第8話 もしも
大きな都市から少し離れた市街地。そこは数年前に使われなくなった廃ビルがそびえ立っていた
廃ビルの内部、古びたコンクリートに複数人の足音が響く。足音を響かせている正体は黒いコートを纏っている集団であった。先頭にいる人物は手に棒状のものを握っている
彼らの目線の先には特に何の特徴もない若者らしい服を着た男女3人組がいた。黒いコートの集団の先頭の人物は手を横に突き出し後方に停止の合図を出した
数秒の静寂のあと、黒いコートの集団の先頭の人物は棒状のものをさらに強く握りしめ、3人組を睨んでいった
「我ら"イフ"の名のものに。貴様らを排除する」
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『廃ビルを占拠している能力者集団の確保』
僕ら4人は僕、空間形真のスマホの画面に映る文章を見ていた。4人の内の1人である不破形司、及び形兄が口を開く
「初任務だな」
それに反応してその隣りに居る鍵山正吾さんも話し始める
「あ?じゃあ昨日のは・・・あぁ、それは形の付き添いか。とりあえずおめでとさん、全く祝れないけどな」
うーんと、少し唸ってから盾石優は形兄等に質問を投げかけた
「こういう、なんだろ占拠とか監禁とかっていうのはよくあるもんなの?警察とかで対処できそうな気もするけど」
「ある、基本的には能力者の集団というのが多い」
「というか嬢ちゃんよぉ、ただの警察官1人が能力者1人に立ち向かえるほど世の中甘くないぜ?警察もたった数人の占拠者に大規模な量の警官を動員したくもないんだ」
「・・えっと、たしか、数人の能力者集団の確保に7名の警官を向かわせたら、全警官が意識不明の重体になったっていう事件・・がきっかけですよね?」
通称、「間事件」。それは5年前の一時期、日本中を震撼させた大事件だ。能力者の集団の5人中4人は確保されたがあと1人がついに見つからず、ほぼ迷宮入りとなった。確保された4名の全員が見つからなかった1人のことを「間」と言ったため、そういう名称で呼ばれている
「全警官が意識不明の重体」と世間では知られているが、実は一部の警官が最終的に遺体すら発見されなかったのではないか、と巷では言われている
「お、おお。形真だっけか、よく知ってるな。そう、その事件がきっかけで警察は能力者の集団に迂闊に手が出せなくなったんだ。もしもそんな事件がなきゃこんなことなかっだろうな」
その後の少しの静寂が僕らに満ちる。そしてその静寂をかき消すかのように優が話しだした
「えーっと、ってことは面倒事が押し付けられたってことか・・ん?今さっき"嬢ちゃん"って──」
「んまぁまぁ、そいで形。お前は行くのか?もちろん俺はパスだが」
「一応行く。ホントに何も知らないヤツもいるしな」
形兄の目が僕に向けられる。いや、別に寝たくて寝たわけじゃないんだけど⋯
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廃ビルの中は廃ビルという名の通り寂れていた。壁や床には大きなヒビが入り、天井には穴が空き、錆びた銅の棒が垂れてきていた。まるで整備された雰囲気もなく、本当にここを集団が占拠しているのかさえ疑ってしまうほどだった
「ねぇ形兄。本当にここであってるの?人の気配も動物の気配もないけど」
優が形兄に問いかける。形兄の顔は合っていると言わんばかりだが、
「いや・・合っている・・はずだな」
どうやら実際はあまり自信がないようだ。こういうことの経験者であろう形兄でも自信がないということは相当気配を消すのが上手いのだろう。一応本当に誰もいない可能性もあるが
僕らが困惑しながら周囲を見渡していると、突如後方の天井に照明のような光が出現した。その光を始めとして放射線状に光が部屋の天井中に広がり部屋を照らした
だが照明はない
「また侵入者か・・」
最初についたの光の下には黒いコートを着た5,6人の人たちが居た。全員フードを深くかぶっていて素顔は見えそうにない
「侵入者だって?こっちからしたらそっちは不法滞在者だよ」
優は彼らに全く臆さず言葉を投げかける。その言葉には慈悲はなさそうだった。優が冷たい目で見ると彼らも見返してきた。フードの中で目が怪しげに光っている。彼らの先頭にいる1人が話す
「我々が不法滞在、だと?ここが我々の教会だと知らぬ小娘がそれを言うか。無知なる者は今すぐ立ち去るが良い。が、我らイフを知った上で侮辱するなら話は別だ。残念だが、貴様らを排除する」
黒いコートの人たちは瞬時に臨戦態勢になる。全員の手元に薙刀のようなものが出現する。それに呼応するように優も盾を出現させて臨戦態勢になる
それに合わせて僕も近くの瓦礫を拾いショットガンに変える
「戦うとあらば手短に済ませよう。我々も教会を破壊したくはない」
「今日は嬢ちゃんだの小娘だの舐められてるからさ。しかも初対面なのに。この教会ってのともろとも色々壊したい気分だよ」
今にも始まりそうな険悪な空気の中、形兄は顎に手を当ててなにやら考え事をしていた
「イフ?・・・あぁ、イフか」
形兄の「イフか」という言葉に反応して彼らの先頭の1人がまた話し始める
「ふむ、どうやらそちらの大人は分かる者のようだが?小娘、貴様が無知であればその大人に聞いたほうがいいな。そのほうが無駄な血も流れん」
「調子にのって・・・で?形兄は何か知ってるの?イフっての」
「あぁ、だがまず両方武器を収めろ」
「了解した」
「私の盾、時間経過で消えるものなんだけど⋯」
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『この世の能力は十人十色、誰一人として完璧に性能が被る能力を持っている者は確認されていない。この世に「この世の全ての能力を使える能力」があるとすれば、全ては矛盾と化す。だが、「全ての力を"使える"」というものがその能力の真髄、つまり性能であるとしたら?〈中略〉その力は、そんな「もしも」のような力の持ち主は、全てを終わりへ導くだろう』
史上最悪の能力学者 イフ・G・レリウス
『「イフ」
それは希望、それは可能性、それは果てしなき願い、
それこそが「イフ」であり我々の「IF」である』
イフ信仰集団「イフ教」創設者
ヘブン・O・ヘルプ