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 ギルドの酒場コーナーに向かうと、賑やかな雰囲気が広がっていた。木製のテーブルや椅子が並び、冒険者たちが集まって談笑している。酒の香りが漂い、笑い声や話し声が混ざり合い、まるで一つの大きな家族のようだ。


「ここにしよ!」


 と純子が指差したテーブルは、窓際に位置していて、外の明るい日差しが差し込んでいた。俺たちはそのテーブルに腰を下ろし、周りの様子を見渡す。


「おい、あの連中、また新しいクエストに挑戦するらしいぜ」

 と明が近くのテーブルを指さす。


 そこには、強そうな冒険者たちが集まり、次の狩りの計画を立てている。彼らの表情は真剣だが、時折笑い声が上がっている。


「楽しそうだね」と有紗が微笑む。「私たちも、次の狩りの話をしようよ」


「そうだな、だがまずは乾杯しよう!」と明が言い、グラスを持ち上げる。俺たちもそれに続き、グラスを掲げる。


「乾杯!」と純子が声を上げ、みんなでグラスを合わせる。金貨の重みを感じながら、今日の成功を祝う。純子は上機嫌のようだし、朝の件はもう許してもらえたのかな?


「さて、次はどこで狩りをする?」と沙耶が興味津々で尋ねる。


「俺は、もっと強い魔物と闘いてー。そうすりゃ、稼ぎだってでっかいしなあ!」


 明の言葉に純子の眉がピクリと跳ねる。


「あれより大きいのはちょっと危ないんじゃない」


 明があざけるような表情で応える。


「なんだよ。お前、ビビってるのかよ。そういや、尻餅ついて青い顔してたっけな」


「あ、あ、青い顔なんてしてないわ。あなたこそ、あなたこそ、攻撃全然効いてなかったじゃない!」


 純子の顔は真っ赤である。


「なんだと! あれで相当ダメージ入ったんだよ!」


「いえ! あんなの全然効いてませーん!」


 明と純子が顔を突き合わせてまるで子供の喧嘩のような言い合いを始めた。



挿絵(By みてみん)



「まあまあ、喧嘩はよそうよ。せっかくパーティを組んだんだしさあ」


 俺は仲裁のはいるがこれが悪手だった。


「卓郎がやっつけたんだからね! あんたなんかちっともも強くないんだから!」


「っ! なんだと、俺よりこいつの方がつえーってのか! よし良いだろう。卓郎、勝負だ。俺の強さを見せてやるぜ」


「まあまあ、熱くならないでよ。2人とも」


 明が俺の胸ぐらを掴んで睨みをきかす。


「お前も俺よりつえーと思ってるのか!」


「そんなことないよ。明の方が全然強いって」


「お! いいぞ、やれやれ!」


 酒場の奥から大きな声が飛ぶ。


 ギルドのみんなが喧嘩が始まったと思ったのだろう。楽しいイベントのノリで周囲の期待が集まってしまった。


「どっちがつえーかは、はっきりさせねーとなあ!」

「俺は、あの赤髪の兄ちゃんに賭けるぜ!」

「俺も赤髪に!」


 さらに俺たちの勝負が賭けの対象になる始末だ。


「お前、俺を馬鹿にしてるのか? 卓郎」


「馬鹿にしてるぞー」


 ……外野はだまってて。


「そんなことないよ。今日のはまぐれだったんだ」


「嘘だ! あのスキルは本物だった!」


「そうだそうだー!」


「嘘じゃないよ。あんな命懸けのこと普通やらないから。あの技使ったの初めてだし。次はできるとは限らないし」


「え! 卓郎って命をかけて私を守ったの! 美しいって罪だわ」


 純子は頬を赤らめて顔を手で隠す。なんかとんでもない勘違いをされてるようで怖い。


 有紗と沙耶が何故か俺を見て「キャー、恋って盲目ー」とか囁きあっている。


 何かこいつら3人、アナザワールドにトリップしているようだ。


「表に出ろ。卓郎! 勝負だ」


 何故だか明が必死すぎる気がする。純子に良いところを見せたいのか?


