ここは乙女ゲームの世界らしいです
ああ神様、本当にいるなら、なぜ私にこのような試練を授けるのでしょうか?
「お前は俺達でハーレムを作る気なのだろう?そうはいかないからな。俺達はセリーヌの味方だ!」
いきなり知らない男数人に剣をつきつけられて、こんなことを言われるなんてー…。
気付いたら知らない世界にいた。
そう言っても誰も信じてくれないと思う。
でも、本当にそうなんだ。
いつも通り大学から帰っていたら、急に目の前がまぶしく光った。目を開くと、いつの間にか全然違う場所にいて…。そこで冒頭のこれだった。
そこは、ヨーロッパ風の宮殿に見えた。私はその祭壇の上に座っていた。
祭壇のまわりを立派な服装の男の人達が囲んでいた。
「これが女神の娘か?」
男たちは帯剣しており、男の一人が剣を抜いて、私につきつけてきたのだ。
「え?え?」
どうしよう。まるで慣れていない状況なので頭が働かない。
「まあ兄上、あんまり驚かせるとかわいそうだよ…俺も同じだけどね。女神の娘ちゃん、俺達は君の事好きにならないよ。みんなセリーヌが好きなんだ。分かるかい?」
「はあ…」
セリーヌって誰。というか私はなぜここに。剣は突きつけられているが、殺される様子はなさそうなので私は落ち着いていた。
「怯えてる…。なに、そうすれば僕たちの歓心を買えると思ってる?浅はか…」
また一人口を開く。
「誰か女神の娘を部屋に案内しろ」
剣をつきつけてきた、一番偉そうな男の人が控えていたお付きっぽい男の人達に声をかけている。
「早くそこから降りろ。自分でな」
偉そうな男の人は剣を引くと、私に顎でそう示した。
正直気に入らなかったが、剣を持っている相手に逆らうのもまずいと思って従う。
これが私が、この異世界に来た時の話。
自分がなぜここにいるのか、それともこれがただの夢なのか分からない。だけど情報が欲しくて、私に付けられた数少ない侍女たちから情報を集めた。
まず、この世界に私が出現したときにいた男の人達はこの国の王子。五人いて、本来はそれぞれ王位継承権を争っているはずなんだけど、セリーヌという公爵令嬢のおかげで仲がいいらしい。
私は彼らによってこの世界に召喚されたらしい。それがしきたりだから。
迷惑な話だけど、そういうこと。私は求めていないのに、よく分からない世界に拐われた形らしい。でもそんなことを言ったら自分の立場が悪くなるのは分かったから言わなかった。
そして、私は彼らのうちの誰かと結婚しなければならないらしい。私の選んだ男の人が王様になるしきたりなんだって。
それで、セリーヌって女性を兄弟全員で愛したいんだって。
すごい話だな、と思った。
だけど、身勝手だし、なんでそんなことに私が巻き込まれないといけないのかと思った。だったら私を呼ばずに彼らだけで仲良く結婚なりすればいいのに、どうして私を喚ぶ必要があったのか。
だけど私のお付きの侍女たちはこれは名誉なことなのです、しか言わないし、そんなこと言ったら告げ口されるのは分かっている。この世界で、私は誰も信用できない。剣を突きつけられてから、そう確信した。
私は離宮に閉じ込められ、自由な行動は許されなかった。唯一の楽しみは読書だ。
過去この世界に喚ばれた女性達がいたらしくて、彼女たちの手記が残っている。外国語のものも多かったが、なぜか読めた。
だけど、歴代の王子たちと心通わせる様子を知ると、なぜ私だけという気持ちが芽生えた。
ただ、この世界には魔法があって、その魔法の使い方について書いている人がいた。それを読んで練習しようとしたが、離宮で魔法を使うのは許されなかった。
唯一許されているのは結界を張る魔法だ。この国はぐるりと大きな結界に守られていて、その術の要がこの離宮なのだと言う。結界の魔法ならいくらでも使っていいとのことだったので。練習した。だけど、なんだか範囲が上手く掴めなくて、結界を上手く張れなかった。私には才能がないということだけが分かった。
しばらく離宮で過ごしていたら、会ったことのないセリーヌについての話をされる。
曰く、セリーヌは私より美しく、賢く、気品があり、完璧な女性で、誰にでも愛されるらしい。
