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再生のプロローグ  作者: 出落ちの人
憂と剣
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第25話 戦った者の心

 僕、空閑(くが)形真(けいま)は身体のあらゆるところに包帯を巻いて座らされていた


 上半身の服は脱がされ、実質の服の代わりのような形で包帯がぐるぐる巻きに巻かれている。どうやら、背骨に少しヒビが入っていたり、部分によっては折れているらしい。一応上裸と実質同じなので、季節的にも結構涼しいまである


 頭部にも巻かれており、少し頭が締め付けられているような感覚がする。(ゆう)によると、後頭部からは血が結構出ていたようで、血は凝固しているものの、念のために巻いている形である


 腕に関しては、僕自身の能力である「変形(へんけい)」の反動によって、骨折寸前までのところまで来ていたので、腕も一応包帯をぐるぐるに巻いている


 先ほどまで、僕含む盾石(たていし)(ゆう)不破(ふわ)形司(けいじ)形兄(けいにい))のOWAの任務で来ている3人。そして丁度この場に居合わせ、共に戦ってくれることとなった一般の人達と、大きなカラスを中心としたカラス達の戦いが行われており、そして終わった


 僕が今負っているこの傷の全ては、大きなカラスによる突撃に直撃し、吹っ飛ばされた勢いのまま壁に激突したときに負ったものである


 しかし、今更かつ自分で言うのもあれではあるが、よくこの結構な深手のまま戦いきれたなと思う。優とか形兄とかの戦いに慣れていそうなレベルであればまだ分かるが、カラス達に最善の一手を一度もさせないような僕が……といった具合である


「中々に、派手にやりやがったな……」


 座って休んでいる僕の隣に立っている形兄が、戦場となったこの商店街をぐるりと見まわして言い放つ。その声色には、呆れが8割くらい入っている気がする。というより絶対入っている


 戦いが開始する直前、形兄は『OWA(うち)の存在に気付かれたら意味がない』的なことを言っていた気がする。結果的に僕らがカラス達と戦っていたことがバレてしまっているし、しかも共に戦ってまでくれている


 さらにさらに、結構激しい戦いになってしまったので、商店街の一帯がボロボロになってしまった。箇所によっては物の取り換えだけでは直せないであろうという所がある


 本当に、暴れすぎてしまったようだ


「まあ、形はある程度ボロボロなんだし。形を責めるもんじゃないんじゃない?」


 どこからか急にひょっこりと出てきた優がありがたい横やりを入れてくれ、僕を庇うようなことをしてくれた……ん?


「いや、結構ボロボロなんだけど」


 形兄はため息を1つつき、再び周囲をぐるりと見る


「とりあえず盾石、お前は後始末の手伝いをしてこい。何ここで油売ってんだ」


「はぁ~?形兄も何もしてないじゃん…なんで……」


 優は1人文句を吐き捨てながらも、しぶしぶ手伝いをしに行こうと向こうに行ってしまった。形兄も遅れてゆっくりとそれに続く


 向こうでは、僕と優が大きなカラスと戦っているときに、代わりに普通の大きさのカラス達と戦ってくれていた人達が、協力して小さめの瓦礫やら何やらを運んでいた。見たところ、全員これといった外傷はなく、どうやらあのカラス達と戦って無傷で終えることができたようだった


「…優のおかげか」


 今こうして僕が生きて、しかも気絶せずに意識を保っていられること、あの人達が無傷で戦い抜けたこと、その全てが実現したのは優が良いところに戦いに駆けつけてくれたことが一番大きい理由である


 優が駆けつけてくれなければ、戦いが長々と続き、戦いはどちらかの体力が尽きるまで待つという、とてもジリ貧なものになる。そうすればこうしてある程度の良い結末は迎えることはなかっただろう。本当に優には感謝してもしきれない……かもしれない


「どうだいあんた、体の具合は……少しは良くなったか?」


 1人の男の人が僕の方に近づいてきて、そう言ってきた


 この人は、僕が大きなカラスの突撃により壁に激突した後、僕を一時的に安全なところに避難させてくれた、いわば命の恩人というものに当てはまる人である。この包帯だったりも実はこの人が巻いてくれたということもある


「ま、まぁ…少しはですけど」


「そうか……まだ2時間しか経ってないからな。よく少しでも良くなってるもんだ。若いってとてもいいな、その勇気も今の…俺のような大人になるともうただの線香花火だ」


 その人はそう言って近くにあった椅子を持ってきて、僕の近くに座った


「…ほんとに……すいません」


 僕は近くに座ったその男の人に向かって軽く謝罪する。それを見たその人は少し驚いた顔をする。しかしすぐに顔がゆるむ


「いやいや、そんな謝罪なんかいらない。こんなにボロボロな子供にそんなことを言われちゃ、大人としての面子が丸潰れだ」


 男の人は乾いた笑みを浮かべる。僕は正直、その人が言っていることがよく分からず困惑を顔に浮かべる。その人はため息のようなものを吐いて、今作業し続けている方を見た


「ま…一応負傷者もなし。被害そのものはこの商店街の建物とか歩道とかのみ、俺的には感謝…っていうか。そんな感じ」


「俺的に……?」


 僕はその言葉に若干の違和感を覚え、それを復唱して一度聞いてみる


「……そうだな、俺的には誰も傷つかなくてよかったって思ってる。だが俺以外の人はそう簡単にはいかない」


「俺以外って、あの今色々とやってる人達のことですか?」


 僕は作業をし続けている方を見て、それをしている人達の様子を1人1人ゆっくりと見た


 それぞれ声を掛け合いながら、持てるだけの瓦礫を持って移動している。汗水流しながらも瓦礫を持ち、協力して片付けて(?)いるところを見ていると、今自分が何も出来ないことにさらに罪悪感を感じてくる


