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一期一会  作者: 雪奈
第2章 偽のつながり、真の絆
14/45

2.似ている

「沢田…じゃなかった、真の家族?」


放課後。

修学旅行関連の掲示物を貼る為に、掲示係の秀人と雪音と翔太、それにクラスの人数の関係で掲示係と学級委員を掛け持ちしている香緒里は教室に残っていた。

作業をする中で、香緒里はここ数週間疑問に思っていた事を、真や沙世と同じ小学校だった秀人にぶつけてみた。


沙世に『せっかく一緒の班なんだから、私や真のことも名前で呼んでよ。』と香緒里達と共に昼間言われた秀人は、言い直しながらも問い返す。


「うん。秀人なら、知ってるかなと思って。」

「俺も詳しく知ってるわけじゃねぇけど…確か、真の父親は真が小さい頃に亡くなってたらしい。で、俺らが小五の時に母親が再婚して…でも小六の秋くらいにその母親も亡くなった。で、去年…中学入ってすぐくらいに父親が再婚したらしいよ。」

スラスラと流れるように述べられた秀人の言葉を香緒里は頭の中でゆっくり整理する。


「えー……と、つまり、今の真の両親は両方共…義理の親って、ことだよね?」

「そーいうこと。俺は真と仲良かったわけじゃねーから、あいつの親がどんな人かとかまではわからねーけど。まぁ、そもそもそういうこと話すようなタイプでもないけどな、真は。」

壁に京都の地図を張りながら秀人はそう言った。

「謎だよね。俺も気になってはいたんだけど……。」

「やっぱり小学校違うと、わからないわね、そーいうの。」

秀人達と違う小学校である翔太と雪音と香緒里は顔を見合わせる。

「現に、私の家のことも二小の人は知らないし。」

「そっか、雪音の家、父子家庭なんだっけ。」

「うん、お父さんとお姉ちゃんと私の三人家族。」

「なんか、そーいうのってあんまり話題にならねーからな…。」

それ貸して、と秀人は香緒里が手に持つポスターを見て言った。それを受け取ると、掲示板の少し高めの位置に画鋲で止めた。

「多分、真のことは俺より沙世に聞いた方が確実だと思うぞ?」

そう言ったのと同時に、タイミングよく教室のドアが開いた。


「なんか、呼んだ?」

きょとんとした顔で沙世がこちらを見ていた。

「沙世…エスパー…?」

「いや、違うだろ。」

「忘れ物したから取りに来たんだけど、そしたらなんか私の名前が聞こえたから呼ばれたのかと思ったんだけど?え、違う?」

首を傾げた沙世を少し微笑みながら見て、雪音は答えた。

「違わないわよ。ちょうど沙世に聞きたいことがあっただけだから。」

「聞きたいことって、何よ?」

「…真のことなんだけど…」

香緒里が遠慮がちに事情を説明すると、沙世は微妙な表情をした。困ったような、辛いような、悲しいような。

「あの……答えたくなかったら、全然構わないから…」

「うーうん、香緒里達にはちゃんと話しとくべきかもしれない。なんとなくだけど。」

沙世はそう言って四人を見た。

「真の家族関係は、知ってるんでしょ?」

頷くと、話が続けられる。

「なんか、私の言葉じゃ上手く説明できないけど…真のお父さん…義理のお父さんはすごい厳しい人なんだ。真の本当のお母さんがいる時もその気があったらしいけど、亡くなってからはもう……。おまけに、義理の母親は真のこと嫌ってるらしいし……。」

「家に、居場所がない……」

ポツリと香緒里は呟く。

秀人は少し寂しげな顔をする香緒里をしばらく見た後、沙世に視線を戻した。

「もしかして、それとあのいじめって、何か関わりあるか?」

「ない…とは言い切れない。ううん、多分、家での鬱憤が学校で出ちゃったんだと思う。」

精神状態が不安定だからこそか……と、秀人は言った。

「許されることだとは思ってはない…私も真も。」

「今更、気にしないわよ。前は前、今は今。改心してくれたならそれでいいわ。」

ね?と雪音は香緒里達を見た。

「そうだね、今が上手くいってるならいいよ。真や沙世が、本当は悪い奴じゃないくらい、もう感じてるから…。」

翔太は優しく微笑み、香緒里と秀人も頷いた。

照れくさそう沙世は笑った後、ふと時計を見て、慌てた。

「やばっ!早く戻んないと!」

「あ、ごめん、呼び止めちゃって…」

「いいいい!じゃあね!あ、さっきのこと内緒ね!」

ロッカーの中から目的の物を取ると慌てて沙世は出て行った。

「俺らもさっさと終わらせて、部活行こーぜ?」

微妙な雰囲気になった中秀人は言い、三人は少し表情を和らげて頷いた。



「ただいまー。」

香緒里は返事が返ってこないのを承知で、それでも形式的にそう言いながら、リビングに顔を覗かせる。

「あんた何でこんなに遅いのよっ!こっちはこんなに忙しいのに一人だけ呑気で!」

『おかえり』の代わりにヒステリックな声を向けられる。

今日はクラスの仕事があるからいつもより遅くなる、と朝に言った筈だ。

聞いていない方が悪いんじゃないか、なんて口がさけても言えない。怒りに油を注ぐだけだ。

「お母さ〜ん、今日の夕飯何〜?」

香緒里と入れ違いに、姉の真穂がリビングに入って行く。

すれ違った瞬間、一瞬冷たい目線が投げかけられた。

「今日は肉じゃがよ〜。」

「やった♪私の好物じゃん!」

二人の間で交わされるのは、普通の親子の会話。決して香緒里には向けられることのない優しげな声色。

それも、全部慣れてしまった。

幼い頃からずっとそうだった。姉の方が自分より数倍、母に可愛がられていて。

それでも母に誉められたくて、一生懸命いろいろなことを頑張ったこともあった。けれど、無駄だった。

寂しさなんてとうに消えてしまった。


似てる、と思った。

真と香緒里自身が。

家に居場所がなくて、でももうその居場所を探すのも諦めてしまったような、そんなところが。


寂しくない。

そう…もう、寂しくないのだ。


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