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 ジュノ様がベネッタに詰め寄るとき、普段からは考えつかないくらい声を強くされたのは、日没のすこし前から降りはじめて、いまや診療所のスレート屋根を激しく叩きだした、霙まじりの豪雨による、寒々しい騒音のせいではなかった。ベネッタが、アルトンの首にかかっていたガラス製の小さな瓶が魔法的になにを意味するのかについて、ジュノ様に説明するのを頑なに拒んでいたからだ。その瓶には、アルトンが以前、僕の肩からつまみあげたらしい、ジュノ様の長い金髪が入っていて、コルクの蓋には魔法の印が焼き付けられていた。ジュノ様は察しの悪いひとではない。だからベネッタの沈黙は、無駄な努力にすぎなかった。ただベネッタは、自分が辛くって、言えなかったのである。そのうちジュノ様はとつぜん口をつぐんで、虚脱したように長椅子に座り込んだ。

 やがて、病室から二人の老人が出てきた。ひとりはこの診療所の医師で、もうひとりは村の寺院で祭司をつとめる法術師ウォーロックだった。二人はそろって、気まずそうな顔をした。祭司がまっ白の長い髭をもごもごさせて、「クーリエ殿の天命は、尽きようとしているようです……」などともったいつけたように言ったので、僕は憎悪に限りなく近い反感を覚えた。するとベネッタが、僕の膝にそっと手を置いた。かの女の眼には涙がいっぱい溜まっていた。

「シュウ殿というのは、君だろうか」と、医師が尋ねるので、僕は自分ですと答えた。医師は頷いて、

「最後に、君と話がしたいそうだ。いってあげなさい」

 僕が立ち上がると、一緒に腰をあげたジュノ様にむかって、法術師の爺さんが、ゆっくりと首を振った。それは慇懃でありながら、侵しがたい威厳に満ちていた。

「なぜ……?」

 ジュノ様は、喉笛に食いつかんばかりの形相で、爺さんを睨みつける。

「アルトン殿は、シュウ殿に伝えなければならんことがあるようです」

「私だって、アルトンに言いたいことがある」

 法術師は、もういちど首を振って、「これ以上、クーリエ殿を苦しめなさいますな。かれはもう長くない……」

 するとジュノ様はうっ、うっ、と声を詰まらせ、崩れるように床に膝をついた。それをベネッタが抱きしめて慰めている。ふたりはまるで、大切な家族を失くしつつあるほんとうの姉妹のように見えた。

 僕は一緒になって泣き出してしまいそうになるのを堪えて、「行ってきます」と、小声で言い、病室のドアを静かに開けた。

 なかは、生乾きの血に特有の、鉄錆に似たいやな匂いが充満していた。それは死神の鎌に浮いた赤錆を連想させて、僕は悪夢のなかにいるような気分だった。寝台に椅子を寄せると、アルトンは蒼褪めた顔に淡い微笑をうかべて、

「どうして沈んだ顔をしてる。親友なら、この僕を褒めてくれ」

「他にも方法があったはずだ。どうして魔法をつかって身代わりなんかに……」

「先のことなんか誰にも分からないんだよ、シュウ。それに、これは定めだ」

「また定めか。聞き飽きた」

「そう言わずに、魔術師ウィザードの与太話につきあってくれ」と、アルトンはいつもの軽口の調子で言った。けれどもその声には悲しいくらい厚みがなかった。「僕は元々、この世界に生まれてくる理由をもたない霊魂だった。先代のクロウザント候には恩義とそれに基づく約束があった、それは確かだ。けれども、人間は恩を返す、義務を果たすという風の目的をもって生まれてきたりはしない。そんなことを願ったって、転生はできないんだ。何故って、ひとはみな、究極的には、自分のために生きるのだから。それをあえてできるようにするために、魔法がある。魔法とは本来通らない無理を通すために、古代の人々が練りあげた技なんだよ。僕が魔法のちからによって転生したことは、つまり、僕が運命の根とか、必然性をもたない存在であることを裏付けている。僕は人工の力をもって、存在する妥当性のないところへ存在し続けてきた。どう転んでも、遠くないうちにこの世から離れる定めにあったんだ。だから、このことはどうか悲しまないでくれ。僕はジュノ様の身代わりになるという、最も有効ないのちの使い方ができて、とても満足しているんだ」

「悲しむなって? そんなの無理に決まってるだろ」

 びしっと言ってやるつもりが、僕の声は情けないほど震えた。そんな僕を見上げるアルトンは、とても穏やかな目をしていた。

「とにかく、聞いてくれ。これは君にとって大切な話なんだよ。君は、君がいた世界から、この世界へと連れてこられた。それは、君がそうなる運命にあったからだ。わかるかい。そういう構造が、君の運命の背後にあった。裏返すと、その構造を変えることができれば、君はもとの世界に戻れるかもしれない」

「あのな、僕は未練なんかない」

「それは嘘だよ、シュウ――」アルトンは、まるで簡単な数式の間違いでも指摘するようにはっきりと言って、「君は、なにか大きな後悔を抱えている。ジュノ様に掛け値なしの忠誠を捧げるのは、その後悔からくる一種のうしろめたさのためだ。――おい、僕は君の親友なんだぞ? しかも、偉大な魔術師だ。いつまでもごまかし通せると思ってもらったら困るな」

 僕はなんとしても否定したかった。そうして躍起になればなるほど、言葉を見つけることができなかった。

 アルトンは続ける。

「いつか君に、ジュノ様を頼むとか、ジュノ様を見捨てたら軽蔑すると言ってしまったけれども、あれは間違いだった。あんなことを言うべきじゃなかった。あの頃、僕は君の運命に気付いていなかったんだ。どうか、許してくれ」

「いくらアルトンだからって、怒るぞ。ジュノ様は僕のたったひとりの主君だ」

「わかっているさ。けれども、誰もが自分の運命から逃げることができないように、君にも、いつか君をこの世界へと連れてきた運命と対峙しなければならないときが来る。そのときには、きっと役に立つと思ってね。実は、言葉のほかにも、君に受けとって貰いたいものがあるんだ。それは、魔術師ウォーロックの宿星だ。――いつか君は、魔法使いになりたいから弟子にしてくれと、僕に言ったね。その夢がかなうんだ。もっと嬉しそうな顔をしてくれ」

「懐かしい話だな。でも、そんなことができるのか?」

「術式は知っている。あとは君の運命が受けとるかどうかだ。……大丈夫、できると思う」

 アルトンは僕に上腕をむきだしにするよう言って、それから初めて激痛に耐えかねたように顔を歪めた。はやく、と呻くように催促する。僕は急いで衣服をはだけ、片肌脱ぎになった。するとアルトンは僕の右腕に手をあてて、薄く目を閉じ、呪文のようなことを呟いた。アルトンのてのひらの下あたりが、突然、カッと熱くなった。そこから靄がゆらゆらとたちのぼって、まるで溶接でもしているかのような烈しい光が肌のうえを走る。

