第24話 夜が明ける
僕、空閑形真は今絶賛カラス達と抗戦中である。形兄や優は別の場所にいるので今はいない。しかし今ここにはOWAの隊員ではないが、一般の人達がいる。僕と、その全員で今カラス達と戦っている
そしてカラス達の、おそらく親玉とか主とかであろう大きなカラスと僕は対峙していた。一歩一歩と、いまだ少しばかり痛みが残っている身体を動かす。と同時に僕は今僕自身が持っている、変形という能力の手札を歩きながら確認していた
「まず…武器系か」
刀や銃、多分やろうと思えばロケットランチャーとかもできるかもしれない。しかしそんなのを生成している最中に、大きなカラスからの突撃を食らっては元も子もない。恐らく一番使わないだろう
ただ、捕縛用の何かに変形することはするかもしれない
「あとは、あれとか…」
形兄は肉塊という、指の一本一本から細い肉塊を出現させ、自在に伸縮させることができる、という能力を持っている。その真似的な形で、触手なのか縄なのか、自分でもよくわからないものを変形で生成し、そのまま変形しながら肉塊のように操るということができる。とりあえず肉塊と言うことにする
結構応用も利きそうなので使い勝手はよさそうだが、今日まで自分自身でも変形でこんなことができるとは思っていなかったのが事実である。というよりこんな使い方をしたのも無意識化で、偶然できた!という感じだった
なので上手くいくかどうかはその時の運次第になる、というところが非常にネックになる。しかし今一番効果ががありそうなのはその方法だ
そしてもう1つ、壁を生成すること。今回の任務で今のところ一番お世話になっている、強力かは分からないくらいの手札だ
おそらく、さっきの感じだと肉塊と同時並行で使うことができるだろう。であれば大きなカラスの突撃の威力を上手く抑えながら戦うことが出来るかもしれない
「よし、やろう」
左手の握りこぶしにあるいくつかの隙間から肉塊を変形で出す。どんどん周囲360度の全方向に伸ばし、伸ばした先でさらに枝分かれさせてさらに枝分かれさせて……それの範囲を広げる
可能な限り広げればどの方向から来られても、すぐに対応できるであろうという考えだ。しようと思えばさらに伸ばせるし、壁も作れる。今の状況下に一番適していると思う
目の前の大きなカラスはこの肉塊を警戒してか、こっちをじっと観察して僕へ向かってこない。飛びながら静かに僕の方を見つめてくる。そんな中でも僕はこの状況を維持しながら一歩一歩と歩みを進める。大きなカラスはそれを見て冷静に後退する
「なら…こっちから攻めるっ!」
広げに広げた肉塊を瞬時に変形して左手の中にしまい、そのまま大きなカラスに向かって走る。完全に手の中にはしまわず、半径1mくらいは出したまま走る
僕が走り出した瞬間に大きなカラスも勢いをつけ、降下して突撃してきた。肉塊で地面を蹴って間一髪、突撃を避ける。僕自身は避けられたが、1m伸ばしていた肉塊が少し抉られて持っていかれる。しかしこれといって痛手でもない
避けたはいいものの、突撃のスピードが結構速い。風圧で僕の身体は少しだけ後方に飛んだ。とりあえずは自身の両足を使って上手く着地する
「うっ…くそっ」
足で着地したのは良いものの、着地時の勢いが足から腰、背中に伝わりよろけて膝をついてしまう。痛みですぐに前を向けなかったが、代わりに肉塊の先っぽの方を壁にして、追撃が来てもいいように備える
しかし想定と違い、後方の方の肉塊に何かが当たった感覚がし、反射的に後方の肉塊を変形して当たったそれを絡め取る。そしてその肉塊を僕の目の前に持ってくる
「!?普通のカラス…じゃない。頭が抉れて…」
そうして目の前に持ってきたカラスは、頭が半分くらいなかった。僕がそんなことをした覚えはないし、もちろんどこでこうなったかも分からない。そしてそのカラスは恐らくすでに息をしていなかった。そこで疑問が浮かんだ
「このカラス、なんで動けてたんだ?まるで生きてるみたいに…」
「おい!そっちカラス行ったぞ!」
僕が考えていると、左の方から大きな声が飛んできた。その左の方向には普通のカラス達と、それらと戦っている人達がいるはずだ。その声に従い、左の方の肉塊を壁に変形する
