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 王都グランティア・東区の小さな酒場「風の止まり木」ーー貸切の夜


「Sランク、おめでとう卓郎!!」


「そして! 俺たちAランクもなー!!」


 木製のカップが高らかにぶつかり合い、泡立つジュースや微発泡ワインがこぼれそうになる。


 テーブルの上には、ギルドの厨房から取り寄せたローストチキン、山盛りのポテト、焼きたてのパン、野菜のグリルに、果実をふんだんに使ったデザートまで並んでいた。


 それらすべてが、今日この場にいる5人――

 卓郎(Sランク)

 明、純子、有紗、沙耶(Aランク)

 ――が、晴れて「Aランクパーティ〈フォーカス〉」として公式認定されたお祝いの品だ。


「ま、俺の新スキル、『灼輪斬』があったから当然だけどな」


 ドヤ顔で語る明に、純子がすかさずフォークを向ける。


「一回黙ってくれない? 新スキルを身につけたのは、あんただけじゃないんだから。せっかくの料理が不味くなる」


「ちょ、フォーク向けんな!  俺の肉が!」


「ほら喧嘩しないのー」


 沙耶が両者の間に飛び込んで、明の皿からチキンをかすめ取った。


「あっ! 今の俺の一番いいやつ!」


「お祝いなんだから、みんな仲良く分け合おうよ~。ね、有紗お姉ちゃん?」


「うん。……今日は、『フォーカス』が、Sランクになった日だもん。ね?」


 穏やかな声と、どこか照れくさそうな笑み。


 卓郎はカップを持ったまま、思わず肩をすくめた。


「うん、そうだよね」


 沙耶がコクリとうなずき、純子がグラスを持ち直して言った。


「それじゃ、もう一度。今度はちゃんと5人全員で」


「……いいね」


 卓郎が立ち上がる。明も有紗も、席から身を乗り出して――


「Aランク昇格、おめでとう〈フォーカス〉!」

「Sランク昇格、おめでとう卓郎!」

「Aランク昇格、おめでとう皆!」

「「「「かんぱーいっ!!!」」」」


 誰もが笑っていた。


 笑い声が一段落した頃、ふと明が立ち上がった。


「……そうだ。今日のために用意したもんがある」


「え? 明がプレゼントとか珍し……」


「言わせんなっ!」


 耳まで真っ赤にしながら、明が無造作に机の上に何かを放る。

 それは、小さな5つの布袋だった。沙耶が開けると、中から出てきたのは──


「これ……炎の護符?」


「ああ。俺の剣を修理してくれたじいさんのとこで見つけたやつ。

 火精霊の加護があるらしいぜ。ま、気休め程度だが……お守り代わりにな」


 火精霊の石は、手のひらに収まるほどのサイズで、ほのかに温かい。


「ありがとう、明!」


 今度は純子が鞄から包みを取り出して差し出す。


「はい、これ」


 中には、手作りと思われる革製の矢筒ストラップ。

 サイドには小さな銀のプレートが取り付けられており、そこには刻まれていた。


『Focus』──五人の始まりに


「5人おそろいだよ。ギルドの職人さんに彫ってもらった。……文句は受け付けないからね」


「「「……ありがとう、純子。大切にするよ」」」



「わたしたちからも、あるよ!」


 今度は双子の姉妹、有紗と沙耶が一緒に包みを差し出してきた。


「すっごく悩んだんだよー」


 中には、手編みの青いマフラーが入っていた。

 柔らかな布地には、星の模様と、中央にみんなのイニシャルが縫い込まれている。


「……これ、二人で作ったの?」


「うん。これから寒くなるし、遠征にも連れてってくれたら嬉しいなって」


「もちろんだよ。……これ、つけて歩くよ」


 俺は、思わずその場で巻いてみせると、沙耶が「おーっ!」と歓声を上げ、有紗が頬を赤く染める。

 その様子に純子がむっとして、「巻き方雑!」とツッコミを入れる。


 そして──


「実は、俺からも……みんなに渡したいものがあるんだ」


 卓郎が照れくさそうに、背中の荷物袋からそれぞれに丁寧に包んだ小箱を取り出す。


