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「〈ポータルシフト〉!」


 視界が歪み、空間が捩じれる。次の瞬間、足元にあった石畳が変わり、澄んだ青空の下――王都・グランティアの街並みが広がっていた。


(……さて。美里愛は無事にここに着いているのか)


 聖印庁ダルフェリア支部での情報から推測すれば、彼女は数日前、この王都の《聖印庁》本部に到着したはずだ。

 だが、ダルフェリア支部では返事の報告が届いていないと言われた。

 つまり、ここに到着していなければ、途中で何か事件に巻き込まれた可能性が高い。


 俺は足早に石畳の通りを抜け、王都中心部へと向かった。


 白と金を基調とした巨大な建築――それが、《聖印庁》の本部だった。


 遥か天を衝くような大聖堂の尖塔。荘厳なステンドグラスと七芒星の紋章。周囲には神聖騎士団の兵が立ち並び、ただの装飾ではない厳粛な空気を作っていた。


 ここは、「神の意志」を代弁する機関であり、同時に王国全土の封印管理・禁術監査・神託の伝達を担う組織だ。


(神聖フェルミナ王国の聖都にそびえる教会本部・大神殿とまた違った雰囲気だな……)


 俺は聖光の戦士として、堂々となおかつゆっくりと進み出す。


「――止まれ」


 金属の靴音が鳴る。二人の騎士が交差して俺の進路をふさぐ。

 一人は長身の騎士長らしき男、もう一人は兜を脱いだばかりの少女――あれは……


「……君が〈聖光の戦士〉、卓郎ですね?」


 少女騎士が口を開く。栗色の髪、澄んだ瞳。年は俺とそう変わらないだろう。


「そうだけど。君は?」


「第一神聖騎士団、第四班所属。神聖騎士・恵理那。……あなたの訪問はすでに予測されていたわ」


「予測……?」


「美里愛。彼女の件についてでしょう?」


 名を聞いて、思わず身を乗り出した。


「無事なのか!? 彼女はここに来たのか?」


 恵理那はわずかに目を伏せ、口を閉じた――が、そのあと、静かにうなずいた。


「……ええ。確かに到着しました。けれど、ただ来たというだけではありません。彼女は現在、聖印庁内の〈記録の間〉にて、封印調査部と接触中です」


「接触……って、まさか……!」


「美里愛さんが話した七つの災厄――あれは、庁内でも禁級指定されていた伝承に一致していたの。彼女の出自や語った内容は、すでに上層部に知られています。……彼女自身、封印の継承者の血を引く可能性があると判断されました」


 継承者……!


「閉じ込められたりしてるのか?」


「……拘束ではありません。けれど保護下にあるのは事実よ。上層部が、彼女の証言と存在を精査し、必要なら封印調査団として随行させる予定だと聞いています」


「だったら、会わせてくれ。俺は――彼女の力になりたい」


 その言葉に、恵理那は一瞬だけ表情を変えた。驚きとも、安心ともつかないもの。そして、ひとつ、深く頷いた。


「……わかった。私が案内します。だって、あの子――ずっと、あなたのことを気にしてたから」


 胸の奥が、不意に熱くなった。

 俺は無言で頷き、恵理那の後を追った。

 荘厳な装飾に囲まれた円形の空間、〈記録の間〉。

 聖印庁本部の中でも限られた者しか足を踏み入れられない、古文書と神託が眠る聖域だ。


「……美里愛さん?」


 俺は一歩、足を踏み入れた。

 そして、そこに――


「卓郎さん……?」


 そこには少女の姿があった。どこか凛とした雰囲気。

 白い軽装の神官服に身を包み、肩までの黒髪が静かに揺れていた。

 癒されたはずの傷は、跡さえ残っていない。だけど、その目だけが、少し強くなっていた。


「まさか、本当に……来てくれたのね」


 彼女が歩み寄ってくる。俺も自然と歩を進め、互いの距離がゼロになる、その直前で――


「……無事で、よかったですね」


「……はい。あなたが、助けに来てくれたなら安心です。まさかあなたが〈聖光の戦士〉様とは知りませんでした。でもSランク冒険者とは聞いていたし、あの時の活躍、無双ぶりはわすれません。私はなんて幸運なんでしょう」


 俺は小さく照れて笑った。


 恵理那は俺たちをせかすように言った。

「二人とも、すぐに上層部との面談があるわ。……来てください」


「わかりました」

 俺はうなずき、美里愛の横に並んで、次の扉――〈主会議室〉へと向かった。


 ◆


「よく来たな、〈聖光の戦士〉よ」


 室内には、七人の高位神官と神聖騎士団長が座していた。

 いずれも、王国における聖印庁の中枢を担う者たち――「七印会議」の面々。


「神聖騎士・卓郎、入室を許可する。聖印庁上級記録官・ルステアにより面談を主導する。……美里愛についても、同席を認めよう」


「はい」

 俺は右手を胸に当て、軽く頭を下げる。

 そして隣に立つ美里愛も、同じ動作をした。


「この者は、先日到着した封印守護者の末裔と見られる少女です。証言は記録と一致。彼女の故郷は〈封印の地・ミオレス〉であり、そこには七つの災厄の一つ――黒刺狼が眠っていたと推定されます」


「すでに、瘴気の急激な増加が複数地域で確認されている。……我々も、災厄の封印が崩れつつある可能性を否定できない」


「そこで――本庁は調査団を派遣する。美里愛、および卓郎。君たち二人にも、同行してもらいたい」


「……!」


 思わず息をのむ。だが、美里愛は、まっすぐにうなずいた。


「はい。行きます。私の一族が守っていた封印……その責任は、私にあります」


 その言葉を、上級神官たちは静かに受け止めた。

 そのまなざしの中に――ただの少女ではなく、“何かを継ぐ者”としての認識があるのがわかった。


 そして俺にも、問いが向けられる。


「〈聖光の戦士〉よ。君は、教会本部より称号を受けし存在。その力はすでに複数の瘴気領域で証明されている。……問おう。君は、この封印調査団に参加する意思があるか?」


 俺は、一瞬も迷わず答えた。


「はい。私は外部協力者。ご依頼とあれば、封印調査団を守るため、そして封印の真実を確かめるために、俺も行きます」


 神官たちは互いにうなずき合い、やがて議長が言葉を紡いだ。


「よかろう。封印調査団の第一陣を、明朝出立とする。目標は〈黒刺狼〉の王が現れた瘴気地帯と、古代神殿の封印跡地。必要な装備と文書は、今夜中に揃えられるだろう」


「この任務は、王国における第一級機密とする。……慎重に、行動してもらいたい」


 俺と、美里愛は、互いにうなずき合った。





ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙をいただけると最高です!


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ




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