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フォーカスの5人は、見事に二匹を倒し冒険者ギルドに報告に戻った。
ギルドの扉を開けると、いつも通り賑やかな声と、酒場のような匂いが鼻を突いた。
「あら、お帰りなさい。一日で終わったの? そんなことないか? で、どっちを狩ってきたの?」とカウンターの受付嬢・礼子が、眉を上げる。
「二匹とも討伐完了ですっ!」沙耶が胸を張って報告すると、後ろから有紗が微笑みながら補足する。
「深紅の牙ラプトルと獣王バジルホーン、両方無事に仕留めました」
「なに!? マジで?」横から聞いていた他の冒険者が身を乗り出す。「あのやばい魔獣、2体一日でか」
「ふん! あたしたちにかかれば、そんなの朝飯前よ!」と純子がふんぞり返る。
「まあ……実際は昼過ぎだったけどな」と明がぼそりとツッコミを入れると、笑いがこぼれた。
礼子は苦笑しながら報告書に目を通し、手元のスタンプをぽんと押す。
「はい、お疲れさま。報酬は、深紅の牙ラプトルが金貨40枚、獣王バジルホーンが金貨60枚。重いけど大金貨にする?」
「金貨でいいわ。でも袋は二つともちょうだい」
「やったーっ!」沙耶が歓声を上げ、明は金貨の袋を握りしめながら呟いた。
「これで、しばらく飯には困らねぇな……」
「スキル覚えるのや、武器を新調するのにお金かかったからね」
「この後、お祝いする余裕くらいあるわよね」
純子が腰に手を当てて言うと、沙耶が勢いよく頷いた。
「やったー! 焼肉がいい! 高級なやつ!」
「ふふ……せっかくの報酬だもの。たまには贅沢もいいわね」有紗が柔らかく笑いながら言うと、明も肩をすくめた。
「ま、焼肉でもなんでもいいけどよ。食いすぎて動けなくなるなよ?」
「言ってる本人が一番食べるくせに~!」沙耶がぴょんと飛び跳ねてツッコミを入れ、明が「おい」と軽く睨んで追いかける。
そんなやり取りに、受付の礼子もクスリと笑った。
「はいはい。楽しむのはいいけど、飲み過ぎて明日寝坊しないようにね。あなたたち、あと一回Bランクチャレンジをクリアすれば、Bランク昇格試験を受けられるんだから」
「そうなの? そんなに早く?」と純子が振り返る。
「ええ、深紅の牙ラプトルもBランク扱いになったわ。今回ので2回連続Bランク任務成功だからね。3回連続でBランク依頼をこなしてBランク昇格試験にちゃんとうかれば、パーティとしてはBランク認定。そしたら、Aランクも夢じゃないわよ」
一瞬、場の空気がピンと張る。
Aランク。それは多くの冒険者が憧れる上位の証であり、国家規模の任務も舞い込むようになる階級――。
「……面白くなってきたじゃん」明が口の端をつり上げた。
「でも、油断は禁物ね」有紗が静かに言い添える。
「うん。あたし、もっとがんばる!」沙耶が拳を握る。
そして、純子は両手を広げて叫んだ。
「じゃあ、とりあえず今日は打ち上げよ! 明日からまた、フォーカスの伝説を作ってやろうじゃない!」
「うぉーっ!」という掛け声と共に、5人はギルドをあとにした。
フォーカスの5人は、ギルド近くの高級料理店《焔牛亭》に向かった。焼きたての肉の香ばしい香りが鼻をくすぐり、沙耶は入店前から目を輝かせていた。
「わーっ、もう匂いが最高……っ!」
「落ち着きなさいって、まだ席にも着いてないわよ」
有紗が苦笑しつつも、嬉しそうに微笑む。
席に通されると、純子が即座に叫んだ。
「店員さん! 肉盛り合わせ×3! あと、バクガーもガンガン持ってきてーっ!」
「ちょ、ちょっと純子!? まだ頼んでないのに……!」
「フッフッフ! 祝いよ祝い!」
すでに酔ったかのようなテンションに、明も小さく笑う。
そして料理が運ばれ始めると、沙耶の手は止まらなかった。
「おいしぃ~~~~っ! しあわせ~~~っ!」
明が警告するも、止まらない沙耶。
「そんな勢いで食うと、あとで――」
言いかけた時、沙耶がテーブルに突っ伏した。
「……う、うごけない……。でもあと一口……」
「だから言ったじゃん……」
その横で、純子は顔を真っ赤にしてバクガージョッキを掲げていた。
「フォーカスに栄光あれぇ~~っ! ひっく……!」
「純子も酔ってるし……まったく、騒がしいわね……」
有紗は溜息をつきつつ、ほんの少しだけ口元を緩めた。
騒がしくも、確かな絆を感じる夜がふけていく――。
翌朝。
二日酔いで頭を押さえながらギルドにやってきた5人は、受付で待っていた礼子に呼びよせられた。
「おはよう。フォーカスの皆さん。ちょっとだけお時間よろしいですか?」
「す、すみません。昨日、ちょっと食べすぎて……うっぷ」
「飲みすぎて……」
沙耶と純子も口をおさえて顔をしかめる。
礼子は苦笑しながら、一枚の依頼書を取り出した。
「はい、これ。あなた達に来た指名依頼よ。レベル的にはBランクの依頼。うまくやれば、次が昇格試験よ」
差し出された紙にはこう記されていた。
【依頼名】
『古代遺跡ベル=カランの魔物調査および排除』
【依頼人】
歴史研究家 ロメオ・ヴァイン
【概要】
南方の古代遺跡に、近ごろ魔物が巣食っているとの報告あり。遺跡の安全確保のため、内部調査と危険魔物の排除を依頼。
なお、依頼人ロメオ・ヴァイン氏も同行予定。非常に口数が多く、こだわりも強いが悪人ではない。
【報酬】
金貨70枚+ロメオ氏秘蔵のアイテムから選択
「……ロメオ、ねぇ……」
純子が眉をひそめる。
「知ってるの?」と有紗が尋ねると、明がぽつりとつぶやいた。
「ああ。前に見たことある。やたらしゃべるし、やたら茶をふるまってくる。こっちが魔物と戦ってても、メモ取ってる変人だ」
「楽しそうな予感がするね~!」沙耶はケロッと笑う。
「うん。腕が鳴るわね」と有紗も静かに頷く。
「じゃあ、この依頼、受けるってことでいいんだね?」
「いいんじゃね」
「私もいいわ」
「さんせーい」
「伝説の第3章ってやつね!」
こうして、フォーカスのBランク3回目のチャレンジは、ちょっとクセのある学者と共に幕を開けるのだった。
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