第十二章:辺境に咲く新しい花
戦いの後、クライス王国はアイゼンリッター王国の管理下に置かれることになった。
偽りの聖女リリアは、国を蝕んだ大罪人として、アルベルト王子は彼女に加担し国を混乱させた愚かな為政者として、厳正な法の下で裁かれた。ラピス公爵家も、エリアーナを虐げ、王子の暴挙を止めなかった責任を問われ、爵位を剥奪されたと聞く。自らが蒔いた種の結果とはいえ、私を捨てた家族の末路に、少しだけ複雑な気持ちが残った。
私の領地は、アイゼンリッター王国の庇護の下、豊かな独立自治領として正式に認められることになった。もはや、誰にも脅かされることのない、私たちの楽園だ。
全てが落ち着いた、ある晴れた日の午後。
私は、領地で一番見晴らしの良い丘の上にいた。クラウス様と一緒に。
眼下には、黄金色の麦畑が風に揺れ、村からは人々の楽しげな笑い声が聞こえてくる。平和そのものの光景だ。
「エリアーナ」
隣に立つクラウス様が、私の名前を呼んだ。その声は、いつもより少しだけ緊張しているように聞こえた。
振り向くと、彼は真剣な眼差しで私を見つめていた。そして、ゆっくりと私の前にひざまずいたのだ。
「えっ、クラウス様!?」
「鉄血騎士」とまで呼ばれた誇り高い彼が、こんなことをするなんて。驚く私に、彼は小さな箱をそっと差し出した。
「エリアーナ。君と出会って、俺の世界は変わった。君の強さも、優しさも、そして君が作る温かいスープも、全てが愛おしい」
彼の言葉に、私の胸がドキドキと高鳴る。
「俺は、君のいない人生など、もう考えられない。だから……」
彼は箱の蓋を開けた。中には、若草色の宝石がはめ込まれた、シンプルな指輪が輝いていた。まるで、芽吹いたばかりの若葉のような、生命力に満ちた美しい指輪だった。
「私の人生を、君と共に耕させてほしい。結婚してくれないか」
真摯な、心からのプロポーズ。
私の目から、涙がぽろぽろと零れ落ちた。それは、悲しい涙じゃない。嬉しくて、幸せで、温かい涙だった。
追放されて、全てを失ったと思ったあの日。
でも、私は失ったものよりも、ずっと大きくて、かけがえのないものを手に入れた。
自分の力で切り拓いた居場所。心から信頼できる仲間たち。そして、私をありのままに愛してくれる、大切な人。
「……はいっ、喜んで!」
私は、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、最高の笑顔で頷いた。
クラウス様は、安堵したように微笑むと、優しく指輪を私の左手の薬指にはめてくれた。そして、立ち上がると、そっと私を抱きしめる。
彼の胸の中は、とても温かくて、安心できる場所だった。
かつてハズレスキルと蔑まれた【土壌改良】は、私の人生という不毛の地に、こんなにも美しくて、大きな愛という花を咲かせてくれた。
辺境の地に咲いた新しい花は、これから先、たくさんの幸せの実をつけていくのだろう。
私と、この愛する人と、一緒に。