「Sランクになれたのは、みんながいてくれたから。だから……感謝の印」


 渡された箱をそれぞれが開けていく。


 中に入っていたのは、名前入りのタグプレートだった。

 金属製の小さな板に、それぞれの名前と、〈フォーカス〉の紋章が刻まれている。


「これは……! すごっ! 本物の認可タグじゃん!」


「冒険者が特注で使うやつだ……お金かかったでしょ?」


「いや、金は余ってるし、たいしたことないよ。それに、これは俺のわがままだ。みんなに、ちゃんと“仲間”って伝えたかったから」


 実際、ワイバーン狩りで稼いだ金が2億ゴルド以上貯まっていた。金のことを考えることはなくなっていたのだ。


 明が口の端を吊り上げて、ニヤリと笑う。


「へっ、やるじゃねぇか……ま、悪くねぇ」


 純子はふっと目を伏せ、そっとタグを胸ポケットへ。


「……ありがと。ちゃんと、毎日つける」


 沙耶がタグを掲げて、くるくる回す。


「このキラキラ感、テンション上がる~!」


「わたしも、大切にするね。……ありがとう、卓郎くん」


 マフラーのぬくもりと、タグの重み。

 それは、5人の絆を繋ぐものだった。


「よし……じゃあ、改めて!」


「「「「〈フォーカス〉に、栄光あれ!」」」」


「……と、ちょっとかっこつけすぎた?」


「「「かっこいいよ!」」」


 ――そんな時間が過ぎ、夜も更けて。



「卓郎、ちょっと来いよ」と明。


 二人、庭の縁台に並んで座る。


「……俺、たぶんこれからも突っ走ると思う。でも、お前が横にいてくれるなら、きっと折れずに行ける気がすんだ」


 明らかに不器用な告白。でも、戦友としての信頼がこもっている。


「俺も、お前がいてくれると安心だよ」


「そうか? じゃあ次も、一緒に最前線ってことで」


 拳を軽く突き出し、拳をぶつけ合う。



「ねぇ、卓郎」と純子。


「私、ずっと“弓だけじゃ届かないもの”があるって思ってた。でもさ、卓郎と組んでみて、それでも戦えるって思えた」


 目を伏せながら、そっと言葉を紡ぐ。


「……だからこれからも、私の“届かないところ”を、支えてくれる?」


 その問いに、卓郎は真剣な顔で頷いた。


「もちろん。俺の剣は、君の矢と一緒にある」


 その言葉に、純子は頬をほんのり染めた。



 最後は、有紗と沙耶がふたり一緒に庭のベンチで、卓郎を挟む形で座る。


「ねえ卓郎くん、これからもずっと5人でいたいなって思うの。私たち……フォーカスでいられて、すごく幸せだから」


 有紗の優しい声に、沙耶も寄りかかってくる。


「うんっ! 次の冒険も、その次も、もっとすっごいとこ行こうね!」


 その小さな願いが、まるで星に向けた祈りのようだった。


「……ああ。みんなで、もっと遠くまで行こう」


 卓郎はそう約束しながら、空を見上げた。


 風がそっとマフラーを揺らし、ランタンの火が瞬いた。


「次の依頼は何にしようかな」

「Aランクの依頼って少ないよね」

「そうだな。あまり無いようなら、ダンジョン攻略でもしてみるかい?」

「ダンジョンかー? そういえば行ったことなかったね」

「……ああ。〈フォーカス〉ならダンジョン攻略パーティとして名を残せると思うよ」


 5人の手が、自然と重なった。それは、絆を繋ぐ円になる。この夜、新たなの伝説が、静かに始まろうとしていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


この小説を読んで、「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです 。


感想のお手紙をいただけると最高です!


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ



これにて、第一部、完結です。1週間ほどお休みをいただき第二部投稿開始するつもりです。ブクマつけてお待ちいただければ幸いです。

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