第29話 それにつながる者
僕、空閑形真は腹部から出ている血を見ながら焦っていた。この感覚だとどうやら、幸いにも血の出ている穴は腹部を完全に貫通しておらず、臓器にも当たっていないようだった
今僕は目の前にいる、連日のコンビニ強盗を行っている藤原晴という人を確保するための任務を行い、その過程として藤原晴と戦うこととなっている
始まりは僕による藤原晴の右腹部への強烈な一線から始まり、その直後に恐らく藤原晴の能力によるものであろう攻撃によって、僕の腹部に血が出る程度の小さな穴が開いて、現在に至る
銃声が鳴り響いていないのに、弾丸が撃ち込まれたような負傷をした。それに僕は驚きつつも、藤原晴の様子を見ながら片手で穴を抑えて軽く止血を試みる。僕が動けない隙を見計らって、藤原晴はゆっくりと立ち上がる
「くそっ…流石に腹をぶっ叩かれた状態だと威力は弱まるか」
藤原晴はそう言いながら舌打ちし、首を鳴らしながら僕の方を見る
「なぁガキ、お前が警察の回し者的なものかは分からんが、俺にその木刀を振りかざしてきたってことはよ……」
藤原晴は銃のようなものを隠している布を取って捨て、その手に握っているものの全容を明らかにした。そして口を開く
「やられる覚悟ができてるでいいんだなぁ?」
「くっ…」
予想通り、藤原晴は拳銃を持っていた。しかし予想外だったのが、よくイメージされるような拳銃やリボルバーとかでもなく、いわゆる自作といったほうがいいような拳銃を藤原晴は持っていた。それの銃口を静かに僕へ向けてくる
どうやら悠長に止血を試みている暇は、流石にないようだ。僕はそう結論づけると、引き金に手をかけられる前に地面を蹴って商品棚の方へ走り、まずは藤原晴の視界から消えようとした
「くそ、どこ行く!」
藤原晴の怒声と共に、一発の銃声がコンビニ内に響く。僕は視界に入らないようにコンビニ内を駆けながら、さっき貰ってとっていおいたレシートを手に、変形を始めた
「どこにも行かないよ、藤原晴さん!」
僕は本が陳列されているコーナーにつくと、変形中のレシートを持ったままの手で窓ガラスに触れ、藤原晴に向かってそう叫ぶ。僕と藤原晴はアイスを保冷しているケースのようなものを2つはさんで睨み合っていた
藤原晴はその瞬間僕の姿を視界にとらえ、銃口を僕へ向けてくる
しかし僕は引き金が引かれる前にレシートを右手で、藤原晴に見せびらかすように大きく、素早く、窓ガラスに沿って変形する。それを見た藤原晴は少し驚き、引き金にかけようとしていたその手を止めた
「な、何してんだ…?」
レシートだったものは一瞬で窓ガラスを包み、コンビニ内から外を、外からコンビニ内を隠すように変形した。それは自動ドアも同様である
完全にガラスを包むと、コンビニ内は月の光や街灯の光も入らず、完全に室内の照明だけで照らされた。そんな様子を見て、藤原晴は不思議そうに僕に質問してくる
「おいガキ…お前、何がしたいんだ」
「文字通りです。言ったじゃないですか…僕はどこにも行かないって」
僕がそう返答すると、藤原晴は顔の血管をいくつか浮かばせて、怒りのこもった声で僕に言い放つ
「てめぇ…この中で俺を倒そうってか…?こんな狭い中でその長物を振り回すのは無理だろ、なめんじゃねえよ…クソガキが」
(あ、やば…)
僕のような、戦いに慣れていない人間でも分かるような凄い殺気が藤原晴から放たれてる。僕は別に挑発するためにこんなことをしたわけじゃないが、こうなるとは思わず少し後悔する
僕がそう考えながら冷や汗を流していると、藤原晴は瞬時に身体を右に動かして商品棚に隠れて、僕の視界から消えた
「やべっ」
僕は藤原晴と距離を取るために、右に走って藤原晴と対角線上にいるように動く。しかしワンテンポ遅れてしまった
僕が他の通路に移ろうと身体を捩ったときには、すでに藤原晴は僕のいる通路に立っていた。藤原晴は瞬時に拳銃を構えて僕に標準を合わせる。銃口が再び僕の目に入る
「っ────!」
銃声が3度鳴り響いた。一発は商品棚に当たって商品棚を大きく揺らし、一発は僕の背後を通り過ぎて、ペットボトル飲料が陳列されているコーナーのガラスに大きな弾痕を刻む
そしてもう一発は、僕の背中の皮を抉っていった。声にならないうめき声が口から洩れる。それと同時に空薬莢が地面に落ちる音が3つなる