案の定、壁に何度か衝撃が走った感覚がした上、その壁にいくつかの亀裂、それの少しが割れて小さな穴が開いた。その穴からその奥の方向が見える。運よく、戦ってくれている人達の全員は無事なようだった。だが…
「なんだ…?あのカラス、右足がないんじゃ…」
なぜか、カラス達の身体の一部が欠損していた。現在形で結構出血しているカラスも見えた。その中には今さっき見たカラスのように頭部が欠けているカラスもいた。訳が分からない。しかし残念ながらそんなことを深々と考えている暇はない
僕は大きなカラスがいる方を向く。壁と壁の隙間から、奥の大きなカラスが僕の方を未だに睨んでいるのが見える。とても鋭く、いつ見ても怯んでしまう。しかし立ち上がってそれを見据える
「ふぅ…来いよ…っ!」
そう少し叫んで、左の方の壁をなくす。もちろん予想通りその隙を狙っていくつかのカラスが突撃してくる
予想通り、しっかりとそれを読むことができた僕は、突撃したカラス達をたくさんの肉塊を変形させて動かし、全てからめとって1つの大きな肉塊の塊にまとめた
そして、それを頭上で右腕を使い大きく回す。その塊はどんどん勢いを増し、残像が見えるくらいまで加速していく。加速させながら塊を繋ぐ肉塊を伸ばしているので、遠心力で右腕が勢いで吹っ飛びそうだ。両足をどっしり構える
「それじゃあ、ご返却…しまぁす!」
そう言って遠心力で少し右腕が持っていかれながらも、遠心力に任せて塊を大きなカラスへぶっ飛ばした。腕の痛みがもっとひどくなった。結構どころじゃないくらいやばい
腕の痛みと引き換えに結構威力のあるであろう攻撃を繰り出したつもりだったが、案の定大きなカラスに向かうまでにスピードが落ち、簡単に避けられた
同時に普通のカラスがいくつか突撃してきたが、今回は肉塊にも少しばかり神経を割いていたので対応できた
「でも、近づいた」
肉塊とカラスの塊から新たな肉塊が伸び、大きなカラスを再び捕縛した。今度は少し皮を抉った上での捕縛なので、簡単には破壊して逃げることは出来ない
「今度はしっかりと食らわせる!」
もう一度、その捕縛した大きなカラスを頭上に振り上げる。今度はさっきよりも威力を上げるためについさっき塊でやったように、腕を使って……今回は変形を上手く使って頭上で振り回し、加速させる
そして再び変形を上手く使い、振り下ろした。さっき振り下ろしたときよりも大きな、轟音が周囲に響き、地面も大きく揺れる。振り下ろし、大きなカラスが落ちた地面には大きな亀裂が入った
ある程度揺れたので、他のカラス達と戦っている人達の揺れに少し驚いている声が聞こえる
結構威力を上げてしまったので、逃げないように大きなカラスを捕縛していた肉塊が壊れ、大きなカラスが三度も自由になってしまった。そしてさっきより高く飛び上がる
壊れた肉塊から身体の一部を大きく欠損したカラスが何匹も出てきて、落ちてくる。しかし、それらはまるで意識があるかのように飛ぶ。ただ、翼が欠損しているものは落ちていった。どうやらそこのところは普通らしい
「普通に効いてない…?なんか萎えてくるな……」
大きなカラスは、二度の叩きつけを食らっても結構ピンピンしている。疲労も、ダメージも表に出ていない
恐らく、我慢していることはないだろうが、そうすれば本当に終わりの見えない戦いに首を突っ込んでいることになる
能力を痛みなしで行使できるのは今回で最後、このチャンスを逃さず、さっさと今のうちに終わらせたい。しかし、終わりが見えないのであれば気力が落ちてしまう。しかし、やらなければならない
「とりあえず、もう適当に伸ばすしか…」
手札はある、しかしその手札を行使するための状況が来ない。行使できたとしてもそれが上手く状況にハマって、対象へ効果的に働くとは言えない
とりあえず肉塊を大きなカラスの方へ伸ばすが、これといった速度もないので大きなカラスとその周りの欠損しているカラスは簡単に避ける
なかなかに無駄な行為をしている。しかし特に体力を使ってもいないのでやり得ではある。なので、最低限ここで食い止める。ちらりと、左の方を目で見る
「みんなは…大丈夫そうか。じゃあ…」