 儀式は長く続いた。僕はあまりの熱さに幾度もみっともない呻き声を漏らした。そうするうちに、

「うまくいった」と、アルトンは言った。額には玉露のような汗が浮んでいた。かれが手を離すと、そこには竜の刺青を連想させる青い痣があった。アルトンのうなじの辺りにあったのと、おなじものだ。

「けれども、これだけで魔法が使えるなんて思うなよ。大変なのはこれからだ。修行につぐ修行、それから術式の試行錯誤――そうして少しずつ力をつけていくんだ」

「修行って、どうすれば……」

「大きな町の古書店に行けば、魔術書の写本が手に入るはずだ」

 それからアルトンは、参考にするならこれがいいと、著者やタイトルをいくつか挙げた。

「まって。いま、メモを取る……」

 僕は机からインク壷と羽ペン、それから便箋を一枚拝借して、ひとつふたつの名詞を書きつけて、アルトンに確認を求めた。が、返事がない。振り返って、思わずペンを取りこぼした。――アルトンは、眠ったように瞑目していた。強く呼びかけながら、近づいていって口元に手をあててみると、かれはもう息をしていなかった。

 僕はこみあげてくる感情をどうすることもできず、嗚咽した。そうして顎や鼻先から滴り落ちた涙が、足のあいだの木目に黒く染みていった。――自己を回復するのには、どうしたって明け方ちかくまで必要だった。その頃になって、あの旅芸人を装った男が診療所を尋ねてきたのは都合がよかった。もうすこし早かったら僕は翌日にしてくれと断っていただろうし、逆に遅かったら夜が明けてしまい、対応が一日遅れていたかもしれない。僕は涙を拭って、かれに事情を説明すると、病室でベネッタに抱かれたまま泣き暮れているジュノ様に、たいへん重要なご客人ですと云って引き合わせた。

 男は、ガテュード伯オールギュントの臣下、ハーネル士爵だと名乗って、それからガテュード伯の意向をうけて貴女の手助けをするためにまかり越した、と言った。ジュノ様は一度、二度頷くと、委細お任せします、シュウは私の腹心です、かれと打ち合わせてよろしく計らってください、と無気力に答えて、アルトンの傍へ戻っていった。

 ハーネル卿はジュノ様のうしろ姿を目で追いながら、

「しかしながら……クーリエ殿の葬儀を待っていては機を逸することになります。お辛いでしょうが、すぐにもここを発って頂かねば」

「分かっています、そのことは僕からお話しします。ただ、ジュノ様は自分が姿を晦ますことで誰かが罪に問われることになるのではないかと恐れておられるのです。その点、よい方策があると、僕としても話がしやすいのですが……」

 ハーネル卿は、自分に考えがあり、問題ないと請け負った。そう言う以上、僕は信じるほかなかった。

「ところで、行先のあてはありますかな?」

「いや……」

「とくに腹案がないのでしたら、ヘクザイム島あたりはいかがですかな」

「となると、船旅になりますね。生憎、路銀が……」

 するとハーネル卿は、懐からこぶし大の皮袋を出し、僕に差しだした。受けとるなり、ずしりとした重みが手首に響いた。卿にうながされて口をひらいてみると、なかは金貨がぎっしり詰まっている。かれは微笑んで、少ないですがお使いください、と云った。僕は、お礼を言って、それからヘクザイム島についてのそれほど豊かではない知識を、記憶の櫃から拾いあつめた。とはいえ、船乗りや、教育を受けた者なら誰でも知っている、有名な島である。

 大陸には、西のフィオール王国と、東のアザド帝国に抱かれるようにして、大きな内海があるが、その紡錘形(僕の見た地図ではそのようになっていたが、この世界の測量技術の精度については残念ながら保証できない。とうぜん、以下の記述についてもこうした事情を考慮しなければならない)の内海を斜めに群島が列なっていて、そこから帆船で二日、蒸気船でまる一日北上したところに、ふたつの火山性の山脈を持つ、潰れた瓢箪のような形をした島がある。それがヘクザイム島である。大国に挟まれているせいで、きわめて複雑な沿革を辿ることになった島で、一概にこうと言えるような単純明快の背景を持ってはいなかったが、とにかく、アザド帝国に対しても、フィオール王国に対しても、一定の独立を保っている。そのせいで両大国から亡命してくる者が多かった。貿易が盛んで、文化水準が比較的高かったから、母国で政治的に行き場をなくした貴族にとくに好まれたのである。島の政府のほうも、そうした貴族の人脈を利用して巧みな外交を展開し、両大国の覇権主義を認めつつ、貿易を通じての実利と自治を確保していた。ちょうど、中世のベネツィアに似ているかもしれない。ベネツィアは優れた航海技術と強力な海軍をもっていることで有名だったが、ヘクザイムの共和国政府もやはり、フィオールにもアザドにも一目置かれるだけの技術と海軍力を擁していた。また、この島には魔界に繋がっているという遺跡群があり、古代の財宝やダンジョンに特有の鉱物、植物などを目当てにした山師が群がってくる。こういう連中は、亡命者のなかでもとりわけ低級な者、要するに犯罪者が多かった。遺跡群――ダンジョンとも呼ばれる――は、魔界と接しているというだけに魔物がわんさかいて、腕に覚えのない者が這入り込んだりするのは危険だったが、財宝の持ち出しに成功すれば、一生を遊んで過せるだけの大金が手に入るから、山師たちは傾いた人生とかけがえのない命をチップにして一発逆転を目論むことを厭わない。

 ジュノ様に、このヘクザイム島を行き先として打診すると、ほかにあるまい、と困憊の態で答えられた。そうして長い金髪を耳のそばで支え、上体を優雅な所作で傾け、アルトンの頬に口づけをし、それからは人が変わったようにてきぱきと旅支度を始められた。供は、僕とベネッタの二人だけと決まった。用意が整うと、僕たちは後事をハーネル卿に託し、診療所の裏口をこっそり出て、激しい雨風が枝をざわざわと鳴らす山林のなかを黙々と進んだ。

 ベネッタの案内で三日ほど道なき道を歩くと、大きな港町へ出た。そこから蒸気船に乗り、半月ほど波に揺られて、僕たちはヘクザイムの主要都市・アルカングに上陸した。ホテルで朝食がてら新聞のバックナンバーを捲っていると、ちょうどジュノ様のことが載っていたので、僕は二人に内容を読んで聞かせた。――クロウザント候の長女であり、アル・ディ・クオールの篭城戦で血統どおりの比類なき統率力を示した、かのジュノ・ヒュエル・ディ・クロウザント令嬢は、ヒースリンク子爵への輿入れが決まっていたが、結婚式が執り行われる王都へとのぼる途中、何者かによって狙撃された。事件は未遂に終わったが、その晩、令嬢一行が宿泊していた屋敷が、豪雨によって増水した川に土台を侵食され倒壊した。翌日、下流で令嬢とその従者と見られる複数の遺体が発見された。当局は、遺体の確認を急ぐと共に、暗殺未遂事件との関連について慎重に調べを進めている。……

