第34話 埋める能力
轟音を立てて、1基の重機がコンクリートを抉る
その重機に当たらぬように気を付けながら、作業着を着た数人の人たちがドリルやハンマーを持ちながら、細かいところを削っていく
そうして象られた人一人分の大きさの塊を、僕、空閑形真と形兄を含む、警察の人たちが固唾をのんで見ている
ここは先日強盗にあった宝石店の目の前である
こういう状況になったのは、強盗直後に現場へ出動した警官二名が強盗のうちの一名と接敵し、その後消息不明
そうして現場に生えているのが見つかった人の指から検出された指紋がその警官のものだったということで、状態確認のために今に至る
「というより……よく宝石店の、店長?ってすぐに承諾してくれましたね」
僕は隣に立っている、小澤翔也さんにそう聞いた。さっき話したときに、この人は私服警官ということを知った
「まぁ...な。今回の場合はオーナーらしいが、島田刑事が交渉したとき、犯人が捕まることに捕まるから〜、とか何とかで快くOKが出たらしい」
そうなんだな〜と、僕はそう適当に考えながら塊の方を見る
ハンマーや釘のようなものを持った人たちが、まるで化石発掘作業のように、丁寧に丁寧に人の形に削っていく
そうして掘り出された、警官の形をしたそれへこの場にいる全員が近づいて観察を始めた
そうして、さっき翔也さんが言っていた島田刑事が目の前のものを見て言った
「生き埋め…なんて甘やかしいものじゃないな。体のあちこちが地面の石や土、コンクリートに同化している。見たところ、即死か?」
それは異様だった
島田刑事の言う通り、全身が地面のあらゆるものと同化しているように見える。まるで本当に化石だ
しかも化石化している警官の口、その中には土や石がぎっしり詰まっていた。生き埋めでは説明がつかない。あの感じだと食堂を埋め尽くしているだろう
事件解決の糸口になるであろうと行われた発掘作業は、ただこの場の全員が戦慄するという結果で終わった
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3時間後。僕と形兄、翔也さんは宝石店から20kmほど離れた郊外にに位置しているホテルにいた
今は3人でエレベーターに乗って5階の客室へ向かっているところだ
というのも、宝石店から10km離れた河原で、当時近くの防犯カメラに映っていたものと同じ黒いバンが乗り捨てられているのが見つかった
そしてその車の後部座席からいくつかの宝石、ハンドルから指紋が検出された
そしてその指紋の持ち主が今朝このホテルに入ったのが防犯カメラに捉えられたらしい
能力を持っている可能性があるということで、僕と形兄。そして僕らと面識がある翔也さんが確保に駆り出されたというわけだ
エレベーターが5階に到着し、全員降りる。その時、翔也さんが口を開いた
「今からの奴は、能力…持ってると思うか?」
「さぁ……ただ、用心しておくに越したことはないだろう」
形兄がそう答える。それに対して翔也さんは乾いた笑みをこぼした
「カラスのときは怖くなかった。協力してくれる人が多かったし、目に見えてたしな…」
そうして翔也さんは懐から拳銃を取り出し、静かに見つめた。なんだか、弾が込められていないように見える
「二人も見ただろう?あの化石みたいになった警官を。あんなにも得体のしれない能力は生まれて初めてみた」
翔也さんは、少し震えながら深く息を吐く
「俺は、今から会うのが能力者じゃなきゃいいな」
そうして目的の部屋の扉の前に到着した。一番強い形兄を前にして、3人とも扉の前でじっと構える
形兄が先ほどフロントの裏で拝借したマスターキーを、扉の鍵に差し込みながら翔也さんに聞く
「あー…この場合は、なんて叫べば良いんだ?」
「え?あ、そうだな。お前らの組織は一般的に知られてないっぽいし…ベタに『警察だ!』とかで良いんじゃないか?」