 そういって見ていると、1人、2人、3人と、何人かの人達が怒りのような表情を顔に浮かべているのに気付いた。男の人が再び口を開く


「気付いたみたいだが、そういうことだ。今回の件については俺みたいな良しとする奴もいれば、ああいう奴みたいに悪しとするのもいる」


「それは、まあ当然というか……」


「そういうことじゃねえ!お前の責任じゃ……」


 男の人は急に僕の発言を遮って、声を張り上げて立ち上がる。僕はその気迫に押されて驚きを顔に出す。するとその人は「すまん」と一言言ってゆっくりと再び椅子に座った


「……基本的に今この場にいる奴らはほとんどここ付近で暮らしてるのが多い。俺は特に感じてないが、ああいった悪しとしている奴らはこの商店街に思い入れが強い。受け入れられないんだろう。今までもカラスによる被害は結構続いてはいたが、今回レベルのことになったことはなかったからな……そりゃあ受け入れられないもんだ」


 僕は男の人の顔を見ながら静かに話を聞いていた。特にその人の顔が変わったりすることはなく、その人は静かに下を向いていた


 しかし僕は気付いた。その人の手が、両手で握っているその手は強く握られ、震えているのに気付いた。多分この人も根本的な考えは、今回の件を悪いことだと思っている人と同じなんだろう


 ということはそれでいてその元凶となっている僕に、それを悟られないようにしながら、今こうして優しく話しかけてくれているのである


 優しい人、なのかもしれないと、僕は思った。もう一度謝ろうとも思ったが、恐らくさっきと同じ展開になるかもしれないと思ったのでやめておいた。少しして男の人は再び口を開いた


「とりあえず、ありがとう。多分このままカラスに対して何も対処しないと後々こうなってたかもしれない。分かっていても、対処しようと思えなかった。勇気がなかったのかもな、多分あそこにいるみんなも、おんなじなんだろうな」


 男の人は僕の顔をしっかりと見据えて言う。その人の顔はとても真剣なものに見えた


「そんな時にあんた、あんたの仲間がカラスと戦ってくれた。改めて、本当にありがとう」


 目の前の人はそう言うと、椅子に座りながら深々と頭を下げてきた。僕はそんなことを言われ、さらにこんなことをされて困惑する。僕はすぐに、そんなことしないでください、といったことを言い、その人はゆっくりと顔を上げた


 その人の顔は苦笑いのような感じになっていた


「はは…あんたならそう言うと思ったけどさ。俺にとっては、これが本心なんだ。素直に受け取ってくれよ」


 男の人はゆっくりと席を立って、今作業が行われている方へ歩いていく。僕は何か言おうと思ったが、言葉が出てこずにその背中を見送った


 しかし少ししてその人は僕の方を振り返った。そして歩いてこっちに向かって、そのまま再び同じ椅子に腰掛けた。さっきのような真剣な顔はもうそこになかった。あったのは柔らかい表情だった


「あんたって、これからも何かと戦ったりするのか?」


 急に質問が飛んできて驚きはしたが、すぐに考えて答える


「多分、そうだと思います」


「そうか……それじゃあ、協力させてほしい。あんたと、あんたの仲間との、そのこれからの戦いってのに」


 僕は「えっ」と声を出して驚き、目を見開く。男の人は手を差し伸べるような感じでスマホの画面を見せてくる。その画面にはQRコードが映っていた。それはSNSのアカウントを示したものだった


「協力させてほしい。まあ俺はこういうメールとか、電話とかでしか出来ないが……だけどあんたが受け取るってんなら、受け取ってくれ」


 僕は今の状況の意味がよく分からず少しばかりフリーズしてしまっていた。その様子を見て、その人はスマホを一旦しまい、もう片方の手で今度は本当に握手をするように差し伸べてきた


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は小澤(おざわ)翔也しょうやというものだ。大人が子供に縋るってのも色々とあれだが、よろしく頼む」


