プロローグ
いつの頃からか──この国の人々は、ある話を信じていました。
王城の高い塔には“宝物”が眠っている、と。
遠い世界から落ちてきて、
国に幸せをもたらす、不思議で貴い宝物。
そう信じていると、皆なんとも都合がよいのでしょう。
まあ、信じたいものを信じるのは、人の癖ですから。
では、その宝物の正体を少しだけ覗いてみましょうか。
塔の中にいるのは、ひとりの少女。
姫ではなく、祝福もなく、
もう泣くことすら忘れ、
何もかも諦めたように、静かに時間が過ぎるのを見つめるだけ。
彼女は宝物などではありません。
鎖に繋がれ、魔力を無理やり注がれ、
稀有な力を利用される。
壊さないように──その程度には丁寧に、大切に扱われている。
まるで、よくできた“道具”です。
けれど人々は今日も噂します。
「幸せを運ぶ宝物のおかげで国は豊かになった」と。
……面白いでしょう?
外側から見える物語と、内側の現実が、まるで逆さまなのです。
さて、ここからが始まりです。
十八歳の誕生日。
少女は“自分のために”願いました。
ほんの、小さな願いを。
誰が救い、誰が破滅をもたらすのか。
王子様にはなれない、毒を抱えたカエル。
お菓子の家ではなく、冷たい檻に少女を閉じ込める魔法使い。
そして──少女を喰うことすらできず、惑わされる迷える狼。
これは愛なのか、執着なのか。
そして、彼女は誰を選ぶのか。
不確かな結末ほど、人は惹かれるものです。
さあ、始めましょう。
塔に閉じ込められ、道具として扱われた少女が──
自分の行き先を選ぶまでの静かな物語を。




