第5話 肉塊
僕、空閑形真が面接室を出ると不破形司さんが面接室側の壁に寄りかかっていた。もしあの理由が聞かれてしまっていたら、普通に恥ずかしい
「あ……形司さん。えっと、さっきの聞いてました?」
「……聞いてて悪かったな。まあ、別に良いんじゃないか?OWAには理由が特にない奴も、人に言えないようないわば褒められたものじゃない理由の奴、そんなのと比べるとあんたのはまだマシだと思うぞ」
やっぱり聞こえていたようだが、そういえば盾石優が見当たらない。ということはまだ出てきていないのだろうか
彼女はOWAの説明を受けている。さっき僕も受けていたのだが寝てしまっていてほぼ何も聞けていない。さっきの面接で10分20分ほど時間が経った。それでも説明はおわっていない。改めて自分がまあまあの時間を寝ていたことを実感した
「そろそろ終わるだろうから迎えに行くか」
形司さんがそう言って歩き出したのに続いて僕も歩き出した。10数メートル歩いたころ、ふと視界の左に、「上層部室」という看板の付いた扉が見えた
「ん?上層部ってのが気になるか?」
「あ、はい」
僕がその扉を見ていたことに気づいたのか、形司さんは立ち止まってこっちを見た。ゆっくりと僕の方に歩いてくる
「さっき埋橋ってやつがいたろ。あいつを中心とした司令部のトップのやつらと、日本支部の隊員の中でのトップの3人。それらを合わせたものが上層部だ」
「……トップって?」
「あぁ、トップってのは別称、通称にすぎない。まぁ、まだ知らなくてもいいだろ。行くぞ」
僕が寝ているときに絶対に説明されたであろうことを形司さんにもう一度説明してもらって申し訳ないが 、とりあえず優を迎えに行くために足を動かす。会議室に到着するとちょうど優が出てきた……と思ったらふらふらと地面に崩れた
「これは流石に……キツすぎるわ」
「おー、あんた大丈夫か?いや、あれを聞いて大丈夫なわけないか」
「え、そんな凄かったんだ……」
「凄かったんだ…?、形……やっぱあんた寝てたでしょ」
「え、いやいや。違うって!」
そんな他愛のない会話をしていると、開いたままの扉からAI、アルタが出てきた
「おっ!みんな揃ってるね。それじゃあついてきて。生活区域の説明をするから」
「生活区域?」
「生活区域か……まだ説明終わってなかったの…?」
その場の全員が僕の方を見る
「え、え、何?」
全員がため息をついた
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生活区域にというところに移動する際に、アルタは他のアルタに変わり、変わったアルタが生活区域について説明しだした。自分でもどういうことかは分からない。アルタは空中を縦横無尽に移動する
「さっきも言った通り、隊員は基本的に支部内で生活するからね。基本的な生活はできないといけない。ここはそのための区域だよ」
「へー、そうなんだ」
今更ではあるが、これから聞く内容全てがさっき説明されたであろう物事なのではないか、と心配になってきた。いや、あの全員の冷ややかな目線はそうなんだろう。そのままアルタは食堂、調査室、トレーニングルーム、寮、という順に説明をしていった
「ひと通り終わったかな。じゃあ後は不破くん!よろしくね」
そういうとアルタはホログラムが消える時のように光の塵となって消えていった。定位置に戻っていった、のほうが正確かもしれない
「くん付けで呼ぶな。はぁ・・・そういえば聞いておきたかったんだ。お前ら、本当にここに入りたいか?親御さんとか、色々言いたいこととかあるんじゃないか?」
「いや私、親いないんで。こっちのほうが楽しそうだし」
「ぼ、僕は……ここのほうがいいかなって」
「そうか…まぁ、ここに来た時点でお前らが入らないっていう選択肢は用意されてないがな」
考えもしない言葉が飛んできた。自分の耳を疑ってしまうほどだ
「え、じゃさっきの面接は何だったの?」
「あれは個人情報が本当に合ってるかどうかを本人から聞いて確かめるためにやったことだ。まず今は寮の説明だろ」
そう言うと形司さんは周りを見渡した
寮の中は狭いわけでも広いわけでもない普通の広さの空間だった。いくつかの部屋で人が出入りしているのが見える。寮というかマンションみたいなもののような気がする
「盾石は左の棟、俺と空閑は右の棟だな。ま、空閑は俺と同じ部屋だ」
形司さんは指を指しながらいろいろな部屋のことを説明していく。前に同じ説明を誰かにしたことがあるのだろう、迷わず説明していく。あれ?そういえば今同じ部屋って言ったような……
「大体の説明は終わ……お、ちょうどいい。今任務依頼が来てるんだが、あんたらも体験したほうがいいか。よし、ついてこい」
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またもや形司さんに言われるがまま付いて行って約10分。僕らは薄暗い森の中に居た。OWAの日本支部というところに行くときに乗ったエレベーターみたいなのにまた乗って地上に出たのだが、到着したのは能力科学博物館ではなかった。鳥の声もせず、ただ木の葉が何重にも積み重なって暗くなっていた
「えーっと、なんで森?」
「ここが今回の任務の場所だからだな。いや、正確にはアレのことだな」
形司さんが指差す先には森の奥深くの暗闇……ではなく、2m超の熊がいた。怖い───が、さっきのトカゲと比べれば怖くはない。感覚がもう麻痺しているのだろうか
「なるほど、親か。じゃああんたら、いったん見とけ。これが俺の能力、肉塊だ」
形司さんが左手を熊に向けると左手の指の全てから赤黒い肉塊が出現した。その肉塊の先端部分には口が存在し、咆哮のような音がした。そして形司さんの、食え、という台詞の直後に肉塊全てが熊に向かっていっていた。まるでそれは血肉に飢えているようだ
それは一瞬だった。肉塊が一瞬にして熊に近づき、熊の肉体の一部を噛みちぎる。熊は抵抗しているように見えたが、それも叶わなかったようで次々と肉塊によって噛みちぎられていく
最後には熊の血や肉だったのだろうものがそこに無残にあった
「じゃあ、品定めだ。あんたらの力を見せてみろ」




