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 ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。  作者: 米糠


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 午前のうちにギルドを出発した俺たちは、舗装された街道を抜け、草原と小丘が連なる穏やかな地形を馬車で進んでいた。《セナ村》は南部らしい緑豊かな農村で、リーナは、かつて移動の途中で通ったことがあるという。


「卓郎さんって、すごく高そうな防具を身につけてますけど……冒険者ランク、やっぱり高いんですよね?」


 馬車の揺れに合わせて微笑むリーナ。純粋な興味から来る視線が眩しく、卓郎は肩をすくめて答えた。


「Sランクだよ。……もっとも、引退していたから、三年のブランクがあるけどね」


「えっ、Sランク!? すごいじゃないですか……」


 目を輝かせるリーナに、卓郎は少しだけ口元をゆがめて微笑んだ。


「でもね、それでもパーティの仲間を――守れなかったんだ。……ランクなんて、案外脆いもんだよ」


「……そ、そうですか……」

 リーナは頼地雷を踏んだと感じて話題を変えようとしたが、話題が見つからず押し黙った。だが本当は、心の中で「やっぱりすごい人なんだ。もっと仲良くなりたいな」と思っていた。


 村の手前に差し掛かると、遠くに畑と木造の家々が見えてきた。風に乗って刈りたての麦と湿った土の香りが鼻をかすめる。


 だが、近づくにつれてその風に、ほんのわずかだが「かび臭いような」不自然なにおいが混じり始める。


(……湿気とは違う。これは井戸水の匂いか?)


 村の広場に入ると、俺は外套のフードを軽くかぶり、人々の様子をさりげなく観察した。農具を手にした村人たちの表情には、目立たぬが確かに疲労と苛立ちがにじんでいた。特に、井戸の周囲には人だかりができており、ざわめきが聞こえる。


「……また濁ってるよ。こんなんじゃ飲めねぇ」


「子どもが腹を壊したって聞いたぞ」


 俺は人垣の外に立つ中年の村人に声をかけた。


「すみません、《セナ村》の井戸の件で調査に来ました。話を伺ってもいいですか?」


「ああ、おお、やっと来てくれたか……! 詳しい話は村長のところがいい。ちょうど来るのを待ってたんだ。ついてきてくれ」


 案内されたのは、村の奥にある茅葺きの家だった。すぐ隣には古い祠と、その背後に神木が立っている。


 家の戸を叩くと、中から白髪混じりの老人が現れた。疲れを隠せない表情で、それでも礼儀正しく頭を下げてくる。


「これは……遠路ご足労いただき恐縮です。わしがセナ村の村長、トリアンと申します。中へどうぞ」


 出されたお茶を一口すすりながら、村長は語り始めた。


「――問題は三つあります。まずは村の中心にある井戸が数日前から濁り、異臭を放ち始めたこと」


「ふむ」


「次に、祠の神木が時期外れに葉を黄ばませ、枝が枯れ始めていること。こんなことは、この土地に長く住んでいる者でも初めてです」


 俺は無言でうなずいた。村長はさらに、声を低くする。


「そして三つ目……子どもたちが皆、同じような夢を見るのです。どこか深い井戸の底に引き込まれる夢だと」


「夢……?」


「ああ。最初は偶然かと思いましたが、こうも続くと……なにか、あるのかもしれませんな」


「……事件が三つも同時に、ね」リーナがぽつりとつぶやく。


「確かにそうだが、たまたまかもしれないし、まずは、この井戸を調べてみよう」


 広場に戻った俺は、村人たちの注視を感じながら井戸に近づく。魔力感知の魔法を発動し、ゆっくりと井戸の内部を探る。


(……感知反応は――薄いな)


「魔力は感じられない。リーナ、そっちはどうだ?」


「……口に含んでみたけど、毒は無さそう。濁ってるけど、飲めなくはないって感じね」


 確かに水質は悪化しているが、毒素や呪詛といった明確な異常はない。水源自体が自然に濁った可能性が高いんじゃないだろうか。


 次いで、神木へ移動し、根の周囲を調べる。こちらも同様、魔力汚染は見られず、病害や天候変化による自然枯死の範囲内と思われた。


(……今のところ、“直接的な異変”は確認できない)


 子どもたちの見る夢も、村の空気に流れる不安や神木の変化による心理的な影響かもしれない。情報としては記録に残す価値はあるが、危険度としては低いだろう。


 俺たちは、再び村長のもとへ戻って調査結果を村長に伝えた。


「――調べたかぎり、今のところ魔獣や呪いといった直接的な原因は確認できませんでした。ただ、念のため井戸の水源を別ルートから再調査するよう、都市に戻って報告は上げておきます」


「そうですか……いや、それだけでもありがたい。ここ数日、村の空気が変に重くてな。皆、不安がっていたんです」


 村長は深く頭を下げたが、その瞳の奥に残る不安は消え切っていなかった。


 俺は、セナ村で封印のゆるみに関する確かな手がかりが見つからなかったことで、次の候補地――《ローヴ村》と《グリマ村》へ向かう決意を固めていた。まだここにきて二日目、そう簡単にはにつかるはずはないのは分かっているはずなのに、別の場所で、異変がじわじわと進んでいるに違いないと思うと、イライラする。


「リーナさん、俺は《セナ村》の次に《ローヴ村》と《グリマ村》を調べるつもりだ。リーナさんは、このままギルドに依頼完了の報告をしに行くだろうからここで別れよう」


「え! 卓郎さんはギルドに戻らないのですか?」


「俺はギルドから依頼を受けたわけではないからね。これは教会経由の調査依頼だから、報告義務はそっちにある」


「そうなんですか。もっとご一緒したかったんですけど……」


「すまんな。それじゃあ! 縁が有ったらまた会おう」


 名残惜しげに見送るリーナに手を振り、俺は《ローヴ村》へ向けて歩き出した。


 しかし、《ローヴ村》《グリマ村》と回っても、封印のゆるみにつながりそうな異変を発見することはできず、馬車を姫の宮都市へと戻した。






ここまで読んでいただきありがとうございます。

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