表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/265

67


 

 ギルド本部・依頼掲示板前

 Bランクへの昇格から一夜明けた俺たち『フォーカス』は、朝早くからギルド本部に姿を見せていた。


 目的はもちろん、新しい依頼を探すため――だったのだが。


「うーん……今日は、Aランクの依頼、出てないな」


 掲示板の前で、俺は肩を落とした。せっかくBランクになって、Aランク依頼にも手が届くようになったというのに、その欄はぴかぴかの空白だ。


「張り出されてても、受けさせてもらえるとは限らないんじゃなかったっけ?」


 純子が現実的なことを言う。確かに、Aランク依頼にはギルド側の推薦や審査が必要な場合も多い。


「まあ、焦ることないでしょ。こっちは本命の依頼が控えてるんだし」


 明が、ちらと俺を見た。


 そう。俺たちはもう一件、正式な依頼の約束を抱えていた。


 ロメオ・ヴァイン――遺跡マニアであり、歴史研究家の彼からの依頼だ。


 『語る石版ストーン・オブ・エコーズ』から情報を引き出すために必要な、失われた六つの言葉。その最初のひとつ、『第一の言葉』が、東の山脈地帯にある『風の谷』の無人集落に隠されているという。


 現在ロメオさんは、石版と『風の谷』に関する資料を精査中で、調査が終わり次第、正式な指名依頼を俺たちに出すと約束してくれている。


 それまでは、つなぎの依頼をいくつかこなしておこうってわけだ。


 俺たちは改めて掲示板を見上げ、Bランクの依頼の中から、手頃なものを選んでいる。


「これなんか良くない?」


 沙耶が指を差した依頼用紙には、こう書かれていた。


【依頼名】 湖畔の村『浪花』の魔物退治

【依頼ランク】 B

【依頼内容】 湖の近くで魔物の目撃情報多数。村の人々が漁に出られず困っている。現地にて調査・排除をお願いしたい。

【報酬】 50万G+現地産の特産品

【期限】 5日以内


「……割とオーソドックスだけど、腕試しにはちょうどいいかもな」


 明がうなずく。


「こういう地元の人を助ける依頼って、信用も得やすいしね」


 有紗も笑顔で賛成する。


「じゃあ決まりだな。次の本命依頼――『風の谷』に向かう前に、しっかり体を慣らしておこう」


 俺は皆を見渡し、依頼用紙を手に取る。


「チーム『フォーカス』さん、湖畔の村『浪花』の依頼ですね」


 礼子さんに手続きをお願いするとにこやかに送り出される。


 ギルドから馬車で半日。『フォーカス』のメンバーは、静かな水辺の村へとたどり着いた。


『浪花』は、湖と森に囲まれた、漁と薬草採取で成り立つ小さな村だ。


「静かだな……っていうか、ちょっと静かすぎないか?」


 馬車を降りた明が周囲を見渡しながら眉をひそめた。確かに、昼時にもかかわらず人影はほとんど見えない。子どもたちの笑い声もなければ、漁から帰る舟の音もない。


「魔物のせいで、外に出られなくなってるのかもしれないわ」


 純子は、矢筒を少しだけ引き寄せる。村の端には、簡素な木の柵と見張り塔があるが、いずれも年季が入っており、防御力にはあまり期待できそうにない。


「こんにちはー!」


 沙耶が元気に声を張ると、一軒の家の戸が少しだけ開き、中から年配の女性が顔を覗かせた。


「あんたたち、もしかして……ギルドの人?」


「はい。魔物退治の依頼で来ました、チーム『フォーカス』です」


 俺が言うと、女性はぱっと表情を明るくして、すぐに家から出てきた。


「助かるわぁ……この村じゃもう、誰も湖に近づけなくなっちまって……。村長さんのとこに案内するから、こっちにおいで」


 女性の案内で俺たちは村の集会所へと向かった。


 集会所の中には、ひげをたくわえた老人――村長が待っていた。椅子から立ち上がると、ゆっくりとこちらに頭を下げた。


「遠いところをありがとう。『フォーカス』とやら……この村の命運、お前たちにかかっておる」


「詳しい状況を教えていただけますか?」


 有紗の問いに、村長はうなずきながら語り始めた。


「ここ最近、湖のほとりに異形の影が現れるようになってな。夜になると、低い唸り声と光る目が見える。村の若いもんが見張っておったが……三日前、帰ってこんかった」


「村人が襲われた?」


「いや……翌朝、無事戻ってきた。ただ、様子が変でな。誰とも口を利かず、食事も取らず、ずっと湖の方ばかり見とる」


 俺たちは顔を見合わせた。


「魔物が直接手を下してるわけじゃない……? もしかして、精神系のスキルや、幻覚……?」


 純子が推理する。


「異形の影って、どんな姿をしてたんですか?」


 明が訊くと、村長はしばし言葉を探し、ぽつりとつぶやいた。


「……まるで、人の形をした水のようだった、と言っとった」


「人の形をした……水?」


 そのとき、有紗がふとつぶやくように言った。


「『アクア・ミラー』……かもしれない」


「知ってるのか?」


「うん。古い文献で見たことがある。湖や沼に現れる、水の魔獣。姿を人に似せて動き、精神を映して侵食する……」


「侵食……それって、精神に干渉する魔物ってこと?」


 沙耶が声を潜める。


「もしそれが本当なら、ただの物理攻撃だけじゃ倒せないかも」


 俺は皆を見渡し、うなずいた。


「夜になる前に、湖周辺を偵察しよう。痕跡があるかもしれない」


「うん。動くなら明るいうちがいいね」



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(本人褒められて伸びるタイプ)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