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 クイーンの亡骸が崩れ落ちてから数分。

 瘴気の霧が晴れ、奥の壁に隠されていた扉がゆっくりと開いた。


 重厚な石のアーチの先には──煌めく財宝の山。金貨の袋、装飾品、魔法の小瓶、宝石が山積みになっていた。


「……お宝だーッッ!!」

 一番に飛び込んだのは、やっぱり沙耶だった。


「ねぇ見て見て! 金貨がざっくざく! 宝石もキラキラ! うわぁっ、これ絶対高いよね!? これ何カラット!? ってかカラットって何!?」


「知らねぇよ……でもこの剣……やべぇな、重さが違う。ミスリルに黒鉄を混ぜた感じか? おい卓郎、これお前に合いそうだぞ」

 明は無造作に一振りの黒銀の剣を卓郎へ放った。


「っとと……おお、バランスいいな。高級品だ、間違いない」


「わぁ……この指輪、魔力が通ってる。……あ、卓郎くん、これ〈マジックリング〉かも。使用者の魔力に反応して、スキルの発動速度が上がるって……」

 有紗が慎重に指輪を持ち上げ、宝石部分を光にかざす。


「じゃ、それは卓郎のだね」

 純子があっさり言い放った。


「いやいやちょっと待った。さすがに俺がもらうわけには……」


「ううん、それはリーダーとして当然の報酬だよ。それにたっくん、今回も私たちのことずっと守ってくれたじゃん!」

 沙耶がニッコリ笑って親指を立てる。


「……私の怪我もすぐ治してくれたし」

 有紗が小さくうなずく。


「まぁな。お前がいなきゃ、クイーンの魔法なんか、とてもじゃないが防げなかった。あのディスペルのタイミング、完璧すぎ!」

 明が珍しく真顔で褒めてきた。


「じゃあ遠慮なく、これは俺がもらっておく。そのうえで、これは前衛の明にあげるよ。俺は十分はやいからね。明が強くなる分、俺が楽できるから、もらってくれ」


 卓郎は明に指輪を渡した。


「武具はそれぞれ相性の良いやつを持ってってくれ。余った武器やその他のお宝、金貨なんかは、またオークションにかけて人数で等分。回復ポーションと魔力ポーションは共有分にして、携帯できない分は俺があずかっとく。それでいいかな」


「え、えらいなあ……。普通、こういう時、活躍した者がどーんともらうんじゃないの……? もっとたっくんがもらって良いのに」

 沙耶がぽりぽり頬をかく。


「したら純子に怒鳴られるだろ」


「は? 誰がそんなこと言うのよ」


「……うそうそ、冗談!」

 卓郎は苦笑して、沙耶が笑いながら、金貨の袋をぶんぶん振っていた。


「あ、これ弓だ……って、あれ? すっごい軽い!」


 沙耶が両手で掲げたのは、深紅の塗装が施された細身のロングボウ。

 弦には淡く輝く符が編み込まれていて、見るからに上級品だ。


「それ、〈緋焔の弓〉だな。矢に魔力を込めると、火属性が追加されるってやつだ」


「すごっ! じゃあ私、これもらうね! これで今度の戦いはバシバシ燃やせるよーっ!」


「火属性なら私も使えるかも……あっ、この矢筒、回復薬入れがついてる。すごく便利そう」

 有紗が壁際にあった金細工の矢筒を手に取り、背に背負ってみせる。


「へえ、薬剤錬成と相性抜群じゃん。これで戦闘中でも自作回復薬をすぐ使えるわね」

 純子が感心したように言いつつ、慎重に一本の短弓を選び取った。


「この弓……重いけど、耐久性が高い。魔力の抵抗もある。うん、私向きね。多少無理しても折れなさそう」


「弓三人娘、揃ってパワーアップってわけか。いいじゃねぇか」

 明が剣を担ぎながら笑い、隣にある頑丈な籠手をひとつ取った。


「これ、炎属性に強化されてるな。〈紅蓮のミスリルブレード〉との相性もいい。……つーか、オーガがこんな代物持ってたのかよ、信じらんねぇ」


「元は人間の遺物だったんだろ。あいつら、襲った集落からいろいろ奪ってたんじゃないかな」


 卓郎がそう言って、洞窟の隅にあった壊れた木箱を一瞥した。中には、かつての武具や装飾品の残骸が詰め込まれている。


「……これなんだろう」

 有紗が手に取ったのは、白銀に輝く羽根飾りのようなアクセサリ。


「見せて」

 卓郎が手のひらにのせて調べる。


「これは……〈精霊の耳飾り〉。風の精霊とつながりを持つって言われてる。遠見スキルと相性がいい」


「それ、沙耶が持っていいんじゃない?」

 純子がすぐ提案する。


「えっ、いいの? やったーっ! なんかお姫様みたい!」

 沙耶は耳飾りを髪に添え、ぐるっと回ってみせる。


「うん、似合ってるよ。姫騎士じゃなくて“姫弓士”だけどね」

 明が笑うと、沙耶は照れ隠しに舌を出した。


 そうして、それぞれの装備が決まり、残った品々を卓郎が一つ一つ確認していく。


「高級装飾品、未鑑定の魔導書、宝石類、魔力増幅の杖……これは持ち帰ってオークションいきだな」


 卓郎は手をかざし、淡い光を伴ってストレージを開く。

 残りの財宝を次々に収納していく。


「うわあ、やっぱり便利だよね、それ……。いつか私も覚えたい!」

 沙耶がぽんっと掌を叩いた。


「いつかって……沙耶に魔法系スキルが扱える日、来るのか?」

 明が肩をすくめる。


「く、来るもん! 未来の私に期待しててよね!」


「よし、これで全部収納完了。……それじゃ、帰ろう。また王都でオークションにさんかしなきゃならないから、今日は王都で一泊だね」


「そうだね。やったあ! また王都で美味しいものたべよー!」


「沙耶って、いつも食べること考えてるよね!」


「えー! でもみんなもたべたいでしょー?」


 全員うなずき、卓郎が扉の前に立った。


「転移するから、みんなつながってー」


 全員が手をつなぎ、一つの輪になってつながる。


 卓郎が転移魔法〈ポータルシフト〉を唱える。


 足元に魔方陣が浮かび上がり、光がぐるりと床を走り、パッと弾けるように全員の姿を包み込んだ。


 次の瞬間――、見慣れた王都グランティアの外縁部、指定した転移地点に立っていた。


「……帰ってきたぁぁぁぁ!」

 沙耶の声が青空に響いた。


「まずは、ご飯な!」

 明の言葉に、全員が力強くうなずく。


「うん、ご飯! ごちそう食べようよ、ね、ねっ!」

 沙耶が明の腕をぶんぶん揺らした。


 

 


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