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一期一会  作者: 雪奈
第3章 恋と謎
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5.嫉妬と羨望

『5、4、3、2、1、ハッピーニューイヤー!!!』


年明け。

香緒里は父と年越し蕎麦を食べた後、そのままリビングで紅白等を見つつ、年を越した。

テレビでは神社の参拝客が列を作っているところを中継している。


「あけましておめでとう。」

「今年もよろしくお願いします。」


父と形式的な挨拶をし、笑う。


年末は、例の騒動も少し影を潜め、大きな事件なく終業式をした。

クリスマスには秀人の家に集まり、パーティをして盛り上がり、真や秀人とも若干の気まずさがあるものの、香緒里も充分に楽しんだ。

家に帰った後は、父の帰りを待ち、ケーキやローストチキンを食べて和やかに過ごした。


こんなに穏やかで、楽しいクリスマスは生まれて初めてで、去年までとは比べようもない程に幸せだった。


クリスマスの翌日、雪音から沙世と三人のグループ通話が来て、『翔太と付き合うことになったの』と言われ、びっくりし、大いに喜んだ後。


『私も昨日は幸せだった、こんなに楽しかったクリスマスは初めて』

と言ったら、


『毎年!毎年クリスマス一緒にパーティしようね!!!!』

『もう寂しい思いはさせないから!!!』


と、2人に泣かれることになった。


普通の家庭では当たり前の事なのだろう。

姉から見たら、去年までの吉崎家のクリスマスは普通のクリスマスに感じていたのだろう。

香緒里にも一応はケーキも出るし、食事も一緒にし、ご馳走も食べる。ただ、母や姉から会話が振られることはなく、むしろ香緒里が見えていないのではと思える程。

遠くにある皿を取ってとも言えず、目の前にあるものを少しずつ取って食べるだけ。

プレゼントは豪華な姉のプレゼントに比べると、ほんのお情のようなものを母から投げられるのみ。

父は仕事で帰るのが遅く、クリスマスはいつも三人でそんな感じ。

香緒里にとってクリスマスは、いつもよりちょっと豪華なものを少しだけ食べられる日でしかなかった。



『ピロンッ』


思い出していると、突然携帯電話が鳴る。

SNSアプリの6人のグループメッセージに通知が来ている。


『あけおめー!!今年もよろしくー!早速なんだけど、2日みんな暇???初詣行かない!?』


沙世からだ。新年早々いつも通り元気がいい。


『あけおめ!いいよー何時に待ち合わせにする?』

『あけましておめでとう。いいね、楽しみ。』

『あけおめー。おーいいなそれ、2日なら空いてる。』

『あけおめ、いつでも大丈夫だぞ。』


ピロンッピロンッと次々に通知が来る。

初詣か、しばらく行ってないな……


最後に行ったのは一体いつだったっけ。

いや、考えるのはやめよう、また寂しくなる。


『あけましておめでとう!!私も大丈夫だと思う!行きたい!』


今年も去年の後半みたいに、楽しいといいな。







1月2日。

年末から良かった天気は年が明けてからも続き、本日も青空が良く見える晴天。

冷えているとはいえお正月、しかも天気が良いため、地元の神社は参拝客がたくさんいた。

7日までは神社の参道には出店も並んでおり、毎年賑わっている。


お昼過ぎ、香緒里達は神社の前で待ち合わせをしていた。


「あけましておめでとう!」


香緒里が着くと既に雪音と秀人、翔太がいた。


「沙世たちはまだ?」

「そうみたい。二人で来るんじゃないかな??お家お隣だし。」


確かに、どこかに行く時は大体二人で来る。幼馴染ならではなのだろうか。


「二人でといえば、翔太と雪音も二人で来たよなー」


にやっと笑いながら秀人は二人を見た。こちらは翔太から恐らく聞いたのだろう。


「あ、その節はおめでとうございました。」

「な、なんでそんな、改まって……」

「何となく……??とりあえず、よかったね?」


雪音をよろしくお願いしますと今度は翔太に頭を下げていると、沙世達がやって来た。


「あっけおめー!」