「ベタ…分かった」
そうして形兄は差し込んだ鍵を回し、扉を勢いよく開けんで部屋に飛び込む。奥から困惑の声が聞こえる
部屋は、扉から少し短い廊下と続き、その廊下の先にベッドルームがあるという作りになっていた。形兄を先頭に廊下を進んで、そのベッドルームへ突入する
形兄が肉塊を左手の5本指から出しながら、飛び出して叫ぶ
「警察だ!両手を頭の上に乗せて、膝を付け!」
僕も形兄に続いて、右手で変形を使用しながら飛び出る
ここがビジネスホテルということもあり、ベッドは一つしかなかった。そのベッドの上で男の人が一人、形兄が叫んだとおりの姿勢でいる
形兄が警戒しながらゆっくりと男に近づくと、男は額に汗を流しながら叫んだ
「な、なんで警察に能力者がいるんだよ!?警察とか自衛隊とかは能力者がほとんどいない組織じゃないのか!?」
「こういう時の普通の第一声ってのは、能力者がいる困惑よりも警察が来たことへの困惑だと思うんだが……どうやら当たりみたいだな」
後ろにいた翔也さんがそう呟いた。それを聞いて目の前の男は顔を引きつらせる。どうやら、口を滑らせたらしい
「お前らが起こした強盗事件に、能力者が少なくとも一人関わってる可能性がある。安全性を加味して警察組織、その外部の人間の能力者の協力を仰いだだけだ」
翔也さんはそう言うと、スタスタと僕らの前に出て男に手錠をかけようとする
「何容易に近づいてきてるんだ?俺が能力者の可能性も……」
「大丈夫だ。もし能力者であれば突入時に何かアクションがあるはずだからな。実際、お前は何も抵抗を示さなかったから、それについては白だ」
翔也さんの発言を聞いて、男は分かりやすく悔しがった顔をする。そうして男はおとなしく手錠をかけられることになった
それから10分ほど経ち、応援の警官の人たちがパトカー数台に乗ってやってきた。翔也さんは確保した男を応援の警官の人たちに預けて、そのまま連行されるのを見送った
そうしてパトカーが角を曲がって見えなくなった瞬間、翔也さんは途端に脱力して大きなため息をつきながらその場にしゃがんだ
「しょ、翔也さん?どうしたんですか…?」
「どうしたも何もだよ……とりあえず、一安心ってところだ」
翔也さんはそう言ってゆっくりと立ち上がり、羽を大きく伸ばす。首に手を当てながら1回転回す
「例えあの男が突入時、すぐに能力を使ってこなかったとして、能力者ではないという確証が得られるわけじゃない。ましてや、人を地面に埋めれるような能力だしな……」
「場合によっては、こちら側が生殺与奪の権を握られていたかもしれないということか…」
「あぁ。けど、最終的に何もなくてよかった。今は、あの男の事情聴取の結果を待つだけだな……」
翔也さんのその言葉を聞いて、形兄が「分かった」と一言言ってスマホを取り出しながら話し出した
「とりあえず今日の所は帰ろう。俺たち自身が警察の捜査方法に茶々入れる権利はないからな。どうやら形真と連絡が取れるようだし、何かあったら形真に連絡してくれ」
形兄はどこかにメールで連絡し終えるとスマホをしまった。そうして翔也さんと目を合わせて一言
「特に、能力者についての情報に関しては特にな」
「警察関係者として気は乗らないが……分かった。可能な限りの情報は提供しよう」
「ありがとう」
そうしてこの日はそれ以上のことはなく、あっさりと解散となった。その次の日、翔也さんから事情聴取の結果についての連絡が入った
どうやら確保した男が事情聴取で早々と警察側が欲しい情報をいくつか吐いたようだ。電話での連絡で、大体の内容はこんな感じだった
まず当たり前ではあるが、今回の男は能力者ではなかったということ
また、今回の強盗事件に関与したのはその男を含めて6人。その中でも男が知っている能力者の数は2人、またそのどちらの能力も知らないとのことだ
