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 再び暫く先に進むと、崖に群れをなして休んでいたワイバーンたちが、こちらの気配に気づき、甲高い鳴き声を上げて一斉に飛び立った。十数匹の巨影が空を覆い、谷に影が落ちる。


「よーし、来たぞ!」

 俺は両手を構え、風の気配を集め始める。


「今度は……私がやります!」

 リーナがぐっと拳を握って一歩前に出る。その瞳には、先ほどまでの怯えはない。


「おう、任せるぞ。まずは一匹狙え。落ち着いてな」


「はいっ!」


 リーナは目を凝らし、真っ直ぐこっちに向かってくる個体を選んで指差した。


「来た……! あれにする! ウィンドカッター!」


 風が巻き起こり、鋭い風刃がワイバーン目がけて飛ぶが……。


「くっ、避けられた!」


「焦るな。今のは角度がよかった。あと少しで当たってたぞ」

 おれは、リーナが狙っているワイバーン以外を撃ち落しながら彼女を励ます。


「はい、もう一回! ウィンドカッター!」


 今度はワイバーンの肩口にかすり、鱗が数枚吹き飛ぶ。


「当たった!」


「よし、今の感覚だ。狙いを絞って、動きを読め」


「動きを……読む……」


 リーナは息を整えながら、ワイバーンの飛行パターンを追い始めた。滑空し、旋回し、急降下――風に乗るタイミングを掴んでいく。


「……次、くる!」

 彼女は一歩前に出て、杖を強く構える。風が足元に集まり始めた。


「ウィンドカッター! ウィンドカッター!」


 放たれた風の刃は先ほどよりも速く、鋭く、真っ直ぐワイバーンの首筋へと飛んだ。回避行動に入る前に、風刃が命中。


 ズバッ!


 断ち切られた翼から鮮血が噴き出し、バランスを崩したワイバーンが空中での制御を失い、そのまま墜落した。


 ――ドン!


 地面に叩きつけられた巨体が、土煙を上げてピクリとも動かない。


「……落ちた……!」


 リーナの声が震える。驚きと喜び、そして信じられない気持ちが入り混じっていた。


「やった……私、やった……! 倒した……! 初めて、自分の魔法で……!」


「おお、やったな!」

 俺は笑いながら親指を立てる。

「初撃破、おめでとうさん。ちゃんと一人でやれたじゃねえか」


「う、うう……っ」

 リーナは目を潤ませながら、くしゃっと笑った。

「なんか……すごい……うれしいです……っ!」


「そりゃそうだ。これが冒険者の実感ってやつだな」

 俺は残りのワイバーンをすべて撃ち落してから、リーナの撃ち落したワイバーンに近づいて確認した。

「完璧に死んでる。致命傷は墜落時の頸椎骨折。翼の付け根と喉のあたり、同じところに何度か当ててる。なかなかの精度だぞ。これなら飛べるはずがない」


「ほ、ほんとに……?」


「嘘ついてどうすんだよ。お前の勝ちだ。文句なしだ」


「……やったぁぁーっ!」

 リーナがその場で飛び跳ねるようにして喜ぶ。

「わたし……やっと、やっと、役に立てたかも!」


「役に立ったどころか、一人でワイバーンを倒せるってのは、もう一人前の証拠だ」


「へへ……へへへ……」

 恥ずかしそうに頬を染めながらも、嬉しそうに何度も頷いていた。


「じゃ、あとは俺がこいつ『買い取り』してやるか」

 俺はスキルを起動し、ワイバーンを消し去った。

「お、初撃破ワイバーン、580万ゴルド。リーナ、グッジョブだ」


 ちなみにこの間、俺が倒したワイバーンは12匹で6970万ゴルドである。今日1日の合計では25匹、討伐ポイントが7500、買い取り合計金額1億4516万ゴルド。リーナがワイバーン1匹で580万ゴルドだ。


「今日二人で倒したワイバーンは、26匹で買い取り総額は1億5096万ゴルドだ。一人7548万ゴルドな」


「え! 私1匹しか倒してないんでそんなにもらえませんよ。580万でも多すぎるのに」


「だから、そういう子と言い出すと面倒だと言っただろう。二人パーティなんだから半々でいいんだよ。それで装備を強化すればリーナも強くなって俺も助かるっていっただろう」


 ちなみにリーナのステータスは、


 《リーナ(魔道具なし)》

 HP:90/90 MP:30/30

 攻撃力:90 防御力:95

 速度:100 知力:100 器用:110 魔法効果:0


 《魔道具装備時》

 MP:+1000 防御力:+200 知力:+120(220)

 魔法効果:+50


《装備魔道具》

(杖 魔法効果:+50)300万ゴルド

(ベルト 知力:+60)350万ゴルド

(ネックレス 知力:+60)350万ゴルド

(ローブ MP:+1000 防御力:+200)800万ゴルド


「そ、そうですね。じゃあそのお金で魔法効果の高くなる魔道具を買いましょう。魔術師ギルドに行けばいいんですかね?」


「あ、できたら俺のスキル・『お取り寄せ』で買ってもらうと俺も強くなれるんだけどな」

 

「なら……よく分からないけど、それでお願いします」

 リーナは素直に頷いた。疑問や不安もあるだろうに、こうして信頼して任せてくれるのはありがたい。


「じゃあベルトとネックレスは付けてるからバングルとか指輪とかかな?」


「ですね」


 俺は『お取り寄せ』で魔道具を探した。目の前に浮かび上がる透明なメッセージボードを指先で操作しながら、性能と価格を見比べていく。


「よし……3000万の(バングル 魔法効果:+1200)、これを左右の腕に1つずつで6000万。あと、1500万で(指輪 速度:+600)……この3つでどうだ?現金は48万ゴルドしか残らんが、渡しておく」


「はい。それでいいです」

 リーナは即答だった。迷いのない声に、俺は小さく頷きながら、再度スクリーンに指を滑らせた。


「よし。それじゃあ、ポチッと注文……」


 銀細工のように美しいバングルが二つと、緑色の宝石が嵌め込まれた指輪が一つ、ふわりと現れた。


「すご……」

 リーナは目を見開き、まるで宝石箱を開けた子どものように輝いた瞳でそれらを見つめている。


「つけてみろ」


「はい……!」

 リーナは慎重にバングルを腕に通し、指輪をはめる。途端に、空気が微かに震えた。彼女の周囲に淡い光のヴェールが揺らめいたように見えた。

「……すごい、なんか、すっごくなった感じがします。魔力の流れが全然ちがう……」


 リーナの声が弾んでいる。その肌から感じられる魔力の密度も、はっきりと変わっていた。


「よし。これで装備も充実したし、戦力としてもかなり頼れるようになったな。俺も、これからは遠慮なく期待するぞ」


「ふふ……はい。もう、期待してください!」


 リーナは笑顔で胸を張った。以前のような不安げな様子は微塵もない。その成長ぶりに、俺も思わず微笑みを返す。


「それじゃあ……ポータルシフトで家に帰るか。今日はよく頑張った。風呂でも入って、ゆっくりしようぜ」


「はいっ、ありがとうございます。でも風呂は覗いちゃダメですよ」


「覗かねーって」


 彼女の顔に浮かんだのは、心からの満足と達成感だった。そう、冒険者として初めて「ワイバーンを倒せた」という自信。俺はそれを確認しながら、ゆっくりと手を前に差し出す。


「ポータルシフト」


 空間が歪み、柔らかな光が二人を包み込んだ。


 


ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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