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再生のプロローグ  作者: 出落ちの人
入隊編
1/17

第1話 628

 ここはどこなんだろう、


 眩しいのか3歳そこらの少年は目を細める。隣には母だろうか、女性が少年と手をつないで立っている。周囲は真っ白で誰がどう見てもどこであるかは判別不可能だった


「おいガキ、お前名前なんて言うんだ?」


 どこかで見たことがあるような、ないような。どちらとも言えない男性が彼に声をかけた


「え、えっと、空閑(くが)です……」


 名ではなく姓を言われて困惑したのだろう、目の前にいる男性は口をぽかんと開けている。一方女性は笑って少年を見ている


「あ~苗字じゃねえよ苗字じゃ!お前が空閑なのは知ってるよ。下の名前だよ下の名前。」


 少年にとって少し強い言い方に感じたのか戸惑ってしまう。そんな少年を落ち着かせるように隣の女性が声をかける


「空閑じゃなくてその次の───ね。ほら、頑張って言ってみて?」


 それに感化されたのか、少年は恐る恐る口を開く


「あけ…け、形真(けいま)です」


「ほほう、形真っていうのか!」


 おじさんは形真という言葉を聞いて嬉しかったのか、大きく笑った。そしてお母さんは僕の頭を優しく撫でてくれた。そのおじさんの笑いを遮るように僕はまた口を開いた


「あの…おじさんは何ていうの……あ、いや……言うんですか?」


「はは……あ?俺か?俺の名前はな────」




 テレレレレレン、テレレレレレン




 2024年6月28日

 暗く、狭い部屋に目覚ましの音が鳴り響く


「んー……うるさい……音、後で変えておこう……」


 僕、空閑形真は久しぶりに朝早い5時半くらいに起きてしまい、起きたまま目障りな音を聞いていた。その目障りな音を消すために枕元へ手を伸ばす


 カチッ


「はぁ、止まったぁ・・・にしてもな」

(さっきの夢、なんだったんだろう)


 なぜ僕がさっきの夢について考え込んでいるのか。それは珍しく夢の内容を覚えているのもあるが、一番は僕には……


「形真ー!起きたー?ちょっと来てみてー」


 部屋の外、おそらくリビングから一緒に生活をしている叔母が大声で呼んでいるようだ。叔母の声以外に、聞こえにくいが少し声が聞こえるのでテレビをつけているのかもしれない


「はーい」


 そそくさと部屋着を着て声の方向に向かうと、案の定叔母がテレビを付けてとあるニュースを見ていた。どうやらどこかの防犯カメラの映像が流れているようだ


「えっと、何?」


「あぁ、おはよう。というよりまずこれこれ」


 叔母が指差す先には大きな人型の爬虫類が暴れているような映像が流れていた。大きな、とは言いつつも電柱よりも小さいくらい、建物の一階よりも大きいくらいの大きさだ


「今日も……」


「そうそう、また能力者が暴れてるみたい。最近多くて怖いねえ」


 と言いながらも叔母は、今朝作ったのだろう。朝食をテーブルに並べている。白いご飯に焼き鮭に味噌汁、いつもの健康的な朝食だ


「そう、だね……」


 「能力者(のうりょくしゃ)」この世界にはそう呼ばれる人たちがいる。彼らはとある条件(フラグ)を達成することによって能力を得た人たちだ


 その条件(フラグ)というものには色々なものがある。喜怒哀楽、感情的なものから骨折などの身体的なもの……、それらが何らかの反応や行動を起こしたときに能力は得られる。その条件(フラグ)は人それぞれ違う。しかも本人がその条件(フラグ)を知ることができるのは能力を得た時のみ。場合によっては得れても条件(フラグ)が分からずじまいのこともある


 そのため能力の条件(フラグ)に対する研究が進んでいない。だからこの世界に能力者が大量発生することは確認されていないし、確定で「ない」。現在はそう結論付けられている


