表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/265

32

 

 翌朝。今日の空は妙に霞んでいた。

 気のせいか、通りを歩く人の足も少しだけ早い。なんというか……落ち着きがない。


 俺は寝ぐせを整えながら、大通りを歩いてギルドへ向かっていた。

 晩飯はステーキ行くかー、なんて気楽なことを考えていた。


 ――が。


「……ん? なんだ、あれ」


 ギルドの掲示板前のには、いつも以上の人だかりができていた。

 珍しいことではある。けど、集まってる人たちの顔がどこか強張っているのが気にかかる。


 近づいてみると、掲示板の中央に大きく貼られていたのは一枚の警告文。


【注意喚起】

 昨晩より、南の森、川辺の湿地、周辺にて魔物の活性化が確認されました。

 特に、通常よりも大型の変異個体の出現が報告されています。

 冒険者ギルドとして、当面の間F〜D級のソロ討伐は自粛を推奨します。

 不審な現象を見かけた場合、速やかにギルドまで報告してください。


「おい……また変異個体かよ……」

「昨日、ジャイアントフロッグのやべー奴出たばっかだろ?」

「これって、川辺の湿地……あんたたち昨日行ってなかった?」


 人混みの中から顔見知りの冒険者に声をかけられて、俺はちょっと苦笑いを返した。


「ああ、いた。いたけど……まさか、まだ続きがあるのか?」


 言いながら、背中にじわりと冷たい汗が伝う。

 俺たちが倒したのは確かに強力な変異体だった。

 けど、あれが最初だったとしたら?


 ギルド内も、普段とは違って静まり返っていた。

 受付の礼子さんも、いつもの笑顔が少しだけ硬い。


「おはようございます、卓郎さん。昨日の様子、詳しく聞かせていただけますか?」

「うん。……けど、その前に聞いていい? 変異個体って、昨日のジャイアントフロッグだけじゃなかったの?」


 彼女は一瞬だけ眉をひそめ、声を落とした。


「今朝未明、南の森から戻ってきたB級パーティが、異常な魔素濃度の上昇を報告してきたの。……魔力の濃度が急激に高まってる。何か、変だわ」


 魔素の濃度?

 そんなの、ボスが湧く前兆じゃないか。


 胸の奥が、昨日とは違う不安でざわつき始めていた。



 俺たちFランクパーティは、ギルドの奥の端っこ――いわゆる「下級者用の依頼掲示板」の前に集まっていた。


 掲示板には「キノコの採取」「いたずらモグラの駆除」「古井戸の掃除」など、地味で安全な依頼ばかりが並んでいる。

 もちろん、危険度は低いけど報酬も控えめ。南の森のような冒険らしい冒険からは、程遠い。


「……やっぱり、南方面の依頼は閉鎖か。Fランクには関係ないって扱いね」

 純子が不機嫌に掲示板を睨みつけた。今日も変わらずくびれた腰に手を当て、目を細めている。


「ま、まあまあ、仕方ないよ。昨日の件だって、報告してもたまたま運が良かったって扱いなんでしょ?」

 有紗が俺たちをなだめるように微笑むけど、その瞳は少し曇っていた。

 妹の沙耶も、横で「うーん、昨日の変異ガエル倒したのになぁ」とぽそっと呟いている。


「実力、認めてもらえてないってことか……」

 俺は掲示板に視線を戻した。昨日、あれだけ必死に戦って命を懸けて、勝ったのに――俺たちは、たまたま勝てた程度の扱い。


「おい、これ見ろ。北の農村から来てる依頼。畑を荒らす魔獣の群れ、ってある」

 明が一枚の紙を指差した。すでに何人かがそれを見てスルーしていった形跡がある。


「ウサギ型の魔物、『ラビバグ』の群れ……行動は素早いが、集団行動に弱点あり、か」

 俺は読みながら頷いた。ステータスが上がった今なら、対処はできそうだ。


「報酬も悪くないわね。討伐報告で一体につき銀貨5枚ってとこか」

 純子が言うと、有紗と沙耶も頷いた。ウサギ型の魔物、『ラビバグ』の群れ


「じゃあ、これにしよっか? 北方面なら、ギルドからの注意区域からも外れてるし、安全な範囲内だよね」

「さんせーい! モフモフしてたらちょっとかわいそうだけど……でも悪い魔物なんだもん、しょうがないよねっ!」


「よし、決まりだな。北の農村――『山本村』か。朝のうちに移動して、昼前には現地に着けるはずだな」


 俺たちは、受付の礼子さんのもとへ依頼書を持って向かう。

 彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな表情を浮かべて言った。


「山本村ですね。……ええ、安全確認済みです。気をつけて行ってらっしゃい。最近の貢献、私は評価してますよ。……きっと、もうすぐパーティランク、上がりますよ」


 その言葉に、胸が少しだけ熱くなった。


 ――見ててくれた人は、いたんだな。


 俺たちは新たな依頼書を手に、街の北門へと向かっていった。

 空はまだ曇りがちだが、遠くに見える丘の向こうには、一筋の光が差していた。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、少しでも「続きが気になる」「面白い」と感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙で「面白い」などのコメントをいただけると最高です!(本人褒められて伸びるタイプ)


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