第15話 調査開始
「・・ねえ、優里。私やっぱりやめていい?」
「いや、ここまで来たのにやめて帰るの?とりあえずは入ってみてもいいんじゃない。あなたの親戚なんだし。まあ正吾がやれって言ったんだし、やめてみてもいいかもね」
盾石優と志田優里は、盾石優の親戚の家、その玄関前にいた。目的は、ATという動物の不法飼育をしている団体について、知っていることがあるかを聞くために来ている。しかし優、この家の家主と関係があるであろう彼女本人は明らかに顔をしかめ、拒否反応を示している
優里はそれにすぐに気づくと、手を伸ばし優の肩に静かに乗せる。優里は優に何か声をかけようとするが、口を少し開けてそれで口を動かすのを止めてしまった。それがただかける言葉に詰まったのか、彼女の気持ちを察したのか、少しするとすぐに笑顔に変えて口を動かした
「行こう」
「・・うん」
優里が玄関に設置されているインターホンを押す。インターホンにはカメラがついているのでこちらの動向が一方的に見られている可能性を危惧して、優里は少し演技を混じらせる。インターホンの奥から「はーい」と、女性の少し若作りしたような声が聞こえる
「すみません。こちらに菊池由子さんはいらっしゃい──」
「あ、え!?優ちゃん!?ちょっと待ってて、今カギ空けるから」
家の中からドタドタと大きな足音が聞こえ、鍵がガチャリと開けられた音もした。ドアの奥に少し体格のいい人の影が見える
「・・だから嫌なんだよ」
扉が乱雑に開けられ女性の姿が明らかになる。全体的にふくよかで顔の化粧は多少濃く、特にリップが血のような深紅の色をしていた。彼女の顔はとても笑顔に満ちておりその目はまっすぐ優を見据えていた。優は露骨に顔を背け、
「久しぶり優ちゃん!えーっと、あなたは初対面ね・・とりあえず中に入って!」
彼女は菊池由子。優の叔母であり、彼女が能力を発現させるきっかけになった女性である
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「さて形真、俺らの仕事をおさらいしよう。これから何をするんだっけ?」
「えーっと・・あの山に登って9機のドローンを、各県ごとに3機ずつ飛ばして特定をするでしたっけ」
「そう、んであれは山じゃない、奥羽山脈っていう立派な山脈だ。ズルルルル~、うめえ」
OWAの寮の正吾さんの部屋から出発して3時間後。今僕、空閑形真と鍵山正吾さんは駅の近くの適当なお店に入って軽食を取っていた。まあ、実際に軽食を取っているのは正吾さんだけなのだが
「うし、食った。じゃあ出発しようか」
店を出るとOWAから手配された軽自動車に乗り込み目的地である山脈の頂上へ正吾さんが車を走らせた。持ち物は2人で分けて持ち、車に入ったときに後部座席に広々と置いた。車が揺れるとそれらも揺られ当たり合い、かすかな金属音が聞こえる
数十分車を走らせると、奥羽山脈、その山脈の山道を走り始めていた。道はしっかり整備されており、どうやらダムも建設されているようだ。道は森で囲まれ、道は何度も何度も曲がっており一本道なのに迷ってしまいそうだった。ふと、山の上の建物に目が留まる。スキー場のようだ
「え・・スキー場に行くんですか?」
「まあこの道はあそこに直通ではある。が、スキーはしないぞ。まず今冬じゃねえだろ」
少しするとトンネルに入った。200mほどの短いトンネルだ。定期的にある照明がほんのりトンネルを照らしている
「昼にしてもトンネルは暗ぇな。この感じだと山を下りるころは結構気を付けて下りないとまずいことになりそうだな」
「そう、ですね・・・え?今の・・」
「あ?どした、なんか居たか。ATに関連しそうな何かとかよ」
「あ、いや・・なんでもないです」
「はぁ、なら別にいいんだが・・」
そんなはずない、絶対に気のせいだ。こんな山の中に古い服を着た人が1人でいるなんて・・・
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山頂についた。今は大体午後5時を回ったころだ。太陽は傾いてはいるが、空が赤く染まっているわけではない。ドローンの離陸準備も終わり、作戦の開始が目の前に来ていた
