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ギルドを出て半日、俺たちは東の森を目指して街道を進んでいた。
春の陽気に包まれ、風は穏やかで、空は抜けるような青。とても『昇格試験の依頼』とは思えない、のどかな旅路だった。
「……なあ、これ本当に試験か?」
明がぽつりと呟く。
「あんた馬鹿! 試験が始まるのは遺跡に入ってからでしょ?」
純子が肩をすくめる。
「試験本番の前にくたびれたりしてなきゃいいけどね」
沙耶が小さく笑う。そんな中、有紗がふと道端の花に目を留めた。
「あ、これ……月光草だ。夜に光る薬草。珍しいよ」
しゃがみ込み、手慣れた様子で根元から優しく摘み取る。
「へぇー、有紗って植物にも詳しいんだな」
俺がそう言うと、彼女は少し恥ずかしそうに笑った。
「私のスキル、『薬剤錬成』だから、昔、おばあちゃんに薬草の使い方を教わってて……戦いも大事だけど、こういう知識も役に立つと思って」
「うん、流石お姉ちゃん。それすごく頼りになる!」
沙耶がぱあっと笑顔になる。
「へへ、ありがと」
――そのときだった。
ガサッ!
茂みが揺れ、草むらから何かが飛び出した。
「っ、敵か!?」
明が即座に剣を抜く。
……が、現れたのは――
「きゃっ、なにこれ!?」
沙耶の足元に、ずんぐりとした小さな丸い生き物が飛びついた。
「ぷう〜?」
つぶらな瞳にふわふわの体毛、どう見てもモンスターというより――
「……ただの野生のハムスターじゃない?」
純子が呆れ顔。
ハムスターはぴょんと跳ね、沙耶のリュックに顔を突っ込もうとして――
「こらこら、食べ物探してんの!?」
沙耶が慌てて追い払う。ハムスターは小さく「ぷぅ」と鳴いて森に戻っていった。
「……妙に人懐っこかったな」
俺がぽつりと呟くと、有紗がふと顔を曇らせた。
「……ちょっと気になるかも。この辺り、ああいう動物は警戒心が強いはずなのに」
「……魔力の影響、か」
明が真剣な表情に戻る。
「もしかすると、遺跡の異変は、すでにこの森全体にじわじわ広がってるのかもしれないな」
たいしたことはないほのぼのとした出来事のようで、そこには不穏な予兆も確かにあった。
俺たちは気を引き締め、再び歩き出した。
森を抜けると、そこはまるで時間が止まったかのような静けさだった。
「……あれが、セントリム遺跡」
有紗が息を呑むように呟いた。
古びた石造りの門が、木々に囲まれてぽつんと佇んでいる。
苔むした柱、崩れかけた壁、蔦の絡まったアーチ。そのどれもが、長い年月を語っていた。
「思ってたより……ずっと、静かだね」
沙耶がぽつりと呟く。
「この雰囲気、まるで遺跡が生きてるみたいだ」
俺も思わず声を落とした。風の音さえ、ここでは囁き声に思える。
「油断するなよ。こういう場所ほど、何が飛び出すかわかんねぇ」
明が剣の柄に手を添えながら、足元を確かめるように一歩踏み出す。
その瞬間、足元の地面が「カチッ」とわずかに沈んだ。
「っ、罠か――!」
と、思ったのも一瞬。何も起こらない。
「……単なる、仕掛けかしら?」
純子が壁の紋様を見上げ、指を伸ばす。そこには淡く輝く魔法陣が刻まれていた。
「これ……封印魔法だね。中に何かを閉じ込めた形跡がある」
「つまり、それがまだ内部に残ってる可能性があるってことだな」
明の言葉に俺は深く頷いた。
昇格試験とはいえ、単なるモンスター掃討では終わらなさそうだ。
「準備はいいか?」
明が振り返る。
俺たちは頷き合い、薄暗い地下へ崩れかけた石の階段をゆっくりと下りていった。
セントリム遺跡の内部は、外から見たよりもずっと広かった。
狭くじめじめした石の通路が、いくつもの方向に枝分かれしている。壁のあちこちには、かつて灯りをともしていたであろう燭台が錆びついて残っていた。
「まるで迷路みたいだな……」
俺が呟くと、純子が首をすくめた。
「本気で迷ったら洒落にならないよ。誰か、パンくずでも撒く?」
「ダメだよ、魔物を誘導してるようなもんじゃん……」
沙耶が即ツッコミを入れる。
「無駄口叩く前に、足元注意な」
明が低く言うと、有紗も真剣な顔つきでうなずく。
「この辺の遺跡って、古代結界術が残ってる可能性があるんだよ。解除に失敗すると、空間転移や精神干渉の罠も……」
「うわ、それはやだな……」
俺は思わず顔をしかめ、壁に刻まれた紋様をじっと見つめた。
――ガリッ。
「わっ! な、何か踏んだ……?」
沙耶の声にみんなが振り返ると、床の石が少し沈んでいた。途端に、通路の奥で「カタン」と音が響く。
「扉……?」
俺が前を指さすと、苔と土にまみれていた石の扉が、ゆっくりと横にスライドして開いていく。
中から吹き出してくる空気は、乾いているのにどこか生温かく、鼻につく錆の臭いが混じっていた。
「開いたのはいいけど……なんか嫌な感じ」
有紗が小さく呟いた。
「行くしかないだろ。何かの痕跡があるかもしれねぇ」
明の言葉に、俺たちは頷き合い、一歩ずつその先の部屋へと足を踏み入れた。
そこは広間だった。石の床には魔法陣らしき円形の文様が描かれ、壁には幾何学模様のレリーフ。そして中央には――奇妙な祭壇のようなものが鎮座していた。
「……あれ、何か乗ってる」
純子がそっと近づき、目を細める。
祭壇の上には、黒い宝石のような物体が浮かんでいた。静かに、しかし脈動するように赤い光を灯しながら――まるで“心臓”のように。
「また心臓っぽいのかよ……」
俺がつぶやいた瞬間、空間がピリ、と震えた。
――魔力反応。
それも、とてつもなく濃い。
「こいつ……動いてるぞッ!!」
明が叫んだ直後、祭壇の周囲に魔法陣が浮かび上がる。
空間が歪み、黒い影がうごめき出した。
「来るッ――構えろ!」
得体のしれない何かが、俺たちを試すように、牙をむいた。
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