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 『福佐山』の街に戻った俺たちは、すぐに打ち上げの手配を始めた。

 あれだけの依頼をこなしたんだ、たまにはパーッとやらなきゃもったいない。というわけで、町の居酒屋「どんとこい亭」にて、打ち上げ決行である。


「いらっしゃい! 今日は大漁かい!? じゃんじゃん食って飲んでってよぉ!」

 元気すぎる女将さんに迎えられ、俺たちは奥の座敷に陣取った。


 料理が運ばれてくるたびに、テーブルは豪華になっていく。唐揚げの山、どんぶりサイズの肉じゃが、山盛りの焼きそば、そして謎にやたら光ってる刺身盛り……。


「このイカ、光ってるんだけど!?」

 沙耶が刺身を箸でつつきながら叫ぶ。


「うわっ、ほんとだ! これ食べて大丈夫なのか!?」

 明が眉をひそめるが、純子が涼しい顔で口に運ぶ。


「うん、美味しいよ。イカじゃなくて夜光貝ってやつでしょ、これ」


「さっすが純子、変なとこだけ博識なんだよなぁ」


「変なとこだけって何よ。私は博識なの!」

 俺が突っ込むと、純子はちょっと得意げに鼻を鳴らした。


 一方、有紗はほわほわとした笑顔で、ひたすらサラダとフルーツを摘んでいる。

 食べるたびに「おいしい……」と呟くその姿に、なんか癒される。


「はいはい、こっちは揚げたてのカボチャコロッケよ〜!」

 女将さんが追加の料理をどっさり持ってきて、テーブルはますます戦場と化す。


「うおおおお、俺は唐揚げ山の頂点を制覇する!」

 明が箸をクロスさせて構えると、沙耶が「唐揚げより、現実を見て」とつっこむ。


「そういえばさー」

 純子が話題を切り出す。

「今回の依頼、卓郎の『ヒール』がなかったら詰んでたよね。あれ、マジでヤバくない?」


「いや、マジでチートだよね、魔法が使えるって……」

 沙耶がコップを持ち上げ、しみじみと。


「うん、『卓郎様』って感じだったよ!」

 有紗の天然コメントに、みんながずっこける。


「いや、それただの名前だから!」

「有紗ちゃん、誉めたの!? 惚れたの!?」


 わいわい騒ぎながら、打ち上げは佳境に突入。

 笑い声、皿が重なる音、みんなの笑顔――まるで、家族みたいだった。


「……なんかさ」

 俺はふと、飲みかけのフルーツサワーを見つめながら呟いた。

「こうして笑っていられるの、すげー大事なことなんじゃないかなって」


「馬鹿なの! 急にカッコつけて」

 純子が肩をすくめる。


「でも、わかるかも」

 有紗がふんわり笑って、隣でこくんと頷く沙耶。


「次の依頼も、みんなで無事に帰ってこようね」


 誰からともなく、グラスが掲げられた。


「かんぱーい!」


 仲間たちとの笑い声が、夜の福佐山に響いていった。




 朝。


 ……なんだこの頭の重さ。枕が岩だったっけ?

 いや、違う。ただの二日酔いだ。昨日、ジュースのはずがなぜか酔っ払った気がするのは、たぶん「どんとこい亭」の名物“フルーツサワー(ノンアル風)”のせいだ。


 ふらつく足取りで、俺はギルドへ向かう。

 空気はやけに澄んでいて、朝の町は思いのほか静かだった。人通りもまばらで、鳥の声がやけに響いている。


 と、角を曲がった先に、見慣れた後ろ姿を見つけた。


「……お、純子?」


「ん、ああ。卓郎じゃん」


 純子はギルドの方角とは少し違う路地から現れた。俺に向ける顔つきは、今日もいつもの不機嫌そうな無表情……と思いきや、どこか目元が疲れてる気がする。


「お前もギルド? 一緒に行くか」


「うん……」


 珍しく、彼女はすぐには何も言わず、俺の隣に並んで歩き出した。いつもなら皮肉か冗談のひとつでも飛ばしてくるのに。

 沈黙が妙に長く感じられて、俺はそれを破ろうとした。


「昨日の打ち上げ、楽しかったな。貝光ってたけど、あれ美味かった」


「……あれ、実はあんま食べれなかったんだよね」

 ぽつりと、純子が呟く。


「え、マジで? 刺身好きそうな顔してたのに」


「それ、どういう顔よ」

 小さく笑った後、彼女の目が少しだけ真剣になった。


「……実はさ。私の両親、昔ウニの魔物にやられて死んだの」


「……」


 冗談でも、軽口でもない。

 彼女の声は低く、でも震えてはいなかった。


「ウニって、あの……?」

 信じられず聞き返す俺に、純子は頷いた。


「うん。あの、でっかくて、毒針飛ばしてくるやつ。南の海辺の街『姫の宮都市』に住んでたんだけど、ある日、浜辺で襲われてさ……。父さんも母さんも、私をかばって……」


 俺は何も言えず、ただ足を止めた。

 純子も足を止め、空を見上げる。


「だからね。私、ウニ食べるとさ、味とかじゃなくて、思い出すのよ。あの時の海の匂いとか、叫び声とか……」


「……ごめん。昨日、バカみたいに騒いでて、そんなの知らなかったから……」


「別にいいよ。みんなには言ってなかったし」

 純子はそう言って、今度は笑ってみせた。

 でもそれは、どこか寂しげな笑みだった。


「だからね、私、強くなりたいの。あのときみたいに、もう誰かを失いたくないから」


 俺は何も言えないまま、ただ隣に立っていた。

 でも、そういう時に無理して言葉にするのは、きっと違う。


 だから、ただ一言だけ言った。


「……お前がウニを倒すときは、俺も一緒に行く」


 純子が驚いたようにこちらを見る。


「……ありがとう」


 彼女がそう言って、少しだけ頬を緩めた。

 俺たちはまた歩き出す。静かな朝の町を、並んで。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(本人褒められて伸びるタイプ)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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