違いない、という反対意見があったのでボツになった。

そんな訳で、占いの準備をすることもないので店内の装飾を作ることに徹していた。


「しかし男女逆転メイド執事喫茶かー。女子はいいけど男子は大変かもな。」

「意外と楽しいかもしれねーぞ?」

「そうかぁ?んー………でも秀人はなんか美女になりそうでちょっと怖いな、それはそれで。」


元が美形の秀人にウィッグを被せ、メイクをする。

ちょっと想像したらなかなか美人な気がしてきて、真は微妙な表情になる。


「まぁでも、ただのメイド喫茶じゃなくてよかったとは思うけどな。」

「意外だな、香緒里のメイド服見たいかと言うと思った。」

「いや、そりゃもちろん見たいよ?」


当たり前だろ、と秀人は言い切る。

しかしその後に、でもさーと続いた。


「絶対かわいいじゃん?それで他の男が寄って来ても困るからな。」

「なるほど?」

「それなら執事服着てもらった方がまだいいかなと。

まぁどっちにしろかわいいけど。」


キリッといい顔で言うが、それに対して真は乾いた笑いで応じた。


「てか、秀人が他の男を気にしてるってのが意外だわ。」


顔も芸能人ばりに良く、1年でバスケ部レギュラーが取れ、他の運動も満遍なく出来、成績は学年トップという秀人に敵う男がそうそういるようには真には思えなかった。


「いやまぁ基本は嫉妬しないけどな。こないだの真とのが例外ではあるけど。」

「うぅん、なんかごめん。」

「別に怒ってるわけじゃねーぞ?とにかく、基本的には香緒里が他の男に靡くとは1ミリも思ってはない。だけど牽制ぐらいはしときたいわけよ。」

「秀人にそれ必要あるか??」


他の男に取られるとは思ってはいないけど、例えば香緒里が他の男に言い寄られるのは嫌、ということなのだろうか。

完璧に見える秀人にも人間らしい部分があるんだなと真は目の前の親友を見て思う。

いや、完璧ではないか。部屋は汚いし、絵は下手だし。

今作っている花もなかなか不格好だし。

真も特別器用なわけではないが、秀人の作った花よりはよっぽど綺麗である。


「新谷くーん、沢田くーん。どのくらい出来たー??」


そんな話をしていると、クラスの学級委員の副委員長の女子が作業をしている二人に声を掛け、近寄ってきた。


「まぁ、ぼちぼち……?どれくらい作ればいい?」

「うーん、とりあえず渡した材料の分だけでいいかな?出来たのとりあえずもらっていくね。」


真が聞くとそう答え、副委員長は袋に花を入れようとする。

一瞬、秀人の前にある秀人が作ったであろう花を見て固まるが、すぐに何事もなかったかのようにそれも一緒に袋に入れていく。


これ新谷くんが作ったの!?という表情をしていたよなぁ、後で噂になるんじゃないかコレ。実は新谷くん不器用らしいよ!え、意外!ギャップかわいい!とか言われて。

なんて真は片付けられていく花を見ながら思う。

当の本人は特に気にすることなく、また不格好な花を作っているが。


出来上がってる分だけ花を集めると、副委員長は持っていたファイルから何枚か紙を取り出した。


「あのぉ、新谷くん。お願いがあるんだけど………」

「……何?」

「当日のシフト表を作って欲しいの。こういうの得意かな、って思って………」


渡された紙は、クラス全員の所属する部活一覧、当日のステージのスケジュール等の書類だった。

文化祭では午前8時半から午前11時、午前11時から午後1時半、午後1時半から午後4時の3交代制になっており、各自クラス・部活・休憩時間と割り当てられる。

ステージ等時間の決まっている部活を除き、基本的にクラスのシフトが決まり次第、部活の方で調整するという形になっている。

割りとややこしい物であるため秀人に頼んだのであろう。花の出来を見て頼んだのではないと思う、きっと。


「了解。出来たら声掛ける。」

「ありがとう!とっても助かる!!」


よろしくねぇ、と言って副委員長は作業に戻っていく。

作りかけの花を作り終えた後、シャーペンを取り出しペン回しをしながら書類を見比べる秀人に、真は常々思っていた疑問を投げ掛ける。


「相変わらず仲間内の女子以外には素っ気ないのな。」

「だってめんどいじゃん。」


仲間内の女子、というのは香緒里たち3人と高校に入学してからよく一緒にいる奈津、美愛、由美たちのことである。


「圭みたいに、とは言わないけどさ、もう少し愛想良くしてもいいんじゃねぇの?」

「下手に愛想良くすると、勘違いしそうな女子達にはこれくらいでいいんだよ。好かれるのは面倒くさい。」


傍から聞くと自惚れや自慢のように聞こえるが、実際秀人はものすごいモテるがそれを嬉しいとは思わず、むしろ煩わしいと思っているのだから仕方がない。


「真もモテるんだからわかるだろ?」

「モテ………いや、まぁ中学の時は告られたりとかあったけど、最近は全然ないぞ??」


それは沙世と付き合い出して、沙世がめちゃくちゃ影で牽制してるからではあるせいなのだが、沙世の名誉の為にも秀人は黙っておくことにした。


「まぁ……でも、好きでもない女子に告られたりなんだりは確かに面倒くさくはあるけど……」

「だろ??俺の事を好きになる可能性が限りなく低い女子なら別にいいんだけどな。友達は基本的に男だけで充分、女子は雪音達だけでいいって思ってるから。」


とはいえ、愛想を良くしていないならいないで「新谷くんクールでかっこいい!!」てなるのだからどっちでも実は大して変わらないかもしれない。

香緒里も大変だよな、と改めて思う。

仲間内である奈津は亮の婚約者、美愛も秀人はなさそう、由美はそもそも恐れ多いとか思ってそうだからない、ということなのだろう。


「うん、まぁこんなもんだろ。」

「え、もう出来たのかよ!?10分も経ってないぞ!!??」


いつの間にか走らせていたらしいペンを置き、秀人は満足気にそう言った。

相変わらず仕事が早い。


「早く終わったし、文化祭で回りたいとこ考えようぜー。」

「お、おう。」


俺、話しながらだったから花2つくらいしか作ってないんだけどな………。

真は作業をしながらその後は文化祭について他愛なく秀人と話した。


「もういい加減やめてくれぇぇぇぇ!!!!」


また、C組の方から悠の叫び声が聞こえたような気がした。


文化祭まで、あと少し。


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