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再生のプロローグ  作者: 出落ちの人
憂と剣
19/19

第19話 黒く染まる

 僕、形真(けいま)形兄(けいにい)と行動を共にし、人通りが多い道を歩いている。ここにはOWAの任務で来ているはずだが、僕はその任務の内容を知らないし、なんならかなり早く着きすぎて2時間程度の自由時間ができるほどで、それによりこれが任務だと感じがたい感覚が僕にはあった


 ちなみに今行動を共にしている形兄と、今は行動を別にしてはいるが、(ゆう)も恐らく任務の内容を知っている。いつか聞こうとは思っているが、その「いつ」というものがいつなのか分からず、悩んでいた。今は自由時間、気分的にも上機嫌になりやすい今、任務のことを聞けば、まるで現実に引き戻してしまうかもしれない。任務の時に聞くと、すでに遅いかもしれない


 考えているうちに、あっという間に2時間という豊富であろう時間は過ぎ、3人全員が集まることになった。結局任務の内容を聞けることはなく、行動を始める時間になった……わけではなく、行動を開始するための前準備をする時間になった。実は、さっきまでの自由時間は(形兄のみ)聞き込みをするための時間で、今から始まるのはOWAからの情報とのすり合わせと、各自どこに張り込むか決める、いわば作戦会議というものらしい


 全員で近くの公園に集まった。そういえば今日は七夕である日曜日の大体3時頃なのだが、人通りが少ない。35度もあるのも理由の1つだろうが、目に入る人込みの人の数が最大15人いるかどうかといった感じだった。少し疑問に持ちながらも作戦会議が始まった


「さて、今から情報のすり合わせをしていくわけだが……お前のそれはどうするんだ?」


 形兄の目線の先には優が、たくさんの袋を四方に乱雑に置いて座っていた。その全てがぱんぱんに詰められていて、中にはいくつか大きめのレジ袋のものもあった。どんだけ買い溜めしたのだろう


「え?あ、どうしよ。何も考えてないや、張り込み場所に持っていこうかな……あっ、張り込み用の食べ物もあるから、はい」


 優は袋の1つの中を探り、いくつかのおにぎりやパンと、ペットボトル飲料をくれた。結構な暑さもあるからか、貰った飲み物は完全にぬるくなっていた。僕はとりあえずペットボトルの蓋を開けて、一口は飲んだ


「改めて、話していくわけだが。新しく手に入れた情報はなにかあるか?」


「いや、特に既存の情報となんら変わらなかったよ、みんな結構心配してた。強いて言えば、ここ数日で急にカラスが増えたみたい。多分この感じだと被害がひどくなるかもしれないってところだと思う」


 カラスが増えた、不意に空を見上げてカラスを数えた。言われてみれば、よく見るような空と違って青空を隠す黒い点々が多いように感じる。カラスの被害と言えば、生ごみを漁ることだったりが代表的なのとして思いつくが、この付近に生ごみを捨てて収集車を待つだけの場所は見当たらないし、生ごみのポイ捨ても見当たらない


 となれば他の被害ということになる。他で思い当たるのは農作物だとか……それも全部当てはまらない。そういえばしかもOWAが動く事態でもある。単なるカラスの被害だと説明がつかない。これは今聞くほかない、というよりさっさと聞かなければならない


「あの…今回の任m」

「俺が入手した新しい情報だと、被害は一定の範囲。基本この街の中心の半径300mにまとまってるということ、それと……」



「普通のとは別の大きなカラス、恐らく(ぬし)的な何かがいる」



「普通より大きい?」


 どうやらカラスの大量発生、および被害はその主っぽいカラスによって引き起こされているようだ。ただ、その例のカラスを目撃したのは形兄が確認できただけで3人のみで、運が悪ければ見間違いの可能性も無きにしも非ずらしい。今回の任務の最終目標は「そのカラスの捕獲または討伐」ということに決まった


 なお僕は最終目標も何も、最初の目標も知らないので最終目標の遂行に至る前に任務からリタイアしそうな感じがした。形兄に続いて優が話し出す


「───だとして、じゃあ張り込み場所は街の中心、その周囲ってこと?でもだとしたらカラスが行動を起こしたときすぐにカラスたちを捕獲できるような良さげな張り込み場所がなさそうなんだけど……」


