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村の中央、かつて集会場として使われていた大きな建物の中に、俺たちは案内された。
すでに長テーブルが設けられ、その周囲には各勢力の代表者たちが着席していた。俺たちはその一角、ギルド関係者の席に案内される。
室内の空気は、重たく、張りつめていた。誰もが、何かを察している。何かが、始まろうとしている――そんな気配が、肌に刺さる。
「……すげー、揃ってるな」
明が小声で呟いた。その声も、すぐに沈んでいった。
まず目に飛び込んできたのは、聖騎士団。白銀の鎧に身を包み、椅子に座ってなお威圧感を放つ。その中央に、聖騎士団リーダー・勇人の姿がある。鋭い目つきでこちらを睨みつけていた。まるで、こちらを試すかのように。
その隣には――勇者、仁。
俺と数歳しか違わないはずなのに、その存在感はまるで異質だった。漆黒の長髪をひとつに束ね、無駄な動き一つなく、ただ静かに周囲を見渡している。眼差しに、迷いはない。自信とも、覚悟とも違う、圧倒的な確信があった。
その後ろに控える仲間たち。
魔導士・リディア。淡い水色のローブに身を包み、知性を宿した瞳は常に思考を巡らせていた。誰かの言葉に左右されることなく、自分の結論を探しているようだった。
重戦士・バルド。場に不釣り合いなほど大柄な体を椅子に収め、腕を組んで仁の背後に立つ。無口だが、仁を見つめる目には忠誠とも家族愛ともつかぬ温かさが宿る。
神官・セリアは由里のそばに静かに寄り添っていた。小柄で控えめだが、その手には癒しの杖がしっかりと握られている。芯のある気配が、確かにそこにあった。
そして、斥候兼情報屋・キルシュ。灰色のマントを羽織り、椅子にふんぞり返ってナイフを弄んでいた。俺と目が合うと、楽しげに口元を歪めた。
「――では、そろいましたね」
聖女・由里の穏やかな声が、張りつめた空気をそっと断ち切る。まるで霧が晴れるように、場の緊張がひとつの方向に収束した。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。まずは、先日この村の祠で起きた異変について、第一発見者である冒険者パーティ『フォーカス』の皆さんに話していただきます」
促され、俺は立ち上がった。喉が渇いている。誰一人、軽い気持ちでこの場に座ってはいない。仁も、勇人も、リディアも。そして由里も。皆、俺の言葉を待っていた。
「俺たちが村を訪れたとき、祠の中に……棺のようなものがありました。封印の札が貼られていましたが……一枚だけ、黒い炎に焼かれて、剥がれたんです」
ざわっ、と会議室が揺れる。目に見えない不安が、波紋のように広がる。
「そして、そこから黒い影のようなものが湧き出し……村人の遺体に取り憑いて、動き始めたんです。瘴気が漂っていました。俺たちは、危険と判断して、その場を離脱しました」
「それを、ギルドを通じて報告したと?」と勇人が眉をひそめて問う。
「はい。急ぎで」純子が前に出るようにして言った。
「報告は届いています」仁が初めて口を開く。その声は低く、だが芯が通っていた。「その上で、我々が村へ派遣された。だが……封印の崩壊は、想定より早い」
「それにしても、興味深いですねえ」
ロメオが立ち上がり、にこやかに言った。
「あの封印、明らかに力不足。あれだけでは封印は不完全。むしろ『時間稼ぎ』のようなものだったのでは?」
「どういうことですか?」由里が静かに訊ねる。
「棺の中に封じられていたものは、最初からいずれ出てくる前提だった……つまり、当時の者たちは自分たちの限界が分かっていて、後世の者に完全なる封印、あるいは討伐を託した。自分たちのできる限りの封印を施して……とも考えられる」
一同の視線が、ロメオに集中する。
「もちろん、推測の域は出ませんが。歴史的には、似た事例が――」
「断言できないのなら、その話は後回しにしよう」
リディアの冷ややかな声が割って入る。涼やかな目が、まっすぐロメオを射抜いた。
「……フフ、失礼」
ロメオは軽く頭を下げ、席に戻る。
「私たちとしては、村民は全滅したとはいえ、これ以上被害を広げないことが最優先です。封印の再強化と、村周辺の安全確保が急務となります」由里が言った。
だがその時、勇人が椅子を軋ませて前かがみになり、不機嫌そうに話を変える。
「それにしても……聖女様が『鍵』とおっしゃったこの少年、卓郎。何を根拠に、そこまで重要視するのか。正直、我々には見当もつかない」
俺はぎょっとして顔を上げた。視線が刺さる。仁は、何も言わない。ただ、俺を見ていた。
そんな中、由里がやわらかく微笑み、そっと言った。
「神託の中に、『霧が戻る時、運命を変える鍵が現れる』とありました。
彼は、『フォーカス』の最強戦力であり、ギルマスの鉄馬に勝ったとも聞いています。……時が来れば、きっとその意味が明らかになると、私は信じています」
「……予言、ね」キルシュが口元を歪めた。「『霧が戻る時、運命を変える鍵が現れる』ってだけなら、『フォーカス』の誰かかもしれないし、ロメオさんかもしれないわよ?」
「おいおい。もしかしたら俺ってこともあるのかよ!」と明が冗談めかして言う。
「あんたバカ! そんなの卓郎かロメオさんに決まってるじゃない。『白火の峰』でも黒霧を封印したのはこの二人だったでしょう」純子の声に、室内が一瞬、静まり返る。
「黒霧を封印した! それは本当ですか?」聖女・由里が目を見開き、思わず立ち上がる。
「ロメオさんが『光の書』を使って封印しました」有紗が補足する。
「いや。私だけでは封印できていません。あの時は卓郎くんの光魔法が、決定的な役割を果たしてくれたんですよ」
俺は、拳を膝の上で握りしめた。息を整える。
「でも、最終的にはロメオさんです。……あ、もちろん。今回だって俺にできることがあるならやります。逃げるつもりは、ありません」
「私はもう、『光の書』がありませんので……聖女様に、情報をお渡ししました。私の代わりに、どうかお願いします」
その言葉に――仁の眉が、わずかに動いた。驚きか? それとも、わずかな評価の兆しか。
会議は、まだ続く。だが、その空気は確かに――変わり始めていた。
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