第十章:暴かれる偽りの聖女
辺境での攻防戦から数日後。クラウス様のもとに、彼の国の諜報部から緊急の報告がもたらされた。それは、今回の戦いで見せた私の力と、これまでの調査結果を繋ぎ合わせる、決定的な情報だった。
「やはり、そうだったか……」
報告書に目を通したクラウス様は、固い表情で呟いた。
「クラウス様、何か分かったのですか?」
私の問いに、彼は静かに頷き、衝撃の事実を語り始めた。
「エリアーナ様。クライス王国を蝕む『土地枯渇病』の元凶が、ほぼ特定できました。全ての元凶は……聖女リリア、その人です」
「えっ……!?」
私は言葉を失った。リリアが、元凶?
クラウス様の説明はこうだ。
リリアの使う「光の治癒魔法」は、神聖な力などではなかった。その正体は、周囲の土地や、時には人間からさえも生命力を根こそぎ吸い上げ、自らの魔力に変換して行使する、極めて悪質な寄生型の魔法だったのだ。
彼女が「奇跡」を起こせば起こすほど、その土地は生命力を奪われて痩せ細っていく。王都周辺の土地枯渇病が特に深刻なのは、彼女がそこで最も頻繁に魔法を使っていたからだった。
「先日、君が大地を操る力を見せた時、リリアは酷く消耗した様子で退却したそうだ。おそらく、君が大地そのものの力を活性化させたことで、彼女は逆に生命力を吸い上げることができず、むしろ弾き返されたのだろう」
つまり、私が大地を元気にすればするほど、リリアの力は弱まる。私が辺境領を楽園に変えたことが、間接的に王都の土地枯渇を加速させ、リリアの力を削いでいたというわけだ。
なんという皮肉だろう。
私がハズレスキルと蔑まれた【土壌改良】こそが、大地を癒す本物の「聖なる力」で、聖女と崇められたリリアの力が、大地を蝕む「呪い」だったのだ。
全てのピースが、カチリと音を立ててはまった。
「なんと、おぞましい……」
「彼女は、愛らしい仮面を被った、国を喰らう魔物だ。そして、アルベルト王子は、その魔物に踊らされている愚かな操り人形に過ぎない」
クラウス様の目は、冷たい怒りに燃えていた。
「エリアーナ様。この事実は、我が国の王に正式に報告します。そして、あなたの保護と、この領地の独立を支援するよう、全面的な協力を取り付けます。もはや、これはクライス王国内だけの問題ではない。世界全体の危機です」
「クラウス様……」
「君は、一人ではない。君の力は、世界に必要な力だ。俺が、我が国が、君を全力で守る」
彼の力強い言葉に、胸が熱くなる。
今までずっと孤独だった。でも、今は違う。私を理解し、信じ、共に戦ってくれる人がいる。
「ありがとうございます、クラウス様」
私は、心からの感謝を伝えた。
クラウス様はすぐに、最速の伝令を本国へ向けて派遣した。
偽りの聖女の仮面が、今、剥がされようとしている。
だが、追い詰められた獣が最も危険だということを、私たちはまだ知らなかった。
クライス王国の愚かな王子と偽りの聖女が、自らの破滅を賭けた最後の暴挙に出るまで、残された時間は、あとわずかだった。