「そうだ勝負だー」


 お願い、外野は黙ってて。


 いつの間にかギルドの外で、俺は明と勝負することが決定していた。周囲は小銭を握った冒険者達に囲まれている。何故か赤い顔をした3人の少女も小銭を握っている。


「頑張って! 卓郎くーん!」


 有紗と沙耶の可愛い声が響く。こいつら俺に賭けてんのかよ。


 なぜか、どこから出てきたのか分からない渋いオッサン冒険者が審判面して間で仕切っている。


「この勝負、命の保証はない。先にギブアップした方が負けだ。無様な勝負をすれば冒険者仲間から爪弾きになるからそう思え。2人とも良いな!」


「おうよ!」

「えーー」


 やる気はないけど、無様に負けると、今後どこのパーティにも入れてもらえなくなりそうだ。ましてや不戦敗なんて言い出せる雰囲気じゃあない。チョット待ってよ〜。


 しかし、実際のところ、俺より明の方が強いに決まっている。勝負はやる前から見えている。俺はこのピンチをどう切り抜けるべきなのか? 何かいい手はないものか?


「初め!」


 考えもまとまらぬうちに、もう勝負は開始されてしまった。


「おー」


 明は気合いの掛け声と共にロングソードを構える。俺も仕方なくショートソードを構えるが、剣の違いだけでも相当不利だ。俺の攻撃は全然明に届きそうがない。


 やべ〜と思いながら明の攻撃を受け続ける俺。一方的に打ち込まれるだけで受けに専念し続ける。だって、俺の剣、明に届かないんだもん。それにそもそも戦う意味が俺にはない。というより戦いたくない。


 暫くこらえ続けていると周りからヤジ

「真面目にやれー!」

「お前にかけた金、返せー!」

「早くやられちまえー!」


 身勝手な応援が周囲を包んでいる。


 ガシーン! ガシーン!


 強力な打ち込みで、剣を握る手が衝撃に痺れる。


「フ! こんなもんかよ。卓郎。もっと本気を出しやがれ」


 明は優勢な状況に気を良くしながらも、俺のやる気のなさに不満を見せる。


 確かに少しは使えるやつだと周囲に示さなければ、一方的にやられてしまったら今後の就職が厳しくなる。ちょっとは反撃を試みなければ。


「くそー!」


 俺は明の剣撃時、明の剣に己のショートソードを思い切りぶつけ返した。


 ガッシーン!


 明のロングソードがその手を離れ回転しながら宙を舞った。


 驚く俺と明。


 あれ? 何が起きたのか?


「勝負あった! 勝者、卓郎」


 審判の声が響きわたる。


「「え!」」


 宙に舞った明のロングソードが地面に落ちて突き刺さる。


 意外な結末。


「やったぜ! 万馬券だー!」

「うわー、今夜の飯代が〜」

「マジかよー」

「卓郎って、意外とやるじゃん」


 周りの冒険者の無責任な声が聴こえる。


 明が刺さった剣を見て固まっている。


 なんだか分からないけど勝っちゃったらしい。どうして剣が飛んだんだ?


 俺の剣撃が思ったより強かったのか? 百点カードで攻撃力は129に上げたけど?


 明の油断が一番の原因だろうと思いつつ、とりあえず勝てた、勝負が終わったと安堵する。


「ははは」


 まぐれ勝ちに苦笑すると、明が俺を見て握手を求める。


「お、俺の負けだ。今回は油断したのもあれだけど……卓郎もそこそこ強いって分かったぜ。これからよろしくな」


「本当にまぐれで勝てたようなもんだから、これから明を頼りにさせてもらうよ」


 俺も明の手をとった。

















ここまで読んでいただきありがとうございます。明日は、6:00、12:10、16:30、19:30に投稿予定です。


この小説を読んで、少しでも「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(本人褒められて伸びるタイプ)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ


10/2書籍発売 『異世界スクロール職人はジョブを極めて無双する』もよろしくお願いいたします。


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すごいな卓郎… 自分だったらこんな性格破綻者ばかりの地雷パーティーなんて1秒でも居たくないな…
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