「そうだな、屋上を借りようにもOWA(うち)について基本的には認知されちゃならない。そう考えると張り込めそうな場所がちょうど3か所しか残らない。しかもこっちがすぐに行動に移れないところしかきれいに残らないか……」


 1つ考えが浮かんだので手を挙げて話してみる


「……えっと、正吾さんから隠しカメラみたいなのもらってどこに張り込んでも良いようにするとかは……」


 それを聞くと形兄はスマホのロック画面を見て今の時間を確認する。ちらっと見えたのだが、どうやらもう作戦会議を始めて30分前後経っているようだった。形兄もそれを確認すると答えた


「張り込みの開始予定時刻まであと30分程度……正吾からカメラをもらって、それを設置するために場所を探して、発見されにくいように上手く設置、その後に張り込み場所に移動。正吾からカメラをもらうだけで20分以上かかるな……そうなると予定より大幅にオーバーするかもしれない。その時にカラスによる被害が起きたら対応が難しくなる可能性だってある。結構リスキーだ」


 3人全員の考えが尽きてしまい、僕はうつむき、優は頭をかきむしった。カメラを今ここで速攻手に入れられる何か、能力でもいい、何かがあれば────ん?


 形兄も気付いたようで僕の方をじっと見つめてきた。優はどうやらピンときていないようで、首をかしげている。僕と形兄の声が重なる


変形すれば(作れば)いいじゃん」

変形すれば(作れば)いいのか。単純な話だったな」


──────────────────


 薄暗い灰色の空間、ここがどこかはさておき、そこには地上から続く階段があり、空間を心もとない弱い光がほのかに照らしている


 カツン、カツン、と何度も階段の上から誰かが下りてくる音が聞こえる。下からは逆光で顔こそ見えないが、シルエットからの体格を見るに、どうやら男らしいということが誰からでも分かる。男は階段の最終段付近に差し掛かると、数段飛ばして着地した。が、どうやら失敗したようで少しばかり転げた


 目線の先には6畳程度の空間とエレベーターがポツンとあった。男はエレベーターの隣にあるボタンを押した。静かに扉が開く。男の姿が青白い光で照らされ、顔が真に露になった。鍵山正吾(かぎやましょうご)、彼である


 正吾は特に迷わずエレベーターに乗った。エレベーターの内部は先ほどの空間よりも圧倒的に明るく、青白さで正吾が目を細めるほどだった


 少し浮く感覚に体を支配されていると、目の前の扉が開いた。正吾は再び薄暗い空間に足を踏み入れ、一息ついた。ふと左奥に目を向けると、壁に背中をかけた青憂団(せいゆうだん)の幹部の1人である要害(ようがい)加乱苦郎からくろうが目に入った。正吾が自身に気付いたと悟ると、加乱苦郎は口を開いた


「悪い、あの日すぐに尋問に移りたかったんだが……残念ながら先着で埋まっていて開いてるのが今日しかなかった。しかも尋問可能時間が30分ほどしかとれなかった」


 正吾はあくびをし、特に関心を示さないような顔で返答する


「別にどうともしねえよ。最近よく寝れてなかったからな、2日くらいちゃんと寝れたんでプラマイゼロだ。じゃ、行ってくるわ~」


 正吾はそれだけを言い、足を前に進める。加乱苦郎を通り過ぎるとき、加乱苦郎は一言正吾に小言を言った


「上手くやってくれよ」


 正吾は特に返答もせず進んだ。道を迷ったり、色々なものを適当に見ることもなく、ただ真っすぐに目的地へ突き進んだ。目的地に到着すると、やはり灰色である重々しい扉があった。それをゆっくりと開け、中に入る。部屋の真ん中には扉と平行の形で壁があり、上部はガラスになっている


 部屋には椅子が2脚あり、壁をはさんで向かい合っている。部屋には窓と言えるようなものもなく、非常に湿気が多く空気が悪かった。壁の向かいの椅子には1人男が座っており、両手を固く結んだ状態でうつむいていた。男は正吾が入ってきたことに気付くと一瞬正吾の方を向いたが、すぐにうつむきなおした


