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立ち上がって振り返ると、純子がまだへたり込んでいる。純子の両脇に有紗と沙耶が寄り添っていた。
俺は近づいて手を差し出す。
「立てる?」
「たた、立てるわよ!」
純子は顔を赤らめ横を向きながら卓郎の腕をとった。小さく呟く。
「あ、ありがとう。助かったわ……」
「ちゃんと仕事ができて、良かったよ。怖がらせて悪かったな」
俺はその時純子に許されたかと思った。
明が後ろから飛びついて、俺の喉を締め上げた。手荒な歓迎。
「おまえ! やるじゃんか。あの一撃すごかったぜ。まあ、俺には劣るけどな」
ヘッドロックをしながら俺の頭をポコポコ叩く明に俺は「痛い、痛い」と抗議した。
有紗と沙耶が微笑む。
明るい日差しが有紗と沙耶を照しだし、その笑顔がまるで天使のように輝いて見える。純子も笑えばいいのに。
俺はこのメンバーで、なんとか新たなパーティを組めるかもしれないと希望を持った。
「大物だな! コリャ運ぶのも大変だぞ」
三次はもう次の仕事に取り掛かっている。運んで買い取ってもらわないと、金にならない。2メートルもの猪型魔物を運ぶのは楽な仕事ではないのだ。
その辺の手頃な木をキル倒して担ぐための天秤棒を即席する。担ぐのは俺と明の役目だと、何故か自然に決まっていた。……まあ、そうだよな。三次はリーダー役だし、残りは女だし。
『俺は真の男女平等主義者だ』なんて、悪あがきをしようものなら純子に睨まれるのは間違いない。そもそもこういうところで使えるところを見せるのが俺に必要なことなのだ。
俺と違って明は不満が顔に出ている。もうすぐブツブツ言い出すだろうなと思っていると、案の定言い出した。
「なー! ギルドまでずっと俺たちが担ぐのかよ? ちょっと扱い酷くない?」
「しょうがないよ。女の子には重すぎるし……」
俺が前、明が後ろで魔物を担いでギルドを目指す。
2メートルもの猪型魔物の重さは200キロはあるんじゃないかと感じてしまう。
三次はリーダー面して先頭を意気揚々と歩いているし、女子3人は楽しくお話しながら歩いている。俺たちを助けてくれたり、代わってくれる可能性は0パーセントだな。これは。
汗だくの俺と明がギルドに戻ると、賑やかな雰囲気が広がっていた。冒険者たちが集まり、情報を交換したり、仲間と笑い合ったりしている。
三次達はもうすでに買取所の男と話を始めていた。
俺たちも、運び込んだイノシシ型魔物を抱えて、買取所へと向かう。
「あの猪型だ」と三次が指差す。大きな木の扉が開いており、中の買取担当の無精ひげを生やした男が目を細めて俺たちを見つめて待っていた。
「おい、そこの連中。ここだ。早く持ってこい」と男が声をかける。
「どっこらしょ! 重かったぜ。これならかなりの金額になるはずだぜ!」
と全ての獲物を買取所に出し終えた明が自信満々にイノシシ型魔物を指差す。俺たちの苦労の結晶だ。
男は目を丸くし、驚いた表情を浮かべた。
「おお、これは大物だな。良い値がつくぞ」
と男は言いながら、魔物の体をじっくりと観察する。
「で! いくらになるんでえ?」
と三次がニヒルに口の端をあげて顎に手を当てながら、ぶっきらほうに尋ねる。
「そうだな……状態も良いし、肉も相当取れそうだ。これなら20万ゴルドは行くかもしれん」
「20 万ゴルド!?」
俺と明の疲れは一気に吹っ飛び、目を輝かせた。
「分け前はちゃんと考えないとな」
と三次が冷静に言う。
「俺たちの労力も考慮してくれよなあ」
「そうね、俺たちが運んだんだから、少しは俺たちの取り分も多くしてね」
「まあ、そういうことだ。俺たちの頑張りがあってこその報酬だからな」
と明が頷く。
男は買取金額を計算し、金貨を数え始める。俺たちの心は期待で高鳴る。金貨20 枚という買取額は、6人で割っても一日の稼ぎとしては十分だ。
「2枚分は銀貨にしてくれ」
「分かった。はい、これで20 万だ。確認してくれ」
と男が三次に金貨を手渡し、三次が確認して頷いた。
「ありがとうよ」
「また、でかいの狩ってきてくれよ」
「ああ、任せろ」
三次が俺達に金を分配する。
「1人3万3千ゴルドで、2千ゴルドは運び賃として2人にやっていいよな?」
「「良いわよ」」
女子達は二つ返事で納得した。
3万4千ゴルド。手のひらに乗せた金貨の重みが、今日の努力を証明しているように感じた。
だがそれよりも大事なことがある。そう。これから一緒にパーティを組むかの相談だ。
「あのさあ……」
「明日からも、できたら一緒にやらないか?」
明も俺と一緒のことを考えていたらしい。
「わりーが、俺はパーティに入ってるんでね。明日からは別行動にさせてくれ」
三次は、元々メンバーのスカウトが目的だ。だがスカウトしたいメンバーはいなかったようで、手をひらひらさせながら背を向け去っていく。
3人の女子は顔を寄せあって相談を始める。そして話がまとまると純子が代表して話し出した。
「獲物の運送は2人がやってくれるって約束してくれたら、組んでも良いわ」
「僕はそれで良いよ」
二つ返事の俺とは違い明は少し考えてから不満げに返事をする。
「まあ、いいぜ」
「じゃあ、明日からもお願いね。それじゃあ、これから親睦会でもしましょうよ」
純子がギルドの酒場コーナーに視線を向ける。まだ席は十分に空いているのが見て取れた。
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