そして最後に、今回の強盗事件は闇バイトの実行役によるものらしい
他の強盗犯の方は僕らの組織、OWAの方で対応し、闇バイトの指示役などの方は警察側が対応する手はずになっているとのことだった
電話の最後に、翔也さんはこう呟いて切った
『とことん…自分が嫌いになるよ』
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翔也さんからの連絡が入ってから1日後。僕、盾石優、形兄の3人で例の宝石店のある街から街2つ分ほど離れた街にいた
結構人通りが多く、ちゃんと注意して歩かなければ人と軽くぶつかってしまいそうだ
正確には僕と優、形兄との二組に分かれて行動している
今ここにいる理由は、言及の通り例の宝石店の強盗犯らしき人物が、この街に設置されている防犯カメラのいくつかに捉えられたからである
しかも1人などという人数ではなかった
3人。合計で3人というわけの分からない人数が、その街にいるのが確認された
これは青憂団の調査によるものだが、加楽苦郎さん曰く「危機感が無さすぎる」らしい
そりゃあ、数日前にテレビで報道されるほどの強盗事件を起こしたのに、比較的近場に潜伏しているというのは、危機感が無さすぎるというのも頷ける
「なんで能力弾持たせてくんないのかな……」
隣を歩いていた優は、懐に入っているCGというものを入れたまま触れた
「そりゃ…そうでしょ。動物相手じゃないから、誰かが人質に取られるかもしれないし────」
「もしそうなったら、銃系の武器は無力になるってことでしょ?しょ?いやいや、形に言われれもなぁ…説得力がなぁ……」
優はCGを触っていた手を懐から出し、そう言いながら後頭部をポリポリとかいた。説得力無いの意味が分からないが、一々気にするものでもないだろう
「そういえばさ…形兄からの連絡はないの?優の方は」
「ないよ、これっぽっちも。あっちも苦戦してるみたいだね……」
優はスマホを取り出して、軽く画面を見せてきた。確かに形兄からの新たな通知は見当たらなかった
たとえこの街にいるのが見つかったと言っても、それはついさっきのことじゃない
実はすでに、もうこの街からは退散していて、今僕らがやっていることは完全に無駄足なのではないか……
そう思っていた次の瞬間、僕は優に左へ勢いよく押されて、建物と建物の間のとても狭い隙間に入った
そしてそのまま優の背中に押される形で、無理くり間の奥に押し込まれていく。流石に狭すぎて、壁と体が少し擦れて痛い
「ちょ、優!?何して……」
「形、静かに……今、何が飛んできた…?」
そうブツブツと独り言を呟き始めた優の右頬には、小さな切傷があった。まるで紙で皮膚を切ったような、結構小さな傷だ。血は流れてない
「優、その傷……」
「うん、やられた。なんでかは分かんないけど多分バレてる。でも、見えなかった…形は?」
「え、いや…それっぽい人は誰も……」
今僕らが探している3人は、男女比率1:2で全員30代を超えていないくらいの若者らしき顔立ちの人物である
さっきの一瞬でその3人がいたかは、僕の目でも確認は出来なかった。ちゃんと確認するにはここから出なければいけない
しかし事実として優は何らかの攻撃で頬を切られた。今回は運が良かっただけで、本当は首を搔っ切れるほどの殺傷力を持っているかもしれない
そう考えていってしまえばキリがないのは分かってはいるが、最悪の可能性は頭の片隅に置いておくべきだ。最悪の場合……
2日前に見たあの地面から出た指を、地面と同化したあの体を思い出して、背筋が凍る。恐れていては何も行動に移すことは出来ないが、流石にあんな風にはなりたくない
優が少し顔を出して路地を確認する。僕も確認したいが、優が邪魔でよく見えない
だが路地で歩いている人の大体の数は見えた。人込みと言えるほど多くはないが比較的多く見える
