表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想造のファルマコン  作者: 源泉
第1章 姫も王子も、お菓子の家もないこの国で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/27

1-2 ふたりの誕生、ひとつの罪

ミオリは、視界が戻るまでにどれほど時間がかかったのか分からなかった。

白く濁った光がゆっくりと収束し……

そこに“それ”がいた。


まだ形になりきらない黒い影。

人の輪郭を持ちながら、まるで生まれたての獣のように息づいている。

ミオリは息を呑んだ。



(……生きている?)



そんなはずはない。

【想造】で作れるのは“物”だけ。

どれだけ魔力を注がれても、知識を送り込まれても──


生き物だけは、どうしても作れなかった。


何度実験しても、

血は巡らず、循環は続かず、

すべてが「形」になる前に崩れ落ちた。


だから、これは本来あり得ない。

影が、ゆっくりとこちらを向いた。


それは、青年の姿をしていた。

黒髪は青黒く、自然に波打ち、光を柔らかく吸い込む。


黒い瞳は深く、憂いを帯びながらもまっすぐで、

優しさと影を同時に宿した、美しい青年。



ほんの一瞬、ミオリはその姿に目を奪われた。

だが、すぐに現実が押し寄せる。

生きた“人間”を作ったという事実が、

ミオリの内側に冷たい重みとなって落ちた。



(……本当に私が?だけど……)



身体がひどく重い。

骨の芯まで空洞になったような感覚。

魔力枯渇の症状は知っている──これは最悪に近い。



【想造】できるのは、ミオリの知っているものだけ。

知識が足りない分は魔力で補う。



複雑なものを作るほど、消耗は激しくなる。

つまり──自分は“何か”今までとは桁違いのものを創った。



青年の黒い瞳が、戸惑うミオリをとらえる。

深くて、底が見えない。

感情が宿る前の、真っさらな闇。

そこに映っているのはミオリだけだった。



「…………」



青年は一歩、近づいた。

ミオリは反射的に身を引こうとしたが、

身体はもう動かない。


影の腕がゆっくりと伸び──

触れる直前で、ぴたりと止まる。

迷いのような揺れが、青年の全身を波紋のように走った。



ミオリは気づく。

彼には決定的に“人間ではない”部分があった。



――体にまだらに浮かぶ、赤や青の鮮やかな毒々しい模様。



青年は、自分の腕に浮かぶそれを見下ろし、

わずかに首を傾げる。



「……あ……」



ミオリの唇がかすかに動いた瞬間、

青年の瞳が吸い寄せられるようにそこへ向いた。


その黒に、一瞬だけ色が差す。

その模様は、ミオリの記憶に焼きついた光景そのものだった。



(……ああ、まるで)



前の世界で小さな頃に使っていた、自由帳の表紙に刷られた鮮やかな毒ガエル。


触れてはいけないと本能に告げる“警告の色”。



淡い思い出が胸をよぎった瞬間──



「……きれい……ヤドク──」



それは言葉というより、

意識の底からこぼれた前世の知識。



そして次の瞬間、

──警報が鳴り響いた。


ミオリの言葉を摘み取るように、

金属が悲鳴を上げる大音量。



研究塔の全階層がざわめきに飲まれる。

ミオリの部屋への侵入者を感知した結界が反応したのだ。

扉の向こう、複数の足音が乱雑に駆け寄ってくる。


ミオリは掠れゆく意識の中で思った。



(きっと、この子は)



捕らえられる。

観察される。

壊される。



“用途不明の想造物”は、必ずそうなった。

ミオリは全身の残りの力を震わせ、

息のような声を絞った。



「……に、げ……て」



届くか分からないほどの弱い声。

それでも青年は、はっきりと反応した。


黒い瞳が揺れ、

斑紋が一瞬だけ強く光を放つ。



【想造】の反動でミオリの身体は限界を迎え、床へ崩れ落ちた。


視界が黒に沈む、その刹那。

耳元で、静かで確かな声がした。



「ミオリ……」



聞いたことのない青年の声なのに、

その響きはまっすぐに彼女だけを縫うようで──

胸が深く締めつけられた。



「ミオリ、が……呼んだ……

……だから、一緒に、外へ」



どうして自分の名前を知っているのか。

“呼んだ”とは何のことか。

確かめたかったが、もう力は残っていなかった。



意識が闇へ沈む。

最後に見たのは──



警報の赤い光の中、

まっすぐに自分を見つめる黒い瞳だけだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