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 森の奥。


 湿った苔に足を取られながら進む俺たちの上に、木漏れ日がきらめいている。ひんやりとした空気と、時おり聞こえる小鳥のさえずりだけが、この異様な静けさの中で浮いていた。


「……こっちで間違いない。魔力の流れが、全部こっちに吸い寄せられておる」


 先頭を行く銀蔵じいちゃんが、自作の『精霊磁石』とやらを手に、ひょいひょいと木の根をまたいで進んでいく。その磁石は、半分壊れかけたコンパスのような見た目で、何かに共鳴するようにピリピリと振動していた。


 俺たちは、じいちゃんに案内されながら後をついていく。ちなみにこの磁石、じいちゃんいわく「たまに爆発するから要注意」らしい。そんな道具を持ち歩くなと言いたいところだが、幸いなことに今のところは無事。


 それにしても。


「……なんか、静かすぎない? 昨日の夜、あれだけ魔物が暴れてたのに」


 有紗が不安げに周囲を見回す。


 たしかにそうだ。あのとき森を覆っていた嫌な気配が、今はほとんど感じられない。


「社が呼んでいるんだろう。……来い、ってな」


 明が肩に剣を担ぎ、ぐいと前へ出る。冗談かと思ったけど、彼の真剣な表情は、それが冗談じゃないことを物語っていた。


 やがて、森がふわりと開けた。


 目の前に現れたのは――


「……ボロボロ、だな」


 崩れかけた《封霊の社》。


 同心円状に並んだ石柱は何本も倒れ、中央の拝殿は瓦礫と化していた。地面には、砕けた封印具や呪符、誰かが無造作に投げ捨てたと思われる呪物の残骸が散らばっている。


「これは……完全に、掘り返し屋の仕業ね」


 純子が眉をひそめて言った。


 見れば、呪物の中には《呪物コレクター》が好みそうな年代物の印もある。売れるものだけ持ち去り、いらないものは置き去り――そんなやり方だ。


 銀蔵じいちゃんは無言で瓦礫の山に近づき、帽子を取って胸に抱えた。


「――ばかもんどもが……。封印というのはな、壊すもんじゃない。見守るもんじゃ……!」


 その瞬間。


 足元の呪具が黒く蠢き、もわ、と嫌な霧が立ち上った。


「何か来る!」


 俺が叫ぶと同時に、霧の中から現れたのは――獣のような姿をした、超巨大な黒い影。


 それは、破られた封印の魔力が漏れ出し、負の感情を取り込み、肉体を持った怨念の具現だった。


 そして、そんな状況で――


「よし! 初陣じゃ! わしの弟子たち、配置につけい!」


 銀蔵じいちゃんが、生き生きとした声で指揮を執り出す。


「勝手に指揮すんな、じいちゃん!!」


 明が文句を垂れるが、それでも俺たちの体は自然と動いていた。


 明と俺が前衛を務め、弓組は遠距離から援護、沙耶は社の奥へ回り、封印の要を確認する。連携は完璧だった。……銀蔵じいちゃんの「指揮」は聞いてないけど。


「秘密兵器・爆裂手榴弾!!」


 またしても謎の兵器を取り出し、敵に向けてぶん投げるじいちゃん。


 クリーンヒット――したものの、爆発しなかったので敵はまるでダメージを受けていない。


(……不発弾か?)


「フレイムバスター!」

「斬光断!」

「いけー!」

「中のコアを破壊するのよ!」

「わかってる!」


 巨大な魔獣に攻撃を加え続ける。影を削り、散らすが、どこからともなく影は集まり再生する。


「セラフレイム!」


 俺の剣が黒い影を浄化する。


「見えた! あれがコアよ!」

「だーりゃー! フレイムバスター!」

 

 3人の矢がコアに集中する。


 だが、コアはなかなか破壊できない。


「セラフレイム!」

「見えたわ。もう一回!」


 俺たちはコアへの攻撃を繰り返した。


 そして、ついに――魔獣は断末魔の咆哮を上げ、黒い霧となって溶けるように消えた。


「魔獣が湧かないように、封印をしなおすのじゃ!」


「綺麗に清めて壊れた杜をなおすのよ!」


「……はー、戦った後に掃除とか、初めてだぜ……」


 明が石柱に座り込み、頭をかく。


「でも、放っておけないでしょ。社って、精霊たちの心の拠り所なんだから」


 有紗がそっと崩れた石柱の一部を持ち上げ、立て直し始める。それはストーンヘンジのような石柱が同心円状に並べられた構造物で、中央には封印の核となる台座があった。


「重てーな。流石にでけーぜ、この石は!」


「これを直せば、きっと魔物はもう現れないと思うよ」


「明、アンタ、卓郎を見習って、文句言わないでやりなさい」


「へーい」


 文句を言いながらも、明も俺と一緒に石柱を起こしてくれた。


 純子と沙耶は、精霊の供物となる『歪みを払う花』を周囲に植えていく。これがまた、じいちゃんの畑から引っこ抜いてきたものだが、効き目は抜群らしい。


 そして――数時間後。


「ふーっ! やっと終わったぜ」


 そのとき、不思議な風が吹いた。


 枝が揺れ、葉がざわめく。


 まるで、誰かが「ありがとう」と言っているようだった。


「……あ。魔物の気配が……完全に、消えてる」


 俺が言うと、皆が顔を上げ、静かに頷いた。


 沈黙の中に、確かな満足感があった。



「ふっふっふ……見たか、わしの弟子たちの働きぶりを……! これは、みんな師匠のわしの教えが良いからじゃな!」


「じいちゃん、何か俺たちに教えたっけ?」


「まあ、細かいことは気にするなよ」


「そうよ。お年寄りは、大事にするものよ」


「なにー! わしはまだまだ若いわい! 生涯現役、年中無休じゃぞ!」


「はいはい、爺さん。頑張ってね!」


 そんなふざけたやりとりの裏で、 俺たちは、少しだけ誇らしさを感じている。世界をちょっとだけ、良くしたに違いないと。


 封霊の社を修復し、俺たちは森を後にし、村長へ報告に行った。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙でのコメント、誤字報告などをいただけると最高です!


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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