「正吾さん、準備できました。いつでも離陸させれます。そういえば優からの連絡からって・・」
「まだだな。想定より遅い・・俺らが山頂につく前に連絡がくると踏んでいたんだがな。実はその親戚がATに関係してたとかはないだろうな・・・いや、優里がいるからそこらへんは大丈夫か。まあいいか、よっしゃ。形真、離陸を開始してくれ」
その命令に従い、ドローン9機を目的地へと飛ばす。そのドローンらは全自動の機能がついているのでとりあえず今のところは僕たちがドローンに対してアクションを起こすことはない。そのため、ここから数分はドローンが対象となるものを視認するまで暇な時間が訪れることになった。僕は正吾さんに色々聞きたいことがあったので聞いておくことにした
「俺の能力が気になるか?だよな、そういう顔してんだからな。バレバレだぜ?OWAにいる限りは最低限の演技は出来ておいたほうはいい」
「え、あ、はい・・」
一瞬OWAはエスパーの集まりなのかと思ったが、どうやらそういうものが普通のような気がした。が、思い返すと優もそんなことしていた。となると僕だけ置いて行かれているのかもしれない
「俺の能力はだな、いうなれば「隠密」っていう能力だ。気配は消せる、射線や射程は分かる、まあ他にも色々と隠密行動に長けた力を使えるぴったりの能力・・こういうときのためにしか役割がない、つまんねえ能力だ」
「・・役割が明確なだけいいじゃないですか。僕の能力なんか役割が分からなくて今までも、これからも使い方を悩んでいくんだと思うので・・」
少しすると、正吾さんが出していたパソコンが鳴る。離陸した9機のドローンのうち1機がとある小屋を検知したらしい。その小屋にはどうやらその小屋の周りと比べて、大型の生き物の生命反応が非常に多く大型動物が多くいる可能性が高いとの解析結果が出たようだ
「なるほど、ここっぽいな。さっき登ってきたところの反対か・・・もう暗い、さっさと下って任務を終わらせよう」
他のドローンのうちの一部をその小屋に向かわせ、その他のドローンは回収しさらに他の道具を片付け車に積みその場を出発する。さっきのトンネルにいた人について知りたい気持ちもあったが、行き先が反対なので僕のなかで断念させた
山頂に登って1時間経ち、少し日が落ちかけてきていた。空は少し赤くなりかけていたが、下りるために軽自動車を走らせている道は森に囲まれているため、なかなかに暗くなっている。その時、正吾さんのタブレットが何度か鳴った。どうやら優里さんからの電話のようだ
「もしもし優里か。こっちは小屋の位置特定はできたんでそこに今から向かう。そっちはどうだ?なんかいい情報ゲットできたか?」
『いや、そっちみたいに真新しくて欲しい情報は得られなかったよ。まぁ・・聞きたくない情報を得ることになったけど・・とりあえず私たちは先に帰っておくよ、それじゃ』
そういって電話は切れた。しかし、正吾さんは聞いておきたいことがあったようで、声を荒げる
「あ、おい!ちょっと待て!くそっ、切るの早すぎるだろ。あいつら帰る用の金持ってんのか・・?」
そうこうしていると目的の小屋の近くについた。辺りはもうすっかり暗くなっており、時刻は6時半を回っていた。小屋には窓などといった外から中をのぞくことが事実上可能なものがなく、周囲の建物と比べ異質さがにじり出ていた。僕からしてみれば小屋というか大きさ的には倉庫に近い何かを感じる
運良く、小屋の入り口であろう扉が少し開いていて中の光が外へ差し込んでいた。僕はそこへのぞきに行こうと思い小走りを始める。が、数歩走ったところで正吾さんに肩をつかまれた。そのほうを振り向くと、もう片方の手の人差し指を唇に当てている正吾さんがいた。僕は小声で話す
(なんで行かないんですか?あそこから観察できるじゃないですか)
(・・あそこを見てみろ)
