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リーナ視点:ドキドキのショッピングデート
王都の中央商区は、やっぱりすごい。
石畳はぴかぴかに磨かれてて、道の両側には色とりどりの看板。おしゃれなお店のショーウィンドウには、新作ドレスやマナ宝飾、香水までずらり。もう、見るだけでテンション上がるっ。パン屋の焼きたてクロワッサンの香りが風に乗って鼻をくすぐる。心臓が跳ねるような気持ちで、足取りも自然と弾んでいた。
何度か来たことはあるけれど、今日は全然ちがう。だって、今日は――卓郎さんと、ふたりでショッピングなんだから!
(隣に卓郎さんがいるっていうのが……うう、なんか夢みたい……!)
デートです。デ・ー・ト!
さりげなく手が触れたりしたらどうしよう……とか、もう、妄想が止まらない!
いちおう「買い物」って名目だけど、こんなのデート以外の何だっていうんですか!?
「うわあ……いつ来てもここ、キラキラしてて目移りしますね!」
「財布の中身だけは、目移りしないように気をつけような」
そんな軽口すら、妙に嬉しく感じてしまうのは、どうしてなんだろう。
私はちょっとだけ勇気を出して、彼を見上げて微笑んだ。
「ふふっ、大丈夫です。今日は……ちょっと、特別だから」
「さて、じゃあまずは服か?」
「はいっ。えっと、チェックしてたお店があって……ついてきてください!」
手を取って引っ張ると、ちょっとだけドキドキする。でも……いいよね? 今日だけは。
向かったのは、前から目をつけていたちょっと上等な婦人服のお店。銀糸の看板が高級感を漂わせていて、入るだけでも緊張するけど、今日は……頑張るって決めてきたんだから!
「いらっしゃいませ。お探しのものがあれば、お手伝いいたしますね」
「は、はいっ……えっと、おでかけ用の服と……部屋着とか……」
声が震えるのを隠しながらも、希望を伝えると、すぐに何着か持ってきてくれて、試着室へ。
中に入ると、無意識に深呼吸してしまった。うう……こんな服、似合うかな……? 鏡に映る自分が、自分じゃないみたいで、ちょっと恥ずかしい……でも、悪くないかも。
「た、卓郎さん……どう……ですか……?」
恐る恐るカーテンを開けると、卓郎さんは目を丸くして、それから――にっこり笑った。
「……へえ、すごく似合ってるじゃん。いつもの戦闘服とはまるで別人だな」
「べ、別人ですか……?」
「いや、いい意味で。見違えたってこと。うん、かわいい」
“かわいい”って……そんな簡単に言うなんて、ずるい……ずるい人だ……! ば、ばかぁ! そんなさらっと……!
顔が熱くなって、たまらず試着室に引っ込んでしまった。
どうしよう、鼓動が止まらない。恥ずかしい。でも、嬉しい……!
何着か着てみて、最後に部屋着を選んだ時──
「こ、これは……完全に勝負服だろ」
「ち、ちがいますっ! たまたま! 肌触りが良かっただけで!」
「……まあ、本人がそう言うならな」
うう、あの顔、絶対に信じてないっ! ニヤついてるしっ! それに……本当にそう思ってるなら、それはそれで……うう、どう反応すればいいの!?
「~~っ、も、もうっ、卓郎さんなんて大っ嫌いですっ!」
でも……彼が隣にいてくれると、なんでもちょっとだけ勇気が出る。だから――
「えっと、こちらのワンピースとチュニック、それから……部屋着のセットですね。あの、もしよければ、下着もご一緒にいかがですか?」
「し、下着……!?」
唐突すぎて思わず声が裏返った。し、下着って、そんな……!
「ええ、旅行用に……肌触りの良いものとか、ルームウェアに合わせやすい色のものなど、ございますよ」
店員さんはあくまで自然に、にこやかに提案してくれる。でも、私の頭の中は大混乱。
(ど、どうしよう……た、卓郎さんがいるのに……!)
しかも、距離近いし! 声、絶対に聞かれてるしっ!
「俺、ちょっと外の風でも当たってこようか?」
「い、いえっ、大丈夫ですっ! だって、こ、これも女の修行ですからっ!」
なんとか気丈に答えるけど、足が震えてる……でも、逃げない。だって私、今日だけは――ちゃんと、自分に自信を持ちたいから。
案内された奥のコーナーで、いくつかの下着を見せられる。
(……やっぱり、淡い色がいいかな。あっ、このレース……かわいい……レースが入ってると、やっぱりちょっと……でも、可愛いって思われたら……いやいや、見せるわけじゃないし!?)
見てるだけで心臓が苦しい。でも不思議と、買うって決めたら、少しだけ気持ちが晴れた。
戻ると、卓郎さんがじっとこっちを見ていた。
紙袋、見られてる……!
「……見ないでください」
「いや、見てないし、何も言ってないけど?」
「言わなくても顔に出てるんです! 絶対ニヤついてますっ!」
「バレたか」
「もう……卓郎さんのばかぁ……っ!」
でもその声には、もう怒りはなかった。
きっと私の顔も、笑ってるってバレバレなんだろうな。
それでも、ちょっとだけ――手がふれた瞬間、ほんの少しだけ、彼の手を意識した。ほんの一瞬のことだったのに、まるで心臓に触れられたみたいに、ドクンと跳ねた。
もっと近づいても、いいのかなって。……今度は、手をつなぐ理由なんて、いらないくらいになれたらいいな。そう思える一日だった。
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