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 翌朝。

 俺たちは、討伐証明となる部位・ラビバグの角32を袋に詰め(それ以外は『買い取り』した)、馬車で街へ戻った。村人たちは見送りに出てくれて、なかには焼きたてのパンや果物を手渡してくれる人もいた。


「これ、お礼にって……」

 子どもが小さな花束をくれたときは、さすがの明も言葉に詰まってたな。


 ギルドに到着すると、朝の受付カウンターにはいつものように礼子さんが立っていた。


「おかえりなさい、卓郎くんたち。ええと……山本村のラビバグ討伐の件ね?」

「はい。討伐証明、これです。全部で……32体分」

 俺が袋を差し出すと、彼女は手慣れた動きで確認を始めた。


「ええと……確認よし、はいっ、32体分で16万ゴルド。お疲れさまでした」


「やったー! 今回はちゃんとした報酬だ!」

 沙耶が両手をあげてはしゃぐ。


「ちゃんと分配するからね、ほら」

 俺は3万2千ゴルド(『買い取り』分25万6千ゴルドは、昨日すでに分配済。百点ポイント45未使用)を一人ずつに渡しながら、ふと視線を上げた。


 ――ギルド内の空気が、少し重い。


 冒険者たちがざわついている。その中心では、血まみれのマントを羽織った男が、受付の奥でギルドマスターと何か話していた。


 礼子さんも、表情を引き締める。


「……ああ、ごめん。純子ちゃんたち、この後ちょっと時間ある?」


「え、ええっと、まぁ、はい」

 返事をした純子に、礼子さんは静かに言った。


「北部の村――山本村よりさらに奥、軽部村ってところがあるの。そこが昨夜、まるごと沈黙したのよ」


 俺たち全員の背筋がぞっとした。


「沈黙……って?」

 純子が眉をひそめる。


「誰とも連絡が取れない。使いの子どもが、村が静かすぎて怖くなって途中で引き返してきたらしいのよ。ラビバグどころじゃない、ってわけ」


 昨日の夜の戦いのあと、俺たちはすっかり気を抜いていたけれど、何かが……もっと大きな何かが、動いているようだ。


「とりあえず、今は軽部村に調査隊が向かってるけど……場合によってはあなた達にも頼むかも」

 礼子さんの声は、静かだけど真剣だった。


「……わかりました」

 純子が頷く。


「――あ、そうそう。純子ちゃんたち、ひとつお知らせがあるの」


 俺たちが振り向くと、礼子さんは少し誇らしげに微笑んだ。


「今回のラビバグ討伐、それから山本村の人たちからの評判も加味されて……正式に、Eランクへの昇格が決まったわ。おめでとう!」


「えっ、マジで!? 良いことだけど、俺だけEランク据え置き?」

 明が思わず声を上げる。


「仕方ないでしょ。元々Eランクなんだから」

 沙耶は手を叩いて喜び、有紗は微笑みを浮かべた。


「……やっとスタートラインって感じかな」

 純子が小さく呟いたのを聞きながら、俺は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。


「ありがとう、礼子さん。……これからも、頑張ります」


 ラビバグだけで終わりじゃない。この世界、なんだか急に風向きが変わってきているような気がしていた。


「昼飯を、昇格祝いを兼ねてパーッとやろうぜ!」


 明の提案で昼食は、昼からの宴会となった。



 翌朝、ギルドに顔を出すと、受付カウンターの前には見慣れない重装備の男たちが集まっていた。剣や槍の柄に手を添えたまま、ピリピリとした緊張感が漂っている。


「……あれ、あの人たちって」

 沙耶が小声で尋ねると、有紗が頷く。


「多分、上位ランクの冒険者たち。雰囲気が違うもの」


 そんな中、礼子さんが俺たちに気づき、手を挙げて呼んだ。


「卓郎くんたち、ちょうどよかった。こっちに来て」


 案内されたのは、ギルドの奥にある作戦室。普段は使われない場所で、長い地図の広げられたテーブルの前に、ギルドマスターが座っていた。


 白髪混じりの顎髭を撫でながら、俺たちに視線を向ける。


「――君たちが、ラビバグを退けた新Eランクの新人か。ふむ、悪くない」


「はい。……それで、今日はなんのご用でしょうか?」


 俺が尋ねると、マスターは指で地図の一点を示した。


「軽部村だ。昨日話した通り、連絡が途絶えている。昨夜、先発隊を送り込んだが、いまだに戻ってこない」


 ギルドマスターの言葉に、場の空気がさらに緊張する。


「このままだと、あの村も……」


 有紗が不安げに呟いた。


 マスターは頷き、俺たちをじっと見つめた。


「本来、新Eランクの君たちに任せるような案件ではない。だが、君たちは『最初の目』になれる。情報を持ち帰るだけでいい。村に入って様子を確認してくれ」


「討伐じゃないんですね?」

 純子が確認すると、マスターは静かに答えた。


「ああ。敵が何かもまだ分からない現状だ。戦うなとは言わんが、むしろ戦わずに必ず情報を持ち帰ってきてほしい。危険な任務かもしれん。頼めるか?」


 俺は一度、仲間たちを見た。


 明はいつものようにニヤリと笑い、純子は腕を組んでうなずく。有紗と沙耶も、緊張の中に決意を秘めて頷いた。


「……はい。行きます。俺たちでできる範囲で、やります」


 マスターはふっと微笑んだ。


「いい返事だ。装備と準備を整えたら、今日の午後には出発してくれ。あとは――幸運を祈る」





ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、少しでも「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(本人褒められて伸びるタイプ)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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