正吾さんはそう言ってとあるところに指をさした。恐る恐るそこを見ると、2つの防犯カメラらしきものがあった。防犯カメラと言えば、犯罪の瞬間を捉えるのに加えて見ているという緊張感による犯罪の抑制の役割があり、人眼のつきやすいところに設置することが多い、ということをいつかどこかで聞いたことがある気がするような気がする・・・定かではないが
その防犯カメラは少し黒っぽい色で着色され、小屋の軒下の裏につけられており、日中でも場所的に軒が陰になって非常に見づらいように設置されている。今僕は見えているように感じるかもしれないが、実際は正吾さんに教えてもらうまでは気づいておらず、教えてもらった今だとしても目を今までにないくらい一生懸命凝らすことで薄っすらと見えるくらいに見えない
(俺の能力があって命拾いしたな。俺の能力は射線視認の応用で俺自身も気づいていない防犯カメラとかの視界も見ることができる。ちなみに、俺もついさっき気づいたとこだ。防犯カメラがないように見せかけた罠、結構なやり手だ。下手によくわからんところに隠すよりもよっぽどマシだ)
正吾さんは僕の肩から手を外す。車の前方でかがんで身を隠し小屋を観察する。僕もそれに乗じてしゃがむ
(バレてもいいってわけじゃない。この任務の一番の目的は潜入と調査、戦闘による壊滅は調べがついた後の二の次。物事には順序ってのがあるんだ、よろしく頼むぜ)
しばらく観察していると扉が重々しい音を響かせながら開いた。扉からは大型のトラックとそれの周りにつきながら進む人たちが出てきて、そのまま人たちは荷台に乗り込んでトラックごとどこかへ出発していった。トラックの排気音が夜の空へ虚無のように消えていく。扉は閉まり始めていた
「よし、行くぞ」
「え、とりあえず見るんじゃ・・ま、待ってくださいよ!」
こうしているうちにもどんどん閉まっていく扉に向かって正吾さんは歩き出していた。さっきまで僕のことを止めていたはずなのにそれをあっさりと忘れたようにずんずん進んでいく
(防犯カメラ大丈夫なんですか!?見つかっちゃうって言ったのは正吾さんなんですけど)
(あぁ、俺はそういったな。心配すんなって、こんなところでへまをする俺じゃない。一応今はカメラの視界にこっち側は入ってない。だから今行く、真不明瞭)
正吾さんが何かを唱えると、正吾さんの体の輪郭が不明瞭になり、さらに体全体が半透明に透ける。僕自身の体にも何か冷たい何かが走ったのを感じた。自分の手を見ると僕の手も半透明に透けてきていた。が、完全に透明になってはいないし、なることはなかった
(半透明・・・?これが何になるんですか、結局見えているに変わりない気がするんですけど・・)
(大丈夫、大丈夫、見えてない。これは透明になってる奴から透明になってる奴を見ると半透明に見えるっていうよくわからんシステムがある。ま、声は普通に聞こえるから静かにな)
よくわからないが、とりあえずは大丈夫なようだ。そのまま扉へ向かい、ぎりぎりのところで中に侵入することができた。侵入・・いや、調査をしに来たんだ。僕はそう割り切ることにした
小屋のなかは外から見ていたよりも案外広く、暖色の照明が小屋のひんやりとした鉄の壁やコンクリートの床を照らしていた。中にいる人は、さっき出て行った人も結構いたからか、10~20人程度しかいなかった。全員何かが入った段ボールをいくつか抱えながら小屋の中を歩き回っていた。僕と正吾さんが中に入っても誰も見向きもしないということは、本当に他の人からは透明になっていて見えないようだ
(さて・・どうしたもんかな。動物は・・・報告通りだな)
正吾さんは静かに辺りを見渡すとそうつぶやく。辺りには大きな檻がいくつか壁に沿って設置されていた。檻の大きさは、ざっと見たところ、象が2頭入るか否か。そういったところだ。そしてその檻のなかには、多くの動物が収容されていた
(これが・・じゃあさっきのトラックって)
(あぁ、何か大きめの動物を運びに行ったんだろ。多分、トレード目的・・・とりあえず脇にそれて観察しよう。調査、開始だ)
正吾さんの口角が、少し上がった気がした




