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 瘴気に満ちていたボス部屋は、まるで魔力が洗い流されたかのように静まり返っていた。

 闇の柱だった石碑は崩れ、天井の魔紋は淡く光を失っている。


「……終わったんだよな、これで」


 息をつきながら天井を仰ぐ。そこには、砕けた魔石の欠片が、まるで星のようにきらめいていた。


「うん、確かに終わったわ」

 純子が倒れた瓦礫に腰掛けながら頷く。

 その声は疲労混じりだったが、どこか安心した響きがあった。


「……でも、あの亡霊、マジで怖かったよぉ……」

 沙耶が卓郎の隣にぺたりと座り込み、しがみつくように肩に寄りかかる。

「目が赤くなった時とか、ほんと心臓止まるかと思った……」


「だ、大丈夫だよ沙耶ちゃん。もう出てこないから……たぶん」

 有紗も顔を青ざめさせながら、そっと沙耶の背を撫でる。


「たぶんっていわないで!」

 沙耶がぶるぶる震え、有紗もごめんごめんと苦笑い。


「……けど、マジで卓郎、あれはすごかったな」

 明が剣を背に戻しながら、卓郎に近づく。

 普段ふざけ気味の彼の声にも、少しだけ本気のトーンが混じっていた。

「完全なる見切りを連発して、あの亡霊の攻撃全部さばきながら……何十回斬った? 正直、化けもんだったぜ」


「いや……あんまり覚えてないけど……」

 卓郎は苦笑しながら、少し照れくさそうに頭をかいた。

 魔力が枯渇すると思っていたのに、なぜか最後まで動けてしまった。――魔力量?/? その意味するところは、まだ分かっていなかったが、かなり多いことは間違いなかった。


「でも、ほんとに……無事でよかった……」

 純子がぽつりと呟く。

 その瞳は卓郎の背中を見つめ、ほんの少しだけ潤んでいた。


「うん……全員生きてる。奇跡だよ、これ」


 有紗がそう言って笑い、沙耶も「やったね!」とハイタッチ。


「……よし、決めた」

 明が腰に手を当てて宣言する。

「この部屋、ボス倒した記念に『俺たちの休憩所』にする!」


「はぁ? こんな呪われてたとこで休みたくないわよ」

 純子が即ツッコミ。


「っていうか、座る場所ないし、床ひんやりしてるし……」


「それがいいんじゃねーか! このヒンヤリ感が! ほら、背中つけてみろ、最高だぞ」


「明くん、それ死にかけた人の感想だよぉ……」


 わいわいと騒ぎながらも、全員がどこか満たされたように笑い合っていた。

 戦いの余韻と、命の鼓動が、薄暗い石の部屋に温かく響いていた。


「……なあ、こんなところだけどさ」

 卓郎がぼそりと呟いた。深い安堵と、どこか切実な気配を帯びている。


「飯、食わね? なんか、めちゃくちゃ腹減った」


「それな!」

 真っ先に叫んだのは明。全身ボロボロのくせに、食欲だけは誰よりも元気だ。


「賛成ー!」

 沙耶がピョンと手を挙げる。

「今日の分のご褒美はスイーツ大盛りでお願いしまーす!」


「ちょっと待って、どんだけお取り寄せする気?」

 純子が眉をひそめる。


「ふふん」

 俺は、にやりと笑う。


「……俺のスキル、『お取り寄せ』の本気、見せてやるよ」


 そう言って指で空を押すと、卓郎の目の前に淡く光るメッセージボードが現れた。

 それを使って、次々と――なんと、高級料理の数々が召喚されてくる!


「うおおおお!? なんだこれ! ローストビーフ! オムライス! カニ鍋まである!?」  明が叫びながら、テンション爆上がり。


「えっ……ちょ、ちょっと待ってこれ、ホテルのディナーなみじゃない!?」  純子が目を見開いて立ち尽くす。


「すごーい! あっ、スイーツもあるよ! モンブランに、パフェに、ティラミスー!」  沙耶はもう笑顔でスイーツワゴンに張り付いている。


「えへへ……なんか、夢みたいだね……」  有紗も控えめながら、にこにこと料理を眺めていた。


 ボス部屋の中央――さっきまで闇と瘴気に満ちていた空間が、今では香ばしい匂いと湯気に包まれていた。

 遺跡の石の床に即席で敷かれたシートの上に、次々と並べられていく豪華料理たち。


「さすがに、おなかが減りすぎてて限界だったわ」

 純子が呆れつつも、手を合わせて言った。


「……いっただきまーす!」


「いただきまーす!!」


 五人の声が重なり、宴が始まった。


「うわ、このオムライス、ふわとろすぎて飲めるレベル……!」  明が目を潤ませながら頬張る。


「このカニ、しゃぶったら溶けたんだけど! 口の中で溶けたんだけど!!」  沙耶が両手を振りながら大騒ぎしている。


「甘い……やばい……このチーズケーキ、幸福の味がする……」  有紗はスプーン一杯で無言の感動を伝えていた。


「……ねえ、卓郎」

 純子が小声で話しかける。

「前から思ってたけどさ、その『お取り寄せ』……本気出せば、天下をとれるよね?」


「えっ……うそ……?」


「いやいやいや、天下を取るよりもまず! 今は俺たちの腹を満たすのが使命だろうが!」

 明がスプーン片手に乗り出してくる。


「とりあえず今だけは、最高のごちそうと、最高の仲間と……乾杯、だね!」

 沙耶がジュースのグラスを掲げる。


「……ああ、乾杯だ」

 卓郎が応じ、みんなも笑顔でグラスを掲げた。


「「「「「かんぱーいっ!!」」」」」


 かくして――

 命を賭けた戦いのすぐそばで、世界一贅沢で、世界一くだらなくて、そして世界一幸せな宴が開かれたのだった。


 戦士たちの笑い声と食欲が、古の遺跡の闇を、静かに、でも確かに照らしていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(悪口言われるのは嫌い)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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