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卓郎たちは、自由商業都市『福佐山』の近くに広がる森の小道に移動していた。ここが依頼として指定された場所の一つである。
密集した木々の間をすり抜けるように進む小道。
日差しが木の葉の隙間から漏れ、地面に点々とした光の斑点を作り出している。
周囲は静まり返り、時折、鳥のさえずりが聞こえるこの場所は、強い魔物はあまり出ず、初心者でも安全に狩りができると聞いていた。
「ここ、いいんじゃないかな? ウサギ型やリス型モンスターがたくさんいるって噂だし、捕まえやすいと思う」
小道の入り口を指さした純子の腰まで伸びた金色の髪が、薄暗い森の中で一際目を引いた。朝の事件のせいで、まだ卓郎に対して怒っているため、卓郎にきつい視線を送るが、卓郎はその視線に気づき、視線を逸らし、俯きながら冷や汗が流れるのを感じていた。
まだ怒ってるのかよ……、あれは事故……事故じゃないか……。
明が真っ赤な短髪とギラギラ輝く真っ赤な瞳で自信満々に言った。
「お前ら初心者? こんな弱い獲物しかいないところで狩りをしてももうかんねえー!」
純子が明を冷たい視線でキッと睨んだ。
「あんた、そんなだから、パーティをクビになるのよ。私達はあんたのいう通り初心者みたいなものだし、初めて組むんだから仲間の腕前を確かめるのが目的で、狩りの成果は問題じゃないの」
「ケ! 俺に見合ったつえー魔物を相手に狩りがしたいぜ!」
愚痴をこぼす明を気にもせず、有紗は穏やかな笑顔を浮かべ、仲間たちを見守っていた。パステルピンクの髪が日差しに照らされて柔らかく輝いている。
「まずは小型の動物を捕まえて、狩りの感覚をつかむべきだよ。」
妹の沙耶が元気よく頷く。
「私、ウサギさんを見つけたら、すぐに教えるから!」
その様子を後方から離れて見ていた三次は、即席パーティの仲間たちをどこか不気味な笑みを浮かべて観察していた。
卓郎は仲間たちの会話に入ることができず、孤立感を感じていた。
なんとか良いところを見せて、新しいパーティに加わりたいというのが卓郎の願いだ。
「卓郎、どう思う?」
明が振り向き卓郎に同意を求めるが、純子の冷たい視線が卓郎を押しつぶす。
「えっと……ウサギでもいいと思うけど……」
と卓郎はオドオドしながら小さな声で答えた。
純子は胸のところでフンスと腕を組み睨みつけてくる。
まだ怒ってる……。
こりゃあ、残りの人に期待するしかないかなあ……でも、明と組んだら危険なところで狩りをする事になりそうだし……。
卓郎はパーティを組む候補者を検討した。 女子三人は弓が武器だから後衛確定だ。
前衛は、三次と明、三次は不気味だし、見た目だけなら悪者みたいに見える。明を外せなさそうだ。
明は少し皮肉っぽく笑い、
「卓郎も本当は物足りないと言ってるぜ」
ちょっと、俺はそんなこと言ってないよ。
純子が本当かと言うように、ずいとその顔を俺に向ける。
「あんた! 分かってるわよね」
「は、はい。分かってます。ここは強い魔物と戦う必要はありません。皆んなの腕を確かめるだけなんだ」
俺は必死に純子のご機嫌をとる。
「ほらな! だからもっと強い魔物を狩らねーと、みんなの実力が分からねーって、こいつも言ってるわけよ」
明、違うって、俺そんなこと言ってないよ〜。
「なんですって!」
純子が俺に顔面を真っ赤にして迫ってくる。
俺は両手を盾にして純子に距離を詰められないように後ずさる。
「お、俺、そんなこと言ってないから! ここで良いって言ったんだからー!」
横で見ていた有紗と沙耶が吹き出していた。
「卓郎君ってかわいいね」
「うん」
笑う二人が天使に見えたが、俺には赤鬼が迫っている。
だがその赤鬼は、二人の笑いで一瞬動きを止め、そして二人を驚いたように見つめた。
「こいつが可愛いって?」
明も微妙な表情だ。
「あ! 別に変な意味じゃないよ。ただちょっと、面白かっただけ」
有紗が掌を大きく振って否定した。
まあ、そうだろう……俺に惚れるわけがない。なにせ俺は彼女なんて今まで一度もできたことがないのだから。
妙に納得しながらも、ホッペが少し赤くなっているような自覚があった。
もしかして……可能性あるんじゃね? なんてーーーーないんじゃね。と神のお告げ。ですよねーー。
「この痴漢男に近寄らない方が良いわよ。有紗ちゃん!」
痴漢じゃないから! と叫びたいが純子が怖い。
「それ、道で出会い頭にぶつかっちゃったって話よね。それ単なる事故なんじゃない?」
と有紗。
「こいつのことなんだから、計画的にぶつかってきたに決まってるわ! しかもその後私のパンツをまじまじとのぞいたんだからね!」
「まあーー」
「違っ! のぞいてないから! 視界に入ってただけだからー!」
俺は必死に言い訳をする。そこまで言われては冤罪も極まれりというものだ。
「あはははは!」
明が目を抑え腹を抱えて笑い出した。つられて有紗と沙耶も笑い出す。純子は顔を真っ赤にしてフリーズしていた。
「おい! そろそろ仕事しようぜ」
三次の言葉に皆は正気に返った。周りの木の枝からポカンとした顔のリス型魔物がこちらをのぞいていた。
「ほら、あれを見な!」
三次が気の上のリス型魔物を指差した。魔物は馬鹿にしたようにこちらを見て鼻の頭を両手で擦る。
クリクリとした大きなまなこは、好奇心旺盛な光を放ちながらこっちを見つめている。小さな体にふわふわの尻尾を持ち、毛玉のように丸い体は、悪戯っ子のような無邪気さを漂わせている。
「やだ! 可愛すぎる。あんなの狩れないわ!」
沙耶が腰を振りながらホッペを赤くして熱い視線を向けた。
「やだ! じゃねー。矢だ。矢で狙うんだ」
そう言った三次の顔を四人が親父ギャグかよという目で、じとりと見つめた。
三次が恥ずかしそうに俯いた。
「と、と、と、とにかく魔物を見つけたんだ。狩りを始めるぞ!」
顔の割には真面目なんだな。
俺も良いところを見せて、依頼の後には無事パーティを組みたい。得意なものもないけど、そのぶんなんでもやってきたのが俺の強みだ。それって弱みなんじゃね〜、と内なる自分がツッコミをいれる。
俺の武器は剣と弓だ。荷物が多くなるが、前衛も後衛もやりますよーというアピールのために、我慢していつも装備している。
俺は良いところを見せるため、弓矢を構えてリス型魔物に狙いをつけた。
大丈夫。当てられる。ナムさん! 当たれ俺の矢! 俺の放った矢は一直線に魔物に向かった……が、ピョンと移動したリス型魔物が笑いながら俺を見た。
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