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 鏡の兵士たちを撃破し、俺たちはなおも続く眩い光の道を進んだ。

 たどり着いた先――そこは、静まり返った広大な鏡の間だった。


 床も壁も天井も、すべてが鏡。

 無数に映る自分たちに囲まれながら、俺たちは中央に浮かぶ淡い《光の碑文》を見つめた。


「ここが……第三の言葉の場所か」


 ロメオが低くつぶやく。

 俺たちは慎重に近づき、そっと手を伸ばす。


 ――その瞬間、鏡の間全体が白く、眩い光に包まれた。


「うわっ!」

「な、何!?」


 反射的に目を覆い、再び目を開けると、鏡たちはもはやただの反射ではなかった。


 そこに浮かび上がったのは――《滅びの記憶》。


 栄えた文明。

 高くそびえる塔。

 笑い、歌い、平和を謳歌する人々。


 だが、その平和は突如として破壊された。


 黒い霧――

 地平線を覆い尽くすそれは、街も森も、すべてを飲み込んでいった。

 触れたものを腐らせ、命を奪い、文明を瓦礫に変えた。


 人々の悲鳴。

 大地の断末魔。

 すべてを無に帰すかのような、禍々しき《黒の災厄》。


 そして、最後にぼんやりと映った《影》。

 黒霧の中心に立つ、巨大で異形な存在。

 だが、それはまだはっきりとは見えなかった。


「これが……この世界の滅びの真相……?」

 有紗が震える声で言う。


 そう、第一、第二、そして今回の第三――

 すべての記憶が一つの脅威へと繋がっている。


 それを確信したとき。

 鏡の中心に、再び淡い光が灯った。


 新たに浮かび上がった碑文は、こう告げた。


【赤き大地、雲を裂く岩塔に、次なる記憶は眠る】


 赤い大地。雲を裂く岩塔――

 火山地帯か、それとも特殊な岩石地帯か。


「ここまでで、風、火、そして……光」

 俺は、静かに数えた。


「鏡の湖だったから、水かと思ったけど……違ったんだね」

 沙耶がぽつりとつぶやく。


「……光の属性だったんだ。残るは、水と土、そして闇かな」

 ロメオが眼鏡を押し上げながら言う。


 六つの言葉。

 六つの記憶。

 すべてを知ったとき、この世界を蝕んだ《黒い霧》の正体にたどり着ける。


「……行こう。赤き大地へ!」




 鏡の湖を後にして、俺たちは森を抜けた小さな休憩地で腰を下ろしていた。

 薄曇りの空の下、焚き火の煙が細く立ち上る。


 ロメオが地図を広げ、真剣な表情でそれを指でなぞる。


「赤き大地、雲を裂く岩塔――か……」


「赤い大地って言ったら、あそこじゃない?」

 純子が弓を肩にかけたまま言った。


「えっと、たしか……《紅土地帯》って呼ばれてる地域が南の方にあったよね」

 有紗が思い出すように続ける。


「うん、乾いた大地が赤く染まってる場所だよ。すっごく暑いって、前に旅人が言ってた!」

 沙耶が元気に付け加えた。


「でも、岩塔ってのは?」

 明が、剣を膝に置いて首をかしげる。


 俺も地図を覗き込む。

 南には《紅土地帯》と呼ばれる荒れ地が広がっている。その中に――


「あった!」

 俺は指で示した。


「《天穿の塔(てんせんのとう)》……」


 地図の端に、小さく記された地名。

 そこには『天空を突くように聳え立つ巨大な岩の塔』と説明が添えられていた。


「天穿……天を穿つ、か。雲を裂くって表現にぴったりだな」

 ロメオがうなずく。


「よし、決まりだね!」

 沙耶が立ち上がる。


「赤き大地――《紅土地帯》。目指すはその中心、天穿の塔!」

 俺たちは顔を見合わせ、力強くうなずいた。


 第三の言葉が示した次の場所。

 きっとそこには、第四の言葉と、新たな過去の記憶が眠っている。


 ***


 乾いた熱風が、肌を焼く。