「オールギュント様とハーネル卿にはいつかお礼を言わねばなりませんね」僕は新聞を畳んで、トーストにバターを塗りはじめた。「しゃくれ野郎は今頃、手を打って喜んでいるでしょう。そう思うと癪ですが、これでもう、ジュノ様は安全です」

「やはりあの晩、私はシュウの言うとおりにすべきだった……」ジュノ様は食事に手をつけないまま、ぼんやりと云った。「思い切って屋敷を逃げ出していたら、アルトンは死なずに済んだ……」

「ジュノ様、未来を見通すことは誰にもできませんよ」と、ベネッタがサラダをつつく手をとめて、気遣わしげに言った。「それに、悪いのはジュノ様を貶めようとしてきた人たちです。ジュノ様が気に病むことはありません」

「ベネッタの云うとおりです。それより、せっかく島に来たのだから、すこし観光しませんか」

 僕はジュノ様の気分を変えたくて、あえて空気を無視したようなことを言ってみた。

「あのね、シュウ」と、ベネッタが子供を諭すような調子で声を低くした。「路銀には限りがあるのよ? 余裕のあるうちに活計を立てることを考えないと」

 そうだな、とジュノ様は微苦笑をされた。「感傷に浸るのはあとにして、まずは現実の問題を処理しなければいけないな。そこで、どうだろう、私に考えがあるのだが……」

 話し終えると、実はひそかに憬れていたんだと仰って、子供の頃を髣髴とさせる悪戯っぽい笑みを浮かべた。ベネッタはすこし首をかたむけて、頬に手を添えている。僕も、腕を組んで、うーん、と唸ってしまった。

 ジュノ様は、共和国のダンジョン管理局とギルドに、冒険者登録をしたいというのである。幸い、ジュノ様の戦士ファイターとしての腕は確かだし、ベネッタは危険な場所でのサバイバルを本領とする密偵スカウトである。僕も、短剣は人並みに扱える。頑張れば、二人の脚をひっぱったりしないだろうと思う。それに、ダンジョン周辺には、ガイドや魔物退治、調査なんかの仕事が溢れかえっていて、多少の危険を厭いさえしなければ、まず食い詰めるようなことにはならない筈だ。けれども、ダンジョンの門前町であるイーヴル市は、凄まじく治安が悪いという評判だった。日夜ダンジョンに入り浸ってなにをしているのか分からないような犯罪者まがいの山師たちがこぞって根城にする街だから、それも当然といえば当然かもしれない。ジュノ様や僕のような世間知らずが、生き馬の目を抜くイーヴル市で、はたしてやっていけるのか。ダンジョンそのものの危険もあるけれど、そっちのほうも心配だった。これらのことをジュノ様に意見すると、

「それなら問題ない。私たちにはベネッタがいるじゃないか」と、ジュノ様はハーフエルフの肩に手を置いた。

 齢八十、裏社会を知り尽くしているベネッタは、ほっと息をついて、

「けれどジュノ様、あんなところにひと月もいれば、人間が荒んでしまいますよ。いいのですか?」

「そういう危険な匂いのするところのほうが、かえって燃えるというものだ。なあ、シュウ?」

 僕はトーストをかじりながら、ジュノ様を横目で見た。唇の端がすこし持ち上がり、眼は遠くに想いを馳せるように細くなっている。これはジュノ様が言い出したことを絶対に譲らないときにきまってされる顔である。こうなったらお手上げだ。家来には限界というものがある。それに、ほかに名案がある訳でもなかった。僕はホテルのボーイ、ジュノ様は絵画のモデル、ベネッタは酒場女、なんていう展開も、それはそれでおもしろくない。

 話がまとまると、僕たちはすぐに荷物を抱えて島の外周をめぐる列車に乗り、昼過ぎにはイーヴル駅に降り立った。その足で、市のダンジョン管理局へ行き、冒険者登録を済ませ、長期滞在の宿を決めると、翌日にはギルドから最初の斡旋を受けた。護衛である。アザド帝国大学の考古学の教授が依頼主で、かれの指揮する調査班に二日ばかりついていって、魔物からかれらを守るというものだった。帰路、オーガの小規模な群れに出くわしたが、大柄なやつを二三、ベネッタが弓で射抜くと、連中は敵わないと見てか、早々に退散してしまった。難なく終えてギルドに報告に行くと、マスターは手もみをして僕らを迎えた。怪我人をひとりも出さなかったこと、それからダンジョンのなかで依頼者に賃上げをいちども要求しなかったことが、ひどく好感されたらしかった。イーヴルのごろつき冒険者たちは、上客と見るや、魔物のまえでサポタージュのそぶりを見せたり、あるいは露骨に恫喝をしたり――とにかくありとあらゆる手をつかって、報酬を搾り取ろうとするのだという。その点、僕たちは良心的で腕がいいということで評判を博し、すぐにスケジュールはいっぱいになった。

 新しい生活に慣れ、僕はチップや報酬の分け前をたくわえると、有名な鍛冶屋の銘が入った二刀流用のダガーをひと組新調したり、軽くて丈夫なスケイル・メイルを手に入れたり、皮のロング・コートやアクセサリーなども買った。そうして仕事の早く済んだ夕方にはすこし構えのいいところで食事を取ったり、酒を飲んだり、賭け事をしたりして楽しんだ。自分で稼いだ金で、好きなことをやる――これは新鮮な悦びだった。遊びまわるうち、同業者に幾人かの顔見知りができた。ダーティーな街だとは聞いていたけれど、このときの僕には、とくべつ深刻な問題は起こりそうもないように思われた。かれらは柄が悪かったけれど、僕がダンジョンの浅い階層にいる魔物をほとんど一撃で仕留める腕をもっていると知ると、それなりに敬意を払ってくれた。時には、あんちゃんわけえのにてえしたもんだなあ、などと、知らない異種族の小父さんがいきなり酒を奢ってくれることもあった。僕も、いやあこう見えて二十六になるんです、異界人だから身体は餓鬼のまんまですけど、ところでお父さん、ご出身はどちらで? なんて応えて、それから小父さんのパーティーと一緒になってどんちゃん騒ぎをやる。泥酔して店を出、夜風に当たってふらふら帰路を歩きながら、

(悪くない生活だ……)などと、鼻歌まじりで感慨に耽っていたときのことだった。

 どうも、数人組に、あとをつけられているような気がする。そうして、僕は調子に乗って白金細工の首飾りなどを買い、それを酒場にぶら提げてきてしまった迂闊さに気づいて、舌打ちをした。走って逃げようにも、足元がおぼつかない。建物や街灯はぐらぐら揺れていた。こんな状態でダガーを抜いたら、自分の指を切り落としてしまいかねない。全身がドッドッと脈を打っている。心地よい酔いは、緊張のせいで不快なものに一変し、頭痛と吐気が始まった。

 宿への帰り道はちゃんと覚えていたつもりだったが、連中を巻こうとして狭い路地へ二度ほど折れたせいで、どこがどこだか分からなくなった。いっそ運河に飛び込もうかと、石橋の欄干に手をかけたとき、前方にも不審な人影が詰めているのに気が付いた。

