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ラプンツェルにさよなら  作者: みどり風香
4/8

焦がれ始めた

ある日突然現れた外の人間は、もうここにはいない。あの時に、少し会話しただけで彼との関係はそれで終わった。もう、彼と会うこともないだろう。この屋敷にはエルクの結界が厳重に組み込まれていて、本来なら誰も出入りできないのだ。それができてしまったのは、おそらくエルクが留守にしてしまっていたために、結界が少し弱くなってしまったのだろう。あの旅人は、偶然にもその隙間を通り抜けてしまったのだ。もうエルクは帰ってきているし、結界が緩むことなく作動する。あの旅人は、もう出入りもできないだろう。

 エミリオには、なんだかそれが少しさびしかった。もともと、生まれた時からずっとこのお屋敷にエルクと二人きりで暮らしていたから、それが当たり前のように感じていたが、旅人に会ってからは変わった。外に興味を持ち始めた。

 本とエルクの話だけに満足できず、自分の目で外の世界を見たいと思うようになってしまった。好奇心は収まることを知らず、それどころかどんどん拡大していく。この好奇心を、見て見ぬふりはできなかった。同時に、探究心や好奇心を抱くことが罪悪であることも、エミリオは知っていた。エルクは、エミリオが知恵を持つのを好まない。知識を得ることはできても、そこから先へと自分で考える力を、エルクは毛嫌いする。

(わかってるんだけどね)

 エミリオはベッドにぼすんと倒れ伏した。今朝に干した毛布は心地よい。そのまま、顔をうずめた。

(外に出たいって言ったら、怒るかなあ)

 知恵をつけた外の世界は、悪であるとエルクは言った。それを正直にエミリオは信じていた……外の世界の者と接触するまでは。

 また、門を眺める。エルクのいるこの屋敷に、出入りできるのは誰もいない。エミリオは出たこともない。

(外に出たら、あの人みたいな人がいっぱいいるのかな)

 風と共に現れ、すぐに去ったあの男。最初は条件反射で抵抗していたが、だんだん警戒が解け、あの男は悪い人間ではないと感じた。

(外の人って、それほど悪くもないんじゃないかな)

 考えることはするが、それをエルクにはいうまい。話したら、きついお仕置きを食らうのだ。今までは素直にエルクのいうことを聞いていたが、知恵を持ったエミリオは、もう手におえない。エルクの手中に収まることはない。

 エミリオは、自分がエルクに飼われているという自覚がなかった。ただ、外に対する好奇心が強く育ったのだ。

 その心が行き着く答えは一つ。

(また、会いたいなあ)

 待ち焦がれる心を覚えた。

 エミリオは、また門を眺める。エルクが新しく持ってきてくれた本も、なんだかつまらない。

 外は、きっとすごいとこなんだろうなあ、と漠然とした羨望を浮かべつつ、エミリオは窓を閉めた。もうすぐ夕食の時間だ。この空想は、エルクに知られてはいけないのだ。エルクと面向かう前に、次々と生まれてくる好奇心を自分で消化しておかなければならなくなった。苦しいことではあったが、それはそれで空想するのは楽しかった。

 エルクが食堂までエミリオを連れて行く。二人分には少し大きいテーブルで、食事をする。さりげなう、聞いてみた。

「エルク、外は、怖くなかった?」

「大丈夫ですよ。僕は自分の身を守れますから」

「そう? エルクって、僕より身長低いし力もなさそうだから、ちょっと心配」

「なんですか、それ。これでも鍛えてるんですよ?」

 エルクは苦笑する。

「それにしても、ずいぶん外のことを気にするんですね?」

 核心を突かれ、エミリオは一瞬息が止まった。

「え、ああ、うん……ほら、外は怖いって聞いてるから、エルクは大丈夫かなって、心配して」

「心配には及びません。僕はこれでも強いですから」

 ごまかせ切れただろうか。エミリオは嘘が下手だから、余計なことを口走ってボロを出す恐れがあった。

「うん。なら、いいんだ。もしエルクに何かあったら、僕は一人になるでしょ?」

「かわいらしい心配ですね。僕は、ずっとエミリオのそばにいますよ」

 一人になることの恐怖は、嘘ではない。一人になったら、エミリオは何もできないのだ。今までエルクに任せきりだったから、本来なら自分でやれることもできない。もっとも、そんな風に育て仕込んできたのはエルクだが。

 エミリオは、外の世界に、確実に焦がれ始めた。

ラプンツェル第四弾。お待たせいたしました。

連載が滞りかけていたのを阻止できてよかった(笑)

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