 俺たちは《紅土地帯》を目指し、南へ向かっていた。

 森を抜け進むこと一週間、緑が徐々に少なくなり、代わりに赤茶けた岩と砂が支配する世界へと変わってきていた。


「うわあ……見渡す限り、赤ばっかり」

 沙耶が顔をしかめる。


「しかも……暑い」

 有紗も額に汗を浮かべながら、ハンカチでぬぐった。


「いわゆる、砂漠ってやつかしら」

 純子が憎らしそうに太陽を睨む。


 太陽は容赦なく照りつけ、風は熱を帯びて喉を焼く。

 水袋を一口すするたび、乾きが倍増するような錯覚すら覚える。


「ここで水が切れたら、マジでやばいな」

 明が舌打ちしながら言った。


「無駄遣い禁止よ」

 純子がきっぱりと釘を刺す。


「大丈夫だよ。俺、水魔法でだせるから」


「さすが卓郎。マジ神だぜ」

 

「神様、仏様、卓郎様!」


 有紗と沙耶が俺を拝む


 ロメオは、汗を拭きもせずに地図を覗き込んでいる。


「この先、細い峡谷を抜けたら、日陰があるはずだ。休憩はそこでとろう」


「よっしゃ、もう少しだな!」

 明が元気よく声を上げた――その時だった。


 ザザッ、ザザザッ!!


 地面の下から、何かが這い出してくる音がした。


「な、なに!?」


 俺たちは身構える。

 足元の赤土がボコボコと盛り上がり、砂塵が巻き上がった――!


 現れたのは、土色の鱗に覆われた巨大なトカゲのような魔獣だった。


赤地蜥蜴レッドリザード


 乾いた大地に適応した地棲の魔獣だ。数は、三体!


「囲まれた!」

 有紗が叫ぶ。


「油断したな……! みんな、戦闘準備だ!」


 俺はミスリルソードを抜き、叫んだ。


「来いッ!!」


 レッドリザードの一体が、火花を散らしながら一直線に突っ込んでくる。

 砂煙を巻き上げながら、猛スピードで!


「速い!」

 純子が矢を番えるが、狙いが定まらない。


 その瞬間、明が飛び出した。


「うおおおおおおッ!!」


「ストップ! バカなの! 単独行動禁止!!」


 純子が絶叫したが、もう遅い。

 明は火の剣を振りかざして、レッドリザードに突撃する。


「でも火じゃ効果薄いかも!」

 俺が叫ぶ。


 明の剣が、レッドリザードの硬い鱗に弾かれた。


「ちっ……マジで効きが悪い!」


「氷よ、氷!」

 純子が矢を連射しながら叫ぶ。


 俺もすかさず《アイスニードル》を発動!


「アイスニードル!!」


 無数の氷の針が、空気中に浮かび――シュバババババッ!!

 レッドリザードの体を撃ち抜いていく。


「グギャァアアアッ!」


 凍った鱗がバリバリとひび割れ、レッドリザードの動きが鈍った。


「今よ、沙耶、有紗!」

 純子が指示を飛ばす。


 二人の放った氷結の矢が、見事に急所を貫き――


 ズドォン!!


 レッドリザードの一体が地面に倒れた!


「いいぞ、あと二体!」


 汗だくになりながらも、俺たちは連携して次々と敵を追い詰めていく。

 苦戦はしたが、どうにか三体すべてを撃破することに成功した。


 ハァ、ハァ……

 俺たちは肩で息をしながら見つめ合う。


「……この先も、油断できないな」


「でも、絶対に行きましょ。天穿の塔へ」

 有紗が、強い眼差しで言った。


「ああ。行くぞ――第四の言葉が待ってる」


 焼ける大地を踏みしめ、遥か遠く、雲を裂く岩塔《天穿の塔》を目指して、俺たちは再び歩き出した。

 



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(本人褒められて伸びるタイプ)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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