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食後のデザートは、純子と沙耶の「三つまでは合法!」という謎理論により、テーブルいっぱいのスイーツが並んだ。プリン、パフェ、ミルクレープ、ティラミス、チーズケーキ、アップルパイ。
「これは……戦いだな……!」
明がフォークを構え、真剣な目でケーキを見つめる。戦士の顔だった。
「じゃんけんで負けたら最後の一個取れないからねっ!」
沙耶が叫び、有紗が苦笑しながらフォローに入る。
「ねえ、卓郎くんはどれが好き?」
純子が何気なく聞いてきた。視線を逸らしながらも、声はどこか柔らかい。
「そうだな……甘いの苦手って思ってたけど、意外と……ティラミス、うまいな」
「……ふーん。ま、あんたがそれ選ぶなら、私が別の食べるだけだけど」
照れ隠しのセリフ。でも、さっきからずっと笑顔が絶えない純子の姿に、少しだけ変な期待が顔を出す。いやいや、そんな訳ねー。この前までめっちゃ嫌われてたし。
楽しい夜だった。
腹が満たされて、笑って、仲間の距離も少しだけ縮まって。
こんな時間がずっと続けばいいのに――誰もがそう思ったに違いない。
……だが、その日常の終わりは、すぐそこまで来ていた。
会計を終え、店を出て、繁華街の通りを歩く。ランタンの明かりに照らされる道。どこかの大道芸人がジャグリングして、子どもたちが拍手している。
――ふと、空気が変わった気がした。
風が止まり、周囲の喧騒が少し遠のく。
誰かに見られているような、そんな感覚。
俺は思わず足を止め、周囲を見回す。
「……どうかした?」
有紗が首を傾げる。明も気付いたのか、顔をしかめて辺りに視線を走らせた。
「なんか……空気、変じゃね?」
「……っ、あの建物の屋上……誰かいる」
沙耶がぽつりと呟いた。
その指差す先――街の一角にある、廃屋の屋上に、黒い影がひとつ。
高すぎて、顔までは見えない。ただ、月を背にして立つその姿は、まるで……何かを監視するように。
だが次の瞬間、風が吹いて、影は煙のようにかき消えた。
「見間違い……かな?」
純子が呟いたが、その声には少しだけ緊張が滲んでいた。
……警戒するほどの確証は、ない。
でも、ただの通行人とは考えにくい。
「……とりあえず、今日は帰ろう。明日またギルドに顔出して、情報集めてみようぜ」
「うん、そうだね。……なんとなく、いやな感じがしたから」
俺たちは、それ以上話さずに別れた。
けれど――俺の胸には、言葉にならないざわめきが、確かに残っていた。
静かな夜の底に、見えない何かが、ゆっくりと近づいてきている。
そんな嫌な予感が頭から離れなかった。
家に戻った俺は、真っ先にベッドにダイブ……せずに、メニューを開いた。
最近この「ポイントチェック」が日課になりつつある。いや、正直、ちょっとした楽しみなんだ。
「おっ……百点ポイント、156か」
思わず口角が上がる。今日はかなり稼いだ。
ステータスも悪くない……けど――ん?
「知力だけ、200に届いてねえな」
他の項目はきっちり200超えてるのに、知力だけが186。わずか14ポイントとはいえ、なんかこう……ムズムズする。
「よし、揃えとくか」
俺は14ポイントを知力に振った。
すると、その瞬間――
「知力が200に上がりました。魔法を覚える知力に達しました。MP、魔法効果の項目が新たに作成されました」
脳内に、機械的な声が響き渡る。思わず、ベッドから立ち上がった。
「……ま、魔法っ!?」
急いでステータスを再確認する。
百点ポイント142、銅級、冒険者レベルF、力の一撃
ステータス、HP:200/200 MP?/?
攻撃力:209 魔法効果:0 防御力:200
速度:284 知力:200 器用:200、
……本当に、増えてる。MPと魔法効果の欄が!
興奮が押し寄せてくる。
魔法って、あの魔法だよな? 火を吹いたり、雷を落としたり、敵を吹き飛ばしたり――でもMPの欄がMP?/?って? こういうもの?
なんだか凄い。目を疑った。急いで『ポイントでスキルを覚える』を調べると魔法の項目で括りができている。火、水、風、土、光、闇……いろんな属性が並んでる。
どれも100ポイントで覚えられるらしい。思わず笑いがこぼれた。迷う。超迷う。
でも――やっぱり光だろ! なんか、ヒロイックでカッコイイし!
そう思って光をタップすると――
「魔法効果の項目が0です。条件が満たされていないため覚えられません」
「う、うそーん……」
ぬか喜びかよ……。でも、もう慣れた。条件揃えてから再チャレンジするのが、この『百点カード』のお約束だ。
「よし、じゃあ――ポチッとな」
魔法効果に2ポイントを投入。
するとすぐさま――
「魔法適性:光 を取得しました。光魔法を覚えられるようになりました」
「やったぁぁあ!」
……と思ったが、ステータスに“光魔法”の文字はない。
う……ん? これ、まだ光魔法、覚えてないってことかな?
またメッセージボードを確認するとこれからポイントを使って個別の魔法を覚えることができるらしい。……と推測できる。
どうやらこれは、あくまで“覚える準備ができた”という段階らしい。
「まさかの、お預け……!」
いやでも、冷静に考えたらこれって凄いことだよな。
この世界で魔法使いなんて、本当にごく一部しかいない。
王都に魔術師ギルドがあるって話は聞いたけど、今まで魔法使いに会ったことなんて一度もない。
そんな中、自分が魔法を使えるかもしれない側になった。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
新たな力への期待に胸をふくらませながら、俺はメッセージボードを閉じた。
明日、明日またポイント貯めれば何か覚えられるに違いないんだ。
新たな力への期待に胸をふくらませながら、俺はメッセージボードを閉じた。
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