「新年早々、相変わらず元気だな。」

「大晦日からこんな感じ。」


聞けば、ここ数年、真は谷中家にお呼ばれして、年越しは沙世の家族と過ごしているらしい。

沙世の家は父母もこんな感じなのだろうか。



「で、雪音と翔太は二人で来たの????」

「沙世、その下りさっきもやった。」




わいわい、いつものように話しながら参拝の列に並ぶ。

出店が出るだけあって、ここの神社は近辺でも一番大きく、混んでいる。


「終わったら、おみくじ引く?」

「あー、どうしよっか??」


雪音に言われ、参拝客の脇でまた列を作ってる先の破魔矢や絵馬やお守り、おみくじを売っている所を見た。


「修学旅行でおみくじ引いたしお守りも買ったからねぇ。」

「また香緒里が引いたら大凶かもしれないしな??」

「ちょっと!そういうこと言うと、秀人に大凶出ますようにってお祈りしちゃうよ。」

「えーー。」


からかう秀人にそう返す。

よかった、年末よりはちょっと普通に話せている気がする。





参拝が終わると、お昼ご飯調達のために、分かれて出店に並ぶ。


「気を使わなくていいのに…」と二人は言ったが、そうは言われても付き合い始めだし、と主に沙世を筆頭に気を使い、雪音と翔太、香緒里と沙世、秀人と真、という組み合わせで分かれた。


つきたてのお餅を任された香緒里と沙世は出店の一番端にあるどこかの農家が出しているお餅屋の列に並ぶ。


「屋台でお餅が売っているのってなんか不思議。」


テントの脇でぺったんぺったん、掛け声を上げながらお餅をつく人たちを見て香緒里は言う。


「地域のお祭りとかだとたまに見かけるよーなんか自治会?とかがやってるの。」

「そうなんだ。」


店には、磯部、きな粉、餡子、おろしなど数種類を餅が並んでいる。

朝、お雑煮でお餅を食べたはずなのに、こうして並べられていると食欲がそそり、また食べたくなる。


隣でグゥと鳴った沙世のお腹に笑いながら、人数分購入をし、落ち合う場所となっている、神社の隣の公園へと行く。



春には桜が綺麗に咲くこの公園だが、冬の今は木に何もついていなく、少々寂しい。

園内にもほとんど人がいなくがらんとしている。神社内に飲食する場所が設けられているためか、出店で買った物を食べるという人もいないようである。



そんな公園の、入り口から見える位置にあるベンチの一つに二人は腰を下ろした。


「寒いねーこの時期は。」

「やっぱり誰かの家に行って食べた方がいいんじゃない??」

「でも家行く間に買った物冷めちゃうかも?」

「あーそっか。うーん、こっから一番家近いの誰だろ?私とか真は15分くらいだけど。」

「んーそしたら私の家の方が近いかも。」



他4人が来るまで、話しをしつつ寒さを誤魔化す。

ふと、会話が途切れた時に、そういえば、と沙世は聞く。



「初詣で何お願いしたー?」

「え、それって言っていいものなの?」

「言ったら叶えてくれないほど、神様もけちじゃないでしょ、きっと。」

「えぇ、そんなもん??…んー私は、一年楽しく過ごせますように、と、成績上がりますように、かな。」

「うっわ、真面目な回答!」


香緒里の言葉にケラケラ沙世は笑う。


「だって、受験生になるじゃない??一応よ、一応。」


受験、という単語に今度は眉根を寄せる。


「うーやだなー私も願っておけばよかったかな………」

「沙世は?何をお願いしたの?」

「私?私は、真と両想いになれますようにーって。毎年お願いしてるんだけど、なかなか叶えてくれないんだよねぇ。」


沙世らしい願いだな、と思うと同時に真からの言葉を思い出し、いたたまれない気持ちになる。

一瞬出た、その微妙な表情を見てしまったのか、沙世はじっと香緒里を見つめ、真剣な表情になる。



「あのさ、香緒里。」

「な、何……??」



「真に、告白された??」

「!!!え、なんで、知って…………」



動揺する香緒里を見て、溜息をつく。


「やっぱりかー。いや、本人から聞いたわけじゃないよ。私の勘。真が香緒里のこと好きなのかな、っていうのは、正直薄々気が付いてたし。それで、最近二人がなんかぎくしゃくしてたから、もしかしたらって、思って。」

