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一期一会  作者: 雪奈
第3章 恋と謎
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3、暗雲

悲鳴の先、2年の教室の一番端にある2年1組、香緒里達のクラスの入口に、クラスメイトの女子二人が座り込んでいるのが見えた。



「おい、どうしたーーーーーー」


秀人が駆け寄ると、二人は青ざめた顔で教室の中を指差した。

少し遅れてたどり着いた真と翔太は中を見て、固まった。


「え、なに………??」


追いついた香緒里達も中を見る。


教室の後ろ、ロッカーの前に猫が血を流して横たわっており、周りには血だまりが出来ていた。血の生臭さが鼻につく。


「ひっ」


雪音と紗世は口を抑えて青ざめる。目を逸らしたいのに何故か逸らすことが出来なかった香緒里は黙って猫を見つめた。


「1年3人、先生達呼んでこい。」

「……!はい!」


秀人のその言葉に香緒里達の後ろで様子を伺っていた水谷達3人は弾かれたように走り出した。


その3人を目で少し追った後、秀人はゆっくりと猫に近付き、しゃがんで身体に触り、じっくり観察するように眺めた。



「切り傷か………刃物で腹を刺されてるな…………内臓まで抉れている。」


雪音と沙世はへなへなと尻もちをついた。


「んーー………まだ暖かいな………死んでからそんなに時間が経ってない。て、ことは、昨日学校が閉まった後ではなく、今日開いてからか………」



考える様にじっと猫を見つめていると、ばたばたと複数の走る足音が聞こえてきた。


「何があった!?」


教頭、学年主任、2年1組の担任の斎藤、副担任の上村、保健教師等複数の教師達が慌てた様子で駆けてきた。


「なっ、なんだねこれは!!誰がやった!!」


教室内を見て、教頭は声を上げた。

他の教師達も一様に目を見張る。


「この二人が先程来た時には、既にこの状態だったそうです。」


騒ぎを聞きつけて、廊下には2年生以外にも他学年の生徒達がたくさんいた。


「みーちゃん!!」

「みーちゃん???」


猫をジッと見ていた保健教師の宮田が声を上げた。


「あ、よく校庭で見かけてた野良猫で……私が勝手にみーちゃんって呼んでいただけなんですけど……他にも、かわいがっていた生徒も多かったと思います………」

「と、とにかく早く片付けて、焼却炉にでも捨ててしまいなさい!!」


少し目を潤ませている宮田を一瞥してから、教頭は言う。


「え、捨てる………?」

「埋めるんじゃなくてですか………??」


生徒教師共々に教頭をまじまじと見つめる。教職者の台詞としてはあまりよろしくないのでは、と香緒里も思う。


「埋めても燃やしても変わらんだろう。」

あまり動物が好きではないのか、この状況をめんどくさいと思っているのか。両方かもしれないが。

「俺たちで埋めるので、いいですよ、ご心配なく。」


秀人がにっこり笑って教頭に言うと、少し引き攣った笑いをしながら、そうかなら頼んだ、と言ってその場から立ち去った。

近くにいた真と翔太は笑みに少し怒りを感じたが、自分達も教頭に対して腹立たしいと思ったところもあったので、黙っておいた。


「じゃあ、この場をお前達に任せて大丈夫か……??」

「問題ありません、職員会議の時間でしょう??」


当然、とばかりの秀人に安心したのか、教師達は職員室に帰って行く。普通ならばありえないことだが、そこは秀人。


「さて、俺と香緒里でちゃんと埋めてくる、香緒里は雑巾とスコップ持って来い。男共はここの清掃、使った雑巾は袋に入れて捨てろよ。雪音達は教室の換気、それと教室の処理が終わるまで人をいれないでおいてくれ。」


テキパキと指示をしていき、香緒里から雑巾を受け取ると猫を包んで抱える。


「んじゃ、行くぞ。」


教室の外に群がる生徒達を一瞥するとサッとモーゼの十戒の海のように人垣が割れる。

いやさすがに凄すぎでしょ、漫画じゃあるまいし………と香緒里は心の中で突っ込む。






中庭に着くと、秀人は端の方にしゃがみ込み、穴を掘り出す。

先月まではたまにここに来ていたが、寒くなった最近はめっきり来なくなっていた。


夏頃に比べるとめっきり青さがなくなっていたが、それでも用務員さんが手入れをしている花壇には冬の花がちょこちょこと咲いている。


ある程度穴を掘ったところで、秀人は猫を包んだタオルを剥がす。

ムワッと血の臭いが鼻に入って来、猫の死体が再度目に入る。


「悪いな、勝手に一緒に連れてきて。無理に見なくていいから。」


目を逸らした香緒里に秀人は言う。


「大丈…夫…」

「あんまり大丈夫そうに聞こえないんだけど。」


少し笑いながら、香緒里の視界から猫の傷を隠すように腕で抱く。そしてそのまま穴の中にそっと寝かし、上から土をかけていく。


「なんか、秀人、冷静だね。」

「そうか……??」


うーん、と少し考えるような素振りを見せる。


「うちの親父さ、警察官なんだよ。県警で警視やっててさ。」

「警視?」

「警部は聞いたことあるか?その上の役職。仕事人間でさ、でもそんな親父に小さい頃から憧れてて、そういう警察関連の小説とか、ミステリーとか、小学校の時は人体の本とか解剖学の本とか読んでて。そんな感じでその辺の知識はあるんだよ。後は地元とかの事件現場に行ったりとか。これも小学生の頃だけど。」

「待って待って待って……」


本当に小学生だったの??実は某漫画の様に高校生や大人が小さくなってたりしない??


そうツッコミたそうな顔をする香緒里を見て秀人は笑う。


「まぁ、変わったやつだとは思うよ。」


「そんな感じでさ、色々と学んでいってたから、こうなわけ。」

納得した?と秀人。


納得はしたけど、改めてとんでもない人だと香緒里は思った。そこがこの人のすごさでも個性でもあるのだけれど。


「こ、今度何かおすすめの本を貸してください……」


コメントにちょっと困った香緒里がそう言うと秀人は吹き出した。


「絞り出して言ったのがそれかよ……!!」


ケラケラと面白そうに笑う。


香緒里達はあまり家の話や小さい頃の話をしない。

それは、家庭が複雑な香緒里や真を無意識に気遣っているからなのかどうなのかはわからないが。

香緒里的には自分の昔のことを思い出すのはあまりしたくないが、他の人の話を聞く分にはさして気にならないと言えば気にならない。

とはいえ、


「やっぱり家族って、いいね……」


そう思う気持ちはやはり強く、ぽろりと本音が零れてしまう。

笑っていた秀人はちょっと真顔になり、また少し顔を緩める。


「血の繋がりだけが全てじゃない、って言っただろ?」


優しく香緒里の頭を叩き、立ち上がった。


「戻るぞ。」


わかってる、そうだね。私は一人じゃない、みんながいる。

息を吐いて、同様に立ち上がる。

花壇の端に茎から落ちた数個の花を集め、猫を埋めた土の上にそっと乗せる。

大丈夫、きっと解決するからね。


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