エピローグ
「香緒里!」
その日の帰り。
部活を終えて一人帰っている香緒里に後ろから真が声を掛け、走ってきた。
「今部活帰り?」
「うん。真は一人?野球部の人たちは?」
「あー、まだ、学校。着替えながらグダグダ話してる。俺は………ちょっと、先に抜けてきた。」
「そっか。」
なんとなく、並んで一緒に歩く。
まだ下校時刻の中では早い方だからか、周りにはほぼ生徒はいない。
「今日は、ありがとね。」
「礼なら充分聞いた。」
他愛ない話をしながら帰る。
授業のこと、秀人たちのこと、部活のこと。敢えて昼間のことには触れずに。
「あ、私の家こっちだから。」
そのうちに家の近くまで来たため、角を曲がろうとする。
その手を、真は掴んだ。
「真………??」
「俺は、一番に、無条件に、お前に頼って貰いたい。その理由が欲しい。」
ぽかんとする香緒里を真っ直ぐ真剣に見つめながら、真は言葉を続ける。
「まぁ、つまり、好きなんだ、香緒里のこと。付き合いたい。彼氏として側にいて、支えたいんだ、一番に。」
「え………え………???」
動揺し、固まる香緒里を見てくすりと笑い、掴んだ手を離す。
「返事は、急がないから。ちゃんと、本気だからな。」
そう言って立ち去る真の背中を、未だ事実を上手く飲み込めないまま香緒里は見送る。
「好き………???真が?私を……??」
一難去ってまた一難。
香緒里の悩みはまだまだ尽きない。
オレンジから黒に変わっていこうとする空を見上げ、香緒里は溜息をついた。