「あ…えっと、僕は空閑形真です」


 僕は包帯をぐるぐると包帯の巻かれた腕を上げて、翔也さんの手を握る。少し握手し合った後、連絡先を交換した。そうすると翔也さんは作業が行われている方へ歩いて行った


 そうして僕は、作業が行われているところを静かに見ながら椅子に座っていたが、何も出来なかったので、罪悪感がさらに募っていった


──────────────────


「まじでよく両腕生きてるよね。形の」


 優はベットの近くの椅子に腰掛け、ゆらゆらと椅子を揺らしてそう言った。その後に大きくあくびをし、近くの小さな机においてあるマグカップに入っているカフェオレを飲む


「生きてはいるけど……今後1か月くらいは能力を使えないらしいし、実質的に死んでるんじゃ…」


 僕は優にそう返答する。優は特に興味なさそうに相槌を打つが、どうやらカフェオレが熱かったようで、「熱っ!」と叫んで舌を出して冷まそうとする


 まるで犬の様である


「火傷した…最悪……あ、それはそうと形。能力使えないってことはさ、今後任務とかあったらどうすんの?形的には『変形』が唯一の頼みの綱じゃん」


 僕の能力である『変形』は、両手で持てる生き物以外の全てを変形できる代わりに、使いすぎると複雑骨折してしまうというデメリットを抱えている


 使うごとに腕に痛みが走り、とある上限に達すると複雑骨折してしまう。複雑骨折に至るまでの腕に対する痛みも、僕にしてはとても痛いので、あまり何度も何度も経験したくない


 先ほど、腕の様子をOWAに常駐している医師的な人に診てもらったところ、骨折寸前のボロボロな腕らしい。そしてどうやら、骨折後も能力の使用は可能らしいが、そうするとその後の腕の回復は完全に保証できないとのことだ。しかし……


「一応今の腕の状態であれば、あと3日安静にすれば、能力を使わなければ基本的になんでもできるって」


「そっか…なら良かった。CG-v1とか使えば良いし」


 ちなみに今は、あのカラス達の一件から2日後。そしてここは形兄の部屋の寝室である。つまり僕は2度も怪我的なもので形兄の部屋のベッドで休んだことになる。一応このベッドは今となっては、僕がよく寝ているベッドになっている


 少し優と雑談をかわしていると、扉が開いて形兄が入ってきた。優は形兄が入ってきたことを確認すると、すぐに席を立って早歩きで形兄の方へ行った


「形兄!将g───」


「しない。形真、今立って歩けるか?」


 優は最後まで言わせてもらえず、バッサリ切られたので瞬時にうなだれる。小声で「ツメショウギ~」とか言っているが、はっきりと何を言っているかは聞き取れない


「一応歩けますけど……」


「よし、じゃあついてこい。盾石もだ」


 そうして僕と優は形兄についていって、そのまま数日前に行ったことのある扉の前に連れていかれた。青憂団(せいゆうだん)の主要拠点である


 そのまま形兄がドアノブに手をかけ、扉を開ける。それに乗じて僕と優は部屋の中に入った


 一応主要拠点なだけあって、何人かが椅子に座ったり、ノートパソコンを開いて何やら作業をしていたり、人によっては談笑している人達もいた。しかし形兄はそういう人達に目もくれず歩みを進めるので、僕もそれについて行く


 そうして部屋の一角の扉に着いた。そこには僕が会ったことのない、多分青憂団の女の人が1人、扉の隣の壁に寄りかかっていた。形兄の顔を見ると、その人は寄りかかるのをやめて、こっちに歩いてきた


「やっと来ましたか形司さん」


「遅くなった感じか?」


 形兄にそう言われ、違うと言わんばかりにその女の人は手を大きく横に振った


「いえいえ、ぴったりですよ。ただ、あまりにもぴったり過ぎて逆に微妙なわけですけど……」


 その人はそう言うと、僕と優の方に顔を向けてくる。僕と優の顔を交互に見て、軽く礼をしてきてさらに話始める


「どうも、私は青憂団の幹部の1人。菅原(すがわら)究診(くみ)って言います。この扉の先にある、青憂団の研究所(ラボ)の最高責任者を勤めてます。お二方については参謀…加楽苦郎(からくろう)さんからある程度は聞いてます。では、行きましょうか」


 僕と優は究診さんに対して軽く礼をし返す。究診さんは方向を転換して後方にある扉に向かい、そして扉を開けて僕らに入るように促してくれた


 形兄は「失礼する」とだけ言って扉の奥へ歩を進めるので、僕と優はそれに続く。究診さんもその後ろに続いてくる


 その奥には下へ降りるための螺旋階段があり、鉄の音を一歩ずつに鳴らしながら下っていく。下りながら形兄は口を開く


「ちなみに、今要害さんは?」


「参謀は…昨日カナダの南西支部へ発ったばかりで、今は多分太平洋の真上だと思います」


「そうか……今は補充しておく時期だったか」


 何の会話をしているかはあまりよくわからないが、そうこうしていると結構長めの螺旋階段を降り終える


 そこにはいかにも研究所であるというような、大きく白っぽい両開きタイプの扉があった。形兄がそれに近づくと、その扉はどこからかの電子音がなった直後、大きな音を立てて自動的にスライドして開いた


「ほゎ~」


 優がそう声を上げながら扉の向こうを見上げながら見た扉の先には、今僕が立っている空間とは打って変わって、白い空間、研究所が広がっていた


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