車道もあるが国道というわけでもないので、車通りはそう多くはない
「隠れてるとしたら建物の中か、間か……」
「いや…実は結構堂々として歩いてるかも」
「え、なんで堂々…?流石にリスキーすぎるんじゃ……」
「いや分かんないよ?犯罪成功させた人って、結構優越感で頭がハイになるらしいし。自分たちを追ってる警察とか私たちを返り討ちに出来る、みたいに自信過剰になってるかも……」
自信過剰になっていたとしたら、堂々と一般人を装っているのは頷ける。とすれば自信に満ちた顔をしている通行人が、例の3人の可能性があるということ
僕は両手両足で壁を踏ん張って上り、優の上に頭を持ってきてここから出して周囲を見る
「形……結構変なことするね。疲れない?」
「いや、こうしないと見えないんだけど……」
「じゃあ仕方ないか」
そして2人で隙間に入ったまま周囲を静かに観察する。僕は向かい側の通路や建物の中を見るが、窓辺で楽しそうに会話している人達やもう秋だからか、花粉に苦しんで鼻を全力でかんでいる人だったりが見える
だが僕たちの方を見ている人はまだしも、自身に満ち溢れたような表情をしている顔の人もいない
いるのは変なものを見るような目で僕たちの方を見ながら通り過ぎる人くらいしかいない。何だか、肩身が物凄く狭くなる
「……出よ」
優はそう呟くと、すっと隙間から出て体を伸ばし始めた。僕の下にいた優が急にいなくなったので、僕は困惑で力が抜けて無様に落ちてしまった
「ちょ、優!?何されるかたまったもんじゃ……」
「形、弾5個」
優は僕に掌を見せながら、僕の目を固い決意の宿った目で見てきた。僕はその目をまじまじと見て返す
「やだ」
「ありが…やだ!?」
「……やだ」
「え、なんでよ」
「いや…どうせ優さ、弾を地面に全部撃って喧嘩売る気でしょ。あっち側は全員ハイになってるから簡単に乗ってくるって寸法で」
「ぐっ…形にしては察しが良い。まさかもう雪降る…?」
僕は優を見ながら体を隙間に出さないように、壁に体をこすりつけながらゆっくりと立つ
「優は見てないと思うけど、あんな簡単に人を殺せるような能力を持ってるかもしれない相手に対して喧嘩を売るなんて普通にまずいよ。あと……」
僕は青憂団から連絡のメールを一度確認する。メールにはここら辺一帯の地図の画像が添付されており、一帯を囲むような点々が7つほどあった。僕は優へその画像を見せる
「これ、警察のパトカーの配置だよ。もし能力を持ってない人がいた場合には、この待機している警官に明け渡す手筈になってる」
「なるほど…もし私が発砲して、それが警官に聞こえたとなるとCG持ってる私が捕まる可能性があるのか……」
「そう。僕ら見て向かいの建物に怪しい人は見えなかったから、もう少し歩いてる人達をよく見て──」
その瞬間、優の頬に再び切り傷がついた。だがやはりかなり浅い傷にしかならない。優は痛みを口に出すことなく、顔を右に瞬時に向ける
「…分かった。形、あっちの方!今右から左に切られるような感じがした。変に計算高くなきゃ…あっちにいるはず!」
優は今向いている方向に、全身を向けながらそう言った。僕は隙間から身を乗り出して、優から見て右の方向を見てみる
その時、奥の方で左に走って曲がり建物の陰に隠れた人の影が見えた。その人の顔と、一瞬目が合う。確信した
僕は即座に隙間から出て、地面にポイ捨てしてあったアイスの棒のようなものを手に取って変形させる
「優!あっち、逃げるような人影が!」
「私も見えた…走ろう!」
そうして2人で走る。同時に走り出したので、ほとんど並列だ。人混みをかき分けながら、その曲がり角へ向かう
その曲がり角に来た瞬間、僕は即座にその曲がり角を曲がって走り出す。この先には似たような大通りが広がっている
ふと、横を見た。しかし、優はそこにはいなかった




