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 ギルド本部の報告窓口は、朝から騒がしかった。依頼を終えた冒険者たちが報酬を求めて列を作る中――


「ああ、卓郎君たち。Dランク昇格試験、セントリム遺跡の調査報告ですね」


 受付嬢の礼子が、書類に目を通しながら顔を上げた。


「はい! 『フォーカス』、依頼完了しました!」


 元気よく答える沙耶。その横で、有紗と純子が控えめにうなずき、明は堂々と腕を組み、卓郎は軽く一礼する。


「調査と討伐……どちらも完了、と。……えっと、ええ?」


 礼子の手が止まる。


「遺跡深部に存在していた高位の魔力反応を確認。漆黒鎧の亡霊の騎士と交戦、撃破……?」


 空気が一瞬にして張り詰めた。


「ちょ、ちょっとこれ、本当なの? 君たち、Dランク昇格試験でセントリム遺跡を攻略してきたの!?」


「うん、なんか……奥にすごい魔法陣があって……そしたらドーンって騎士がバーンって!」


 沙耶の説明に、礼子の目がぐるぐると回りそうになる。


「い、今確認するわね! ちょっと! ギルドマスター呼んでー!!」


 ――それから数分後。


 応接室に通された卓郎たちは、ギルドマスターの鉄馬から正式に調査報告の聞き取りを受けることになった。


「……なるほどな。確かに、こいつはDランクどころじゃねぇ」


 分厚い腕を組みながら、グランが唸る。


「通常の昇格試験をはるかに超える成果だ。遺跡の構造の詳細、封印魔法陣の構成、討伐した魔獣の魔力値……どれをとっても、Bランク相当以上の依頼だぞ、こりゃ」


 純子がこっそり明にささやく。


「……なんか、怒られるっていうより、褒められてない?」


「ああ、たぶん俺ら、やっちまったってやつだ」


 鉄馬が続ける。


「卓郎、お前……『セラフレイム』ってスキル、どこで習得した?」


「いや、それ、魔法合わせ掛けで……たぶん、自分で……」


 全員の視線が凍りついた。


「自分で!? しかも初見で亡霊の騎士の防御を貫通!? ……はあ~~~っ、マジで化け物予備軍だな……」


 鉄馬が頭をかきながら、紙を取り出した。


「昇格試験合格……の前に、ランク飛び進の対象だ。Dランクすっ飛ばして、CやBへの適性を判断させてもらう。よって――」


 バンッと机に置かれるのは、『個人実力試験』と書かれた書類だった。

「このあと、お前ら個別にテストを受けてもらう。力、技、魔力操作、判断力、そして……スキルの安定性。合格すれば、お前らは正式に個人ランクCかBの冒険者だ」


 5人は一瞬驚き、すぐに引き締まった表情で頷く。


「……はい、受けさせてください」


「よろしい。じゃあ、準備してこい。個別実力試験は明日の朝からだ」


 こうして、予想外の活躍が評価され個人試験を受けることになった


 翌朝、ギルドの訓練場には、すでに試験官たちと受験者たちの緊張感が張りつめていた。個別実力試験――それは、実戦さながらの環境で行われる、ランク昇格を決定づける重要な試験だった。



