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一期一会  作者: 雪奈
第3章 恋と謎
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7.狂気

スマホアプリのグループトークに、秀人から『とりあえず生徒会室集合』と届いたのを見て、学校に着いた香緒里は生徒会に走った。


引き戸を開けると、既に他のメンバー全員揃っている。休日で部活をしていたのであろう、それぞれジャージや練習着姿で立っていた。



「揃ったか。」

「どういうことなの……?沙世がいなくなったって。」

「大方は柳田から聞いただろ??つまり、川端が昨日の夕方頃から行方不明。これは、警察が今も市内やその周辺を捜索している。公にまだして欲しくない、ということで女バレや川端と同じクラスの生徒達以外にはまだ知らされていなかったらしい。」


秀人は言葉を切り、葵を見る。



「女バレの部員も探し回っているらしい。で、たまたま学校付近を探してた柳田に沙世が出会い、沙世も探していた。別れて探していたが、その後一向に沙世から連絡なく、電話したら圏外。それで真の方に連絡したと。」

「んで、沙世の母親に確認したらまだ部活終わってから帰ってきてないって言われたんだ。連絡取れない話は、まだしていない。それで、とりあえず秀人に連絡、秀人と俺と柳田からみんなに連絡したってわけ。」



秀人から引き継いで真も淡々と話すが、表情にあまり余裕はない。



「どこに行ったんだろう………神隠し、なわけはないし……」

「普通に考えたら、誘拐、っすかね?」

「まさか!!」



透の言葉に香緒里は声を上げた。



「いや、あながち間違ってないかもしれない。」



全員が秀人を見る。

誰が、なぜ、二人を………



「柳田、沙世は何か言ってたか?」

「何か………」

「思い出せ、落ち着いて。」



うーん、と葵は眉根を寄せて目をあちらこちらへ動かせながらしばらく考えていた。



「あっ!」

「どうだ?」

「沙世先輩、確か、忘れ物したから取りに行かなきゃって、学校に向かいました。」

「やっぱりか。」

「どういうことだよ?」

「柳田、もう一つ聞くぞ?バレー部は休日の練習の時はどこから校内に入り、靴を履き替える?」

「えーと、体育館の入り口から入って、靴を脱いで……部室まで行って、シューズに履き替えてます。」


「そう、休日に上履きを履いて校内に入ることは、ないんだ。」

「つまり、川端さんの上履きはなくなってた、ということ?」

「そうだ。では、と、いうことは?」

「……!川端さんも、学校に戻って来てた、てこと!?」



香緒里が目を見開いて言うと、頷いた。



「俺は、二人共学校で誰かに接触して連れて行かれたと思っている。だから、まだ校内のどこかにいる可能性もある、と。警察も教師も川端は校外でいなくなっていると思ってるが。」

「じゃあ、それを警察に言った方がいいんじゃないですか……?」

「警察が、中学生のガキの言うことを信じると思うか?」

「それは………」

「加えて、俺はこの事とうちの学校で起こっていた上履き紛失の件も関係があるんじゃないか、と考えてる。もしそうだとしたら、犯人はこの学校の関係者だ。警察に言ってしまえばそいつに警戒される。」



確かに、最もではある。

窃盗と誘拐では犯罪のレベルが違うような気もするが、でももしあの猫を殺してしまった犯人も同じだとすると、可能性はないとは言えない。


香緒里以外もそれぞれ黙って秀人の話を噛み砕いているようだ。



「秀人は、まず校内を探せって言ってるわけね?」

「そうだ。ただ、危なかったり怪しいと思ったら迷わず引き返せ。そして連絡をしてくれ。」

「わかった。」



全員頷き、秀人と真、香緒里と透、雪音と翔太、葵と聡に別れて校内を探し出す。





「掃除用具の中……にはさすがにいないっすよねぇ。」


一階の家庭科室の掃除用具入れの扉を開けながら、透は呟く。

校内、それなりに広いと言えど、人二人が隠れられるところは恐らく少ない。


「普段鍵の閉まってる準備室とかかなぁ。一階の特別教室の準備室、物音ないか見てきて貰える?私は校庭の体育倉庫の方見に行ってみるから。」

「わかりました!」



上履きのまま、校庭に出る。家庭科室や校舎から体育倉庫はよく見える。体育のない時間は常に閉まっていて、運動部の道具等はそれぞれの部室に置いており、放課後や休日は開けることはない。

とりあえず人の気配があるかどうかだけ見ようと思った。



歩いていると、体育倉庫の反対側、プールの方に建物があることに気付き、その存在を思い出す。

プール用の更衣室の他にその奥にもう一つ、建物がある。確か、10年以上前にあった水泳部の部室、と誰かが言っていた気がする。廃部になってから使っていなく、鍵も随分前に紛失してしまい、開かずの建物になっており、老朽化が進んでいると。

幽霊が出る、とかいう噂もあった気がする。



まだプールの更衣室の方も誰も見ていないし、そちらを見たついでに見てみようか。


くるりと向きを変えて、プールの方に向かう。念の為、プールの中も少し覗いてみるが、特に何もなく、秋に紛れ込んだ落ち葉が濡れてへばりついているだけだった。


更衣室もドアや窓に耳を当てて見るも、特に物音はないし人の気配もない。


「一番人が来なさそうで怪しいんだけど………さすがにないか。」



その後、長年人が立ち入っていないせいか雑草が生い茂っている奥の建物に近付く。

カーテンももちろん閉まっており、中も暗そうである。カーテン自体も黒地であるから中の様子は全く見えない。

あまり霊などの怖いものは得意ではないが、恐る恐る寄る。


あれ?と足元を見る。

雑草は生い茂っている、が一部抜かれている。誰かが中途半端に草むしりをしたのだろうか。いや、でも今更?