 かれらは、有無を言わさず斬りかかってきた。

 月明かりと遠くの街燈の脆弱な光しか頼るものがない。そのうえ、僕の視神経はアルコールをスポンジのように吸っていて、敵の凶刃をなかなか捉えてくれなかった。分かるのは皮膚につたわる気配だけだ。その気配から敵の態勢をイメージし、そこから武器がどういう軌道をとっているのかを推測する。やられるのは時間の問題だと諦めていたが、僕の勘は案外よく働いてくれた。感覚に任せて身体をひねった途端、シュッと刃の空を切る音が、耳の傍で鳴った。よろめく敵の姿を感じると、僕は居合のようにダガーを払ってその首を掻っ切った。サアッと、すがすがしい音がたち、生ぬるい鮮血がしぶく。それからもたつく敵の懐に飛び込んで、逆手に心臓をひと突きし、そいつを盾にして敵の棍棒を受け止めると、飛び出しざま、棍棒つかいの両目のあたりを薙いだ。そいつは間の抜けた悲鳴をあげて、尻をついた。

 僕はほとんど役に立たない肉眼を薄く閉じ、ほかの感覚を冴え渡らせることで、様子を察知しようとした。敵は明らかに動揺している。それは、浮き立った足音、息づかい、それから防御的になった構えの気配からわかった。連中が遁走するのも近いかもしれない。僕はその切欠を与えるつもりで、ダガーを振るい、威嚇した。そのとき、敵の一人が、

「頼みますぜ、旦那」

 と、鋭く叫んだ。

 途端に、ざわざわと鳥肌が立った。橋のむこうの、工房風の建物の陰から、人の姿をしたものがゆらりと現われたのである。どうも、生身の人とはすこし違う気配がした。僕は肌を刺すようなそいつの凄まじい殺気を、どこかで感じたことがあると思って、記憶をさかのぼった。そうして、城塞の地下に繋がれていたトロルの、あの一つ眼を、はっきりと想起した。そうだ、あれとよく似ている。すると、こいつは魔物?

 そいつが近づくにつれ、妙な匂いが鼻をつくようになった。土の香りとも、腐敗臭ともつかない匂いだ。口臭かもしれない。ともかくそいつはぜいぜいと喉を鳴らして呼吸をしていた。そのお蔭で、僕はそいつの気配をよく掴むことができた。正面に構えたロング・ソードはピタリと動かず、姿勢は端整で、かれが尋常でない使い手であることを示唆していた。だが、幸い、ジュノ様に比べたら一歩、あるいは二歩、劣るようである。そのうえ、僕の酔いも、感覚を研ぎ澄ませたせいか、かなり醒めてきていた。

 もしかしたら、死なずに済むかもしれない――僕は涙が滲むような思いで、ダガーを構えた。

 敵のロング・ソードが、風を巻いて唸る。予期していたとおりの素早い太刀筋だった。僕はそれを銘いりのダガーで着実に受け止める。間髪いれず飛んでくる第二撃、第三撃を、それほど苦労することもなく弾き返し、すこしかぶりの大きくなった第四撃を好機と判断し、受けると見せかけてサッと引き倒した。それで、敵は慣性を抑えきれなくなった。僕は逃さず、そいつの背にまわりこんでザックリと引き裂いた。――が、飛び散るはずのものがまったく飛び散らない。僕は慌てて距離をとった。致命傷を与えたつもりが、平然とされてしまうのなら、こっちは計算をやりなおさければいけない。

 敵は剣を杖のようにして、上体を起こした。そのとき、運河をくだってきた小船の、ランタンの光が橋のうえに薄く流れこみ、そいつのさび付いた剣を浮かび上がらせた。ガードの真ん中には、特徴的な紋章がついていた。四つの首をもつ獅子である。この剣が盗品なのか、そいつの元からの持物なのか、知る由もないが、ともかく由緒のある家系の出身者か、そういう貴人に仕えていた者の佩剣だったのだろうと思われた。

 睨みあいを続けるうちに、複数の男の威嚇するような声が、大通りのほうから投げつけられた。この街の役人たちだろう。通報を受けるなりして、駆けつけたものと見える。僕を取り囲んでいた強盗たちは、小声で合図をしあい、死者や怪我人を放置して、まるで鼠のように狭い街路へと散っていった。謎めいた剣士も、暗い目つきで僕を見やると、建物の陰にその姿を消した。僕は連中の足音が遠ざかると、その場に座り込んだ。そうして、欄干のあいだから顔を出し、酒場で飲み食いしたものを洗いざらい運河にむかって吐き出した。小船の船頭が、黒い水面に棹を立てながら、物珍しそうに僕を見ている。

 警吏たちが、松明を掲げて、死体や怪我人の検分を始めた。僕は気分が落着いてくると、かれらの質問に答えながら、僕の手にかかって死んだり一生癒えない傷を負ったりした連中の顔を、どうというつもりもなく眺めた。そうして、恐怖や安堵とはちがう種類のざわめきが、僕の胸に起こった。強盗はみんな、ついさっきまで酒場で一緒になって浮かれ騒いでいた冒険者たちで、僕に両目を潰された男は、最初に話しかけてきた田舎なまりの小父さんだった。

「これが欲しかったンかよ」と、僕は首飾りを引き千切り、「言えばくれてやったのに。ほうら、やるよ、欲しかったンだろ」小父さんに握らせてやった。小父さんは、怯えたように、ああ、うう、と呻くばかりだった。やがて、かれの手のなかの首飾りは、髭の先からしたたり落ちる血に濡れて、ドス黒い艶に包まれた。僕は小父さんを見棄てて、宿に帰った。

 まるごと事件を忘れたい気持とは裏腹に、小父さんの眼球をダガーでかち割ったときの感触が、手に執拗に残った。上辺はゾッとするほど柔らかいのに、奥には生木に鉈を打ち込んだような硬質の感覚もあって、それが鮮明に甦ると、僕は眼球に強烈な痛みを感じた。そうして、視野を永久に失うことの実感から来る悲しみとか、絶望感が、我が身に起こったことのように込み上げてきた。あの小父さんはろくでもない強盗だったが、優しくて気さくなひととしての第一印象が、僕の胸に刻み付けられていたのである。そのせいで僕は身内を傷つけてしまったような心苦しさから遁れることができなかった。その晩は寝台に横たわっていても眼が冴えて仕方なかった。真っ暗な天井を見上げたり、枕に顔を押し付けたりしながら、心臓をどきどきさせるばかりで、意識が途切れる眠りの感覚はまるで僕のもとに降りてこなかった。

 夜が明けると、ひどい宿酔に悩まされるようになった。窓のむこうで鳥がさえずったり、廊下の床が軋んだりするのさえ耐えがたい。その日はオフじゃなかったけれど、僕はジュノ様に一日休むよう命じられた。渋々了承すると、遊びまわるなとは言わないが、少しは慎重になったほうがいい――そう怖い顔で釘を刺されてしまった。ジュノ様とベネッタが出発したあと、起きだしてトイレで嘔吐し、幾分すっきりして部屋に戻ってくると、ナイト・テーブルのうえの皿にはじめて気がついた。甘い香りのするオートミールである。スプーンを文鎮にして、伝言用のメモが添えてあった。「ちゃんと味見をしたから大丈夫だと思う」――ジュノ様の筆跡である。僕は上澄みを含みながら、涙が出てきた。

