番外編2:愚かな王子の独白
冷たく、固い石の床。ここは、私の新しい城だ。光も届かず、希望もない、牢獄という名の城。
私は、アルベルト・フォン・クライス。かつて、この国の第一王子だった男だ。
全てを失った今、私の頭に繰り返し浮かぶのは、一人の女の姿だ。エリアーナ・フォン・ラピス。私が自らの手で捨てた、元婚約者。
なぜ、私は本質を見抜けなかったのだろうか。
私は、派手なものが好きだった。分かりやすい力が。リリアの「光の奇跡」は、まさに私の理想だった。人々を熱狂させ、私を「聖女を従える偉大な王」にしてくれると信じて疑わなかった。
それに比べ、エリアーナの【土壌改良】は、なんと地味で、みすぼらしいスキルだったことか。「土いじり」など、貴族のやることではないと、心底軽蔑していた。彼女が屋敷の隅で土に触れている姿を見るたび、苛立ちを覚えたものだ。
だが、現実はどうだ。
国が飢え、民が苦しんだ時、リリアの光は何の役にも立たなかった。それどころか、国を蝕む呪いそのものだった。
本当に民を救ったのは、私が捨てたエリアーナの、地味な土いじりの力だった。
彼女が築いたという辺境の楽園。報告で聞いたその光景は、私が夢見た理想の王国そのものだった。それを、彼女はたった一人で、あの不毛の地から作り上げてみせたのだ。
もし、あの時。
もし、私が彼女の価値を正しく理解していたら。彼女を支え、共に国を治めていたなら。
今頃、私は英雄として、民に慕われる偉大な王になっていたのかもしれない。隣には、本物の聖女であるエリアーナが微笑みかけてくれていたのかもしれない。
……なんと、愚かな。「もし」など、もはや存在しないというのに。
私は、自らの浅はかさで、嫉妬で、見栄で、全てを台無しにした。最高の宝石を、ただの石ころだと思い込んでドブに捨てたのだ。
牢獄の窓から見える空は、今日も曇っている。いや、私の心が曇っているから、そう見えるだけなのかもしれない。
エリアーナ。
君は今、どこで、どんな空を見ているのだろうか。
謝って、済むことではない。だが、言わせてくれ。
すまなかった。
この遅すぎた後悔と懺悔は、誰にも届くことなく、冷たい牢獄の闇に溶けて消えた。