「……………」

「あーあ、やっぱりそうなのかー……」

「……ごめん…」



悲しげな目をする沙世を見ていたら、思わず謝りの言葉が出てしまった。

その瞬間、キッと沙世は睨む。



「ごめん???何が??私が真のこと好きなのに、真が香緒里のこと好きだから???」

「いや……」

「ふざけんな??そんな同情欲しくて言ったわけじゃないから。」



睨む視線が痛い。何も言えずに膝の上で拳を握る。

そんなつもりは、なかったのに。



「秀人も、香緒里のこと好きみたいだしね。いいよね、香緒里は。かわいいし、頭いいし、しっかりしてるし、強いし。私なんて何も取り柄ないし、どんなに真のこと想ったって、お洒落して、かわいくなろうとしても、振り向いて貰えない!」


「真の家族に対する気持ちも、想像でしかわからない。気持ちを共有出来る香緒里が、正直、羨ましいのよっ!」



羨ましい??私のことが?この状況が??それなら、代わってよ!!!

思っても見なかった言葉をぶつけられ、固まる。そして頭の中でそう思い、グッと声には出さずに堪える。



「いいよね、モテて。」

「モテたいわけじゃ、ない。」

「知ってるよそんなこと!香緒里がもっとそういう嫌なやつだったら、楽だったのに!なんでよ、なんで私じゃないのよ!早く……早く決めてよ!いいじゃんイケメン二人に好かれて!!」

「よくないよ!!秀人も真も、何とも思ってない!好きじゃないわよ!!」



沙世の大声に釣られて香緒里も声が大きくなった時だった。

後ろに気配を感じ、対面していた沙世の顔が強ばるのが分かった。

振り向くと



「香緒里……沙世…….」



いつの間にか買った物を持ってやってきていた、雪音と翔太、それに秀人と真がいた。

気遣うように香緒里たちと二人を見る雪音と翔太に対し、秀人と真の表情は固い。


香緒里と目が合うと、真はくるりと踵を返して走り出した。


「待って、真!!!」


その後を沙世が慌てて追い、一度後ろを振り返り、吐き捨てるように言った。



「香緒里の……せいだからねっ……!!」



走り去る二人が公園を出た後、雪音は香緒里の腕をそっと取ろうとした。


が、触れるか触れないかのところで、「ごめん、ごめんね。」と言い、香緒里は沙世たちと同じように駆け出した。



「私、香緒里のこと追うから……ごめん、今日は解散で!」

「いいよ、香緒里のこと、お願い。」



翔太の言葉に頷き、雪音も走り出し追い掛ける。




「なぁ翔太。」

「ん?」

「俺もそれなりに傷付いてるんだけどさ、どうしよっか。」



全部を聞いていたわけではない、が、二人がどんなやり取りをしていたのかは秀人にはなんとなく想像がついた。

その言い争いの原因の一つが自分や真にあること、沙世が前から香緒里に対して劣等感と羨望を抱いていたこと。


沙世が真を好きで、真が香緒里が好きならば、いずれ起こりうるであろう展開ではあった。だからこそ、火を注がないように自分の気持ちを言うつもりはなかった。

だが、知られてしまった。

そのことへの申し訳なさと、先程の香緒里からの言葉。

ダメージはある。



「とりあえず、もうちょっとなんか買って、俺の家行こ?それで、ご飯食べて遊ぼうよ。」



困っていた表情からすこし和らげ、翔太は微笑んで言った。


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