ふーん、と言っていたら話してきた侍女がつまらなそうな顔をしてくる。どうやら、嫉妬して欲しかったらしかった。
だけど、私は王子達にもこの世界の人達も好きじゃない。だから嫉妬もしない。
夜、眠っていたら、なにかが自分に迫る感じがして目が覚めた。何かが私に近づいて来ている。
私は寝台の上でくるまると、こっちに来るな!と念じる。なぜ来ると思ったのか分からない。
朝になるまでずっと起きていた。朝日が射すとなにかが来る感じはなくなっていて、私は安心した。
侍女が文句を言ってきた。
なんでも離宮に王子の一人がいたらしい。そして、私の部屋に来ようとしていたと。なのに結界が誤作動を起こして部屋に来れなかったのだと言う。これは私のせいだと、私が王子を受け入れないからだとひどく責められた。
それで私はすっかり気をふさいでしまった。
そんな時だった。
セリーヌが私に会いたいと言ってきたらしい。
私に逆らう権利はなかった。
無理やり整えられた場所で、私はセリーヌとお茶会をした。セリーヌは確かに美しくて、多分マナーも完璧だった。私は別にもといた国で特別マナーがいいほうではなかったけど、大学生活でそれなりの経験をしていてマナーは一通りできたと思うけど、セリーヌには不十分みたいで、何度も鼻で笑われた。
恥ずかしかった。
セリーヌの話は、私をかわいそうに思ってという事だった。
愛されていないのに、結婚しなければならないのがかわいそう。愛されているのは自分だけなのに、ということを繰返し言われた。婉曲的な表現で。
そして、王子のうち誰かを選ぶように言われた。誰を選んでも自分は気にしないからと。
何がしたかったんだろう。この人は。私と会って何がしたかったのか分からなかった。
ともかく、私は王子のうちの誰かと結婚しなければいけないらしい、ということだけ分かった。そして、子供も作らなければいけないということも。
そんなのまっぴらごめんだ。と思った。だけど。
侍女の一人が私に媚薬を盛った。そのせいで体が熱くなって辛くて、そしてまたなにかが私の所に近づいて来ている感じがあった。私はそれがいやでいやでしょうがなくて、媚薬に耐えているうちに、意識が暗転した。
目覚めたら、また知らない部屋にいた。真っ白な部屋。どこだろう。私は寝台から身を起こすと、周りを見渡す。
「目が覚めたか」
「…あなたは?」
部屋の隅に男が立っていた。仕立てのいい服を来ていた。あの王子達みたいに。
と、同時に媚薬を盛られていたことを思い出した。ふとんで体を隠す。
「そう警戒するな。あなたの体を侵していた薬は解毒してある。」
そう言われても、もうこの世界に来てからずっと変なことばかりに巻き込まれている。警戒するなと言うのは無理だ。
「あなたは誰なんですか?ここはどこ?」
「ここはあなたのいた国の隣の国だ。俺があなたのいたペールネ国を滅ぼして、あなたを我がサクレルス国預かりにした。」
「滅ぼした?なんで…」
「我が国とペールネ国は長年敵対関係だった。理由はずっと昔のいざこざが原因だ。詳細ははぶくが。ともかくそのいざこざが何年も続いていた。だがペールネ国には中々攻められなかった。ペールネ国には大結界があり、害意があれば国内に入れない。だが、その結界が急に消えたのでな。攻め入って滅ぼした。ペールネは既に我が国の領地だ。」
「…なんでそんなに説明してくれるんですか?」
「あなたはペールネの女神の娘だろう。あなたは我が国の皇帝の妻の一人となるのがきまっている。よく分からないまま嫁入りするのはかわいそうだからな。せめて説明している。」
「は…!?」
そんなの聞いていない。いや、でもこの世界では私はその権利すらないのか。
私は絶望するしかなかった。
◇◇◇◇◇◇
「ここの峠を越えれば生き延びられるはずだ」
「セリーヌ、大丈夫だからな…」
目の前で男たちー、攻略対象の一人がセリーヌに、話しかける。
私はセリーヌに仕える侍女で、逃げている間もセリーヌの世話をしていた。
私は追手から逃れて国境付近にいた。
そして、自分の前世を思い出していた。
この世界は、私が製作に携わった乙女ゲームの世界だった。そう、だったのだ。だが、セリーヌがゲームと違う行動を始めてストーリーが狂った。