「形真みたいなのとは大違いだね。優しい能力者を見習ってもらいたいものだよ」


 叔母は独り言のようにぽつんと言った。そう、僕という人間も能力を持つ能力者の一人だ。なお、僕は条件(フラグ)がよくわかっていない方の人間だ


「よいしょっと⋯さ。冷めないうちに食べちゃいましょう」


「うん」


 テレビの電源は消さずに2人とも席について箸を手に取る。互いにしゃべらず静かに2人で朝食を済ませると、叔母は再び口を開いた


「そういえば優しい能力者といえば…あっ、噂をすればだね。さ、形真。早く準備していってらいしゃい」


 ピンポーン、と玄関から音が鳴り響く。彼女だ。いつも通りまた彼女だ


(けい)ー?もう時間だぞー?」


 玄関から聞こえる大きな声を聞きながら、僕は学校に行く準備を進める。そういえば今日は能力学のテストの日だ


「いってきまーす」


 叔母に向かってそういって、玄関を開けるとやはり彼女がいた


「よ!形、おはよ!」


 彼女、盾石優(たていしゆう)は幼馴染であり、そして同じ能力者でもある。そして別に僕は頼んではいないのだが、こうやって毎朝学校に行く前に家に凸ってくる


「じゃ、おばさん!こいつ持っていきますんで!行ってきます!」


「余計なお世話だよ……」


こうして連れて行かれて僕の一日が始まる


「そういや今日は出てくるの早かったね」


「まぁ、変な夢を見たから……」


「へぇー」


 夢、今日の夢は変な感じだった。自分の記憶を乱雑に繋げたような夢ではなかった。今日の夢はまるで記憶の断片をみているような……そう考えていると彼女が口を開いた


「今日のニュースみた?隣の市だってさ。こっち来るのかな〜」


 朝のニュースの話だろう。テレビの番組のみならずネットのニュースにも載っているということは結構な被害が出たのだろう。が、こっち側の市とは反対方向に走っていったとの報道だったはずだ。ほんとに彼女はニュースを見たのだろうか。ただ、そういう僕も特に見てはないが


「ま、あのワニが来ても私の盾で防いでやるだけだけどね!」


彼女は自信満々に開いた手を空に掲げる


「爬虫類なのは合ってるけど、あれはどちらかというとトカゲだよ。ワニじゃない」


「えぇ!?あれワニじゃないのぉ?ワニでしょワニ!」


 そんな他愛のない会話をしながら人通りの少ない道を2人で歩く


 いつもの朝、いつもの日常、変わることのない日々⋯でも、そんなものは一瞬で崩れ去る

 目の前を黒い男が通り過ぎて少しした頃だった

 

 ガァン、と鉄に何かが当たった音がした。後ろの方からだろうか、周囲に鉄のようなものというと、ガードレールしか思いつかない。しかも何かが宙を舞う音がする


 ……嫌な予感がする


 が、残念ながらそれは的中してしまった


 目の前、数十メートル後ろにあったのだろう。ガードレールの残骸、ざっと3mほどのものが宙を舞い、そのままの勢いでコンクリートの地面に突き刺さった。ガードレールは硬いといったイメージがあった。そんなガードレールが宙を舞った、そんなことはトラックがぶつかっても起こらないはずだ。そんなことが起こる可能性は、あれしか思いつかなかった


 後ろから今まで体験したことがない恐怖感が襲ってきて動けない。まるで金縛りに遭ったようだ、蛇に睨まれた蛙のように……

 いや、今回はトカゲか


 隣りにいた優は……いなかった。というより僕と違って動けるようで、後ろに行き盾を構えているようだ


「形!あのワ…いや、トカゲだ!」


 優は続けて僕に向かって叫ぶ


「私の盾で防いでおくから"アレ"を創っておいて!」


「わ、わかった!」


 優の声を聞いてやっと金縛りが解けた。彼女の行動力と判断力に感心しながら近くの河原に走る。優の能力「盾」で耐久しながら僕の能力「変形」で"アレ"を創って……という算段のようだ


 ふと、後ろを見る。目の前には人型のトカゲとそれを見る盾石優がいたが、トカゲは彼女の方を見ていなかった。トカゲの目の先には僕らが暮らしている住宅地がある


「おい!ワニ、こっちだ!」


 空に手をかざし青白い半透明な盾をいくつか出現させながら優は注意を引くように大声を出す。その声に反応したのか、トカゲは彼女の方を向く。トカゲは鋭い目を優に向けるが、優はそんなものには臆さない


「驍ェ鬲斐r縺吶k縺ェ!」


 トカゲは何かを言っているが、さっぱり聞き取れない……邪魔をするなとでも言っているような気もしなくもない。トカゲは近くのガードレールを力いっぱい引き抜き両手に構えた。その少しいびつになったガードレール優に振り下ろした


「甘い!」


 しかし優は能力で盾を出現させその攻撃を防いだ。しかしガードレールを振り下ろしたのはさすがの優にとっても重い攻撃だったようで、優は勢いよく片膝をつかされ、少し辛い顔をしている


 そうこうしているうちに僕は河原に到着した。適当に小石を2つ拾い、唱えた


「よし……変形」


 そう唱えると手の中にあった小石は、小石ではなくなった。小石はみるみる形を変え、一方はショットガンに、もう一方は長い鎖になった。急いで2つを持って優の元へ戻る


 優は道路を走ってトカゲの振り下ろす攻撃をかわしながら、盾を何度も生成し、投げつけていた


「優、これ!」


「よし、バッチリだな。これを盾にひっかけて振り回せば──」


 が、そんな暇はなかった。2人で話している隙にトカゲは手に持っているガードレールを再び強く構え、僕らに向かって振り下ろ……



「あんたら大丈夫か?」



 瞬きすらしていない、一呼吸もしていない、そんなことすらできないほどの一瞬でその人は現れた。それを予見する動作すらなかったし、僕含め、優も動揺している


 身長は恐らく150センチほどの小柄、ポニーテールで纏めた足首まで伸びた長い髪、キャップを深く被ったその男は突如、僕らの目の前に現れた



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