第十一章:最後の戦い
アイゼンリッター王国が公式に私の保護を表明したという知らせは、クライス王国に大きな衝撃を与えた。アルベルト王子は国際問題に発展しかねない状況に狼狽え、貴族たちは彼を見限り始めた。
追い詰められたアルベルトとリリアは、常軌を逸した最後の賭けに出た。
「もはや、辺境領を奪うしかない! あの豊かな土地さえ手に入れれば、我が国は立て直せる!」
彼らは、国に残った全兵力をかき集め、再び辺境領への侵攻を開始した。その数、およそ五千。それは、もはや侵攻ではなく、国の全てを賭けた略奪だった。
「リリア! お前の力で、あの土地の生命力を全て奪い尽くせ! エリアーナから力を奪い、枯れ果てた土地にしてしまえ!」
「ええ、アルベルト様! 見ていなさい、あの女の全てを、わたくしが吸い尽くしてさしあげますわ!」
嫉妬と憎悪に顔を歪めたリリアは、自らの命を削るのも厭わず、寄生魔法の力を最大まで引き出した。辺境領の上空に、不気味な黒い渦が生まれ、大地から生命力を無理やり吸い上げようとする。
畑の作物が萎れ始め、木々の葉が色を失っていく。村人たちの顔にも、苦悶の色が浮かんだ。
「くっ……!」
私も胸を押さえる。大地と繋がる私にも、その苦しみが伝わってくる。
「エリアーナ!」
クラウス様が心配そうに駆け寄る。
「大丈夫です……。負けません!」
私は、再びフェンと共に、大地に祈りを捧げた。
だが、今度は守るだけではない。
(この土地は、私たちの家。誰も、傷つけさせない!)
私の強い意志に応え、完全に覚醒した聖獣フェンが、天を衝くほどの巨大な狼の姿へと変貌を遂げた。銀色の毛並みは神々しい光を放ち、その瞳には聖なる怒りが宿っている。
「グルルルルル……!」
フェンの威圧的な唸り声と共に、私の力が大地全体に満ち渡る。萎れていた作物は再び輝きを取り戻し、大地はより一層強い生命力で満たされていった。
「なっ……なぜ、力が吸い取れないの!? むしろ、押し返される……!?」
リリアが驚愕の声を上げる。
大地と一体化した私の力は、寄生魔法ごときが太刀打ちできるレベルを遥かに超えていた。生命力を奪うどころか、逆に大地から溢れる強大なエネルギーが、リリアの魔法回路を逆流し、彼女自身を蝕んでいく。
「ああ……ああああああっ!」
リリアの体から黒いオーラが噴き出し、その愛らしい顔はみるみるうちに皺だらけの老婆のように醜く変貌していく。彼女がこれまで奪ってきた生命力の代償が、一気にその身に返ってきたのだ。
「ひっ……化け物……」
その醜い姿を見た兵士たちが、恐怖に慄く。
そして、ついにリリアの魔法は限界を超え、ガラスのように砕け散った。彼女を包んでいた偽りの光は消え失せ、生命力を奪う寄生魔法の使い手という醜い本性が、全軍の前に晒された。
「聖女様が……魔女だったなんて……」
兵士たちは戦意を完全に喪失した。
「そ、そんな……リリア……?」
アルベルト王子は、信じられないものを見るように、崩れ落ちたリリアの姿に呆然としている。
頼みの綱だった奇跡が、ただのまやかしだったと知った今、彼に残されたものは何もなかった。
勝敗は、決した。
アルベルトは力なく膝から崩れ落ち、降伏を宣言した。
五千の軍勢は、武器を捨て、静かに投降した。
戦いは、終わった。
空を覆っていた黒い雲は消え去り、再び穏やかな太陽の光が、私たちの豊かな大地を照らし出していた。
私は、元の可愛らしい姿に戻ったフェンを抱きしめ、支えてくれたクラウス様を見上げる。
彼の青い瞳には、安堵と、そして私への深い愛情が浮かんでいた。
私たちの長かった戦いは、こうして、ようやく幕を閉じたのだった。