 気分がおちつくと、やっと眠気が萌してきた。朝の淡い陽ざしが、昨夜からの殺伐とした雰囲気を掃ってしまったように感じられたが、それは錯覚だったのかもしれない。まどろむなかで見たのは、閉口してしまうほど皮肉のきいた厭な悪夢だった。

 すべての夢がそうであるように、最初、僕は夢のなかにいるとはすこしも思っていなかった。むしろ、やっと幻想が終わったというような、妙にさっぱりとした感慨があった。僕はユニットバスを極端に平坦にしたような、特徴のないことが特徴と云うべき部屋にいた。一応、ベッドはある。けれども他にはなにもない。プラスチックに近い材質の窓と便器をのぞけば、である。ドアがあることさえ気付かなかった。そこから白衣の男が入ってきたので、僕は驚いた。気分はどう、と、かれは親しみを装わなければいけない人に特有の、白々しい声で尋ねた。かれのネームプレートにはごちゃごちゃと印刷の日本語が並んでいたけれど、「○×精神科病院」の表記を見て、ああ、そういうことかと思った。壁がコンクリート質でないのは、僕が頭を叩きつけて脳挫傷を起こしたりさせないためだろう。つくりが平坦なのは、突起に紐をかけて首をつったりさせないために違いない。医師のクリップ・ボードにはたくさんの走り書きがあった。ドイツ語ではなく日本語だったから、カルテではない。そこには、フィオール王国とか、クロウザント侯爵家とか、トロルとか、戦争とか、そんな言葉が乱雑に並んでいた。かれは、硬質の光沢をはなつ眼鏡を指で押しあげ、「続きを聞かせて」と言った。ほんとうは、おまえの話になんか、ちっとも興味がないんだとばかりに。――僕はなぜか、壁の一面がマジック・ミラーであることを認識していた。そうしてその向うに、両親の気配を感じた。前から予兆はあったとか、障害年金がどうだとか、そんな低い囁きが、液体の紙に浸透するように聞こえてきていた。

 これが真実なのか――そう考えた瞬間、訳のわからない興奮性の感情がぐるぐると渦を巻いて、他にどうしようもなく、僕はぴょんぴょんとベッドの上を跳ねた。すると医師は怯えたように応援を呼んだ。すぐに水色の制服を着た看護師たちがぞろぞろと這入ってきて、僕に猿ぐつわのようなものを噛ませ、それからベッドに縛りつけ、黄色っぽい液体の入った注射を打った。すると、僕を駆り立てていた激情が嘘のように消えてしまった。僕は呆然として看護師たちの仕事を眺めた。

 そのうち彼らは部屋を出て行き、気付くと、母親が傍にいた。

「シュウは、田舎の墓地で暴れていたところを保護されたの。異世界になんか連れ去られてはいないのよ」

 かの女は泣きながら、そういう意味のことを繰り返し僕に言い聞かせていた。父親のほうは面倒くさいと言いたげな、あるいは痛々しいものでも見るような、はっきりしない顔をして、黙然と椅子に座っていた。それからふたりは医師と言葉をかわし、また来るという意味のことを言い残して出て行った。僕は静かになった部屋でひとり絶望的な気分に駆られ、目を閉じた。夢なら醒めて欲しいと切実に思った。そうしてはじめて、これは夢かもしれないという、可能性とも願望ともつかない考えが膨張していって、ハッと目を開いたとき、昼食の支度ができたという、宿のひとの呼びかけを聞いた。冷たい寝汗を拭い、やっぱりな、けれどどうして今更、などと独り言をしながら食堂へ降りていって、ハムエッグをつつくうち、ひとつの疑念が夏の蔓草のように伸びていって僕の意識にまとわりついた。――ほんとうにただの夢だろうな?

 はじめのうち、僕は苦笑いを浮かべていた。厭な夢だった、の一言で済ませられると安易に考えていたのである。けれども、理詰めで考えれば考えるほど、深みに嵌っていくような感じがして、黄身が半分なくなる頃になると、右の頬がひきつるのをどうしようもできなくなった。そうして、皿を重ねたときには、すでに僕の精神の深いところに悪霊が棲みつき、辺りを我が物顔でのし歩いていた。その悪霊の名を、猜疑心という。僕はその影をさがして、きょろきょろと辺りを見渡した。まるで、視界からすこし外れたところに、空間の裂け目があって、そこに手を突っ込んでこじ開ければ、この世界の秘密を暴くことができるとでもいうように。それから、この考えの馬鹿らしさを嗤った。

 部屋に戻って、腰を据えて考えた。この世界はもしかしたら、妖精がトールキンに語って聞かせたようなものなのかもしれない。よくできているが、結局は虚構だ。けれど、それを立証するためには、どうしても決定的な証拠がいる。そうだ、この世界に矛盾しているところはないだろうか。わずかなほつれでも見つけることができれば、そこから、この幻想を一気に突き崩せるような気がする。そしてすぐに、魔法という概念が厄介であることに気がついた。言わば、僕が魔法についてろくに知らないうちは、この世界はなんでもありなのである。なにか突拍子もないことが起こっても、実はかくかくしかじかの魔法があって――ということで済んでしまう。この虚構の世界があとだしの説明を持ち出してくるのを封じるためには、僕自身が、魔法の理論に精通していなければいけない。

 そんな風に考えると居ても立ってもいられず、僕は急いで身支度をすると、イーヴル市立図書館を目指した。この街の図書館は、さすがにダンジョンの傍にあるだけあって、魔術書の類が充実しているという評判だった。のみならず、歴史や語学、博物学の蔵書もたいへんなもので、常日頃からこの世界での体験記を文章に起こしたいと考えていた僕にとっては、とても興味深い場所だった。ただ、利用するためには共和国の国籍とメンバーからの紹介が必要で、そのことをカウンターではじめて知らされて、僕は困りはててしまい、エントランスをうろうろした。――これからいかがわしい職人を紹介してくれる裏ギルドに立ち寄って、会員証を偽造してもらう相談でもしてみようか、などということを真剣に考え始めたころ、この街へ来てはじめて仕事で関わった、アザド帝国大学の教授がたまたま通りかかり、僕に声をかけてくれた。実は、こういう事情で困っているのですと話すと、

「そういうことなら、私の会員証を使えばいい。私は近いうちに大学へ戻らねばいけませんので、しばらく使いません。あなたは私の教え子だという体裁にし、私の研究を手伝うという名目で使えば、問題ないでしょう」

 そうして、教授はカウンターで煩雑な手続を代行してくれ、最後に一枚の羊皮紙を僕に手渡した。かれは別れ際、

「頑張ってくださいね、若い魔術師ウィザードさん」と励ましてくれた。僕の上腕に宿星があることを、かれは知っていたのである。僕は何度もお礼を言って、かれを見送った。――そうだ、僕はアルトンに教えられた魔術の入門書をも探さなければいけなかった。アルカングに降り立った日、古書店を回ってみたが見つからなかったので、そのままにしてあったのである。仮に見つかったとしても、路銀の都合で購入することはできなかったかもしれないが。

