11
卓郎達は昨日に続いて森の小道を進んでいた。太陽が高く昇り、森の中は明るい日差しと薄暗い影が交錯している。
「卓郎、早く来いよー」
一番前を行く明が卓郎に声をかける。卓郎は一番後ろから遅れがちについて行く。 後方の安全確認のために、どうしても遅れがちにになっていた。
明、ちょっとはペースを考えてくれないかな。口には出さないがちょっと無警戒なんじゃないかと感じていた。
「あそこの草が動いたわ! 何かいるかも」
純子が注意を促すと、明が剣を抜いて身構えた。
「さーって、何がいやがるのかな?」
有紗と沙耶も弓矢を構えた。緊張が身を包む。
俺は矢の射線を遮らないように、そろりと草むらに近付く。
次の瞬間草むらから飛び出すひとつの影。有紗と沙耶が矢を放つ。
有紗の矢が飛び出した影を捉える。
射抜かれたのはウサギ型の魔物だった。腰を射抜かれ動けないでいる。
「卓郎、止めを刺してきて」
「分かった」
純子の指示が飛び、ショートソードで止めを刺す。
俺の頭上、高い木の枝に向かって沙耶が矢を放つ。頭上からポトリとリス型の魔物が落ちてきた。俺はそれも止めを刺して矢を回収してみんなの元へ。
「良い感じじゃない」
「うん。リスちゃん射るのは辛いけど、これもお金のためだからね」
有紗と沙耶が微笑みあう。
「これでウサギ型5羽にリス型3匹か、良い感じだと私も思うけど、いくらくらいになるのかしら?」
俺の担ぐ袋の中は結構いっぱいになっている。
「ウサギ型なんて1羽2000ゴルドくらいじゃねーの?」
「肉と毛皮で多分そんなもん」
俺が明の言っていることがある程度正しいというと純子はため息交じりに言った。
「そっかー、やっぱ昨日のイノシシ型は凄かったのね」
「ここはやっぱり大物狙いしかねーんじゃね」
明がここぞとばかりに大物狙いを推奨する。
「うーん」
「でもあれを、もう一回って厳しいわよね」
有紗と沙耶は浮かない顔だ。
俺もイノシシ型ともう一度戦うのは気が引ける。
「明が盾役やってくれるんなら考えなくもないけど、3人を放って戦いに行くんだったら賛成できないな。俺1人じゃ止められそうにないからね。盾があっても俺じゃあ無理だよ」
「良いぜ。俺が盾役やってやるよ」
「昨日もそう言ってて、飛び出していったじゃない!」
純子が不満そうに口を尖らせる。
「今度は大丈夫だって。卓郎に攻めさせて、俺が守るから」
「え! 俺が突っ込むの?」
それもなんだかなあである。
「私、考えたんだけど。イノシシ型って突進される前に足をやっちゃえば怖くないんじゃない。足はそんなに太くないし」
有紗が思いついたように言った。
「そうだよ。足一本集中的に狙うのよ!」
純子もその意見に賛成する。
「じゃあ、作戦は決まったな。卓郎、お前がイノシシ型の足を折るってことでいいよな」
え! 俺の仕事かよ。なんか、一番やばいやつじゃね。と言っても断れる雰囲気じゃないな、こりゃ。俺は黙って覚悟を決める。
そして、できるだけ条件をよくするために、ステータスを上げておこうと考えた。今日はうさぎ型5匹の止めを任されたので昨日イノシシ型を倒した分と合わせて百点ポイントが10になっていた。ここは攻撃力に極振りといこう。
攻撃力139……これでなんとかするしかない。
俺たちは、山の方向に向かって進んだ。
崖の斜面に山羊型の魔物の群れが見える。5、6、7ーー7匹の群れだ。
まだ少し遠くにいるが、山羊型の魔物は矢を射かければ逃げるだろう。7匹のうちの1匹を仕留められればかなりの稼ぎが期待できる。
「あれを狙ってみるか?」
俺は静かに山羊を指差す。
「有紗、沙耶、あの山羊を狙いましょう」
純子は3人で集中攻撃の段取りを相談する。俺と明がジリジリと山羊に近付いた。
崖の斜面はほとんど土が露出しているが、所々に緑の草が存在する。山羊型はその草を食べながら時折ぴょんぴょん跳ねるように移動する、小さな角は意外なほど攻撃力があり、時に冒険者の命を奪う事すらある。
心臓が高鳴り、緊張感が体を包む。周囲の静けさが、まるで次の瞬間に何が起こるかを予感させるようだった。
準備はいいか? とでも言うように明が俺に視線を送る。。
俺も黙って頷く。手にはショートソードが握られている。攻撃力を上げたとはいえ、相手は魔物だ。油断は禁物だ。
純子が有紗と沙耶に目配せをする。彼女の瞳には何か強い決意が感じられる。
俺は一番近い山羊を目指して静かに走り、ショートソードを構えた。山羊型の魔物は、俺たちの動きに気づき、警戒して跳ね上がる。
「今だ、打て!」と明が叫ぶ。
純子と有紗と沙耶の矢が一斉に放たれ、空を切り裂く音が響く。矢は一匹の山羊型に命中し、悲鳴を上げて倒れ込む。残りの山羊たちは驚いて逃げ出そうとする。
「卓郎、行け!」と明が叫ぶ。
俺はその声に応え、ショートソードを振りかざして倒れた山羊に近づく。だが、他の山羊たちが逃げる中、一匹が振り返り、俺に突進してきた。
「くっ!」
俺は反射的に身をかわすが、山羊の角が俺の肩をかすめた。痛みが走るが、そのまま反撃に入る。
「足を狙って!」と純子が叫ぶ。
俺はその言葉に気付かされ、山羊の足元を狙う。狙い目なのだ。 山羊型魔物はその細い足を斬れば立つことができなくなるのだ。
ショートソードを振り下ろし、山羊型の足に深く刃を突き立てる。山羊は悲鳴を上げて倒れ込み、ジタバタともがくのみだ。そして俺は背中の方に回り込み、ショートソードを首筋に突き立てる。
「やった!」と明が喜びの声を上げる。
「でも、まだ油断はできないわ」と純子が警戒を促す。周囲を見渡すと、他の山羊たちはまだ逃げている。幸い襲いかかって来る気はなさそうだ。
俺はもう一匹の倒れた山羊型にも止めを刺してから、あたりを見渡した。
「次はどうする?」と俺が尋ねる。
「もう一匹狙って、逃げた群れを追いかけるかだな?」と明が考え込む。
「まだ近くにいるよ、もう一匹狙うのが良いと思う」と沙耶が遠見のスキルで確認したのか、追跡を提案する。
「でも運ぶのが大変だぜ」
明はもう戦果は十分だと言わんばかりに追跡に反対した。
「分かった、じゃあ諦めるわ」沙耶もそれほど狩りに執着しているわけじゃない。あっさりと引き下がる。
俺は担ぐために太めでまっすぐな木の枝を準備する。
「これなら折れないかな」
良さそうな木の枝を、スキル・力の一撃を使って伐採し、小枝を削いだ即席天秤棒に加工した。
「良いねえ。卓郎、お前なかなか使えるじゃん」
「そうかい、まあ、今までも、戦い以外でアピールしてきたからね」
「袋の方は私達が運ぶね!」
有紗が微笑みながら、俺の袋を拾いに行った。
俺はロープで2匹の山羊型を天秤棒にくくりつけ、明に視線を送る。明が前、俺が後ろになって籠屋のように天秤棒を担ぎ上げた。
そして俺達は、ギルドに引き上げる。今日も大猟だった。
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