痛い、がやはり大きなカラスの時の激痛ほどではないので、僕は額に汗をかきながらも倒れないように足を踏ん張って、商品棚に身を隠す
荒いでいる呼吸を整えながら、僕は藤原晴の足音を探る。スニーカーなのだろう、ゴムが地面をすれる音が小さく、ゆっくりとした感覚で耳に入ってくる。突如、足音は速く強いものになる。僕はそれに驚くも、その足音の行く先を耳で追って顔を動かす
「見っけ」
僕が顔を動かすと、アイスを保冷しているコーナーから身を乗り出して銃口を向けてきている藤原晴の満面の笑みが見えた。僕はそれを見ると反射的に、僕の背中の商品棚にあるポテチの袋を鷲塚む
再び銃声が鳴り響く。僕はその直前、考えるよりも先に「変形」を使用して袋を盾のようなものに変形させて、弾丸から身を守る。袋を変形させたので中に入っていたポテチそのものが落ちてくる
「ちっ、ずりぃな」
藤原晴はそう言って何か機械的なものをいじり始めた。ガチャガチャと音がする。銃を装填しているのだろうか。しかしこれは千載一遇のチャンスかもしれない
僕はそう思うと、変形したものを右手の中に変形したまま収納して、木刀をもう片方の手で振りかぶって藤原晴に対して走る。藤原晴はそれを見て冷静に銃口をまた僕に向ける
それに対して僕は瞬時に木刀を逆手に握り返して、特に意味もなくその言葉をつぶやく
「流剣対技…」
「何かっこつけてんだよ!」
藤原晴はそう叫んで引き金に指をかけて引く。しかし僕はそれをさせる前に言う
「貫口突き!」
僕はそう叫んで木刀を投げる。そして木刀はそのまま藤原晴の持っている銃の銃口に突き刺さる。それと同時に藤原晴は引き金を引いたが、木刀が代わりに大破しただけで、僕が負傷することはなかった
僕が埋橋龍目さんから教わり、ほぼほぼ習得することができた剣術、流剣対技。基本的に受けからのカウンターを狙うような技が多く、あまり攻めには向かない
僕が今使った技である貫口突きは、拳銃を持っている人との戦いで使えるもので、その名の通り、銃口を貫通させるように突いて弾丸を無力化させる技である
藤原晴は突如僕が投げた木刀が、撃った弾丸を無力化させたことに驚きつつも、僕に向かって叫ぶ
「…いや、木刀なしで俺に向かってきても、すぐにまた撃つぞ!」
「木刀は…作ればあるよ」
僕は右手に収納していたものを変形させて木刀を作る。藤原晴はそれを見て、何かを言おうと口を開く。しかし僕は待たずに、勢いよく木刀を振りかざして藤原晴の顔面に勢いよく当てた
ゴッ、と鈍めの音がし、藤原晴はアイスを保冷しているコーナーから落ちて後ろに倒れた。ポケットからカランカランと、金属が落ちる音が聞こえる。恐らく予備の銃弾か何かだろう
僕はそれを聞きながらそのコーナーをぐるっと回り、藤原晴が倒れている通路に来た。少し遠めから見ても、藤原晴の鼻が少し曲がり、血も出ているというのは一目で分かった。それと同時に、予想通り四散している銃弾が目に入る
「くそ…痛ぇ……」
そういったうめき声のような藤原晴の声が聞こえる。僕は、さっきの腹部に弾痕のような小さな穴が開いたときの二の舞にならないように、慎重に歩を藤原晴に向かって進める
すると、藤原晴の小さな笑い声がして僕は足を止める
「警戒してるのか?してるよな、さっきみたいなことがあったからな。じゃあお望み通り……だ」
そう藤原晴が言った瞬間、僕の視界から地面に落ちて四散していた銃弾の半分が消える
僕は驚いて防御の構えを取る。その瞬間、目にとらえることができたそれは、逆さに僕へ向かってきている銃弾だった。薬莢がついたまま、薬莢の方が僕を向いて、僕が目でとらえることができるくらいの速度で、銃弾が襲ってきた
僕は瞬時に、実は変形し続けていた木刀を変形させて壁を作り、身を守ろうとする。しかし突然のことで厚く壁が作れず、結構な銃弾の貫通を許してしまった
そして貫通した銃弾のほとんどが僕の体にかする。腕はもちろん、腹、脚、頬などだった。幸い、貫通したり穴を作ったりしてはいないので、普通に立っていられる。しかし痛いのは変わりなかった
かすった勢いで少し後ろによろける。その最中、僕は藤原晴がどんな能力を使ってこんなことをしたのかを考えた。と同時に壁を木刀に再び変形させる