 図書館のなかは大聖堂のような、ドーム状の天井のたかい造りになっていた。本棚は、ゆうに大人の背丈の五人分くらいあって、そこに古めかしい背表紙がぎっしりと並んでいる。本棚には、足場が組まれたり、梯子が立てかかっていた。図書館の利用者は、これらをつかって、目当ての本を取り出すのである。学者風や魔法使い風のひとたちの、粛々たる足音が、妙に透きとおった反響音をめぐらせている。僕は司書をつかまえて魔法関係の書籍の場所を訊き、それから長い時間、背表紙を眺めて過した。アルトンが教えてくれた書籍はなかなか見つからなかったけれど、かわりに、法術関係のなかに「生命の秘蹟」という本を見つけ、これはと思って読みはじめた。目次に、死人を蘇らせる術式というのが載っていて、強く惹きつけられたのである。僕の脳裏には、当然のように紘子の影があった。この世界の秘密を暴くつもりで鼻息を荒くしてやってきた僕は、魔法というテーマにあっさり眩惑され、月並みの夢想に駆られてしまった訳である。つくりものかもしれないと疑っている世界の魔法にすがって願望を満たそうとは、我ながら相当に矛盾していると思ったけれど、裏腹に、頁をめくる手は自然と汗ばんできた。しかし、内容は半ば期待はずれだった。肝心の蘇生術への言及がほとんどなく、聖職者の説教みたいなことがどこまでも続いていて、イライラさせられた。著者曰く、――死は偶然によってもたらされるのではない。大いなるもの=神がそのひとに死を与えるのは、ただの気まぐれによってではない。深遠な哲学と、我々には計り知れない愛とに基づいているのである。大いなるものの御心に逆らって死者を甦らせようとすれば、結果は悲劇にしかならない。この世にアンデッドの魔物をひとつ増やすのみである。されば、我々はひとの生死に介入しようとするとき、よほど聡明かつ敬虔でなくてはならないのである。――だからどうした。僕は術式だけをノートに書き写すと、「生命の秘蹟」を閉じて、あった場所に押し込んだ。

 その日から僕は街を遊び歩くのをやめ、時間を見つけては図書館に入り浸って、調べものをしながら、この文章をすこしずつ書き足していったり、諸々の魔法書を読み込んだりした。そのうちアルトンが教えてくれた入門書を見つけだして、本格的に閲読に取り掛かった。「魔術――理論と実践」というシンプルな題名のその本は、まさに実践的な著作だった。お蔭で、僕は魔術の仕組みをよく理解することができた。魔術師ウィザードは、世の諸々の力を、擬人化し、精霊とみなして、かれらを使役することで超自然の力を発動させる。諸力とはつまり、火とか、冷気とか、大地の震動とか、ものを腐敗させて自然に帰す力とかである。本来燃えるはずのないものを燃やしたいなら、火の精霊と誼を通じなければならない。冬でもないのに酷寒の風を起こしたいなら、冷気の精霊に取り入らなければならない。そういう交渉をうまく進める為に、魔術師は瞑想をし、精神を鍛える。そうして全身全霊をもって召喚に取り組み、精霊と友情に根ざした契約を結ぶのである。

 その頃、僕たちのパーティーは、攻撃魔法を使えるひとがいないことが、大きなネックになっていた。アンデッド系の魔物は、もともと死んでいるために、物理的な打撃を与えても弱らせることが難しい。それこそ、中枢神経系を断つなり、肉片になるまでバラバラにするなりしないと、活動をやめてくれない。けれど、焔や冷気の魔法を用いれば、簡単に一掃できる。それで僕は、なんとか精霊の召喚を成功させ、魔法を身につけたいと思っていたのである。僕は入門書にあったとおり、七日七晩の断食と瞑想をおこない、それから孔雀石や酸化コバルトなどの顔料で描いた魔方陣のなかに略式の祭壇を築き、召喚の呪文を延々口ずさんだ。ほんとうは宿の部屋なんかではなく、郊外に静かな小屋でも借りてやれば良かったのだけれど、生憎忙しくて、そこまでできなかった。空腹と精神疲労でぼうっとしながら、ひたすら精霊を呼んでいたところ、隣の部屋から、ぎゃあというジュノ様の悲鳴が聞こえてきた。あれが出た、というのである。お願いすぐ来てとベネッタが壁越しに哀願している。僕は知らずに召喚してしまった精霊が暴走でもしているのかと思って、慌てて駆けつけたら、なんのことはない、我々の世界にも御馴染みの、あの黒くてひげの長い昆虫であった。この世界でもやっぱり、ご婦人方から忌み嫌われている。僕は寝台の下から這い出てきたそいつをスリッパで難なく叩き潰し、背にジュノ様とベネッタの感謝の声を受けながら、ああ、断食を最初からやり直しだと思って、目がくらみ、膝を折った。いちど召喚の儀式が始めたら、誰とも顔を合わせてはいけないと、魔術書には書いてあったのである。

 それから僕は暴食と惰眠を重ね、衰えた体力を急いでもとに戻すと、気を取り直して、ふたたび儀式に取り組んだ。なんとか召喚にはこぎつけたが、トラブルとは続くもので、現われた精霊はまったく予期しないものだった。僕は魔物を一挙に焼き払えるような、燃え滾る熱いやつを求めていたのだけれど、僕の寝台に薄い靄をまとって脚を組んでいたのは、エキゾチックな顔立ちの美人だった。ミュールとサンダルのあわさったような、革の艶っぽい靴をはき、褐色の肌の胸と腰だけをわずかに布で蔽っている。腕や足首、胸もとは金銀の細工と宝石で彩られ、橙色の可憐な花を挿した長い黒髪はあでやかに波うち、――なにより眼つきがおそろしく妖しかった。露骨に言えば、欲情の恍惚がはっきりと表れていた。僕は図書館から借りてきた魔法辞典を引き引き、ついに呪文の一節に誤植を見つけた。そうして書写を手掛けた人物に言いあらわすことのできない憎しみを抱いた。

「どうも間違えたらしい。すまないけど帰ってくれ」と、僕はその精霊に手をふった。

「そーゆうこと、いわないの」精霊はひとさし指を軽やかに振って、キャバクラ嬢みたいなことを云うと、ふわりと宙に舞い、僕の首に腕をからめてきた。そうして甘ったるい匂いのする息を吹きかけて、「これもなにかの縁なんだから、ね。ぼく、魔術師ウィザードなんだから、わかるでしょう? この世に偶然なんかないのよ」