セリーヌはこのゲームのストーリーを知っていたのか、攻略対象たちにヒロインが言うはずの台詞行動をして次々と射止めていった。
元々のストーリーは異世界から来た主人公が王権を王子達の誰かに与えるストーリーだった。
だが、王子達はセリーヌを愛してしまい、女神の娘召喚の儀式は行われないはずだった。
だが、王子達の持つ異能は代々弱くなっていて、そのたびに女神の娘を呼び出し、結界と、結界を維持する王族の血を強める必要があることを知った王子達は、セリーヌを愛したまま、女神の娘とも婚姻を結ぶことを決めた。
別に貴族ならよくある話だ。愛のない結婚なんて。でも召喚されたヒロインは貴族ではない、ただの女の子だった。私が設定した通りに。
私は悔いた。だけど、大した地位にないただの侍女には何もできなかった。そうこうするうちに、セリーヌが王子達を焚き付けて媚薬を盛らせた。
だが、それによりヒロインは力を暴走させ、結界が弱まった。そこで国内に一気に攻め入られて、これだ。結界に頼りきりだった我が国の軍事は脆弱だった。そして私は今、セリーヌたちと亡命するため追手から逃げていた。
だが、それもここまでだった。
だって、目の前にあいつらがいる。
「王子の一人がいたぞ!」
サクレルスの兵に見つかった。
「殺していいそうだ、この国の王権の正当性は、女神の娘がいれば事足りる!」
兵たちが王子を切付けた。
「ぐあっ」
王子が倒れる。
剣が私たちにも突きつけられた。
「女か。だが、殺していいってことだからな、殺そう」
「お待ちください!」
セリーヌが声を上げる。そして、フードを取り払うと、その美貌に兵士たちが色めき立つ。
「私は彼らに従っていただけ。王子なんてどうでもいいの。だから、ねえ、あなたたちの中で一番偉いのはどなた?その人と話をさせて…」
「せ、セリーヌ…」
セリーヌの言葉を聞いて倒れ付した王子がショックを受けている。だが、セリーヌは元々こういう女だったのだ。ヒロイン台詞行動を真似していたけど、それ以外の場ではこんな感じだった。
そのうち、兵士たちの中で一番偉いだろう男が出てきた。
「ほう、美しい」
「私はただ従わされてただけなんです!だから助けて…」
「だが、醜いな」
「え?」
セリーヌを男が切付けた。
「いやあああああ」
「おお、汚い声。だがもっとも汚いのはその心根だな。自分を守っていた男をふみつけにして、自分だけ生き延びようとするその魂胆。醜い。醜すぎる。」
「あ…あ…」
「全員殺しなさい。首だけは持ち帰ってね」
そして、私たちは殺された。
◇◇◇◇◇◇
前世、動画サイトを見るのが好きだった。そのうち、違法アップロードされた、乙女ゲームのシナリオを暇潰しに見るようになった。まさか自分がその世界に来るとは思わなかったけど。
初めて転生したときは興奮したなあ。前世とはスペックが大違いだし。親ガチャも大当たり。だけど、問題は私が転生した世界で主人公じゃなかったこと。
主人公ってずるいよね。何しても上手くいくんだから。それで、きっと私よりも格上の男と人生を手に入れる。許せない。だから私がその立場をもらったの。いいでしょ?それくらい。
前世読んでた悪役令嬢ものの悪役令嬢みたいに、私はヒロインに完勝できて、すっごくいい気分!
◇◇◇◇◇◇
私は、部屋にいた男の人に城に連れられてきていた。皇帝に謁見するためだ。
男の人はこの国の将軍だった。
この人が私のもといた国を滅ぼしたらしいが、あの国に愛着なんてなかったのでなんとも思わなかった。
大広間に連れられ、付け焼き刃のマナーで皇帝の前に連れられる。
「面を上げよ」
その声は思いの外幼かった。
顔を上げると、玉座にはまだ幼い男の子がいた。
それでその子が皇帝だって分かった。
「女神の娘、そなたの名は?」
それで私、自分がこの世界で名前を名乗ってないことに気付いた。そう、誰も聞いてくれなかったから。人間扱いされてなかったんだなって理解した。そうすると、この小さな皇帝の妻になるのはあの国にそのままいるよりましに思えた。少なくとも、ここでは名前を聞いてもらえるから。
「私の名前はー…」
私は、自分の名前を名乗った。