「薬莢が向かってきた、ってことは薬莢を操ったりしてるのか…?」
その瞬間、藤原晴の大きい笑い声が1つ、耳に入る
「ご名答、死をプレゼントしよう」
藤原晴は倒れたままでも銃を構え、そのまま引き金が引かれて銃声が響く。運よく僕は身体を捩ることで、かすることなく避けることができた。避けた時の勢いで、額に流れていた冷や汗が飛び散る
僕が避けると、藤原晴は口を開きながらゆっくりと立ち上がった
「俺の能力はお前の予想通り、薬莢を操る能力。撃つ前か撃った後のどちらか一度だけ、薬莢を指定した対象に追尾させるもの、一度追尾させた薬莢は2度は追尾させられない。俺が言いたいことは…分かるよな?クソガキ」
再び目の前の床に落ちてある銃弾が消え、僕の方に向かってくるのがギリギリで見える。僕はそれを見るとある程度冷静に壁を作る
そして銃弾が薬莢から壁に撃ち込まれる音が響く。今度は厚くすることを意識したので、貫通して僕の皮膚を掠ることはなかった
それに僕は少しほっとして息を吐く。その瞬間、壁の奥で地面を蹴って走る音が聞こえる
「おらぁ!」
藤原晴の叫び声と同時に、壁に大きな衝撃が来て僕は壁と共に後方へ吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされた先はレジのおかれている台で、そのまま背中をその角に強打する
「あがっ……!?」
たとえ痛みがあの大きなカラスの時よりも小さくても、角に背中を強打するのは流石に身体が上手く動かなくなるくらい痛い。気絶するかの瀬戸際を彷徨いながら、僕は目の前に立っているその人物を見上げる
藤原晴が、変に曲がった鼻から鼻血をポタポタと垂れ流しながら僕を見下していた
「はっ、変に苦戦させやがって。くそっ、鼻血止まんねぇ…」
藤原晴は口から顎へ、服を少し赤に染め上げているその血を拳銃を持っていない方の手で拭う。そんなことをしても鼻血は止まらず、今度はボタボタと床に滴る
僕はそれを見て隙ありと思い、震えている両腕に力を入れて木刀を振るう。しかし藤原晴はそんな僕が振った木刀を、血を拭っている方とは反対の手で軽々と止めて奪い取り、後ろの方にポイッと投げた
藤原晴は相変わらず血を拭いながら、僕に対して見下すような笑みを浮かべながら口を開く
「俺には子供を殺す趣味はない、というより人を殺す趣味だってない。別にこの強盗も趣味でやってるんじゃないが……お前をこのまま生かしておいたら、また俺の邪魔をしてくるに決まってんだ。じゃあ今ここで消すべきだろ」
僕は、藤原晴が銃口を僕の額に向けようとするところを、悔しく思いながらも見る。僕は何かないかと周囲を見渡す
「いっ…!?」
その瞬間、僕の右足が藤原晴によって勢いよく蹴りつぶされた
「何目をウロチョロさせてんだ?そんなに探しても良いもんは見つからんぜ」
そうして額に銃口が突きつけられる。引き金に指がかけられる
「じゃあなクソガキ。結構、痛かった」
その瞬間、僕の右ポケットに何かを見つけた。最初にこのコンビニで買い物をしたときに持っておいた、レシートだ。僕は引き金が引かれる直前にそれを右ポケットから勢いよく出して、縄のように伸ばして変形させる。そのまま弁当が置かれている棚に巻き付く
藤原晴は伸びたそれを目で一瞬で追った。僕はその隙を見て縄のようなものを一瞬のうちに伸縮させて、僕をそっちのほうに瞬時に移動させる
そうして僕は一旦窮地を脱することができた
「くそっ…逃げやがって」
藤原晴はそうやって再び銃口を向けてくるが、僕は再び変形で伸ばし、次はペットボトル飲料のコーナーに巻き付け、僕自身を引き寄せた。勢いで少しだけ背中をぶつけた
「おいガキ、てめぇ!」
「くっ…ああぁっ!」
僕は背中に痛みがありながらも、声を荒げながら全身に力を込めて立ち上がる。少しバランスは取りにくいが、軽く走ることは出来る。そして僕は良いことを思いついた。これは一度、イフ教の一件でやったことがあるものだ
そうして再び、僕は商品棚を上手く使って藤原晴の視界から外れながらコンビニの中を駆ける。いわば一対一の鬼ごっこだ。足を地面につけるたびに背中の痛みが響く