 それから僕はこの精霊にさんざん誘惑された。こんな得体の知れないのと契約なんかしたくなかったけれど、追い返したら、また一週間の断食である。僕は蒲団の綿にさえむしゃぶりつきたいくらい空腹を覚えていて、こんな苦しみはいい加減いやだった。それで、つい妥協してしまったのだが、これが正しかったのか間違っていたのか、僕はいまだにわからない。精霊は、イパルネモアニと名乗った。その名を図書館の蔵書から見出すことはできなかったが、かの女は恐らく、低級の淫魔の類いだろうと思われた。敵の精神を操ることに長けていて、戦いでは、魔物を眠らせたり錯乱させたりと、そこそこ重宝するやつだったけれど、プライベートでは邪魔以外のなにものでもなかった。

「あたしの契約者が童貞とか、ありえないから。あんた、二十六だっけ? 禁欲なんかしてると、そのうちおかしくなっちゃうよ?」と、訳の分からないことを言い出し、しきりに女を抱けと勧める。無視していると、ジュノ様を指さし、「ね、あの子、シュウに恋してるよ。やっちゃえば?」などととんでもないことを耳元で囁く。「畏れ多いことを!」と答えると、「どうして? あの子のこと、嫌い?」「そういう問題じゃないんだよ。あの方は僕の主君だ」「バッカねー。小姓なんて昔っから君主の慰みものになってきたのよ? あんたこそ、ご主人様にそういうサービスをしないでのうのうとしてるなんて、怠けすぎ」「とにかく、その話は二度とするな」「あんたもしかして、セックスを根っから悪いものとか思ってる? そういうのって流行らないし、だいいち不健全よ。てゆーかさ、あの子の気持とか考えてあげたことない?」「はあ?」「あんただって、好きな子を抱きたいでしょ」――僕は思わず、考え込んでしまった。紘子を抱きたいという衝動の胸のうちに起こったことが、かつて一度もなかった。「いや、ない。好きな子は抱きたくなんかない」すると、イパルネモアニは、えーという顔をして、「……あんた、ぜったいおかしい。だったら、誰を抱くのよ? おかねで買った子とか? さらってきた子をむりやり、とか?」「そんなこと誰がするか」「もしかして、性欲ないの?」「いや、ある」「わっかんないわ」と、イパルネモアニは組んだ脚に頬杖をつき、呆れたように僕を見つめる。

 僕はその日もいつものように、ダンジョンでの仕事が済むとジュノ様たちと分かれて、図書館に篭り、書き物の続きをすすめたり、魔法関係の写本を読んだりして過した。けれどもイパルネモアニの言った言葉がときどき読み書きの合間に鋭く割り込んできて、僕を悩ませた。こころの視界に映っていたのは、制服のスカートの丈を極端につめているのに膝を合わせず、そうして僕がどこに目を向けるか知っているとばかりに微笑する紘子のすがただった。男とはそういう生き物なんだと達観したようなかの女に、少なくとも僕はちがうよと伝えたくて、激しく睨みつけてしまったけれど、あれが故意や悪意によるものでなく、関心をもって欲しいとか、無邪気のせいだったとしたら、紘子はそんなに悪いことをしたと言えるのだろうか。僕は、冗談っぽく見えてるよと注意したり、それが無理なら、ただ俯いて赤くなっていれば良かったのではないか。僕は紘子に申し訳なく思った。かの女はきっと、僕のせいで惨めな気分になっただろう。

 ふと魔法書から顔をあげると、図書館の硝子窓がそとの賑わいにすこし振動していた。空か翳りはじめる頃に特有の、淡くて優しい陽ざしが、木々の梢に芽吹きはじめた新緑を照らしている。それが物陰から顔を覗かせる小さな子供のように愛らしく、僕は吸い寄せられるようにして窓辺に立った。――街燈の黄ばんだひかりが並ぶ大通りには仮装した人々がごったがえし、角笛を吹いたり、歓声をあげたり、露店のファストフードを頬張ったりしていた。すでに酔っ払って、肩を組み、上機嫌で歌いながら歩いている冒険者たちの姿もあった。その様子を眺めていると、市街の紫にそまった中空を、突如として光の点がかけのぼり、高々とくだけて多彩な輝きをばら撒いた。花火! 僕はこの世界に花火があったことを、初めて知った。そうして急いで本やノートを片付けると、図書館から街の目抜き通りへ飛び出した。

 人混みのなかに立って、僕は胸を弾ませながら、この街にも季節の祭りがあることを、ようやく思いだした。ものの本によると、鎮神祭といって、歴史のなかで崇拝する民族とともに淘汰されていったいにしえの神々を慰藉する、という趣旨のものだったけれど、いつのまにか祭りの当初の精神はほとんど忘れられて、だた街のひとたちに浮かれ騒ぎをやる口実を提供するだけになってしまったということだったが、それでも街を練り歩くカーニヴァルの山車のうえには、荘厳な姿の男神や、美しい女神たちが、忘れてはならない、主人公は我々であるとばかりに聳え立っていた。

 僕は読み書きと思索によって疲弊した思考力を投げ棄てて、酒場の屋上のビアガーデンに席をとり、テーブルに頬杖をついて目抜き通りの熱狂を見下したり、贅を凝らした花火を眺めたりしながら、手の赴くままに杯を重ねた。ひとりきりで飲みに来ているようなのは僕だけだったけれど、にぎやかにやっている人たちの隅でひとりぼうっとしている自分が、嫌いではなかった。誰もが、僕の存在を忘れたように振舞っている。その隔絶した感じが、妙にしっくりきたのである。この世界がつくりものであるなら、僕は傍観者のように祭りを楽しむのが相応しいと思われた。そうして教室の片隅で飄逸を気取っていた頃の自分を思い出し、なんとなく可笑しかった。

 アルコールの浸透した意識に映り込む、イーヴル市の夜景はうつくしかった。酔えば酔うほど、花火の光彩が際立ち、通りをゆく神々は活き活きしてきて、いまにも神話の劇を始めそうなくらいだった。歓声が夜風をわたってくぐもったざわめきになり、それがとても朗らかで、まるでこの世から一切の悲しいことが隠れてしまったかのようだった。事実、祭りにはそういう情緒がある。――僕はこの世界で一生を過すにせよ、もとの世界に戻るにせよ、きっと酒飲みになるだろう。

 瞼をおろし、風に乗って運ばれてくる、音楽や花火の砕ける音に耳を澄ませているうち、ふと僕の鼻が淡い花の薫りを嗅ぎつけた。途端に、花弁を杯に落として、そこに蒼い月やきらびやかな花火を映してみたいという、なんとも酔っ払いらしい陳腐な情趣を起こして、ぼんやりと目をひらいた。すると、相席のひとがいた。いつからそこにいるのだろう。まるで気がつかなかった。花の香りは、どうもその人から薫ってくるようだった。

 丈のみじかい深紅のワンピースのうえから、花嫁みたいな純白のヴェールをまとっている。花火の淡いひかりのためか、肌はやけに蒼白くみえた。髪飾りやネックレスにはたくさんの宝石がちりばめられていたけれど、それらは翡翠や瑪瑙、オニキスといったものばかりで、高価な種類のものは混じっていなかった。そのかわり、歳を重ねてもけっして損なわれることのないように思われる、たとえば修道女のような、清らかなオーラを帯びていた。うつくしい人だった。睫は長く、眼は大きく、まるで人形のような顔だちで、あどけない感じのする唇のあいだから覗く歯は、並びがとても奇麗だった。ただし、喫煙の習慣がそこに見てとれた。踊り子か、さもなければ娼婦か……。かの女は、茶色の瞳でじっと僕を見ていた。なにを考えているのか、読み取りにくい目だ。僕は酔いのなかに軽い不審を覚えて、

