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約束の日、ギルド掲示板の前にはもうすでに四人の姿があった。3週間前に分かれた時の、あの姿より纏ったオーラが一回り大きくなっているように感じる。
あいつら、厳しい特訓を積んで相当強くなってきたみたいだな。自信があふれ出してるじゃないか。
「久しぶり!」
俺が手を振ると、いち早く反応したのは沙耶だった。小さな体で勢いよく駆け寄ってくる。
「たっくんっ! 見て見て! すっごいの覚えてきたんだよっ!」
ぴょんと飛びつく勢いで抱きついてきそうなところを、有紗が後ろからそっと袖をつまんで止める。
「沙耶、まずは落ち着いて挨拶からでしょ」
「うぐ、はいっ……おかえりなさい、たっくんっ!」
「たっくん」という呼び名は未だに照れくさいが、笑顔で迎えられるのはやっぱり悪くない。
「よう、卓郎」
明が腕を組んで、どこか得意げに言う。
「オレら、見違えるくらいになってるぜ。お前も自主トレしてたんだろうが、今回は負けないからな!」
「俺も一人で狩りを続けてたからね。山籠もりの成果、並みじゃないよ」
肩をすくめる俺に、純子がふっと笑って近づく。目つきは鋭いが、口調は少し柔らかくなっている。
「ま、無事に帰ってきたならそれでいいわ。……アンタが先にぶっ倒れてたら、笑えなかったしね」
「心配してくれてたのか?」
「べ、別にそんなわけじゃ……! ただ、あたしがいないと無茶するからってだけよ!」
照れ隠しのようにそっぽを向く純子に、有紗がやさしく微笑む。
「一人で山籠もりって、いくら卓郎君でもちょっと無茶よ。本当に無事でよかった。私たちも、少しは頼れるようになったと思うよ」
「うんうんっ! 『遠見』の精度も上がったし、3つもスキルを覚えたし!」
沙耶が手をブンブン振りながら報告する。3人の弓使いの連携がさらに磨かれたらしい。
「俺もさ、見ろよ――これが新スキル、断空輪の進化系『灼輪斬』だ!」
明が背中の紅蓮のミスリルブレードを引き抜き、軽く素振りして見せた瞬間、剣から一筋の熱風が吹き抜ける。
「うお……派手になったな」
「ここじゃあ技は放てねーから外で試すか?」
「遠慮しとくよ。飯前に戦うのは胃に悪い」
四人とも、確かに以前より格段に成長している。その成長を見て、俺も自然と口角が上がる。
「じゃあ……Aランク昇格試験の日程を礼子さんのところに相談に行こう」
俺は受付カウンターの礼子に視線を向ける。
「そうだな。ついにこの時が来たか!」
明が満面の笑みで答える。
受付カウンターに近づくと、礼子さんは帳簿に何やら記入している最中だった。俺たちが近づいた気配にすぐ気づいたらしく、顔を上げてにっこりと微笑む。
「『フォーカス』のみなさん、久しぶりですね。お待ちしておりました」
「お待たせしてすみません。やっと準備ができたので、昇格試験の日程相談をしたくて」
俺がそう言うと、礼子さんの表情が少しだけ引き締まる。手元の帳簿を閉じ、姿勢を正してから小声で続けた。
「Aランク昇格試験の件ね。……この三週間で、それぞれどれだけ成長したか、ある程度は道場からの報告で把握してるわ。パーティの実力だけでなく、個人の実力にも目を見張る成長があったみたいね」
礼子さんは穏やかな口調ながらも、評価に裏付けのある確信をにじませるように言った。
すると、明が鼻で笑うように肩をすくめて答える。
「そりゃあな。オレたち、手抜きなんか一切なしだったからな。試験で実力をバッチリ見せてやるよ」
「明、調子に乗りすぎないでよ」と純子が肘で小突きながらも、どこか嬉しそうに頷いていた。沙耶と有紗もくすっと笑い合う。
礼子さんは頷きながら、カウンターの奥から分厚いファイルを取り出す。中には昇格試験の詳細な記録と、候補者ごとの進行スケジュールがびっしりと綴られている。
「あなた達のAランク昇格試験、実施日は――3日後の朝九時。場所は東門の外にある練兵場。内容は、実戦形式の集団模擬戦よ」
「つまり、3日後に模擬戦みたいな試験があるってこと?」と有紗が確認するように問う。
「ええ。試験では基本的な連携、判断力、スキルの使いどころなんかをチェックするの。模擬とはいえ、実戦さながらよ。甘く見たら危ないわよ?」
「へへ、ますます燃えてきたな!」明が拳を握って気合を入れると、沙耶も勢いよく手を挙げて「模擬戦も本気で行こうねっ!」と声を弾ませる。
礼子さんはそんな様子に目を細めてから、ふと真剣な顔になり、俺にだけ少し視線を向けて声を潜めるように言った。
「……それと、卓郎君。あなたはすでに個人としてAランク認定を受けているわね。だから、今回の試験は“次のステップ”――Sランク認定を視野に入れた特別課題になるわ」
「えっ、俺だけ別メニューですか?」思わず素の声が出る。
「ええ。あなたの試験内容は、まず能力測定。それから、Aランク魔獣の単独討伐任務。集合場所は同日同時刻のギルド前です」
「……単独で、Aランク魔獣ですか……」
背筋にほんの少し緊張が走る。だが、俺はすぐに頷いた。
「その任務には、同行者として一人、能力測定を行うSランク冒険者がつきます。ですが、原則として手出しはしません。卓郎君の力量不足によって、彼が戦闘に加わった場合は――その時点で失格、という扱いになります」
「なるほど……それくらいの覚悟は、もうできてます」
そう答えると、礼子さんは満足げに微笑んだ。
「それともうひとつ。ギルド『フォーカス』のAランクパーティ認定は、パーティ全体の個人ランクの平均と、これまでの貢献度によって決まります。平均がA以上なら、正式に『Aランクパーティ』として認定されるわ」
仲間たちも、神妙な顔でうなずいている。
「個々に昇格して終わり、じゃないってことか。俺たち全員で一緒に、Aランクに届かせなきゃ意味がないな」と明が力強く言い、有紗もそれに続く。
「3日後が勝負だね。準備も整えておかないと」
俺は仲間たちの顔を順に見渡してから、静かに決意を込めて言う。
「じゃあ……まずは、模擬戦の準備と、それぞれの強化の最終仕上げだな。全員で、昇格を掴みに行こう」
それぞれの目に宿った光は、三週間前とは比べものにならない。
次の戦いが、次の自分たちを証明する場だと――誰もが、わかっていた。
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