肉塊を変形させることに神経を集中する。と、大きなカラスが大きく鳴く。耳の鼓膜を刺激するような感覚がし、急いで両耳を塞ぐ
「な、なん…なんだ…っ!?」
そしてその隙を見計らって、普通の大きさのカラス達が突撃してくる
「くそっ!」
耳鳴りがし顔が歪んでいるが、左手で変形を行使し壁を生成する。カラス達はしっかりと壁に当たり、壁は壊れる。そして見える
「!?お、多すぎだろ!」
生成した壁が死角になり気付かなかった。一瞬のうちに大きなカラスはカラスの援軍を読んでいた。そしてその全てが突撃の用意を終え、今にも来そうな雰囲気だ。よく見ると、一部のカラスは身体が大きく欠損している
急いで再び壁を生成する。そしてカラス達は突撃してくる
壁の強度はさっきまでと同じだった。カラスの突撃に対しては耐えることができるほどの強度があったはずだった。しかし今回は1つの壁につき4匹くらいのカラスの突撃だった。物量でごり押しされ、壁は破壊される
そして突撃の勢いが残ったカラスもおり、そのカラス達はそのまま僕へ突撃してくる。とっさのことで壁の生成も出来ず今までの中で一番近距離のところへの侵入を許してしまう
回避行動をとろうにも、この量だと直撃は避けられない。絶望的だ
ビビって両腕を顔の前にかざす。意味はないことは分かっているが、本能的にこの行動をとってしまう。直撃したらどうなってしまうのかは、あらかた予想はついていた。しかしこうなってその状況になると、怖い
「終わっ…!」
その瞬間、僕の目の前に青白く透明な壁が右側から飛んできて、地面に突き刺さった。驚き、呆然とする
その壁にカラスが何匹もぶつかり、勢いをつけて跳ね返る。そして気付く。その壁は壁ではない、壁でないそれを、僕は知っていた
「間一髪、セーフか。やっと来れた」
そして右側から銃声が聞こえ、それ越しにカラスが4匹くらい連続で、翼を撃ち抜かれ落下する。僕は瞬時に右の方を見た。目に入った光景に驚き、大きく目を見開く
「よっ、形。応援に来たよ!」
目線の先には、銃を握った右手を額にかざし、まあまあのどや顔でこっちを見ている優がいた。今手に持っている銃でカラス達の翼を貫いたようだ
優の銃捌きを見たことはなかったが、こんな命中率が高いとは思わなかった。しかしそんなことはどうでもいい
「ゆ、優!」
優は左手に盾を構え、カラス達に威嚇射撃をしながら小走りで僕の方へ来た
「結構周りボロボロ……ちょ形!?ど、どしたのその頭。血ドバドバじゃん」
「え、」
右手で急いで頭を触る。すると、ぬちょっと、液状の何かの感触がする。右手を視界に持ってくると、優の言う通り血が付着していた
血の気が引いた。もう結構引いているが
自分でも、よくこんな状況下で動けていたなと思った。多分、さっき大きなカラスの突撃に直撃して壁に背中から激突した直後、視界が暗転しかけたのはこのせいだったのかもしれない
みんながこうして心配して、戦いから遠ざけようとしてくれていたのも、この怪我を見たからかもしれない。一層、申し訳なくなる
「いや、まあ止まってるっぽいか……で形、あのデカいのが言わば────」
「うん、たぶん主的なやつ…だと思う」
「思うって…まあ形がそんな重傷ってことはそういうことなんだろうけど。じゃあ形」
「ん?」
「私が今から盾とCG-v1を両手に、カラスの方に突っ込む」
優の台詞に驚いてしまう。優であれど流石にあのカラス達の四方八方からの突撃から、無事に帰ってこれるとは思えない
「え、流石にそれは…」
「で、形は私の後ろから援護ってことで。じゃやろう」
そう言って優はさっそく走り出す。結構無駄に広がっている肉塊を、優は最小限の動きでヒョイヒョイと避けながら前に走る。そのままカラス達の真下にすぐ着いた
優は着いた瞬間に下からカラスに向けて引き金を3度引く。しかし今回はカラスに対しての不意打ち射撃ではないので簡単に避けられた
「やべ、弾切れ」
……いや銃弾を避けるカラスとは何なんだ。しかも欠損のあるカラスが避けている。さっきまでのカラスは手を結構抜いていたというのだろうか