 正吾は目の前の男の行動を見はしたが、特に気に留めず椅子に向かい、静かに座った。着席の直後の正吾の顔は怪訝そうな顔だったが、作ったのか、自然なのか、急に形真らがよく見るような薄ら笑いに変わった。その直後口を開いた


「へっ、調子はどんなもんだ?頭はちょうどよく冷えてるか?」


「……おかげさまでな。お前に閉じ込められ、お前の仲間らにこんなガチガチの牢に閉じ込められて、最高の気分だ。何の用だ?大体目星はついているが……」


「それなら話が早えな。いくつか質問したいことがあったりなかったり……んまっ、とりあえず穏便に済ませよう」


 その後、正吾は男に質問攻めをしていった。男はその過程で自身を白頭(はくとう)と言う名前だということ、自身は「能力の気配とその元を完知できる能力」を持っていることを明かした


 どうやらAT(アニマルトレード)は正吾の外部からの調査の通り、創設より10年ほどはその名の通りの正式な動物の郵送は行っていたが、数年前ほどにとある人物の誘いにより今のような違法取引に手を染めるようになったらしい。普通の動物の違法取引だけでなく、能力を所持する動物、ごくまれに人身売買のようなことも行ったらしい白頭によると、とある人物という者の名前などの情報もなく、何らかの検討のつくこともないようだ


 次に正吾は音信不通になったOWAの隊員の所在、および安否の確認をした。しかし、正吾の微かな希望とは裏腹に、彼は最悪の答えを聞くことになった。彼とその隊員との関係は今となってはほぼ知る由もないが、正吾にとってはかなりきつい真実だったのだろう。顔を大きくゆがめ、強く大きく、一息をついた


 それから正吾は様々なことを聞いて、この尋問は終わりを迎えた。首を鳴らしながら白頭は正吾に聞いた


「聞きたいことは十分聞けたか?」


「……聞きたくないこともな。これからの地獄を楽しめよ、死にたくても死なせてくれない。じゃあな、今後会うこともないだろ」


 正吾はそう言い放ち席を立った。数歩歩き扉に手をかけると、白頭が「そういえば」と一言切り出した


「あんだあ?遺言なら一言聞いてやらんでもないが…」


「そうだな…遺言としよう。1つ、大きなことを言い忘れていた。下手をすれば大勢の負傷者が出るかもしれない」


──────────────────


 想定通りの形と量の隠しカメラを僕の変形の能力で作ることができた。その後、カメラの配置場所を探し、3人でほぼ均等に配分して各場所に配置した


 張り込み場所に着いたころには5分くらいの遅れが生じていたが、正吾さんからカメラを受け取るよりも数十分早くなったので、少しはプラスになった


 一人一人の張り込みは結構近い。とはいえ場所にいるのは1人、少し心細さがある。張り込みは基本1点に集中しなければならない。その隙に後ろに回られた様子を考えると────


 少し怖い


 今僕は被害のある周囲300m圏内の全体が見えやすい、公園の縁の歩道にいた。形兄は近くのコンビニの駐車場にあるフェンスに。優は商業ビル的な建物の3階の窓際にいた。空を見てみると、東の空はすでにオレンジ色にほんの少しだけ侵食され始めていた


 それをぼーっと眺めていると、奥に黒く小さな点々が現れ、徐々に大きくなっているのに気付いた。目を凝らしてみると、それはカラスの大群だった。恐らく例のカラス達であろうとはすぐに分かったが、それよりも驚愕と恐怖の感情が先に湧き上がってきた


 カラス達は一瞬にしてまだ青々とした空を、夜空のような真っ黒に変え、被害が多い300m圏内に到着すると、電線や街路樹の上、多くの建物の屋上など、様々なところに止まり、その全てのカラスが俯瞰しているかのような(多分実際にしている)雰囲気をしていた


 目の前の様子に呆然としていると、右手に握っているスマホから声がした。優だ。何かが、起きたとき用に一応スマホの通話は繋いでいたのだ。恐らく優もこの光景を見ているのであろう


