第3話 能力科学博物館の地下
「能力科学博物館」
それは僕、空閑形真が住む市にある、能力や能力科学の歴史や概要の展示や展覧、子供向け授業を行っている能力科学における総合博物館の1つだ
僕とその幼馴染である盾石優はその博物館の前にいる
今日は一応平日なので駐車場は博物館で働いている従業員や清掃員の車が数台ほどと、珍しく有給を取れたのだろう客の車が2、3台あるだけだった
僕らがここに居るのは、つい数分前に謎の男にとある紙を持って行けばいいと言われたからである
「能力博物館みたいな名前の建物ってここしかないよな~」
僕の前に立っている優が言った
謎の男は能力"科学"博物館とは言わず、能力博物館と言った。が、そんな建物はなく、科学博物館であればある。なにやら違うみたいだが、言い間違いだと信じたい
「・・・入ってみる?」
「あの子供が指差したのはこっちのほうだったでしょ。じゃあここしかないんじゃない?」
「子供じゃないって」というツッコミは面倒くさいからやめておいた
それよりも彼女の言っていることも一理ある。あの男はこっちの方向を指差していた。その方向にはちょうどこの博物館がある
選択肢は2つ。博物館に入るか、入らないか。
が、僕にはもう1つしか選べない。それは彼女も同じだろう。謎の男ではあれど、僕らの命を救ってくれた恩人ではある。彼の期待(?)に応えなければいけないという謎の使命感が少しはあった
「よし、形。行くか!」
「う、うん」
彼女を先頭として僕らは博物館に入っていった
博物館の中は広かった。市立の博物館ではあるのだが、創立の際に市民からの多くの募金により建ったために比較的大きく建てることができたのだと叔母が言っていたことを覚えている
博物館に入ってすぐに目的である受付は見つかった。優は見つけても何も言わずスタスタと進んでいく
「ちょ、優。待ってよ」
そう言って僕も続く
優は早々と受付に向かうと、受付の人を呼んだ
「すみません。これ、お願いします」
彼女はそう言って謎の男に渡された中二病が書いたような紙を受付の人に手渡した。受付の人はそれを見て少し考え込んだ後、「こちらです」とだけいい、僕らを奥へ通した
どうやら合っていたようで少し一安心だ。奥にはエレベーターのようなものがぽつんと置かれていた。そこからはこの博物館には到底似合わないような独特な雰囲気が醸し出されていた
「どうぞ、お乗りください」
その声に誘われるように僕ら2人はそれに乗った。ドアが閉まる直前、受付の人の口が少し動いているのが見えた。「いってらっしゃい」だったかもしれない
そのエレベーターは何処かの目的地へ動き始めた。速いようで、遅いようで、
「ねぇ、優。これ何処に行くの?」
僕は心配になり隣にいた優に声をかけた。その心配をくみ取ってくれたのか彼女も口を開いた
「嵌められたりとかではないだろうから、大丈夫だよ」
それに少し安心して僕は瞬きを一回した。その瞬間、目の前⋯エレベーターの外側は変わっていた
博物館とは違う、灰色の壁や天井、ざっと数百人の人たち、そして視界の端で飛んでいるロボット⋯⋯
「「うわぁぁ!?」」
突如視界の端にロボットが現れたことに驚いて、僕ら2人は素早くエレベーターの四隅の一角に避難した
「あ、そんな怖がらなくて良いよ。君たち、入隊志望者でしょ?」
目の前のロボット⋯いや、AIだろう。ロボットとは違って語彙が豊富な感じがする。そのAIが声をかけてきた
「入隊・・・あっ、ここがOWAなの?」
「うん!そうだよ〜」
どうやら本当に合っていたようだ。それを確認すると優は「これのことなんだけど」といってAIに紙を見せた
「この紙⋯龍目さん、珍しい人が来たよ。うん、あの系列の人からだ」
なにやらこのAIはタツメという人と通話みたいなのをして連絡を取り始めたようだ
と、そうこうしているうちにエレベーターは到着し自動ドアが開いた
エレベーターの中から見ていたよりも空間は大きく、ざっと見た雰囲気だと有名な競技場よりも広いのではないかと疑うほど広い
「君たちか、珍しいというのは」
ふと声がした方を見るとブカブカな白いパーカーを着た30から40歳程度の男が突っ立っていた
「例の紙。見せてくれないか?」
「え、あ、はい」
その男に言われるがまま優は紙を渡した。するとその紙を読みながら言った
「自己紹介がまだだったな。私はOWA日本支部総司令を務める埋橋龍目だ⋯チッ、あいつこんなの書きやがって。まぁいい、こい」
「あ、はい!」
「え、ちょっと。待ってよ」
紙をクシャッとしている龍目さんに言われるがまま僕らはついて行く。少し歩くと龍目さんは電話をしている男に声をかけた
「おい!形司!ちょっと任せるぞ」
「──回か。あぁ、切るぞ。何のようだ?うちの支部のトップさまが俺に」
ケイジという男は電話を切り、こっちを向いた
彼は僕らの顔をまじまじと見た。色々と悟ったのだろう。なにか納得したような顔をした
「お前ら、名前は?」
「盾石優です!」
「あ、え、形真です」
僕らの名前を聞いた形司は後ろを向いて歩き出した
「こいつらに色々教えたりすればいいんだろ?龍目」
「あ?珍しく飲み込みが早いな。じゃよろしく」
そう言って龍目さんは行ってしまった
少し奥で形司さんがこっちを見て待っている
「何ぼーっとしてる?時間はあまり待ってくれないぞ?」
「「は、はい!」」
謎の男に言われて来たこの場所。知らない人、知らない場所しかない
でも、長い付き合いになりそうな感じがする彼、形司さんに僕らはついて行くことにした