「どうも」とだけ言って、花火に視線を転じた。――そろそろ帰ろうか。

 通りをゆく山車が途切れ途切れになり、人混みもいくらか疎らになっていた。左手から、三姉妹の女神が華やかな踊り手たちに囲まれてゆっくり迫ってくる。あれを見届けたら、席を立とうと決め、杯をぐっと干すと、

「貴方は臆病なかたですね」

 よく聞き取れなかったが、そんな意味のことを、女が口走った。口元は呆れたように微笑していたけれど、双眸には軽んじられた女性の不機嫌がはっきりと現われている。僕は、女の言葉を可愛らしく感じない訳ではなかったけれど、臆病だという指摘はまったくその通りだったので、

「いやあ、まあ」と曖昧なことを言いながら、立ち上がった。そうして、テーブルに手をつき、皿をひっくり返し、尻をついた。立った途端、天地がぐるぐると回転を始めたのである。呆然と夜空をみあげ、二日酔いの予感に億劫な気分になっていると、女の細い腕が僕の腋のしたに差し込まれた。そのとき、間近に見た女の横顔が、健気だった。まるで病気に罹った家族を介抱するかのようで、さっきまでおぼろに表情を蔽っていた毒気みたいなものは、忽然と消え失せていた。

「どうも、すいません」

 僕はよくまわらない呂律をもって礼を言った。それから、女と世間話をしたが、僕は女の目尻のすこし下にあるほくろを無意味に見つめるばかりで、内容はほとんど頭に這入ってこなかった。ただ、女は残酷に鼠を取る白い猫と暮らしていて、自分のことを(どういうわけか)悪い女だと思っていて、僕と孤独である点で共通していると考えているようだった。僕はこの一方的な仲間意識について、どうとも思わなかったけれど、なんとなく女が淋しそうで、可哀想に感じた。僕はぐらぐら揺れる場所で女の話にうんうん相槌をうっていた。それから、女の体温を腕のなかに感じたり、背中に感じたりした。火照った桜色の肌が、焔のように僕の身体のうえで揺らいでいた。そうして女の漂わせる花の匂いに、人間らしい体臭が混じった。女は僕にむかって、「ハーディド……」と呼びかけた。すると僕は、ハーディドという男になったような気がした。女が愛しくて、髪を撫で、求められるままに抱擁した。女は幸せそうに呻いたけれど、涙を流してもいた。

 それから記憶がぶっつりと途切れ、気付いたときには、どこかの宿の部屋のようなところで、全裸のままベッドに横たわっていた。女はどこにもいない。――酒の抜けてきた頭に、状況を飲み込むのはそれほど難しくなかった。

「おい、イパルネモアニ!」僕は精霊に呼びかけながら、下着に脚を通した。「勝手にこういうことするなよな」

 ヤツはすぐに姿を現わした。

「はあ? あたしのせいにするわけ?」と、なんだか知らないけれど怒っている。「あたしなにもしてないし。ていうか、あんた、男としてサイテー!」

 僕はイパルネモアニの快楽主義というだけでは括れない奇妙な哲学を、理解できないでいた。それはもちろん、整合性と論理性に欠けた、哲学と呼ぶに値しないものである可能性もある。なにしろ胡散臭い精霊のマイ・ルールであるから、単純な恋愛至上主義をベースに場当たり的な感情論をブレンドしただけの代物に過ぎないかもしれない。ただイパルネモアニ語録としてまとめておきたくなる程度には、奥行きを感じることがある。しかし、いまはゆっくり思索している場合ではなかった。この無断外泊を取り繕わなければいけない。ジュノ様とベネッタが起きだしてくるまえに宿にもどり、何事もなかったかのように二人と朝食を共にすることが最重要課題だった。急いでチェックアウトし、冬のなごりを引きずる明け方の冷たい風にコートの襟を立て、蒼白い息をはきながら宿にもどってくると、一階の食堂兼ラウンジの窓に小さな明かりが灯っていた。夜明け前からダンジョンに入るよそのパーティーが、早めの朝食でも取っているのだろうかと思ってドアを入ると、ジュノ様が薄暗いラウンジの隅にひとり淋しく座っていた。ランタンを傍によせ、その明かりのなかで本を読んでいる。僕にまったく気付かないのか、気付かないふりをしているのか、定かではないが、こっちを見もしない。僕は帰りが遅くなったことを釈明せずに部屋へ戻る訳にもいかず、仕方なくジュノ様に近づいていった。やがて、かの女の手にしている本の表題が判然としてきた。「収容所の七年」――留学先の都市生活になじめず神経衰弱に陥った青年が、ふとしたはずみで隣人の老婆を殺してしまい、有罪を宣告されて孤島の収容所にほうりこまれるが、そこでほかの囚人や看守、聖職者と触れあって過すうちに心の平和を見出していくという筋の、硬派の文学作品である。無論、僕は読んだことがない。右は新聞の書評欄の丸写しである。ジュノ様はいかにも高尚な一夜を過したという風に、高い鼻梁をけだるげに揉んで、それからやっと僕を一瞥したが、なにも仰らず、また小説を繰りはじめた。

「申し訳ありません、遅くなりました」

 僕はそっと一礼した。そのとき、ひんやりとした空気に首のうしろを撫でられてぞくっとした。振り返ると、窓が半分くらい開いている。ジュノ様自身が眠気を払うためにそうしたのかもしれない。けれど、当たりっぱなしで風邪をひいてもいけないと思って、窓枠に手を伸ばすと、

「そこに立つな」ジュノ様は冷やかに仰った。

「は?」

「なんという匂いだ。こんな下品な匂いのする香水は、いまだかつて嗅いだことがない。いったいどこで売っているのか教えて欲しいくらいだ。よほど下賎の娼婦でなければ、身にふりかけようなどとは思わないだろうな」

 ジュノ様はこれといった表情のないまま、小説に眼を落としている。かえって僕はゾッとなった。

「まったくもって、下品な匂いです。すぐに洗い流してきます。では!」

 踵を返すなり、

「待て」というジュノ様の声が背中に当った。生きた心地がしなかった。

「シュウ、言っておく。私はけっして無責任な『飼い主』ではないぞ」

「……と、仰いますと」

「飼い犬が他所様のメス犬に迷惑をかけないよう、最低限、気を配るつもりでいる、ということだ」

「お……仰っていることの意味がよく……」

 ジュノ様は意味ありげに微笑んで、僕をまっすぐに見、

「わからないか。次、このようなことがあったら、おまえを『去勢』してやると言ってるんだ」それから雷のような大声で、「わかったか」

「ぎょ、御意」

 僕はダッシュで逃げた。ジュノ様の眼は本気マジだった。

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