藤原晴はその最中何度か引き金を引くが、それは僕には当たらず商品棚を貫通するだけに留まる。さらに空薬莢も飛んできたりしたが、変形によって壁を生成して何度も防ぐことが出来た。しかしそんな何度も防げるものではなく、少しは掠ってしまう
そして僕は、僕と藤原晴の位置関係を完全に把握すると、変形によって肉塊を藤原晴へ伸ばす
「な、なんだこれ!?」
商品棚をはさんでいるので顔は分からないが、藤原晴はそう叫んで発砲する。しかしそのまま僕は変形によって腹部に肉塊を巻き付ける
そしてそのまま僕はそれを伸縮させて、藤原晴を僕の目の前に勢いよく持ってくる。そして肉塊の一部を木刀に変形させる
僕は目の前に藤原晴が着た瞬間僕は飛んで、木刀を両手で持ち頭上に大きく振りかぶって渾身の一撃を叩き込む準備をする
「はっ、なめるな!」
藤原晴はそれを見ても冷静さをかかず、ニヤリと笑って懐に手を突っ込んで金属音を一度鳴らす。そして握られている手を懐から出す
「この勢いのまま銃弾が追尾すれば、お前の隙だらけの胴体を易々と貫通するよなぁ!?」
「くそっ…!」
僕はもう後に引けなかった。間合いに引き込まれた瞬間、僕は木刀を勢いよく振りかざす。しかし藤原晴は掌に何かを握っており、多分銃弾か何かだろう。そして────
「食ら……あ゛っ、なんだ!?」
藤原晴の手が開かれるその瞬間、突如として謎の人物が出現した。その人物は藤原晴の両腕を後ろから抱えるように抑えつける。今このコンビニの中には僕と藤原晴の2人以外いないはずだった。外が見えるガラスも閉じているはずで、本来人はいないはずだったのにその人物は現れた
「少年が渾身の一撃を出そうってんのに、水を指すということはないよな?お前は」
「は、放せ!急に何なんだお前は!?」
抑えつけたその人物はそう言う。僕はその人を見たことがあった。しかしそんなことを気にする暇はない
「おらぁっ!!」
僕はそう叫んで木刀を勢いよく振りかざし、藤原晴の脳天に叩きつける。さっきよりも鈍い音が聞こえ、藤原晴は断末魔のような小さな声を上げて白目を向く
抑えていた人物が抑えるのをやめると、藤原晴はゆっくりと地面に沈んだ。僕はその様子を一瞬見ると、すぐに木刀を変形させて藤原晴を拘束した。そして藤原晴を抑えていたその人物を改めて見る
「あ、ありがとうございます…」
僕はその人物を知っていた。全く整えられていないボサボサで無駄に伸びている髪、所々に穴が空いており場所によっては皮膚が見えるような汚れている服、ホームレスの代表例のような容姿。そして────
「はは、礼はいらない。儂は通りすがりのホームレスだからな」
一人称が儂にしては、髭があれど若い感じの顔立ち。カラス達の一件の直前、僕が角でぶつかった人と同じ人だった
「久しぶりだな、あの商店街以来か。まぁその感じだと色々と大丈夫そうだな。じゃあ、また会う時があれば」
そう言ってその人は商品棚の奥に歩いて行った。僕は急いでその人の後を追ったが、その時にはその人はいなかった。自動ドアや店員用の扉が空いているわけでもなかった
「……名前でも聞いておきたかったな」
僕がそうつぶやいていると、藤原晴がうめき声を出したのが聞こえた。僕はそれを聞くと藤原晴の元へ歩いていく。藤原晴は僕のことを恨むかのように見上げていた
「…お前は、何なんだ?クソガキ、警察のものでもないんだろ……」
僕はその質問に対してどう答えるかを少し考える。答えになってはないかもしれないが、僕は答える
「空閑明日香、そう言えば大体分かると思います」
「空閑明……!まさか、お前あいつの────」
その時、遠くからパトカーの音がした。多分さっき逃げたコンビニ店員の人が呼んだのだろう。不破形司、通称形兄によると、「警察が来たら即刻逃げても良し、というよりさっさと退散しろ」と言われていたので、藤原晴をそのままにして僕は裏口から退散する
「おい、ちょっと待て!まだ聞きたいことが……!」
「それについては刑務所で聞きます!」
そう言って、僕はそのコンビニから1km離れたところまで逃げてきた。良いことをしたはずなのに逃げるとは、結構胸の内がもやもやする
そして僕は帰還するために、OWAからの車を呼ぶためにスマホの画面を指で触れた。背中が、まだジンジンと痛んでいた