 一番手は明。対戦相手は、ギルドでもベテランと名高いBランク冒険者の斧使い。審査員の合図とともに、金属がぶつかる激しい音が響き渡る。


「うおぉぉぉっ! 俺の『フレイムバスター』で――!」


 ミスリルソードに炎がまとい、一気に前進する明。対する斧使いも重量ある一撃を放つが、明の攻撃は力で押しきった。


 斧が吹き飛び、相手の膝が折れた。審判がすかさず割って入る。


「ストップ! 勝者、明!」


 場内がどよめく。堂々たる勝利だった。


 二番手は純子。戦場に出た彼女は、短く息を吐きながら弓を構える。対戦相手は、動きの早い短剣使いの女性冒険者。


 距離を保ちつつ、矢を射る。俊敏な相手は容易に避けてくるが、純子は焦らなかった。足運びで相手の進路を読み、遮蔽物を活用しながら矢を放ち続ける。


 数分後、審判が手を上げる。


「純子、合格。射撃精度と地形の使い方において、高い判断力を確認」


 次に、有紗。彼女は冷静な目で、弓を持って戦場に立つ。相手は槍使い。遠距離の射線を常に意識し、慎重に距離を測る。


 彼女の矢は正確だった。一発一発が丁寧に放たれ、相手に接近の隙を与えない。最後は、槍の柄を狙い、見事に弾き飛ばした。


「有紗、合格。冷静な戦術眼と精密射撃が評価に値する」


 そして、四番手は沙耶。試験開始と同時に走り出し、元気よく矢を連射する彼女は、まるで試合を楽しんでいるかのようだった。


 対戦相手の剣士は機動力で押そうとしたが、沙耶の矢は速射性能に優れ、接近を許さない。時には跳ねるように動きながら放つ矢が、見事に急所すれすれを抜けていく。


「沙耶、合格。身体能力と反射的判断の高さ、認める」


 三人とも、スキルに頼らず弓使いとしての基礎能力と応用力を示してみせた。判定はそろってDランクだが、上位ランクでの成長性も大いに期待できる内容だった。


 そして最後は――卓郎。


 静まり返る場内。誰もが息を潜める中、ゆっくりと現れた対戦相手――それは、ギルドの頂点に君臨する伝説の男だった。


 ギルドマスター、鉄馬。


 鍛え抜かれた巨体に、身の丈を超えるハルバート。その刃は幾千の魔物の血を浴びてきた証。見る者すべてに「本物」の威圧感を与える。


「この目で見せてもらうぞ。『セラフレイム』の真価をな」


 静かな声に、場内の空気がさらに凍りつく。審判の合図が、乾いた音で響いた。


「――試合、開始ッ!」


 一瞬の静寂――次の瞬間、卓郎が風のように飛び出した。


「完全見切り!」


 視界が鋭く研ぎ澄まされる。鉄馬の身体が揺れ、ハルバートを振りかざす予兆。その一撃が来る前に、卓郎はその懐に潜り込んだ。


 だが――


「……甘い!」


 巨体とは思えぬ速度で、鉄馬の膝が飛んできた。紙一重で避けた卓郎の横腹に、風圧が刺さる。


「――チッ!」


 卓郎は地を蹴って後方へ回避。間合いを取りながら、剣を構える。


「いくぞ――力の一撃!」


 剣に力を込める。刃が淡く光り出す。発動まで、ため時間3秒――その間、卓郎は目の前の巨人の動きを見極めようと集中を極限まで高めた。


 だが――


「させるかァッ!!」


 怒号とともに、鉄馬の膝が突き上がる!


「っぐ……!」


 卓郎の集中が一瞬で崩れる。膝蹴りが脇腹に食い込み、呼吸が乱れる。ハルバートが振り上げられ――


「大旋風!!」


 ハルバートが唸りを上げて回転する。風圧ごと卓郎の身体を薙ぎ払おうと迫る――!


(もう……間に合わない……っ!)


 刹那、卓郎の瞳が燃え上がる。


「――ファイアバレット!!」


 左手に集めた魔力が、火の弾丸となって解き放たれる!


 轟音とともに、火球が鉄馬の視界を遮り、爆ぜた。煙が視界を覆い、鉄馬の動きがわずかに鈍る。


(今しかない――!)


 卓郎は全力で踏み込んだ。再び刃を構え、火球の残光を突き抜ける!


 鉄馬が煙の中から姿を現すが、今度はそのハルバートが間に合わない――


「はあああああッ!!」


 卓郎の剣が、鉄馬の胸元を斜めにえぐるように振り抜かれた。激しい衝撃音とともに、巨体が一歩、二歩とよろめく。


 審判の声が、ついに響いた。


「ストップ! 勝者――卓郎!!」


 場内が静まり返る。そして次の瞬間、轟くような歓声が湧き上がった。


 立ち上がった鉄馬が、傷を押さえながらも――笑っていた。


「……見事だ。魔法と剣の切り替え……あれは瞬間の判断じゃなければできん芸当だ」


 その声に、観客の熱気がさらに高まる。


「お前……Aランクどころか、それ以上の怪物になるぞ」


「マジすか?」

 卓郎は肩で息をしながら、それでも剣を離さず、真っ直ぐ鉄馬を見据えた。


 こうして、明はCランク、女子三人はDランクに合格。そして卓郎――彼は、ギルドマスターさえも驚かせる実力を持って、Aランク相当と認定されることとなった。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

大切なお願いです。ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価下さい。

お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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