『カラスの大群……で合ってるんだよね。ちょっとさすがに多すぎない?事前に入ってる情報とあまりにも違いすぎるけど……』


『そうだな、初期想定だと10羽程度だったんだが……だとしても急激に増えすぎか』


 優と違って形兄はしっかり状況の整理ができているようで、結構冷静だ。今更ながら歩道などの周りを見てみると、歩行者は1人たりとも見当たらず多くの店の入り口にシャッターがかかっていた。このような状況が何日も続けば、それはこういうような対応をするのが妥当だ。僕はまだどんな被害があるのかよく分かってはいないが、恐らくマーキング的なことをした人に対してこの大量のカラスの全てが一斉に襲ってくるということなのかもしれない


 あれ……そういえば僕らは誰一人としていないところに突っ立っていたりするってことになるのでは────と考えると背筋が急に寒くなってしまった


『……動き、全くないね』


 またスマホから優の声がした。そう、優のいう通りカラス達が大量に集まってから5分くらいは経っているはず、それなのにただ一匹たりともその場から飛び立とうとすらしていないのだ。シャッターがしまっているからなのか、だとしても実質無防備な僕らに向かって来ないというのはどういうことなのだろうか


『ちょ、ちょっ……上、上!』


 再び優の声がしたが、今度は困惑の声色だった。その緊迫した勢いにつられて上を見る。そこには巨大な黒い影があった


──────────────────


「大勢の負傷者あ?お前ら何やらかしやがったんだ」


 正吾は白頭に不信感を抱きながら、それを顔の前面に出しながら聞いた。それを聞いた白頭は右手を自身の顔の前に持ってくると、1つ、2つ、3つと指で数え始めた


「────3体、いや4体だったか?よく覚えはないが……」


「3体?何言ってるかわからんからさっさと結論から話してくれ。この尋問自体も時間がもうほぼほぼないんだ」


 白頭はその言葉に乾いた笑いを見せ、頭をかいた。「そうだな」と一言おいて結論のようなものを話し出す


「お前らがこちらを制圧しに来る5日ほど前、ATは大きな商品を謝って世に解き放ってしまった。最低で3体、カラス、オオカミ、ゴリラ…最悪後1体いるといったところだな」


「そいつらが負傷者を出すってか?」


「……結論は話した、もういいだろう?」


 バカにされたと思ったのだろう、正吾は「あ”あ”?」と言い白頭を強くにらんだ。白頭が少し笑いながら、今のは冗談だ、と弁解したことにより正吾の心の怒りは少し沈んだ。が、正吾の顔は不機嫌なままだった


「先ほど言った通り、ATは能力を所持している生き物も取引に使っている。今回解き放ったのはその中でも大きな力をもつものたち。しかも能力の使い方も上手い上に謎に知能も持ち合わせている。一般市民にとっては非常に大きな脅威になる」


「そいつらは能力1つ持ちか?」


「ああ、2つ持ちはめったにいない、いや一度もないな。人生で一度は拝んでみたいね。そんな運の良い生き物なんざ」


 正吾の顔が少し緩み、安堵が見える。しかしすぐにその顔は険しいものへと変わり、厳しい眼差しが白頭に向けられた


「で?そいつらの所在は?」


「分からない、ただ1つ言えることがあるとすれば、恐らくカラスはすでに被害を出しているかもしれない」


 再びカラスという言葉を聞いた瞬間、正吾の脳に入っているうちの1つの記憶が反応した。その記憶は数日前でも、昨日でもなく、今日であり、しかも数時間前のものだ。正吾の顔に冷や汗が1つ垂れる。それは無情にも小さな音を立てて滴った


──────────────────


 空に大きな影が現れた瞬間、周囲に止まっていとカラス達、その全てが鳴き出した。中には翼を何度もバタバタさせているものも見えた。まるでそれの到着を強く祝福しているようだった。急で、異様な目の前の光景に恐怖を覚えていると、ついに黒い影は地面に降り立った。それは───


 虎と同じくらいの大きさがありそうで、それの目を一瞬でも見るとそれだけで気絶してしまいそうな気迫を持った……大ガラスだった


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