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「ポータルシフト!」
目の前の景色が歪み、真っ白い空間にかわる。そして再び景色の歪みがなくなった時、俺は見覚えのある部屋の中に立っていた。
「ほんとに帰ってこれたんだな」
あたりを見回し自分の部屋だと確認しなおす。
こりゃ便利だと思いながら、靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。
長期にわたるテント暮らしで体はカチカチである。ぐっと伸びをしてベッドに寝ころび天井をぼんやり見つめる。
やっぱり自分の部屋はいい。
体に疲れが押し寄せる。
ポイントで、自分を強くしなくちゃな…………と思いながら、考えるのをやめている自分がいる。
「ふー」と息を吐きだし半身をもたげ、メッセージボードでステータスを確認。
「ポイントも余ってるし、何か良い魔法でも探そうかな」
戦術転移……戦闘中の短距離瞬間移動(5~15m程度)を可能にする魔法、連続使用も可だが魔力消費は大きい……か。良いねこれ。
2900ポイントで取得。
それじゃあ、風魔法から強化しようかな……と。
ホバームービング(風)500ポイント……風で体を浮かせ、移動する魔法。……空を飛ぶみたいな?
スカイリッパー(風)600ポイント……空中から風の刃を降らせる広域攻撃魔法。風系の広域攻撃魔法も一つ覚えておこう。
アースショット(土)300ポイント……小さな岩弾を撃ち出す基本攻撃魔法。
ロックランス(土)400ポイント……地面から尖った岩の槍を突き上げて攻撃する。
アースバインド(土)400ポイント………地面から泥の手を伸ばして敵の足を拘束する。
土魔法もいくつか覚えて……と。
あとこれは外せないな。ゴーレムサモン(土)1000ポイント……小型の土の精霊ゴーレムを召喚して戦わせる魔法。
さて特殊魔法も……と。
まずはこれでしょう。
サンダーボルト(雷)1000ポイント……敵1体に電撃を放つ基本魔法。
それから、次々に覚えていく。
ドリームイリュージョン(特)800ポイント……敵を眠らせる催眠系魔法。これは使いどころがありそうだ。
ディスペルマジック(特)3000ポイント……対象にかけられた魔法効果や発動しようとする魔法を打ち消す。
ミュートゾーン(特)3000ポイント……範囲内のすべての魔法詠唱を封じる結界を展開。
これらは、対魔術師戦闘の一対一、一対多の時に有効だろう。勿論魔法を使う魔物を相手にする時にも有効だ。
バフ・デバフ系の魔法も覚えよう。
自分の強化だけでなく、味方の強化、敵の弱体化は、多対多の戦いにおいてもかなり有効だ。防御上昇〈鉄壁〉、移動速度上昇〈俊足〉、移動速度低下〈鈍足〉、筋力強化〈剛力〉、視覚強化〈鷹眼〉を各1000ポイントで取得する。
ここまで覚えてきて、もう覚えた数が多すぎて使い切れるか不安になる。一度も使わずに覚えていることを忘れてしまいそうだ。覚えた魔法を練習する時間をとっておけばよかったなと後悔する。
これだけ魔法を覚えても6万5554ポイントも残っている。ポイントが残りすぎていても有効利用とは言えないし、ポイントを『ステータスアップ』に振っておくことにしよう。少ない項目に5000ずつ振っても使うのは3万ポイント。まだ3万ポイント以上余ってしまう。
「とりあえず……」
ステータス、HP:5400/5400 MP?/?
攻撃力:5409 魔法効果:2万3815 防御力:5400
速度:5484 知力:5400 器用:5400、
残りの百点ポイントはまだ3万5554もある。だが、ポイントはそのままで、もう少しして、今日覚えた魔法に慣れてきたらまた何か覚えることにしよう。
それにしても、基準値が100なのを鑑みると、5000以上は50倍の値、もう人外の数値と言っても良いのではないだろか? それでも、ドラゴンとかと闘うことを想定すれば、高過ぎるということはないのかもしれない。
Sランクかな。
明日になれば明達と会える。あいつら、道場に通って新しいスキルを覚えてくるはず。どのくらい強くなって帰ってくるかが楽しみだな。
明、純子、有紗、沙耶、四人の顔が脳裏に浮かんだ。
明の奴、きっと、新しく覚えたスキルを自慢してくるんだろうな。そんなことを考えていると腹の虫がぐうとなる。
「飯でも食いに行くか」
ずっと山中でお取り寄せの食事をしてきたので、久々に街の飯屋に食いに行こうと思う。久しぶりに、食堂『月明り亭』でハンバーグでも食うか。あれから営業妨害はされていないと思うがな……。
俺は靴を履きなおして表に出る。
夜風が心地よい。谷での修行で汗をかいた身体には、街の空気が妙にやわらかく感じられる。石畳の通りを歩きながら、俺は街灯の灯りの下、商人や旅人たちが行き交う風景を見渡した。
「やっぱり、文明ってありがたいよな……」
山中では、魔物の気配に警戒しながら飯を食う。そう考えると、こうして無防備に歩ける街というのは、本当に貴重だ。
角を曲がると、見慣れた木の看板が視界に入る。
食堂『月明り亭』。暖簾越しに見える店内は、相変わらず柔らかな照明と、うまそうな匂いに満ちていた。
ガラガラッと引き戸を開けると、店の女将がカウンターの奥から顔を出す。
「あら、卓郎さん……久しぶりだね! あれから来ないから心配していたよ」
「ただいま、って感じですかね」
「ふふ、相変わらずいい顔してるね。狩りで遠くにでも行ってたの?」
「まぁ、そんな感じで。今日はハンバーグ、まだあります?」
「もちろん! うちの看板メニューだもの」
奥に声をかけてくれた女将は、すぐに厨房へと消えていった。俺はカウンター席に腰を下ろし、周囲の客のざわめきを聞きながら、なんとも言えない安堵感に身を任せる。
しばらくして運ばれてきた熱々の鉄板の上で、ジュウッと音を立てるハンバーグ。立ち上る肉汁の香りに、思わずよだれが出そうになる。
「いただきます」
一口かじれば、外は香ばしく中はふわっとジューシー。魔力修行もいいが、やっぱり飯がうまくないと始まらない。
「……あー、これこれ。これが食いたかったんだよな」
……だが、その時。ふと耳にした客の会話に、俺は箸を止めた。
「聞いたか? 南の方角で、巨大な魔力反応が観測されたって」
「えっ、また? この前のドラゴンとは別件か?」
「らしいぞ。今回はもっとやばいかもしれねえって、ギルドが調査隊を出すらしい」
不穏な気配。俺は最後の一口を噛みしめながら、店内のざわめきを耳にした。
「……一難去って、また一難か」
しかし、俺の魔力操作は確実にレベルアップしている。あとは、それを実戦で使えるようにすれば――。
(明日、明たちに会ったら……話しておくか。新しい脅威が来てるってことを)
食事を終えた俺は、席を立ち、代金を払いながら女将に軽く手を振った。
「ごちそうさまでした。また来ます」
「うん、元気そうでよかったよ。気をつけてね」
外に出ると、星が瞬いていた。
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