ここに入る用あるのだろうか?あれ?でも、もし何かを隠すならここは見つかりづらい??この建物の裏は木も生えてるし周りからも見えづらい。

建物自体は鍵がないはずだから………


そこまで考えて、ふと香緒里は思い出す。

そういえば、校内でどこの物かわからない鍵を拾った。


確か、スカートのポケットに入れていたはず。探るとまだ入っていた。

錆び付いていて、他の特別教室等の鍵ならば付いている木の板もない。


まさかね、と思いつつその鍵を開かずの建物の鍵穴に差し込んでみる。

入った。

ゆっくり回してみると、ガチャリと鈍い音がして………空いた。


「嘘でしょ………」



鍵のことに頭が囚われていて、香緒里は迂闊にも中の様子を事前に確認したり、周囲への警戒を怠っていた。


どうしよう、とドアの前で立ち止まっていると、頭に強い衝撃が来て、耐えきれず意識を失った。


あぁしまった、先に連絡しておくべきだった、と遠のく意識の中香緒里は思った。







目が覚めると、暗闇の中だった。

ここは、どこだろうか。確か、後ろから何かで殴られて………。

それが夢でないことは、後頭部の痛みが証明している。


手を動かそうとしたが、動かない。足も同様。紐かなにかで結ばれているようだ。口もガムテープのようなもので塞がれている。



「お目覚めかな?」



不意にどこからが声がし、薄ぼんやりと明かりがつく。その声の持ち主のスマートフォンの明かりのようだ。


突然の眩しさに目が慣れてきた後、その人物の顔を見て驚愕する。


「鍵をなくしたと思っていたら、君が持っていたんだね。」



上村智昭、クラスの副担任だった。


ダンボールか何かに腰をかけた上村はいつものように穏やかに笑っている。



「驚いた顔だね。いいね、その顔が見たかった。谷中を探しに来なければ、痛い思いしなかったのに。」



そうだ、沙世は……と視線を周りに向けると、香緒里の後ろに同じように手足を紐で結ばれ、横たわっている。その隣には川端も。

二人とも意識を失っているようで、動かない。暗がりなので明確にはわからないが、大きな傷も無さそうだ。



「何か言いたそうだね。」



上村はスマートフォンを脇に置き、近付いてくる。暗がりに目が慣れたため、その表情もはっきり見える。笑っている、いつも通りに。それがむしろ怖い。


後ろで手を縛られているため思うように身体を動かせない香緒里を起き上がらせ、座らせる。

そしてその前にしゃがみ込み、口元のガムテープを無理矢理剥がす。



「……っ」



唇の端が切れ、口の中に血の味が滲んだ。



「なんで、こんなことを………なんで、なんで上村先生が……!」



穏やかで優しい上村は、生徒にも好かれていた。なのに、なんで。



「簡単だよ、君達生徒が怯える様、怖がる様を見たかっただけさ。上履きがなくなった生徒達の不安そうな顔、見たかい???それに、あの猫の死骸を見た時のみんなのあの青ざめた顔!恐怖に染まる顔!!実によかった……!!」

「狂ってる………」



悦に入って話す上村を見て、呟く。


その時、後ろで動く気配がした。



「んんーーーっ!!」

「やぁ君も起きたのか。」



目の覚めた沙世は、上村を見て驚き、暴れた。



ふむ、と沙世を見ていた上村は香緒里の方に向き直る。



「猫の身体にナイフを入れた時、とても気持ちよかったんだ。」



そう言いながら、ポケットから取り出した果物ナイフで香緒里の制服の前を切った。



「残念ながら、僕には女子中学生を強姦する、なんていう趣味はないんだけどね。」



そう言いつつ、香緒里の露わになったブラジャーと肌の間にナイフを入れ、ブラジャーを切った。



「いいね、君達のその顔が見たかった……!!!」



恐怖で身体の震えが止まらない。怖い。この後何をされるのか、どうなるのか、考えるだけでどんどん血の気が引いていくのがわかる。



「猫のように、吉崎、君の身体をナイフで貫いたら、気持ちいいんだろう。そうしたら、君はどんな声を上げるだろうか、どんな表情になるだろうか。そして、谷中は友人が傷付けられて、殺されて、どんな顔をするだろうか………!!!」



上村は恍惚の表情を浮かべながら、ナイフと香緒里を見比べ、ため息を付く。


声が出ない、叫べない。身体も強ばって動かない。

なのに、ナイフがどんどん身体に近付いてくる。ほんの数秒なのに、酷く長い時間に感じた。



やめて……お願い……助けてーーーーーーー


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