しかしどうやらカラス達が避け、流れ弾となった弾丸のうちの一部が大きなカラスに命中した。やはり図体が大きい分、避けにくかったりするのかもしれない。しかし変わらず怯まない。なんだか俄然やる気がなくなってくる
「ちょ形!援護援護ぉ!」
僕が謎にやる気をなくしていると、優の怒声が飛んでくる。瞬時に優の方にしっかりと目線を向けると、数匹のカラスが何度も急速な上昇と下降を繰り返しながら優に突撃しているのが見えた
それを見て、僕は慌てて肉塊を優の方へいくつか伸ばす。そして2匹くらいのカラスに対してさらに伸ばし、優へ直撃しないように上手く妨害する。他の3匹は普通に優に突っ込んでいく
優は負担が減ったことで、盾や銃やらで軽くカラス達をあしらう。3匹、それでも四方八方から何度も何度も突撃される。それでも優は銃で勢いを殺したり、盾で防いで優自身の足で吹っ飛ばないように踏ん張っている
圧倒的にジリ貧な状況、そしてこの状況を最近見たことがあった。その時は結果で見れば良く終わったが、その時の優は結構追い詰められていたはずだ。たとえ撃たれてかすり傷で済んだ優であれど、今回ばかりは本当にまずいかもしれない
ふと、大きなカラスの方を見るために視線を上げる。上にはさらに多くの普通の大きさのカラスが、大きなカラスの周囲を囲み僕らの方を見下していた。一応10匹くらいである
僕は今足止めしていたカラス2匹を瞬時に捕らえて籠に入れた状態にする。その後肉塊を優の方に伸ばし、優に突撃しているカラス3匹も捕らえ籠にぶっこむ。そしてさらに肉塊を優の周りへ伸ばす
「優、上っ!乗って!」
その僕の声に反応し、少し上を見て飛んでいるカラス達との距離感を確認する。僕が肉塊を段々にカラスの方に伸ばす。優は確認直後、1つの肉塊に飛び乗り、再び他の肉塊に飛び乗る。それを何度も何度も繰り返し、優は上へ上へと登っていく
僕はそれに合わせて肉塊を新規に伸ばしたりして、登ることをサポートする。登っている最中にいくつかのカラスが優へ突撃していく。しかし優は銃でそれを冷静に撃ち落とす
「っ…ここで弾切れ!?」
15mくらい登ったとき、優はそう叫んだ。今優が乗っている肉塊は安定性に欠け、カラスの突撃を受ける可能性があるのでその場で弾丸を装填するなんてことはできない
「止まるな、登れ!」
僕は優に言い放つ。優はそれを聞いて再び飛び移り始める。その最中に再びカラス達の突撃が来るが、優は結構ギリギリで避ける。優の額に冷や汗が伝っているのが見える。そうして優はどんどん登っていく
「はぁ…はぁ……今どこら辺────!?」
優は現在地点を確認するために上を再び見上げる。そこには大きな翼を広げた大きなカラスがいた。優の方向、つまり下を向いて急降下を開始していた。結構な速度で降下しており、すでに優の目の前にいた
「やばっ!」
優は盾を構えて防御の体勢に入る。カラスのくちばしが優の顔面に当たる────
その瞬間、大きなカラスの周囲に肉塊を纏わせ、瞬時に大きなカラスをその翼ごと捕縛する。捕縛した肉塊が大きなカラスの身体に微量にめり込む。そのまま肉塊を振り下ろすように勢いよく変形する
2度あることは3度ある。そのまま大きなカラスは地面に大きく叩きつけられ地面が大きく揺れる。めり込んだ肉塊と相まって威力が強まり、大きなカラスはさっきよりも大きく悲鳴のような鳴き声を上げる
「ゆ────」
僕が声をあげようと上を見上げると、すでに肉塊から勢いよく跳び、大きなカラスの真上にいた優が目に入る。優は、優にしては中々に大きな盾を両手で大きく振りかぶって持っている
「サンキューね形!ちょうどいい隙でCG-v1の装填できたわっ!」
優は大きなカラスの上に勢いよく着地すると、持っている盾の縁を大きなカラスに垂直に勢いよく突き刺す。瞬間、大きなカラスから今までにないような奇声の鳴き声が周囲に響く
僕は思わず肉塊の元から手を放して両耳を塞いでしまう。優はそんなことに臆せず、拳銃を下敷きにしている大きなカラスの腹部に向ける
「王手で…詰みだね」
優は瞬時に引き金を4発ほど撃つ。流石に全ての弾丸は大きなカラスの腹部に命中し、大きなカラスはか細い鳴き声を少しだけあげた後……
全身から力が抜けたようにゆっくりと崩れ落ち、完全に動かなくなった




