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この世界では、13歳から一人前の大人としてみなされる。義務教育などというものはないが寺子屋のような塾が存在し市井の子供達が遊び場として読み書き計算を習っているが、教育を受けられるのは豊かな家庭の者だけだ。
当然識字率も高くはない。
貴族や大金持ちはチューター(個人指導の先生)を雇って自身の子供達に教育を施している。当然、一般人との学力には雲泥の差ができている。
そんな世界で俺はありがたい事に読み書き計算は身につけられた。家のそばに塾があり、そこをよく覗き見していたからだ。いや、遊び場にしていたからと言った方が良い。友達に教えられることが多かったのだ。
純子や有紗、沙耶も読み書きはできるが明はできない。だがそれで差別を受けることはない。読み書き計算のできないものが過半数だからだ。それに、できるできないにも程度がある。俺のように自己流で覚えたものはどちらかというと読み書きできるとは言い切れない部類かもしれなかった。
まあ、それはさておき、俺は百点カードに書かれていることぐらいは余裕で分かる。あとは使って理解していくしかないだろう。
ただ説明がほぼないのがネックだ。偶然にも触ったことで使えるようになった。本当にそれはラッキーだったとしか言いようがない。
そして、このスキルがチート級の能力だと判明した。ポイントで、ステータスが上げられる。考えてみれば、今の攻撃力が129というのは相当な強さかもしてない。
18歳の冒険者の平均を100としているのだから14歳で129というのは破格の強さだ。20歳まで、いや20数歳まで成長による自然増だって見込めるわけだし、今後ポイントを使えばまだまだ上げられるに違いない。129の攻撃力がどの程度かよく分からないが明の剣を弾き飛ばせるほど強かった可能性すらあるんじゃないか。
ポイントも魔物に止めをさせば入ってくる可能性がのうこうだ。今後はできるだけ止めを刺そうと心に決めた。
さて、今日は安心して家を出られた。昨日のように、パーティに加われるかなんて心配しながらギルドに向かうのと精神的な余裕が違う。時間もたっぷり余裕がある。
昨日はこのあたりで純子とぶつかったんだっけ……なんて思っていると、純子がやって来るのが目に入る。
「おはよう。純子」
呼び捨ては怒られるだろうか?
「おはよう。卓郎」
どうやら怒っていなさそうだ。
「頼りにしてるわよ。卓郎」
「ああ、壁役がいないと弓使いは安心して矢が射れないもんな」
「小さい魔物なら大丈夫だと思うんだけど、大きいのが突進して来ると流石に怖いわね」
それは当然そうだろうと卓郎も思う。俺だって昨日のイノシシ型魔物の突進は死ぬかと思ったのだから。
「怖くない方がおかしいと思うよ。俺だって、昨日は怖かったからね」
「そうなんだ。やっぱり、命懸けで守ってくれたんだね」
純子の視線がなんだか熱い。
え! 嘘でしょ。昨日はあんなに嫌ってたのに? いや待て、勘違いはするなよ。
「まあ、あそこで守れるのが俺しかいなかったからな。前衛の役目として当然だよ」
「ふーん。誰にでもそうしたのかな?」
「当たり前だろ。壁役なんだから」
「ふーん」
純子の視線にジトッとしたものが混じる。
「でもー、あなたの勇気だけは認めてあげる」
「あ、ああ、ありがとう」
なんかやらかしたか? まあ、勘違いしないでよかったな。モテ期が来たかなんって思ったら大間違いだったぜ。あぶねー、あぶねー。
ギルドの前で有紗と沙耶が待っているのが見える。純子が2人に手を振って駆け出した。
3人でこそこそ話を始める。聞こえないけど。
「なになに? 朝からデートなのー?」
「ちっがうわよ。そんなこと、あるはずないじゃない、たまたま途中であったから……」
「へー、そうなんだあ? 家近いのかな?」
「そんなの知らないし、興味ないわー」
俺が近付くと3人は話をやめて作り笑いを投げかける。
「有紗、沙耶、おはよう」
「おはよう、卓郎くん」
「明はまだ?」
「うん」
「もうそろそろ来るんじゃない?」
遠くから走って来る人影。明かも知れない。
沙耶が、「あ、明だ」と指を刺す。
俺にはそれが明だと確認できない距離だった。
「沙耶、見えるの?」
「うん。私のスキル、遠見って言うんだ。だから遠くまで見ようとすれば見えるのよ」
……そんなスキルもあるんだー、便利だな。
「沙耶がいてくれると遠くから魔物がくるのが分かる時もあるのよねー」
有紗が沙耶に抱きついて頬を寄せる。仲良しだな。この姉妹。
「くすぐったいよ、お姉ちゃん」
明の姿が俺にも分かるようになり、そして手を振りながら明の声が聞こえて来る。
「遅くなって、わりー、わりー!」
到着した明は、はあはあと息を切らせて膝に手をやり息を整える。
「それほど遅くなっていないよ」
「それじゃあ、とっとと出かけましょう!」
「お、おう」
これが新パーティの初めの一歩だった。
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